《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第三話・2

──翌日。

ごく普通の登校途中にあるの子がそこにいて、僕が歩いてきたタイミングで聲をかけてきた。

印象的なショートカットに、凜とした顔立ち。誰なのかは言うまでもない。

そこにいたのは北川奈緒だった。

「やぁ、楓君。よかったら、途中まで一緒に行かないか?」

なぜこんな所に奈緒さんが?

僕は思案げな表で首を傾げ、聞いてみる。

「奈緒さん。…あれ? 今日はどうしたんですか? 子校のある方向はこことは違いますよね?」

「あー、いや……。偶然だよ偶然。たまたま楓君が歩いていたから、一緒にって思ってさ」

奈緒さんは、慌てた様子でそう言っていた。

「一どうしたんですか? 香奈姉ちゃんがいるのならともかく、奈緒さんがここにいるなんてめずらしいですね」

「ああ、いや……。その香奈のことで話があってさ」

「香奈姉ちゃんのことで? …それって?」

そう言って、僕は奈緒さんと歩き出す。

急に香奈姉ちゃんのことで話があるって言われても、僕にはなんて答えればいいのやら。

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奈緒さんは、口を開く。

「香奈はさ。どう考えても楓君に好意があるって思うんだよね」

「はぁ……」

「なのに楓君は、なぜか素っ気なく返してるっていうか、一歩引いてるっていうか。…そんなじに見えるんだよね。どうして、香奈にそんな冷たいような突き放すというかの態度を取るの?」

「僕は、そんなつもりじゃ……」

「あたしから見たら楓君は、香奈に好意を持ってるようには思えないんだよね」

「………」

奈緒さんの言葉に、僕は言い返すことができなかった。

実際、香奈姉ちゃんからは好意を向けられたけれど、それは本心には見えなかったのだ。

ただ、兄貴から逃れたくてスケープゴートにしてるだけじゃないのかって思うくらいなのだ。

たしかに香奈姉ちゃんは眉目秀麗で績優秀、品行方正という三拍子揃ったの子である。

僕に好意を寄せているのなら、こんなに嬉しい事はないだろう。

だけどそんなの子が、僕なんかに好意を持ってきたって、僕には何もない。それこそ、なんの取り柄もないごく普通の男子でしかないのだ。

僕には、香奈姉ちゃんにふさわしい男は、他にいるとさえ思っている。素直に香奈姉ちゃんのことを好きとは言えない僕がいるくらい。

そのくらいにして僕は、香奈姉ちゃんに引け目をじている。

「その顔は図星かな?」

「僕は、香奈姉ちゃんを純粋に“姉”としか思えないんです」

馴染なのにかい?」

「…だからなのかな。あの優秀な兄貴の告白を斷った時には、心びっくりしてしまって。それで、僕のことが好きって言われて困してしまったんだ。僕なんかでいいのかなって……」

