《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第四話・10
僕はたしかに香奈姉ちゃんに好意を持っている。だけど、それはあくまでも姉的存在としてだ。その姉的存在がの対象ともなると、僕にも心の準備っていうものが必要になる。
今までなら、姉的存在としていくらか許容できるものがあったのだけど、いざ対象になると々と意識してしまう。
「ねえ、弟くん。やっぱりさ、弟くんの部屋で一緒に寢たいよ。ダメかな?」
僕の部屋に來た香奈姉ちゃんは、案の定、僕にそう言ってきた。
寢る時間だから、もちろん寢間著姿だ。
香奈姉ちゃんが泊まりにくる時に用意するいつもの部屋に案したつもりだったが、どうやら不服だったらしい。今も、ムーっとした表で僕を見ている。
僕は、そんな香奈姉ちゃんの態度に、すっかり負けしてしまい苦笑いを浮かべていた。
「いや……。ダメって事はないんだけど。さすがに人同士でもないのに僕の部屋に泊めるっていうのは、無理があるかなぁって」
「そんな事ないよ。私、弟くんには何もしないから大丈夫だよ」
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そう言うと香奈姉ちゃんは、僕に抱きついてくる。
何もしないと言っておきながら、すでにやってるし。
その行が、どうにも信用できないんだよなぁ。
「しないしない詐欺にしか聞こえないんだけど」
「好きな人とイチャイチャするのっていけない事なの?」
「いけない事はないけど、さすがに一線を越えるのはどうかと……」
「その點については大丈夫だよ。私は、弟くんのぬくもりをじながら寢たいだけだから」
「やっぱり、僕に抱きついて寢るつもりだったんじゃないか! …僕は嫌だよ。香奈姉ちゃんの抱き枕にされて寢るのなんて……」
「え~。ダメなの?」
「ダメに決まっているじゃないか。…それに、そんな事されたら、僕も我慢できなくなってしまうよ」
最後の方の言葉は小聲で囁くように言っていた。
だから香奈姉ちゃんには、聞こえなかったらしい。
「ん? 何か言ったかな?」
と、思案げに首を傾げ、そう聞いてくる。
「ううん。なんでもないよ。こっちのこと……」
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僕は、慌ててそう言っていた。
香奈姉ちゃんは、訝しげな表で僕を見る。
「なんか怪しいな。今、エッチなこと考えたでしょ」
「そんなことないよ」
僕のことを抱き枕にして寢ようと考えてる人間に言われたくはない。
「ホントかなぁ」
「それを言うなら、香奈姉ちゃんだって人のことは言えないじゃないか。僕のことを抱き枕にしようとしてるんだから」
「私が弟くんを抱き枕にするのと、私にエッチなことをしようとするのとでは、意味が違うんだよ」
「どう違うのか、よくわからないんだけど……」
香奈姉ちゃんは、僕にすり寄ると手を握ってくる。
「弟くんは私の……なんだから、そんな難しいことを考えなくてもいいんだよ」
「え……。今、なんて?」
「こんな恥ずかしいこと、一回しか言わないよ。あとは、楓本人がよく考えてよ」
香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうに頬を染めそう言っていた。
香奈姉ちゃんが、そんな表をするのは初めてだ。
ここまできて香奈姉ちゃんを避けるのは、恩知らずの人間がすることだ。
「…わかったよ。僕と一緒に寢たいなら、そうすればいいよ」
「いいの?」
「別に構わないよ。香奈姉ちゃんがそうしたいんだったら、そうすればいい。僕は香奈姉ちゃんに恩があるからね。斷る理由がないよ」
今回のテストの結果は、香奈姉ちゃんがいなかったら、まず取れなかった順位だったし。
「そう。私は、楓のためにできることをしただけだから、そんな事考えなくてもいいんだよ。恩に思っているんなら、別の形で返してくれればいいよ」
「そうなの?」
「うん。例えば、私とデートしてくれたりとか」
「よく考えとくよ」
「デートなら、なるべく早くしてね。バンド活が始まったら、デートに行く暇がなくなっちゃうから」
「わかった」
香奈姉ちゃんとデートか。
と出かけるようなレベルなので、あまり実がわかないんだけどな。どちらにしても、恩返ししなきゃいけないので、デートも考えておこう。
「そろそろ寢よっか」
僕は、眠そうに欠をしだした香奈姉ちゃんを見てそう言った。
香奈姉ちゃんは、僕の言葉に安心したのか微笑を浮かべ、僕のベッドに寢そべる。
「そうだね。なんだか眠くなってきちゃったし」
香奈姉ちゃんのそんな無防備な姿を見ていると、僕まで安心してしまう。さすがにエッチなことをしようとは思わないけど……。
「それじゃ、電気消すよ」
「はーい」
僕は、部屋の電気を消すとそのままベッドにった。
ベッドの中にってしばらくしないうちに、香奈姉ちゃんが抱きついてきた。
「──楓」
「どうしたの、香奈姉ちゃん?」
僕は、あまりのことに目を丸くする。
「『姉ちゃん』はやめて。…二人っきりなんだから、香奈って呼んでよ」
香奈姉ちゃんは騎乗位の勢をとると、真剣な眼差しで僕を見てきた。
──近い近い。顔が近いよ、香奈姉ちゃん。
