《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第二話・4
どうやら、今日は両親と兄が帰ってきそうにないので、一人で家の事をしなきゃいけない。
──いけないのだが……。
「じゃがができたよ、弟くん。一緒に食べようね」
「あ、うん」
風呂場の掃除をしてきたところに、香奈姉ちゃんから聲がかかる。
香奈姉ちゃんは、慣れた手つきで料理を作ると皿に盛り付けテーブルに運んでいく。
何故、香奈姉ちゃんが家にいるかという事についてだけど、僕の母が西田さんの両親に連絡したらしい。
僕の両親と西田さんとこの両親は家族ぐるみでの付き合いがあり、とても仲良しだ。
今日、僕が一人で家に殘されると知った西田さんの両親は、一人でいる僕の事が心配になり、香奈姉ちゃんに連絡をしたらしい。
両親が不在になる事が多い都合上、僕一人でも料理や掃除、洗濯などはできる。
しかし、それでも心配なのか母は、西田さんの両親に連絡したのだ。
その結果として、香奈姉ちゃんが家に來たのである。
「弟くん一人だと、何かと心配だから──」
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と、言いながら。
どこまで過保護なんだよと言ってやりたいくらいだ。
あの後、香奈姉ちゃんとは何もない。
いつもどおりだ。
「今日のじゃがだけど。どうかな?」
「うん。味しいよ」
僕は、じゃがに箸をつけてそう答える。
香奈姉ちゃんと一緒に、こうして晩飯を食べてる時も、特に変化はない。
「よかった。口に合わなかったらどうしようかなって思っちゃったよ」
「口に合わないなんて事、絶対にないよ」
「ホントに?」
「うん。…だって香奈姉ちゃん、料理は得意じゃないか」
「まぁ、たしかに料理は好きだけど……。弟くんほどじゃないよ」
「僕ほどって……。僕は趣味にしてるだけであって、特には……」
「今日、作ったじゃがは弟くんから學んだ自信作なんだけどな」
「…いやいや。僕が教えたというより、香奈姉ちゃん自が頑張って出來るようになったんだと思うよ」
「そうかな? 私にとっては、弟くんがしっかりと教えてくれたおかげだよ」
香奈姉ちゃんは、嬉しそうな顔をして言う。
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正直嬉しい言葉だけど、素直に喜べない僕がいる。
はっきり言って、香奈姉ちゃんの料理の腕前はかなりのものだ。
うかうかしてると追い越されそうだ。
「そういえばさ。今日、ショッピングモールで會った滝沢君だっけ?」
「うん。滝沢先輩がどうしたの?」
「私たちと歩きたがっていたけど、何がしたかったの?」
「それはたぶん……」
たぶん、香奈姉ちゃんとデートがしたかったんじゃないかな。
そうは思ったが、僕ははっきりと言うことができなかった。
「一緒に買いでもしたかったのかな? …でもランジェリーショップに行ったからって、男の子が買えるようなものなんてないかと思うんだけどなぁ」
「普通に僕を連れてランジェリーショップにいった香奈姉ちゃんに言われたくないんだけど」
「…いや。それはほら、弟くんにも見てほしくてさ」
「僕が見たってしょうがないでしょ。下著なんか男が見るものじゃないし」
「その割には、奈緒ちゃんのパンツを見て鼻の下ばしていたみたいだけど。あれは、何だったの?」
「それは……」
あの時は不可抗力というもので、決して見たいから見たわけでは……。
「そんなに可かった? 奈緒ちゃんのパンツ」
香奈姉ちゃんは、何故かムッとした表でそう訊いてくる。
そんな顔されても、僕にはよくわからないんだけど……。
「別に見たくて見たわけじゃないよ。たまたま視界に映っただけだよ」
僕は、そう言って立ち上がる。
「どこ行くの?」
「お風呂だよ。とりあえず、食を片付けたらってくるよ」
「そう。行ってらっしゃい」
香奈姉ちゃんは、何か言いたげな顔で僕を見てそう言った。
僕は自分の食を臺所に置くと、そのまま風呂場に向かっていく。
この家で唯一くつろげる空間は、なんていっても風呂場だろう。
誰にも邪魔されずゆっくり浴槽にれるし。
さて、明日は學校だし、滝沢先輩になんて言ってやれば納得してもらえるだろうか。
見たじ、すごく執念深そうな印象だから、説明の仕方を間違えると、な攻撃に遭いそうだ。
あの手の人間は、何を言われても軽く流すのがいいんだけど、諦めがよくないのが厄介なところである。
こんな時、香奈姉ちゃんにズバッとフラれた方がかえって効果的なんだけど、香奈姉ちゃん本人は嫌がっているし、どうしたものか……。
「──弟くん」
と、風呂場の外から香奈姉ちゃんが聲をかけてきた。
「どうしたの?」
僕がそう訊くと、香奈姉ちゃんは思案げに訊いてくる。
「いや、湯加減はどうかなって」
「丁度いいよ」
「そう。丁度いいんだ」
香奈姉ちゃんは、何か納得した様子でそう言う。
「どうかしたの? 香奈姉ちゃん」
「なんでもないよ。ちょっと聞いてみただけ」
「そうなんだ」
聞いてみただけなら、特に問題はないか。
香奈姉ちゃんは何を思ったのか向こうで何かし始める。
風呂場の向こう側は半明のガラスで出來てるので、向こう側には香奈姉ちゃんの姿がしっかり見えている。
何をするつもりなんだろうか。
「弟くん。…るね」
「え……」
それは、あまりにも突然の事だった。
香奈姉ちゃんは、風呂場の戸を開けてそのまま中にってきたのだ。
もちろん、全を見せるというのは青年には良くないと思ったのか、ちゃんとタオルを巻いての場である。
