《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第四話・11

──翌日。

朝起きると、そこには香奈姉ちゃんの姿があった。香奈姉ちゃんは、僕が寢ているベッドの上に座り込む形で顔を覗き込んでいたのだ。

「おはよう、弟くん。今日も、いい天気だね」

そう言ってくる香奈姉ちゃんは、昨日の夜の態度から一変して笑顔を浮かべている。

いつの間に著替えたのか、もう制服姿だ。朝ごはんの準備をしていたのか、エプロンを掛けている。

「あの……。えっと……。おはよう、香奈姉ちゃん」

「朝ごはんができたから、起こしに來ちゃった」

「え……。もう、そんな時間になってた?」

僕は、焦って傍にあった時計を確認しだす。

時間は、6時になる10分前だった。

僕はいつも5時半くらいに目を覚ますから、いつもより20分遅い。

香奈姉ちゃんも、僕が起きる時間は把握しているんだろう。

「うん。いつもなら5時半くらいに起きているから、し寢坊してしまったのかなって──」

「なんか々とごめん……」

「ううん。気にしなくていいよ。そんな事もあるかと思って、ゆっくり寢かせてあげたんだし」

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ゆっくり寢かせてあげた…か。

その割に、ずいぶんと積極的な起こし方をするんだね。

「…ほんの20分くらいだけどね」

「それよりも、朝ごはんできたよ。顔を洗ったら、食べにきてよね」

そう言うと香奈姉ちゃんは、名殘惜しそうにベッドから離れる。

「わかった。…ありがとう、香奈姉ちゃん」

僕は、とりあえず禮を言う。

わざわざ朝食を作ってくれて、おまけに僕を起こしに來てくれたのか。本來ならそれは、僕がやることなのに。

僕はゆっくりとベッドから起き上がり、そのまま部屋を後にする。

そのまま居間に行くのは悪いと思ったので、その前に、洗面所で歯磨きと洗顔を済ませた。

香奈姉ちゃん的には、一緒に家事をやりたかったはずなのに、よかったんだろうか。

そんな事を思いながら居間に向かうと、香奈姉ちゃんが先に到著していて、椅子に座っていた。

テーブルの上には、香奈姉ちゃんが作っただろう朝食が用意されている。

「さぁ、弟くん。はやく食べよう」

「うん、そうだね」

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僕は、そう言って椅子に腰掛けた。

しっかりと「いただきます」と言い、香奈姉ちゃんが作ってくれた朝食を食べ始める。

味については、もはや語るまでもない。

「──ところで弟くん」

「どうしたの?」

「昨日の夜の事、考えてくれたかな?」

「え……。それは……」

僕は、昨日の夜の事を思い出してしまう。

香奈姉ちゃんは、一人のの子として僕に迫ったわけだけど。僕の方は、まだ香奈姉ちゃんをそんな目で見ることはできそうにない。好意を持っているのはたしかなんだけど。

「その態度だと、やっぱり何も考えてなかったんだね。わかってはいたことだけど、弟くんは鈍すぎるよ」

「鈍か……。実は、友達からよく言われるんだよね」

「弟くんの友達は、弟くんのことをよく見てるんだね」

「うん。慎吾は、見かけによらずホントにいい人でさ。前からよく近況を聞いてもらってるんだよ」

「そうなんだ」

香奈姉ちゃんは、じーっと僕を見ている。

慎吾は、同じバイト仲間だから話しやすいのかもしれないけど、余計なことは言ってはいない。

特にも、昨日の夜の事は言うつもりはない。

「弟くん」

「ん? どうしたの? そんな真顔で」

香奈姉ちゃんは、真面目な表を浮かべて僕を見てくる。そして意を決した様子で──

「私、決めたから!」

と、言う。

「え? 何を?」

僕は、香奈姉ちゃんが作ってくれた朝食を食べながら言葉を返す。

、何を決めたんだろうか。

「私、弟くんの彼になるよ」

香奈姉ちゃんは、そう言うと僕に寄り添ってくる。

「ぶっ! いきなり何を言い出すの?」

僕は、香奈姉ちゃんの発言に驚き、食べていたものをふき出してしまう。

「いきなりじゃないよ。最初から決めてたことなんだから」

「最初からって……。それじゃ、兄貴にはなんて説明するつもりなの?」

「隆一さんには、もう説明したんだけどなぁ」

「え? それって……」

「弟くんが知っている通り、たしかに私は、隆一さんから告白されたよ。…だけど斷ったんだよね」

「どうして?」

僕は、なんとか落ち著きを取り戻し、そう聞いていた。

そういえば、兄からの告白を斷った理由については何も知らないな。もしかしたら、香奈姉ちゃんの真意を聞けるチャンスかもしれない。

そう思ったんだけど、香奈姉ちゃんから聞けた理由については、あまりにも簡素なものだった。

「私の運命の相手は、隆一さんじゃないからだよ」

「え? どういうこと?」

「隆一さんは、たしかに誰の目から見てもカッコいいし、格も優しくて完璧なのかもしれない。…だけど、私には勿ないんだよね」

「勿ないって……。考えすぎじゃ……」

「ううん。隆一さんに告白された時、考えちゃったんだよね。隆一さんと付き合えたら、どれだけ幸せなんだろうかってさ……」

「香奈姉ちゃん」

「…考えたんだけど、やっぱりダメだった。どんなに考えても、隆一さんと付き合うイメージが湧かなくて、気がつくと弟くんのことで頭がいっぱいになってる自分がいるの。きっと私は、他の人と付き合うっていうこと自考えられないんだなって」