「いいんじゃないかな」

「どうして?」

「これは香奈が選んだことだからね。他の人がなんて言おうとどうにもならないことなんだよ」

「香奈姉ちゃんが選んだこと……。だけど僕には……」

「そのこともわかった上で香奈は楓君が好きなんだと思うよ」

「どうして? 僕には、兄貴みたくなんでもできるって訳じゃないのに……」

「それは香奈本人に聞いてみたらいいんじゃないかな? あたしも、楓君のことは嫌いじゃないよ」

奈緒さんは、そう言って微笑を浮かべる。

そうは言われても、僕はどうしても兄貴と比較してしまう。

「──なんなら、しばらくあたしと付き合ってみる?」

「僕が奈緒さんと?」

「うん。あたしと“人”のフリをするのさ。香奈が、どれだけ楓君のことを好きなのか確かめてみるってのも悪くないんじゃないかな」

「なんだか香奈姉ちゃんを試しているみたいで悪い気がするんだけど……。いいのかな?」

「いいと思うよ。楓君は鈍だから、香奈の気持ちを知るくらい許されると思うよ」

奈緒さんは、平然とした表で言う。

香奈姉ちゃんの気持ちか……。僕のことを『好きだ』ってはっきり言ってくれたんだけど、正直言って、僕には香奈姉ちゃんの好意を素直にけ止められるほどの自信がない。

そうなると、香奈姉ちゃんが何を考えているのか知る必要がある。

あまり気乗りはしないけど、奈緒さんの提案に乗ってみるかな。

「奈緒さんがそう言うのなら、しばらくの間、付き合ってもいいよ。ただし──」

「ただし? 何かな?」

「キスとかエッチなことはナシですからね。その辺は考えてくださいね」

「それだと、“人”のフリができないじゃない。もうし譲歩してもいいんじゃないかな?」

「やっぱり、キスとかするつもりだったんですか?」

「それは、その……。チャンスがあればだね」

奈緒さんは、らしくもなく赤面して言う。

やっぱりキスするつもりだったのか……。あわよくばエッチなこともするつもりだったんだろうな。

奈緒さんはに興味がない分、そういうことに対して躊躇いがないのか。

奈緒さんもの子だ。だから々経験したいという好奇心が勝ってしまうんだろう。

「とにかく。キスとかエッチなことはダメですからね。そういうのは本當の“人”とすることなんだから」

「…わかったよ。…仕方ないなぁ。そういうところは香奈に似てるんだから」

奈緒さんは、そう言って微苦笑する。

僕が香奈姉ちゃんに似てるだなんて、初めて言われたことだ。

どの辺が似てるんだろうか。

僕がポカンとした表を浮かべていると、奈緒さんはいたずらっぽい笑みを浮かべて口を開く。

「今、考えたでしょ?」

「それは……。香奈姉ちゃんに似てるって言われたら、どの辺りが似てるのかなって考えちゃいますよ」

「どの辺りって言われてもね。あたしには、なんとなくとしか答えようがないかな」

「なんとなく…ですか?」

「そ。なんとなく…だよ」

そう言って奈緒さんは、腕を組んできた。

いきなり腕を組んできたので、僕は呆気にとられてしまう。

すると後ろから「あーー!」っと、大きな聲が聞こえてくる。

僕が振り返ると、そこには香奈姉ちゃんがいた。

香奈姉ちゃんは、すぐにこっちに向かってきて空いていたもう片方の腕に手をかける。

「何してるのよ、弟くん!」

「いや……。これは何というか……」

僕は、この狀況をどう説明したらいいかわからず言葉を詰まらせてしまう。

代わりに奈緒さんが、香奈姉ちゃん挨拶をした。

「おはよう、香奈。今日も、相変わらず決まっているね」

「挨拶はいいから。…奈緒ちゃん。これはどういうことなのよ?」

「どういうことって言われてもさ。あたしは、あたしの本能のままに行するからさ。流れのままに、こうなってしまったんだよ」

「何が『本能のまま』よ! 弟くんは、奈緒ちゃんの彼氏じゃないんだよ。私の──」

香奈姉ちゃんは、そう言って僕の腕を引っ張ろうとする。

しかし、奈緒さんが腕を組んでいたので、引き剝がすことはできなかった。

「香奈姉ちゃんの? 何?」

僕は、腕を引っ張ろうとする香奈姉ちゃんを見て首を傾げる。

他のの子に腕を組まれただけなのに、この反応はさすがにない。

傍らにいた奈緒さんは、心なしかどこか楽しそうに香奈姉ちゃんを見ている。

「あの……。えっと……」

香奈姉ちゃんは、なぜか顔を真っ赤にして言葉を詰まらせた。

「香奈の何なのかな?」

奈緒さんは、そんな香奈姉ちゃんを見て、いたずらっぽい笑みを浮かべる。

「弟くんは、私の“弟”みたいなものなの! だから彼とかできたら、私に會わせる義務があるの」

「義務って……。それだと、まるで親同士の許可が必要になるとかと同じだよ」

僕は、呆れ気味に言う。

すると香奈姉ちゃんは

「そうだよ。私の許可が必要なんだよ」

そう言って、もう一度僕の腕を引っ張ろうとする。

奈緒さんも、離す気がないのか僕の腕にしがみつく。

「香奈の許可…ねぇ。あたしは、別に構わないよね? あたしに彼氏なんかいないわけだし」

「奈緒ちゃんは、ダメなの」

「どうして?」

「奈緒ちゃんはしっかりしてるから、弟くんとは合わないと思うのよ」

「そうなの?」

「そうなんだよ。だから、弟くんと付き合えるのは私だけなの! 弟くんは、他のの子を好きになったらダメなの」

「いや……。僕は……」

僕が誰と付き合おうと、自由だと思うんだけどな。

そう言おうと思ったんだけど、はっきり言うことはできなかった。

本心では、僕は香奈姉ちゃんのことは好きだ。

たぶん兄貴がいなかったら、対象になっていただろうと思う。

香奈姉ちゃんは僕に告白してきたが、それを素直にれる事ができない自分がいる。

まだ僕に迷いがあるんだと思う。

「いい? 弟くんは、私以外のの子を好きになったらダメなんだからね。わかった?」

「いや……。そう言われても……。なんとか言ってやってください。奈緒さん」

僕は、香奈姉ちゃんの視線から逃げるようにして奈緒さんの方を見る。

こうなった香奈姉ちゃんを止めるはない。

奈緒さんなら、なんとかしてくれるはずだ。僕はそれを期待したんだけど。

「なんというか。香奈ってば、はっきりと言ってくれたね。──ねぇ、“弟くん”」

奈緒さんは、面白そうに笑みを浮かべ僕と香奈姉ちゃんを見ているだけだった。

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