「ちょっ…… ︎ 香奈姉ちゃん ︎ 何やってるんだよ! いきなりってこないでよ」
僕はあまりのことに慌てて、そう言っていた。
まさか香奈姉ちゃんが風呂場にしてくるとは思わなかったので、つい取りしてしまっていたのだ。僕だって男だからね。
「どうしたの、弟くん? 昔はよく、一緒にお風呂にったじゃない。そこまで驚かなくても……」
「それは小さい頃の話でしょ」
「たしかに小さい頃だったけど。私たちにとっては、今も昔も変わらないでしょ?」
「それはそうだけど……。なんにしたって、僕たちはもう小さな子供じゃないんだから、その辺りは自重してだね。…って、香奈姉ちゃん。ちゃんと聞いてるの?」
香奈姉ちゃんはボディスポンジを手に取り、泡だて始める。
これは、聞いてないな。
「──ほら、弟くん。背中を流してあげるから、そっち向いて」
「いや、そのくらいは僕にもできるって。お願いだから風呂場から出てってよ」
「そんな事言われても……。もうっちゃったし」
「なんでこんな……」
こうなるともう、僕の方は諦めるしかない。
僕は、大人しく香奈姉ちゃんに背中を向ける。
すると香奈姉ちゃんは、優しく僕の背中を洗い始めた。
「どう? いところはない?」
「ないよ。むしろ気持ちいいくらい」
「そっかー。気持ちいいのかぁ」
「どうしたの? 香奈姉ちゃん」
途中で手を止めたので、僕は気になって後ろを向こうとする。
香奈姉ちゃんは、慌てた様子で再び僕の背中を洗い始めた。
「ううん、なんでもない。なんでもないよ。…私にも、やってほしいだなんて言ってないからね」
「やってほしいのか……」
「だから、やってほしいだなんて言わないわよ」
はっきり言ってますよ。香奈姉ちゃん……。
仕方ないなぁ。
を洗い終えると、僕はボディスポンジを手に取って後ろを向いた。
「ほら、香奈姉ちゃん。背中を流してあげるから後ろを向いて」
「え、でも……。弟くんに悪いよ」
「せっかくってきたんだし。この際しょうがないよ」
「でも、にならなきゃいけないし……」
香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうにタオルを押さえる。
その姿を見ていると、旦那さんに盡くす可い新妻さんのようにも見えなくもない。
しかし、僕はわされないぞ。
「僕のを見るのは、そんなに気にならないんだ」
「いや、弟くんのを見るのは、そんなに抵抗はないよ。小さい頃から見ているからね。でも……」
さすがの香奈姉ちゃんも、僕にを見せるのには抵抗があるらしい。
人のを堂々と見ておいて、自分のを見せるのにはそこまで恥ずかしがるなんて。
図太いというかなんというか。
「背中を流すだけだよ。そんな恥ずかしがることはないと思うけど……」
「それはそうだけど……」
香奈姉ちゃんは、躊躇いがちにに巻いたタオルを摑む。
まぁ、そこまで嫌がっているんならしょうがないか。
強制もできないし。だけど──
「ところで香奈姉ちゃんは、なんで風呂場にってきたの?」
「え? それは、弟くんの背中を流してあげようかと思って」
「だからって、服をいでってくるもんなの?」
「ほら、風呂場に服著てると濡れちゃうじゃない。だから、服をいでってきたのよ」
「そうなんだ」
「私のことは気にしなくていいよ。私が好きでやってることだから」
そう言って香奈姉ちゃんは、タオルを外し背中を向ける。
そんな香奈姉ちゃんの背中を流すわけにもいかず、僕はそのまま浴槽にった。
「あれ? 背中流してくれないの?」
「え?」
「せっかくタオルを外したのに、背中流してくれないのかな?」
香奈姉ちゃんは、そう言って僕に背中を向ける。
「………」
せっかく湯船に浸かって癒されようとしていたのに。
「やるよ。背中を流してあげるよ」
──まったく。
香奈姉ちゃんの気まぐれには困ったものだ。
僕は、香奈姉ちゃんからボディスポンジをけ取ると、ボディソープに手をばし、そのまま泡だて始める。
そして、香奈姉ちゃんの背中を流し始めた。
香奈姉ちゃんの背中は思ったよりも小さく、華奢だ。
ゆっくりと背中を洗い始めると、香奈姉ちゃんは、昔のことを思い出したのか、口を開く。
「昔はよく、こうやって背中を流しっこしてたよね」
「そうだね。昔は、気にするようなことがそんなになかったからね」
たしかに昔はだとか男だとかって、そんなこと気にするような歳でもなかった。
だけど小學中學年辺りからお互い恥心がでてきて、一緒にりたいってこともなくなっていったんだよな。
「さすがに今は、心の準備が必要になるかな……」
「僕には、心の準備以前の話だったけどね」
と、僕はボソリと言う。
香奈姉ちゃんは、今のが聞こえていたのかこちらを向いて訊いてくる。
「何か言った?」
「ううん。…なんでもないよ」
そう言って、僕は香奈姉ちゃんの背中をやさしく流した後
「終わったよ」
と言って、ボディスポンジを香奈姉ちゃんに渡すと、再び湯船に浸かる。
香奈姉ちゃんは
「ありがとう」
と、禮を言う。
香奈姉ちゃんがを流している姿なんて、本當は見たくなかったんだけど、この際しょうがない。
せめて水著くらい著てくれば良かったのにと思うくらいだが、そこは香奈姉ちゃんだ。
僕のことを“弟くん”と呼ぶくらいだから、そんな恥心など無いんだろう。
香奈姉ちゃんは、リラックスした様子で「ふんふーん」と鼻歌を歌いながらを洗い始めた。
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