1-2:エンカウンター

エレーナは町の関所を出たところの森のり口にある半人工的な池の前での朝の祈りを終え、森の中を散策していた。いつもの日課だ。

草花の長や変化を見守り、森の恵みを分けてもらう。

時には森に害を為すものを、排除する。

森と共に生きる民の、ごく普通の日常で今日も何事も変わりがなく同じように過ごすはずであった。

――つい先程の、出來事が起こるまでは。

【始まりの場所】の方から、音を轟かせ竜巻が起こっているのが見えた。

周囲の木々を揺らし、折れそうなくらいの風の力がそこに集まっている。

生まれてこの方、そういった現象を見たことがない。

王國の管轄下で自衛や生きるために集団で生活しているが、表立って他の町や他國との大規模の爭い事も起きてはいなかった。

（――何事！？）

エレーナは、始まりの場所に向かって走り出した。

ローブ姿で片手には杖を持ち、緑の長い髪をたなびかせ疾走する。

その竜巻の力は王宮霊師並みの威力であるが、その力がコントロールされておらず暴走しているようにも見えた。

（一何が起きているというの！）

現在の場所から走り、三十分程の場所。

「取り返しがつかないことになる前に止めないと……」

エレーナの走る速度が、一段と早くなった。

―――――――――

「ハル姉ちゃんはどうして、ここにいるの？」

菜は薄々じていた。

この世界は元居た世界ではなく、全く別の世界であることを。

しかしながら、服裝や格、裝飾品までそのままだった。

祖母からの指も嵌めたままになっている。

常識や文化が違う世界で、今までの話しで通じるかわからなかったが、菜はここに來るまでの経緯を説明した。

「……というわけなの。わかった？」

「う……ん、たぶん！」

（あ、うん。　わかってないな、これは……）

しかし、菜にとっては今までの話しはどうでもよかった。

もう二度と向こうの世界には戻れないのだろう。あの発の中で生きていられるはずがない。

それに、今は一人ぼっちで生きて行かなくてもよくなりそうな予がしている。

小さな生だった、フウカが傍にいてくれるから。

「さて、これからどうしようかなー。フーちゃんは帰るところあるの？」

「もう戻れないよ。姿が変わっちゃったから、先生やみんなのところには戻れなくなったみたい」

「えー！　どうするの？　これから……」

「ずーっと、ハル姉ちゃんと一緒にいるよ！」

その言葉が、し嬉しい菜であったが、今の質問はそういう意味ではなかった。

（また、あの助けてくれたの先生が來てくれないかなぁ……）

しだけ淡い期待を持って待ってみたが、狀況が改善することはなさそうだった。

「ちょっと、危いかもしれないけど。この辺をし歩いてみようか。最悪、ここに戻ってきて泊まるようにしよう」

水も食べもなく、今はまだ日中のため暖かいが、夜になるとどのくらい寒くなるのかはわからない。

うかつに歩きすぎるのも危険だが、じっとしていてはもっと危険になるだろうと判斷した。

（――ゲームだと普通、この近くに町がありそうなんだけどね）

と、思いつつため息をついてから行を起こすべく立ち上がろうとしたその時。

背後から、弾丸のようなものが耳元をかすめた。

「かないで！」

背後から、の聲がした。

菜は抵抗の意思がないことを表すため、その場で両手を挙げた。

その前にフウカを元に隠して。

さらに、弾丸を放ったと思われる主の聲が響く。

「そのまま、ゆっくりとこちらを向いて。抵抗すると命の保証は……ない」

実際、何が起きているのか判斷ができなかったが、ここは本能的に相手の要求に従ったほうが良いと判斷した。

両手を挙げたまま、菜はそのをひねり反対の方向を向いた。

そこにはローブをまとい、先に石のついた杖を持っているがいた。

杖の先はこちらを向いている。

「！？……ウ……ウェンディア様？？」

そのは驚きの表で、こちらを見ている。

（ウェンディア？？　……って誰？）

菜はさっと後ろを振り向く。

この人の知り合いの間に挾まれているのではないかと思って。

過去に見知らぬ人から挨拶をされ、うかつに返事をしてしまい恥ずかしい経験を何度もしてしまったことがある。

しかし、今まで正面を向いていた方向には誰もいない。

菜は、再度杖を持つの方へ向く。

「あのー……　ちょっとお尋ねしたいんですが……」

その言葉にエレーナは、正気を取り戻し落ちかけた杖の先をこちらに向け直した。

「ここは、どこなのでしょうか？」

エレーナは、すぐには質問の容の意味が理解できなかった。

よく見ると知っている者と類似しているが、何か様子が違うことはわかる。

しかし、ほとんどそっくりなのだった。

「あの……」

菜は再度、問いかけた。

相手は何か戸っている様子にもみえた。

「まず、こちらの問いに答えて貰おうかしら。貴方は今、なぜこの場所に？」

菜は、その質問に答えようとした。しかし――

「わかりました。その前に、この手を下ろしてもいいですか？手の先が痺れてきて……」

