《問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『霊使いで再起しました。』》

――どのくらいの時間が経ったのだろう。

しずつだが、頭の中に思考ができる領域が構築されていく。

まず確認したことは、自分は生きているのか死んでいるのか。

よく考えたら、死んだ時に思考が働くのかどうかわからないので、思考の可否だけ生死の判斷ができるかわからない。

そういう結論に菜は達し生死の確認は終えた。

――記憶はある。

この狀況に至るまでに、このに何が起こったのか。気化したガソリンの発が原因であると。

――思い出す。

憧れてたのこと、仲の良かった男のこと、この狀況となる原因のいとこのこと。

そこまで確認すると意識はまた、深海の中にゆっくりと沈むように遠くなり、更なる時間が過ぎていった。

長い時間が過ぎ、再び意識が深海の底から浮上し、思考する覚が戻ってきた。

前回と違うところは覚が戻り、さらにはきを命令することができるようになっていた。

今回の覚醒は、ただの眠りから目覚めただけのような覚であった。

仰向けで橫になったまま、まずは両手を頭の上に挙げ、深呼吸で肺の中にたっぷりと新鮮な空気を能に詰め込んだ。その後息を止め、郭を引き延ばすようにびをする。

十分にびると吸い込んだ空気は使用済みとなり、圧に任せるように溜め込んだ息を吐き出し、次の新鮮な空気を取りれる準備をする。

そして、最後に殘しておいた作を実行する。

――菜は、目を開けた。

そこは見たことがない 、森の中だった。

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背の高い木々が円形狀に周りを囲み、ちょうど今寢ている場所だけ絨毯のように草が生えていた。

薄暗いが怖さはなく、気持ちが落ち著くような適正な暗さだった。

木々の間からは、雪のように白くフワフワしたものが落ちてくるのが見える。今この空間では、無風で白いものが風に流されることはない。

落ち葉のようにジグザグに落下するものあれば、クルクルと回転しつつ螺旋軌道で回転しながら落ちて來るものもあった。

菜は自分のに逆らわず働こうとしていた思考を止めて、興味の盡きない不規則にくこのを眺めていた。

この様子を観察し続けたことにより、ある仮定が浮かんだ。

このには、それぞれに個があるのではないかと。

こちらにまるで興味がないもの、近付いて様子を見ようとしているもの、なるべく地面に落ちる迄の時間を稼ごうとしているもの。

(くすっ)

そう考えると、この白いものが生きているようで可いらしく思えた。

ふーっ!

上に向かって息を吹きかけると、フワフワしたものは自分の意図しない方向へ強制的に軌道を変えさせられた。

息にれた白いものは重力に逆らう方向へ流される途中、パッと姿を消した。

最初のに倣うように、降り注いでいた他の白いも姿を消していき、全く落ちてこなくなった。

―― 菜は焦った。

白いは意識があるように見え、眺めているだけには特段問題はなかった。

しかし、落ちてこなくなったきっかけは、自分がイタズラに息を吹きかけてしまったことによるものだと判斷した。

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橫になって見ていた菜は、慌てて上半を起こした。

「ごめんなさい、悪気はなかったの……」

と、この空間全に向けて謝罪した。

すると、白いフワフワしたものはまたポツポツと落ち始め、次第に先程と同じように落ちて來るようになった。

「……よかった」

菜はホッとした気持ちになったが、自分に対する警戒は強くなったんだろうなとじた。

これ以上は邪魔をしないようにと、またその景を眺めるだけの時間を過ごした。

しばらくじっとしていると、先程とは異なりに接してくるものが増えてきた。

(これ手のひらに乗せると、どうなるんだろう……)

こちらから摑みにいくとまた警戒されることになりそうなので、正座した狀態になり太ももの上で左右の手を沿わせて、手のひらを上に向けて自然に落ちてくるのを待った。

待つこと數分。初めてその一つが手のひらの上に落ちてきた。

しかし、手にれた瞬間に蒸発するように消えてしまった。雪のように冷たくはない。

それをきっかけに、いくつかの白いものが手のひらの上に落ち始めた。

先程のようにすぐに蒸発してしまうものあれば、數秒間手のひらの上で殘っているが最終的には蒸発してしまうものもあった。

その様子を眺めて近寄ってくれることに先程の警戒が消えていることが嬉しく思える反面、存在が消えてしまうことへの寂しい気持ちも芽生え始めた。

だがここで、ひとつだけいつまでも蒸発しないものが現れた。

菜はその手をゆっくりと右に左に、手のひらを揺りかごのようにして揺らしてみた。

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その個は揺れに合わせて転がり、その様子は楽しんで転がっているようにも見えた。

最後に、が潰れてしまわないようにおにぎりを握るように手を被せてみた。

すると合わせた手の指の隙間から、白いれ出しているのが見えた。

ゆっくりと合わせた手を開くと、手の上に乗せたの玉の中に人のような形のシルエットが見えた。

「え!? なにこれ……!」

が徐々に収まっていくと、シルエットだった人型がはっきりと形作られていき、手のひらの上には中指の先端から付けあたり大きさの人型の生が存在していた。

(……妖?)