今の距離は、香奈姉ちゃんのふくよかながに當たっていて、すぐにでもキスができるほど近いのだ。
まさか、このままエッチなことはしてこないよね。
この狀況だと、十分に不純異友になりかねない。
──さて。
どうやって香奈姉ちゃんを引き剝がしたらいいだろうか。
「あの……。えっと……。香奈…さん? これは一、どういうつもりで、その……」
「まぁ、楓の鈍っぷりは、今に始まったことじゃないから責めはしないけど、私からの好意くらいは気づいてほしいな」
「…だからその、香奈さんの好意と今回のこれとは、どういう関係があるのかなって……」
僕は、困り顔でそう言っていた。
香奈姉ちゃんが、僕に好意を向けてきてるのはよくわかる。だけど抱き枕のように僕に抱きついてきて、何かをしようとしている香奈姉ちゃんが逆に怖いのだ。
香奈姉ちゃんは、ムッとした表を浮かべ、口を開く。
「関係大ありだよ。私というものがいながら、他のの子たちに鼻の下ばしちゃってさ」
「他のの子たちって言われても、香奈さんが紹介したの子たちしか知り合いはいないよ。鼻の下をばしようがないんだけど……」
「そうだよ。私が言いたいのは、奈緒ちゃんや沙ちゃんたちのことだよ」
「奈緒先輩たちのこと? どうかしたの?」
「どうもしないよ。私が聞きたいのは、その中の誰かに本命がいるのかって事だよ」
「本命? …まだ出會って間もないのに、本命って聞かれても……」
「…そう。まだ誰が本命なのか、わからないんだね。それならいいんだ」
香奈姉ちゃんは、なぜか安心したように息を吐く。それが何を意味するかはわからないが、僕に特定の子がいない事がそんなに嬉しいんだろうか。
僕は、それが不快だったのでやさぐれた様子で言った。
「…だって、いつも兄狙いで僕に近づいてくるの子が多いから、必要以上に踏み込むのが恐くて……」
「彼たちのパンツをけ取っておいて、隆一さん狙いのわけがないじゃない。奈緒ちゃんたちは、隆一さんとはまだ、面識がないんだよ」
「たしかにそうだけど。…でも兄と出會ったら、惚れちゃうよ」
「ん~。どうだろう。好みは個人差で々あるだろうと思うけど。たぶん、惚れるっていうことはないと思うよ」
「どうして?」
「楓と隆一さんは、格がまるで違うからね。たぶん憧れるって事はあっても、惚れるって事はないと思う」
「そんなものなの?」
「心はそういうものなんだよ。…だから楓が心配するようなことは、なにもないよ」
「いや、別に心配とかはしてないんだけど……」
誰が誰と付き合おうが自由だし。
僕の態度で察したのか、香奈姉ちゃんはまたムッとした表を浮かべ、そのまま騎乗位の狀態になる。
「しは心配しないと、私に対して失禮だよ」
「どうして?」
「今、こうして私が近くにいるんだよ。何もしなかったら、それこそ私に対して失禮じゃない」
「いや、何もしないって香奈姉ちゃんは言ってたよね」
「…ほら、また姉ちゃんって言った」
「だって……」
僕にとっては、香奈姉ちゃんは香奈姉ちゃんだし。呼び方はなかなか変えられるものじゃない。
「二人っきりの時は、香奈って呼んでと言ったじゃない。楓は、昔から私の事をお姉ちゃん呼ばわりなんだもんね」
「──それを知ってるんなら、そう言わせないでよ」
「やだよ。私だけの弟くんになんて呼ばせようと自由じゃない」
「それは……」
香奈姉ちゃんは、弟的な存在の僕に、到底無理なことを言ってきている。
香奈姉ちゃんを呼び捨てになんてできない事を、よく知っているくせに……。
「それに無理なことじゃないと思うよ。私の事を、香奈って呼ぶことくらい、簡単なことだと思うけど……」
「どうして、そう呼ばせたいの?」
「ん~。私のわがままかな。その呼び方のほうが私的には嬉しいっていうか……」
「嬉しいの?」
「うん、すごく嬉しいよ。寧ろお姉ちゃんって呼ばれることよりも嬉しい気持ちになるかもしれない」
「そうなんだ」
「楓は嬉しくなさそうだね。やっぱり、私の事をお姉ちゃんって呼んでた方が気が楽なのかな?」
「どちらかというとね。香奈姉ちゃんって呼んでた方がしっくりくるじかな」
僕は、笑顔でそう答える。
僕にとって香奈姉ちゃんは、優しいお姉ちゃんってじだ。たしかに好意も持っているが、それはっていうタイプのものじゃない。
「そう……。弟くんは、それでいいんだね」
香奈姉ちゃんは、殘念そうな表を浮かべて、僕のベッドから離れた。
「香奈姉ちゃん。どこへ?」
「やっぱり隣の部屋に行くね。今の弟くんには、期待しちゃいけないのが、よくわかったから」
「香奈姉ちゃん」
呼び止めたつもりはない。
ただ自然と、僕の口から出てきたのだ。
期待しちゃいけないっていうのは、何に対してなのかよくわからない。
香奈姉ちゃんは、呆然となっている僕を見て軽くため息を吐き
「弟くんのバカ」
と小さな聲で言う。
「あ、あの……。僕は……」
僕は咄嗟に口を開き、言おうとした。しかし、何を言っていいのかわからず、結局言葉に詰まってしまう。
「おやすみ。弟くん」
香奈姉ちゃんは、そう言い殘して僕の部屋を後にする。
僕は、部屋を後にする香奈姉ちゃんを黙って見ていることしかできなかった。
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