《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第四話・6
テストの結果は、思った以上に良かった。
香奈姉ちゃんから勉強を教えてもらった甲斐もあり、いつもの點數よりも高い點を取る事ができたのだ。そのおかげで、今回は學年のトップ10りを果たしてしまった。さすがにトップ10りになると、周囲の生徒たちの視線が痛い。今まで目立たなかった僕が、目立つことになるのだから。
「よう、周防」
そう聲をかけてきたのは、慎吾だ。
彼は、いつもの爽やかな笑顔を浮かべて僕に近づいてくる。
「慎吾か。どうしたの?」
「今回は、見事にトップ10りしたな」
慎吾は、り出されたテストの総合結果を見て言う。
なんと僕の名前は、學年3位の方に名前が記載されていたのだ。
「…まさか學年3位だなんて思わなかったよ」
「俺なんか50位より下の順位だぜ。…一、どんな勉強をしたらそんな順位を取れるんだよ」
「いや、それは実は香──」
僕は、途中で言うのをやめる。
『香奈姉ちゃんが教えてくれたからだよ』と、口から出かかったが、はっきりとそうとは言えなかったのだ。
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「ん? どうした?」
「ううん、なんでもない。やっぱりテストに備えて勉強していたおかげかな」
「いいよなぁ。勉強すればその分吸収できる奴はさ。俺なんか、いくら勉強しても全然覚えられないんだよな」
慎吾は、愚癡のように言う。
彼はスポーツは得意だけど、勉強の方は苦手だ。
香奈姉ちゃんのように、スポーツと勉強のその両立ができるという文武両道の生徒はそうはいないのである。かくいう僕なんかは運が苦手だ。
「だけど、その分運は得意じゃないか。僕なんてスポーツ関係はからっきしで、全然ダメダメなんだよ」
「そんな事ないって。楓の場合は、そこまで苦手ってわけでもないだろ」
「それでも運部に所屬している人たちに比べたら、全然でしょ」
僕の運神経の無さは、香奈姉ちゃんにも笑われてしまうくらいダメなのだ。
楽を弾くくらいなら自信はあるんだけど。
「それが、俺と一緒の場所でバイトをしてる人間の臺詞とは思えないよな」
「そう言われると、返す言葉が……」
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慎吾の言葉に、僕は口ごもってしまう。
何にせよ、今回のテストの結果は、香奈姉ちゃんから勉強を教えてもらったおかげで3位になれたわけであって、普段なら絶対になれるわけがないのだ。
その辺だけは、はっきりさせておく。
テスト結果が出た日は、赤點を取った生徒たちの追試とか復習とかで部活はなく、ここ數日は午前授業になる。
赤點を取らなかった僕としては、學校にいても特にする事がない。なので授業が終わったら、とりあえずは家に帰ることにする。すると──
「弟くん」
學校から出てすぐのところで、僕はの子から聲をかけられる。
聲のした場所を見てみると、そこには香奈姉ちゃんと奈緒さんがいて、こちらに近づいてきた。
「香奈姉ちゃん。…奈緒さんも」
テストが終わったばかりなのか、そっちも午前授業らしい。
奈緒さんは、微笑を浮かべて聲をかけてきた。
「やあ、楓君」
「なんの連絡もなくいきなりやってくるなんて、めずらしいね。何かあったの?」
「いや、特にはないんだけどさ。楓君の事が気になってね。連絡しようとは思ったんだ」
そういえば、メールなり電話なりの連絡が一切なかった。
きっと、いきなり連絡したら失禮に思われるかもしれないから、そっち側から連絡をするのは気が引けたんだろう。
僕のテストの結果が気になったのならハッキリ言えばいいのに。やっぱり人のテストの結果だから、聞きにくいんだろうな。
その點、香奈姉ちゃんは違った。こういう事はハッキリしている。
「今回のテストどうだった? まさか赤點なんて取ってないよね?」
「やっぱりその事だったんだね」
「やっぱりって何よ。私は、心配してるんだよ。弟くんが赤點取ったんじゃないかって……」
あれだけ熱心に勉強を教えてくれたのに赤點なんか取ったら、どれだけ僕が馬鹿ってことになるんだろうか。
香奈姉ちゃんも、心配しすぎだよ。
「心配しなくても大丈夫だよ。赤點なんて取ってないからさ」
「そっか。それを聞いて安心したよ。やっぱりマンツーマンで教えた甲斐があったってもんだね」
ちょっと……。
聲が大きいよ。
周りに聞こえたら大変だから、やめてください。
「う、うん。そうだね……」
僕は、周囲を見やりながら相槌をうつ。
たしかに、香奈姉ちゃんがしっかりと教えてくれたから學年3位になれたわけだし、そこは禮を言うところだ。
しかし、それを聞いて面白くない人もいる。
「ちょっと待って。それは、あたしは聞いてないんだけど」