菜は目にしたその姿を、自分が知っている中で一番近いものに例えてみた。

しかし、どうもイメージがぴったりと一致せずしっくりこない。特徴的な背部の羽も見當たらなかった。

言葉が……いや。そもそも日本語が通じるのかわからなかったが、ゲームの世界で獲得した処世の一つで、最も使用頻度が高く、どんな相手にも通用する萬能な言葉でコンタクトしてみた。

「あの……こんにちは」

……

…………

………………反応はない。

(あ、言葉通じないのかも……困ったなぁ)

人型の生は、こちらの戸いに気づいたのか瞑っていた目を開いた。

その人型は、眠そうな目をこすり大きな欠をし、片腕を上に挙げるポーズで背びをした。

くらっ

バランスを崩したのか、脳流量の減による酸欠か。

小さな人型はよろけて、手のひらの上でそのままのポーズで倒れ込んだ。そのまま待つこと十數秒。人型のはそれ以降、く気配は無かった。

また眠ってしまったようだ。

菜は、目の前で何が起きているのかわからなくなっていた。

そして次は何をするべきか考える。

うん、理的接(コンタクト)をしてみよう。

菜は、手のひら上の重さのじない壊れそうなが潰れてしまわないように、小指の爪の先でれてみた。

反応はなし。しかし、爪先のではフワフワが蒸発した時のような崩れやすいものでも無かった。

思い切って人差し指の腹でコロコロと優しく転がしてみた。

すると、そのは嫌がる仕草をして両手で指を押し返してきた。大きさの割に案外、力がある。

突いてた指を引っ込め、鼻先まで持ち上げて間近でその人型のものを観察した。

その姿には顔のようなものが構され、発も収まった様子。

その人型は、ゆっくりと不安定な手のひらの上で立ち上がり、今までにない行にでた。

(おぉ、浮いた!)

産まれたての子鹿のように、不安定なきではあるが浮いて……、いや飛んでいる!

菜は母親の心境で、その様子を見守っていた。

落ちそうになるときには、そっと手を差しべた。

次第に安定する姿勢、浮力、推進力。その長に喜びすらじる。

そして飛行能力に慣れたと思われると、菜の周りをぐるぐる回り始めた。

菜は今度は手助けではなく、ここに降りてほしいという願いを込めて手のひらを差し出した。

願いが通じたのか、その上に乗ってきた。

改めてコンタクトを試みる。

「飛べたねぇ、すごいねぇ!」

進化?その能力を獲得する姿をみて思わず賞賛の言葉が口からでた。

「がんばったよ!」

――!!

まさか、答えが返ってくるとは思わなかった。

驚きよりも、意思の疎通ができることが嬉しかった。

小さな生きは嬉しそうに菜の親指にしがみついて喜びの気持ちを表した。

意思の疎通ができるということは、先ほどの落下が止まったのは自分のせいではないかと聞きたかったが、印象の悪い質問はタイミングを見計らってからするとし、その前に當たり障りない容から問いかけてみた。

「ところで、あなたはどこからきたの?」

「うーんとね、先生のところからきたの。みんなが降りていったからあたしも降りてきたの!」

「ふーん、先生? その先生って何を教えてくれる人なの?」

「先生はいろんなことを教えてくれるよ!力の使い方とか壊れたところの治し方とか。でもね、みんなが同じことできるわけじゃないの!」

「それはどうして?」

「みんな得意なものが違うのよ!あたしは風のことはわかるけど、土のことは全くわからないの!」

「……風?土?」

(風ってあの風で、土ってあの土のこと?)