「………」

香奈姉ちゃんの言葉に、僕は何も返す事ができず、押し黙ってしまう。

「…でも、弟くんの場合は違った。弟くんとなら、趣味も共有できるし、好きなことにも一緒に向き合えるような気がしたの」

「お互いの好きなこと…か」

「そう。例えば、バンド活とかね」

「なるほどね」

バンド活なら、兄もやっているんだけどな……。

そう思いながらも、グッと言葉を呑み込む僕。

すると香奈姉ちゃんは、自信たっぷりげにを張って、とんでもないことを言う。

「それに弟くんは、私の言うことなら、なんでも聞きそうだしね」

やっぱり、そういうことか。

ここにきて本音が出たよ。

「いや、なんでもはさすがに……。容にもよるよ」

容か。そんなに難しい事じゃないとは思うんだけどな……。例えば、私が『付き合ってください』って言ったら、弟くんは付き合ってくれるの?」

「そういうのって、告白する方はすごく張すると思うんだけど……。香奈姉ちゃんは、わりとすんなり言えるんだね」

「だって相手は弟くんだし、張することはないじゃない。…それで、どうなのかな? 私と付き合ってくれるかな?」

返事をすぐにしがるあたり、かなり焦っている様子が窺える。

香奈姉ちゃんらしくない。

「香奈姉ちゃんがそうしたいのなら、僕は別に構わないよ」

「え、それじゃ……。いいのかな?」

「うん。こんな僕でいいのなら」

僕は、戸っている様子の香奈姉ちゃんを見て、微笑を浮かべる。

すると香奈姉ちゃんは、意外そうな表を浮かべていた。

「ふ~ん。弟くんは、こんな私でも付き合ってくれるんだ」

「そんなの當たり前じゃないか。香奈姉ちゃんとは馴染だし、『付き合って』って言われたら斷れないよ。まぁ、他に好きな人がいるんだったら、僕も諦めるけどね」

「私って、結構やきもち妬きだよ。奈緒ちゃんとイチャついているところとか見たら怒るかもしれないよ」

「いや、それは僕に怒っても仕方ないと思うよ」

「…だって、羨ましいんだもん。仕方ないでしょ」

何が羨ましいのかさっぱりわからない。奈緒さんは、強引にくっついてきてるだけだし……。

「羨ましい…か。たしかに男にとっては、奈緒さんのしてくる事は嬉しい事かもしれないけど……。まぁ、勘違いしちゃう人も出てくるか」

「弟くんは奈緒ちゃんの事、好きなのかな?」

「うーん……。人としては好きだけど、一人のの子として好きっていうじゃないかもしれない」

「そう。…なら、奈緒ちゃんの想いには応えられないんだね」

「うん。奈緒さんには悪いんだけどね」

「それでも、渡されたパンツはしっかりと持っていた方がいいよ。あ、弟くんは、私のパンツも大事に持ってたんだっけ」

「おかげさまでバンドメンバー全員のパンツを持っているよ」

「うんうん。弟くんは、小さい頃からそういうは大事にするからね。私も安心だよ」

「さすがにの子のパンツをぞんざいに扱うことはできないよ」

僕の言葉に、香奈姉ちゃんは嬉しそうに僕に抱きついてくる。

「そっかそっか。大切にしてくれてありがとね。──それで、私たちのパンツはどこに仕舞っているのかな?」

「どうしてそんなこと聞くの?」

「パンツを渡したとしては、一応、聞かないと気が済まないっていうか…その……。なんとなく気になるじゃない」

どうやら、香奈姉ちゃんはパンツの置き場所が気になるらしい。

まぁ、その日に穿いていたパンツだからよけいに気になるのか。

だけど言えない。言えるわけがない。

「気持ちはわかるんだけど、どこにあるかは言えないかな。香奈姉ちゃんのパンツなら、すぐに返すことはできるけど」

「それはつまり、私の好意はけ取る事ができないってこと?」

「いや、そうじゃなくて……」

「それじゃ、どういう意味かな?」

香奈姉ちゃんは、いつもの笑顔を浮かべてそう聞いてくる。この場合、その笑顔が逆に怖いくらいだ。

ひょっとして香奈姉ちゃん、怒ってるのか。

「いや、その……。下著とかを洗濯したいとか、そういう理由だったら返した方が良いなって思ってさ」

「ああ。そういう意味ね。…大丈夫だよ。そのパンツは、しばらく弟くんに預けておこうと思っているから」

「そ、そうなんだ」

「うん。──私が気になったのは、三人が穿いていたパンツは、どんなものだったのかなぁって」

の子のパンツに、興味があったの?」

僕は、思案げに首を傾げる。

「そういうわけじゃなくて──。なんとなくだよ。奈緒ちゃんたちは、どんなパンツ穿いていたのか気になったの」

「どんなパンツって言われてもなぁ。の子が穿いているパンツに見分けなんてつかないし……」

むしろの子が穿いているパンツに、高価なものでもあるのかな。

僕には、わからないんだけど……。

いや、むしろわかりたくもないんだが。

香奈姉ちゃんは、それを察したのか軽くため息を吐く。

「まぁ、そうだよね。私も普通の下著穿いてるから、他のの子のパンツに違いなんて、そんなにないよね?」

「う、うん……。それはないと思うよ。たぶん……」

僕は苦笑いをして、そう答える。

さすがに斷言できないけど、まぁ、許してくれるよね。

「ちょっと、弟くん。適當に答えてない?」

「そんなことはないよ。ちゃんと真面目に答えているよ」

「ホントかなぁ。あやしいな」

香奈姉ちゃんは、ムーっとした表で僕を睨んでくる。

──今日も、いい天気だな。

テストも終わったことだし、しばらくはバンド活に集中できそうだ。

僕は窓から外を眺め、軽く息を吐いていた。

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