《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第四話・1
兄に比べると、僕は不出來な弟だ。
そういうのも、兄は學校での績は優秀、運神経も抜群で何をやらせても難なくこなす萬能な人間だからである。一方、僕はというと、績は優秀な方ではなく標準程度で、運神経も並だ。
言うまでもなく、僕の両親は優秀な兄の方に期待の目を向けている。
そのためなのかどうかはわからないけど、僕は兄のおさがりの服やとかが多い。
兄弟なんだから當然と言われればそのとおりなんだけど、これが過去に好意を持っていた“彼”とかになれば話も変わってくる。
こんな僕にだって、の一つくらいはある。
もう干渉してないから、いまさらその子の名前なんか言ってもしょうがないけど、僕はそのの子に好意を持っていた。
だけど現実というのは世知辛いもので、その子が好きだった相手は僕の兄だったのだ。
その子が僕に近づいてきた理由は明白だった。
僕を介して兄に近づいて、あわよくば兄と付き合ってしまおうと考えていたのである。
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しかし、その兄からフラれてしまい、その子とは、なしくずしに僕とも別れることになったのだが。
そんな兄狙いのの子が、あとをたたなかった。
近づいてくるの子のほとんどが兄狙いで、僕の事なんて、なんとも思っていないのである。
それもこれも、兄に付き合っている“彼”がいないからだ。だから、周りにいるの子が放っておかないのである。
たしかに兄は、僕から見てもかっこいいと思う。
今でも、兄を尊敬している。だからこそ、僕を介して兄に近づこうとするの子だけは勘弁してほしい。
その度に、僕はの子を信用できなくなってしまうのだ。
香奈姉ちゃんは、そんなことはないのはわかっているのだけど、それでもやはり信じる事ができない自分がいる。
キスをしてきて、穿いていたパンツを好きな人に渡すという子校のジンクスを僕にやってきて、それでもまだ信用できないって、どこまで僕が卑屈なのかはわかっている。
むしろ恐怖心でいっぱいなのだ。兄に取られてしまうんじゃないかと思うと恐くてたまらない自分がいる。
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僕は、兄のために存在しているわけじゃない。
香奈姉ちゃんは、その事をわかった上で近づいてきているのだろうか。もうし慎重に事を見定めて、香奈姉ちゃんを見ていこうかと思う。
ここ數日は、家に帰ってくると僕は部屋で勉強する日々が続いている。
理由はテストが近いからだ。
さすがにテストの時期が近づいてくるとバンド活どころじゃない。
尚、テストの時期は男子校も子校も共通していて、テストは同じ日に行われる。
勉強をするため、當然バンド活は休止。
この時ばかりは暗黙の了解で、各々テストのために勉強をするのだが──
「ねぇ、弟くん。他にわからないところとかってある?」
香奈姉ちゃんは、いつもの笑顔でそう言ってくる。
わからないところと言われれば、ないと言えば噓になるだろう。
僕の績は高いってほどではなく、だからといって極端に低すぎるというほどでもない。
──平均よりし上。と言えばわかりやすいと思う。
「いや、特にはないけど……」
僕は、敢えてそう答えておく。
たぶん香奈姉ちゃんに教えてもらうということは、最大の“甘え”になってしまうだろう。
それに香奈姉ちゃんのことだ。後でどんな見返りを求めてくるのかわかったものじゃない。
「そっか。わからないところがあったら、遠慮なく言ってね」
香奈姉ちゃんは、殘念そうにそう言うと自が持ってきた教科書に目を通す。
なんだか僕の部屋にいるのが自然な形になってきてるような気がするけど、気のせいかな。
「──それはわかったけど、今はテスト期間中だから各々勉強することって、言ってなかったっけ?」
「そんなことも、言ったかな……」
「香奈姉ちゃんは、今何してるの? 自分の家で勉強するんじゃなかったの?」
「いや、自分の部屋で黙って勉強しているのも退屈だったからね。せっかくだし、弟くんの勉強でも見てあげようかなって思ってさ」
なんだか、績優秀な人間の言うことには思えないんだけど……。
それでもいつも、全教科とも満點近い點數を維持しているのだから、すごいものだ。
「そうしてくれるのはありがたいけど……。僕は僕で頑張るから、心配いらないよ」
「私が心配してるのは、弟くんの績じゃないんだよ」
「それなら何を心配してるの?」
「私との関係が壊れてしまうんじゃないかって心配してるんだよ」
香奈姉ちゃんは、そう言って手を握ってくる。
「僕と香奈姉ちゃんとの関係? たかがテスト期間中で、何が壊れちゃうっていうの?」
「わかってないなぁ、弟くんは……。テスト期間中にこそ、彼氏彼の関係が壊れてしまう可能が高いんだよ」
「なんで壊れてしまう可能が高いの?」
「考えてみなよ。もし弟くんが赤點を取ってしまった場合、一緒にいる私にも悪影響が起きる可能があるんだよ。それがどういうことかわかる?」
僕が赤點だなんて……。
なくとも、僕が赤點を取ることなんてないのに。