「風とか土って、この世の中を作っているものの一つなんだって!あたしたちは、その材料を使ったりかしたりできるんだよ!」

「ふーん、魔法みたいなものかな?」

「んー? マホぉ? それ、なにそれ??」

「魔法……、そうね。神エネルギーとか魔力が宿った道とかを使って火や氷を出したり、仲間の戦う人の能力を高めたり、守る力で助けたりするものなんだけどね」

當然ながら魔法に対する憧れはあったが、実際には使えるはずもない。

今までやってきたゲームの世界での報を簡単に伝えてみた。

「それなら、4つの力を上手く使えばできることもあるよ!あたしもまだ上手に使えないけどできることもあるよ!」

「え! それ見てみたい! ねぇ、お願い見せて見せて!」

「いいよ! 見せてあげる!」

そういうと、得意顔の小さな生き菜の手のひらから浮かび上がり、興気味の菜の顔を背に向けて浮かんだ。

そして、両手を前に突き出した。

すると……

なにも起きなかった。

「あれ? 風がでない……これが一番得意だったのにぃ!?」

小さな生きは何度も両手を前に出す作を繰り返す。

……が、先程と狀況は変わらず何も起きなかった。

「あー……うん。 調子が悪いのかな? また、今度見せてね」

菜はなんだか申し訳ない気持ちになり、どういうフォローをして良いかわからなくなった。

小さな生きはしょんぼりした顔で、菜の肩に座った。

(ごめんなさい。こういう時どういう顔をすればいいか、わからないの……)

どこかで聞いたことのあるセリフを菜は思い浮かべた。

と同時に、この狀況(くうき)を変えることができるかもしれないある打開策を思いついた。

「えーっと……ねぇねぇ、それって、私にもできないかなぁ?」

「うーん、どうだろ? できるのかなぁ……」

小さい生はがっくりと項垂れて、いじけたように足をぶらぶらさせながら答えた。

「何かやり方とか、コツみたいなのがあるの?あるなら聞きたいかなぁって!」

「んーとね。まずは風は空気がくものだから、その空気を意識するの。そして、その空気をどういうイメージでかすかによって向きや流れ方や大きさが変わるのよ」

「ふーん、それで実際にどうすればいいの?」

「じゃあ、まずは手のひらの上で空気をかしてみよっか? ちょっと手を出してみて!」

どうやら小さい生きは調子を取り戻したようだ。

菜は、右手の手のひらを上に向ける。

「今もその手の上に空気があるの。わかるよね? その空気を上に押し上げてみようか」

(うーん…… えい!)

……何も起きなかった。

「え、ちょっとわかんない」

「空気がくイメージができてないのかなぁ。し簡単にやってみよっか。それじゃあ、手で顔を扇いでみて!」

「うん。普通にこうかな?」

パタパタパタパタ……

菜は顔に風がかかるように手を扇ぎ、前髪がそよそよ揺れている。

「ね。手だと風を作れるでしょ? そのパタパタを手のひらの上で起こすようにイメージするのよ」

(なるほど……ね。 うん、わかったようなわからないような)

とりあえず、もう一度手のひらを上にして風が起こるイメージを作る。

(さわっ)

!!

前髪が下から上に舞い上がる。

「え!あたし、すごくない!? ”やればできる子”系!?」

テンションが上がる菜。その勢いに乗じてる風の勢いも上昇し、加速度的にその強さを増していく。

ゴゴゴゴゴゴォオオオォオォ!

風は更に強く吹き上がり、中心部がすごい勢いで上昇するためその周囲の空気が渦を巻き

周りの落ち葉や砂石が巻き込まれ、周囲の木々はミシミシと音を立て臺風のように揺れている。

「ね……ねぇ、これどうすれば止まるの?」

肩にいる小さな生に話しかけ、そちらに目を向けると意識を失って肩の上で反り返って落ちそうになっていた。

「ちょっ、ちょっとぉ! どうすんのぉ、これっ!!」

菜は、全ての力を持っていかれるような覚に襲われた。

このままだと意識を失いこの風を制できなくなり、この辺り一帯がこの暴風によって破壊されてしまうことは容易に想像できる。

現に、數本の木がありえないほど曲がり折れそうになっている。

(……あ。意識が……もう持たな……いかも。余計なこ……としなきゃよかった……)

殘りない意識の糸が切れかかったとき、風の轟音の中を掻き分けて別の聲が響いた。

(――靜まりなさい)

ゴゴゴゴゴゴォォォォ

サワサワ……

次第に風が収まり、周囲の巻き上げられた砂や葉や折れた枝などが落ちて來た。

菜は力が抜けてその場に崩れ落ちそうになったが、まずは肩の上の小さな生を両手で包んで安全を確保した後、空を仰ぐように崩れ落ちた。

息が切れ、の拍が走った後のように速くなっている。

すると隣に大きなが、どこからか転送してきたかのように突如現れた。

緑をベースとした白いを混ぜた発したの塊。その中に大人の大きさのシルエットが浮かび上がる。

シルエットは両膝を地面につき、手を菜のの上にかざした。かざした手からは暖かいオレンジのが溢れ、菜のへと染み込んでいく。

――!?