一緒にいた奈緒さんは、見るからに不満そうな顔で香奈姉ちゃんを見てそう言った。
「あ、言ってなかったかな? 私が、弟くんに勉強を教えていたこと」
「全然聞いてないよ。てっきり香奈は、自分の家で予習とかをしていたものかと思っていたよ」
「もちろん予習はしていたよ。弟くんに教えながらだけどね」
「うぅ……。そういうことなら、あたしも香奈と一緒に勉強すればよかったよ」
「それは、弟くんと一緒に勉強できるからかな?」
「え、違うって。香奈が楓君と一緒に勉強してたんなら、あたしも香奈たちと一緒に勉強してればよかったなって意味だよ」
「ああ、そういう意味なのね。私はてっきり、奈緒ちゃんは弟くんと二人っきりになりたいんだと思っていたよ」
「そ、そんなことあるわけないでしょ。半分は當たりだけど……」
最後の方の一言は、小聲で囁くように言う。
僕には聞こえてたけど、香奈姉ちゃんには聞こえなかったみたいで、思案げな表で
「奈緒ちゃん、今回のテスト範囲でわからなかった箇所でもあったの?」
と、聞き返していた。
香奈姉ちゃんの質問に、奈緒さんは答える。
「いや、それは特になかったといえば噓になるけど……。問題はなかったよ」
「それなら、いいじゃない。奈緒ちゃん、赤點は取らなかったんだし」
「それは、そうだけどさ……。あたしは、楓君と一緒に──」
「ハッキリ言っておくけど、弟くんにこういうことしていいのは、私だけなんだからね」
香奈姉ちゃんは、そう言うと僕の腕をやさしく摑み、奈緒さんに見せびらかすようにそのまま腕を組んできた。
「いやいや。あたしだって、穿いていたパンツを楓君にあげたんだよ。その権利くらいはあるでしょ」
奈緒さんは、香奈姉ちゃんに負けじと空いた方の僕の腕を組んでくる。
ちょっ…… ︎ 聲が大きいよ。
それを見た香奈姉ちゃんは、む~っとした表を浮かべていた。
「それは、私もだよ」
「香奈は、後からそうしたんだよね?」
「そうだけど……。別に順番なんて関係ないと思うな。お互いの気持ちさえあれば──」
「それなら、あたしだって負けちゃいないよ」
奈緒さんは、何を思ったのか空いた手の指先で制服のスカートの裾をつまみ、スカートの中をちらりと見せつけてくる。
「ちょっ… ︎ こんなところでやめてくださいよ」
「奈緒ちゃん、さすがにそれは大膽だよ」
香奈姉ちゃんは周囲を見やりながら、奈緒さんの手を押さえ、すぐにやめさせる。
僕も奈緒さんの手を押さえたかったんだけど、両手とも二人のの子に摑まれていてそれは無理だった。
奈緒さんは、悪戯っぽく笑みを浮かべ香奈姉ちゃんを見る。
「香奈には無理だもんね。こんな事するのはさ」
「無理じゃないもん。周囲の人の目があるから、やらないだけだよ!」
「そっかぁ。香奈は、真面目な優等生で通ってるもんね」
「いや、いくらなんでも、こんな人通りの多い場所でパンツを見せる行為をするのは、よくないから」
「それならさ。これから楓君の家に行って、どっちのがいいのか聞いてみるかい?」
え……。それって何を?
「いいね、それ。──弟くんの反応を知るいい機會だし、ちょうどいいかもしれないね」
奈緒さんの提案に、香奈姉ちゃんが乗ってきた。
──ちょっと、待ってよ。
それって、僕の意思とは関係ないよね。
「あの……。僕に拒否権は?」
「「ないよ」」
僕の言葉に、二人は笑顔でそう答える。
やっぱり、そうなってしまうのか……。
「それならしょうがないな。それじゃ僕は、バイトもあるしそれまでの間、友達の家でゆっくりしようかな」
「いや、それは困るよ」
「どうして?」
「弟くんがいないと、話にならないじゃない」
「そうだよ。そう言われたら、弟くんの部屋はナシってことになる……」
「わ、わかったよ。それじゃ、僕の家に行こうか」
僕は渋々、家に行く事を了承する。
うーん……。一人で香奈姉ちゃんとの向き合い方を考えたかったのにな。しょうがないか。
「ありがとう。弟くん」
「さすが楓君。ありがとう」
香奈姉ちゃんと奈緒さんは、嬉しそうにぎゅーっと僕の腕にしがみついてきた。
まさに両手に花狀態。ハッキリ言って、すごく恥ずかしいんだけど。この場合、僕はどうすれば……。周囲を見ると、羨ましそうな目で僕を見てくるし。
「どうしたの? 弟くん」
と、香奈姉ちゃんは思案げな表で僕に訊いてくる。奈緒さんも香奈姉ちゃんと同じ想なのか思案げに僕の顔を覗き込んできた。
きっと、今の香奈姉ちゃんたちは、周囲の目なんて気にしていないんだ。
だったら、恥ずかしがる事もないか。
「…ううん。なんでもないよ」
僕は微笑を浮かべてそう言うと、二人の歩調に合わせて歩いていった。
note+ノベルバ+アルファポリス+電子書籍でエッセイ、小説を収益化しつつ小説家を目指す日記
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