「つまり績優秀な香奈姉ちゃんのイメージが悪くなるってことかな?」
「弟くんはその辺だけは鋭いね。──そうだよ。周囲には、私と弟くんは、付き合ってるってことになってるでしょ」
「うん、周囲にはね。僕と香奈姉ちゃんは付き合ってることになってるよ」
「もし、その付き合ってる彼氏が赤點を取ってしまったら……。私だったら、ショックで會うことも付き合うこともやめてしまうかもしれない」
あ……。何が言いたいのか、よくわかった。
香奈姉ちゃんは、周囲の外聞を気にしてるんだ。
「つまり、香奈姉ちゃんと同じくらいのテストの結果じゃないと許さないって言いたいのかな?」
「いや、さすがにそこまでとは言わないけど。──私ね。進路は、ここからし遠くにある私立の大學をけようかなって思ってるんだ」
「へぇ。たしか、その大學は偏差値の高いところだったよね?」
「うん、そうなんだ。…弟くんも、もちろん同じ大學をけるよね?」
ちなみに、香奈姉ちゃんがけようと思っている大學は、男子も子も通っている共學だ。ただし、かなり偏差値が高くないとれない大學でもある。
今の僕の績では、まずれないだろう。
まぁ、まだ高校一年生なので、なんとも言えないけど……。
香奈姉ちゃんにそんなことを言われても、まだ高校一年生で先のことをこれから考える時期の僕に答えられるわけがない。
「え……。僕は、今のところはそこまで考えてはいないかな」
「私と同じ大學をけるよね?」
香奈姉ちゃんは、もう一度同じことを言ってくる。
それは、多の威圧がかかっていたようにもじられた。
さすがの僕も、香奈姉ちゃんの威圧には敵わない。なので香奈姉ちゃんの気分を害さないように、こう言う。
「あ、うん……。できれば同じ大學に行きたいです。まだ一年生なので、進路はまだ早い気がするけど……」
「そうだよね。…さすが弟くんだよ。私のぎたてのパンツをあげただけのことはあるよね」
“ぎたての”は余計なんだけど……。
僕は、香奈姉ちゃんが今穿いているミニスカートを本能的に見やる。
すると香奈姉ちゃんは、僕の視線に気づいたのか悪戯っぽい笑みでスカートの裾を指先で摘み
「もしかして、この中が気になるのかな?」
そう言ってくる。
さすがに勉強中は、集中しなきゃいけないし。
「いや、さすがに興味ないよ」
「そんなこと言わないで、しは興味を持ってよ」
香奈姉ちゃんは、スカートの裾を上げ、中の下著が見えるようにしてしてくる。
いちいち穿いてるパンツのを報告するのも変な話だけど、今回は白だった。
「ちょっと、香奈姉ちゃん。勉強中にそんなことしないでよ」
「しくらい、いいじゃない。弟くんにも、しはご褒をあげないと──」
「どんなご褒なの、それは?」
「ん~。なんだろうね。私からの、友好の証かな」
「それって、テストが終わってからでもできることなんじゃないの?」
「そう言われると、そうなんだけどね。…弟くんのことが心配だから、今回のテストも頑張ってほしいなって思って」
香奈姉ちゃんは、しゅんと落ち込んだ様子で言う。
何で、そこで落ち込むんだろうか。
はっきり言っておくが、僕は赤點取るくらいひどい績は取ってない。前のテストの時も、全教科70~80點くらいだったし。
「心配しなくても大丈夫だよ。赤點なんて取るつもりはないから」
「そう言って、私を安心させようとしたって無駄なんだからね。今日は、弟くんに勉強を教えようと準備してきたんだから!」
香奈姉ちゃんは、そう言うとテーブルに置いてあった教科書を手に取った。そして、今にも襲いかかってきそうなほどの勢でゆっくりと向かってくる。
「いやいや……。大丈夫だって。香奈姉ちゃんが考えてるような結果にはならないから」
「そんなのわからないじゃない。テストっていうのは、油斷したらそこからダメになったりするんだから」
「それはわかるけど……。香奈姉ちゃんは、僕に何をするつもりなの?」
今度は何をするつもりなんだろうか。
香奈姉ちゃんは、僕に抱きついてきて言った。
「そんなの一つしかないじゃない。──私が、マンツーマンで勉強を教えてあげるの。…しっかりと覚えられるようにね」
「………」
真面目に自分の勉強をしてください。と、言いかけたが、口には出せなかった。
香奈姉ちゃんは、今回のテストは大丈夫なのかな?
僕が香奈姉ちゃんの心配したって、しょうがない気がするんだけどさ。
抱きついてきた香奈姉ちゃんのは、意外と華奢だ。本人は気づいてはいないんだろうけど、とてもいい匂いがする。
「…さて。弟くんは、どこを教えてほしいのかな?」
「いや、どこって言われても……」
「そんな遠慮なんてしなくていいから、私にどんどん訊いてきて。…しっかりと教えてあげるよ」
香奈姉ちゃんは、自信満々な態度で言う。
そんなこと言われてもな。
今のところ、テストの範囲で困っているところは特にないし……。
「ありがとう。それじゃ、わからないところがあったら香奈姉ちゃんに訊くから、その時は頼むよ」
僕は、微苦笑してそう言っていた。
──まったく、香奈姉ちゃんは……。言い出したらきかない格は今でも治らないんだね。…仕方ないな。
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