直前までの倦怠が消え、尚且つ今までにない力がの中を駆け巡った。

菜はを起こし、シルエットの方へ向き直した。

「助けていただき有難うございました。もうしで取り返しのつかないことになるところでした。本當に有難うございました!」

手の中の小さな生きを大切に包んだまま、深々と頭を下げてお禮をした。

シルエットの中の表は逆のために見えないが、はそれほど眩しくじない。ただ、小さく頷いたことだけはわかった。

『……風を扱うものよ。よくこの世界に戻ってきてくれました。また會える日を心待ちにしています』

そういうと、の塊は空気の中に溶けるように消えていった。

最後に、

(どうかその子を、よろしくお願いします)

とだけ言い殘して。

ざわついていた木々が落ち著きを取り戻し、停止狀態だった菜の思考もき始めた。

手の中にれていた生は無事なのか?

菜はゆっくりと手の中の開いた。

その人型の生は、無事な様子だった。

菜はその人型の生が目が覚める間、ずっと待ち続けていた。

どのくらいの時が流れたのか、手の中の人型の生は目覚めた。

「あ、気が付いたのね! ……どう?大丈夫?」

「う……ん、大丈夫みたい。でも、まだ頭がぼーっとするけど」

「そっか。まだお姉ちゃんにつかまってていいからね」

菜には姉妹がいた。

もう會うことはできないのだが、今まで使っていた言葉がつい出てしまった。

”お姉ちゃん”という言葉を使うと、に痛みが生じる。

なるべく考えないようにしていたことの一つだった。

「うん、ありがとう。でも初めてのことで、アタシもちょっとびっくりしちゃった」

聞くところによると、菜が風を起こした時、菜と線が繋がり自分が使っていた力の數倍以上の力が菜に持っていかれたのだという。

その衝撃は、自分のが消えてしまいそうな勢いで力が消費されていたらしい。

そこで意識を失い、そこからの記憶がないとのこと。

「ごめんね、なんだか無理させちゃったみたいだね……」

「ううん。こんなことは初めてだし、今までに見たことなかったから面白かったよ!あと、夢の中に先生が出てきたのよ!」

「教えてもらった先生のこと?何か言ってた?」

「頑張りなさいだって! 何のことなのかわからないけど、先生は褒めてくれたみたいだったよ!!」

(あの暴を収めてくれたあの人が先生……なのかな?)

その辺の話は、また今度聞いてみようと思う。

とにかく、まず解決しなければならないことがある。

「ねぇ。そういえば、あなたの名前は?」

「名前??それってなに??」

「うーん、なんて言えばいいのかなぁ。あなたがあなただってことがわかるものかな。私は菜っていう名前なの。だからみんな、私のことをハルナって呼ぶのよ」

「そうなんだ……先生のところにいたときは、みんなのこと何となくわかってたから、そういう呼び方しなかったな……でもさっきお姉ちゃんって言ってたけど、それは何??」

(う、そうきたか……)

「お姉ちゃんっていうのは、家族に子供が二人いるときはどちらが先に生まれたほうを別によってお姉ちゃんやお兄ちゃんっていうのよ」

「うーん、よくわからないけど”ハルナ”であり”お姉ちゃん”なんだね……だから”ハル姉ちゃん”だね!」

――!!

妹にはそう呼ばれていた。

再びその名で呼ばれて菜は涙が溢れそうになったが、一杯我慢して見せた。

悲しくもあるが再びそう呼ばれることに対して喜びをじ、心のが大きくれていた。

いつも慕ってくれていた妹、風香。

お風呂も一緒にることが好きで、大きくなってからはの相談や、いかに親に怒られないで門限を破るかなどの相談をしていた。

私が突然いなくなって、どうなってしまっただろうか。悲しんでいるだろうか。

なぜ、このような事になってしまったのだろうか。

「ハル姉ちゃん……どうしたの?どこか痛いの?」

小さなが、心配そうにのぞき込んでうつむいたまま顔を伏せた菜に聲をかけてくれる。

「ううん……何でもないの。ちょっと目に砂がったみたい」

心配かけないように、気丈にふるまってみせる。

「じゃあ、あなたのことは風香……”フウカ”ってどう?。呼ぶときは”フーちゃん”って呼んでいいかな?風を起こすのが得意なんでしょ?」

妹の名前は風香、いつも呼ぶときはフーちゃん。

菜はし戸ったが、小さな生きの反応を待った。

「……ふーちゃん? ……フーちゃん! あたし、フーちゃん!!」

名前で呼ぶと、小さな生はすごく喜んでくれたようだ。

「フーちゃん、よろしくね!」

菜は噛締める様に、その名を呼んだ。

          

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