菜の爪のが真っ白になっている。

郭出口癥候群と言われたことがある。

よく電車の中では苦労したものだった。

エレーナは、し考えて危険はないか、他に仲間がいないか見回してみた。

差し迫って、エレーナのに危険を及ぼすものが目の前の以外は見當たらないと判斷した。

「……ええ、手を下ろしてもいいわ。ただ、軽率な行はとらないで。何かあればすぐ攻撃する」

菜はゆっくりと手を下ろし、白く痺れた指先をんで、流の促進を促した。

手先がジンジンとの流れる覚が戻り始めたとき、エレーナは再度問いかけた。

「では、話して頂くわ。なぜここにいて、何をしていたのかを」

（また全部話すのも面倒だし、信じてもらえないかもしれないしなぁ……）

菜はそう考え、転生前のことは隠し以前のことは思い出せない設定にして、”白いとの出會い”、”竜巻の発生”、“大きな”と今の狀況に至るまでの出來事を説明した。

説明を終えると、フウカは恐る恐る菜の元から顔を出した。

「霊？……え、人型！？」

エレーナが驚いていることに菜は戸っていた。

（霊……？　ってあの霊だよね？　フーちゃんが？）

「あのー……すみません。どういことでしょうか……？」

「……え、いや。人型の霊は聞いたことはあるけど、実際にお目にかかったのは初めてだったから」

エレーナはし警戒を解き、威圧的な態度から普通の狀態に変わっていった。

そして菜はまず聞きたかった、この場所のことを聞いてみた。

「【ここは始まりの場所】といって、霊と契約するための神聖な場所なの」

エレーナは驚きのあまり、口調も素に戻っていた。

どうやら敵に威圧を與えるために、無理やり口調を変えていたようだ。

「試験などで選ばれた人はある時期になると、霊との契約の儀式に參加する資格が得られるの。この場所は霊が集う場所で、年にこの時期しか集まってこなくて、ここで霊に認められると初めて霊と契約することができるの」

「認められる？　契約？　どういうこと？」

「霊と契約を結ぶ際には、こちらから霊を選ぶことはできないの。霊が認めてくれた者のみ契約を結ぶことができるのよ」

「認められないと……　どういうことになるの？」

「霊がその人を認めなった場合は契約が立しなかったことになり、その存在が消えてしまうの。実際には消滅というより、元の世界に還っていると言われているわ」

（あー、あの消えていったのがそれだったんだ。ということは、最初のうちは拒否されてたんだね……）

「で、契約って簡単にできるものなんですか？」

「年に2-3人挑戦しているんだけど、契約できるのは、そのうちの一人くらいね。過去には契約できなかった年もあるみたいだし」

「それで、契約できるとどうなるんですか？」

一番気になることを聞いてみた。

もしかして、自分も霊の力が使えるようになったりするのでは？と淡い期待がかかる。

「契約すると、その霊がもつ力が使えるようになるのよ。使える力は霊の力に依存することがほとんどなんだけど」

（――Yes！　後でフーちゃんと契約できないか聞いてみよう！）

菜は、心の中でガッツポーズをとった。

「それじゃあ、さっきの飛んできたものっていうのは――」

「そう、私が契約している水の霊の力なの。　ごめんなさいね、當たらなかった？」

先程の攻撃は威嚇で、當てるつもりではなかったみたいだった。

エレーナは人差し指の先に、小さな球狀の水の塊が浮かび上がった。

その水の塊をいろいろな方向にかして見せて、自由にれること示してみせた。

「へー、すごーい！！」

菜は素で驚き、エレーナのことを稱賛した。

「あなたって不思議ね。大抵、各町には各屬の霊使いがいるはずだけど……。　一度も見たことなかったの？  あ、記憶がないんだっけ」

「え！？　あ、うん、初めて見たの。でも、なんていうか、その、ちょっとかっこいいわねー！」

エレーナは褒められ慣れてなかったせいか、頬が真っ赤になって照れた。

「こ……こんなの、初歩の初歩なんだからね！？　霊使いなら、みんなできて當然よ！」

褒められ慣れていないエレーナは、舞い上がって振り切れそうになった自分のメーターを下げつつ、平常心を取り戻そうと必死になった。

「各屬っていってたけど、それって一何のことなの？」

エレーナは、（信じられない＿本當に知らないの？）的な視線で菜を見つめた。

すぐに噓でないとじ、簡単に説明してくれた。

「まず、四つの力のことなんだけど……」

エレーナは、この國では期に教わる基本的な語のことを容を集約して話してくれた。

『――この世界に四つの法則あり。

一つは火、一つは地、一つは水、一つは風。

四つの法則がわりあって、世界は創られる。

――この世界に力を司るものもあり。

”大霊”と”大竜神（ドラゴン）”。

世界は二つの力の均衡によって保たれる。

――それらの均衡が崩れる時、四つの法則は驚異となり、二つの力は大地を引き裂く』

「……っていうお話しがあって、大昔には四つの力の勢力毎や、大霊側と大竜神側の爭いもあったみたいだけど、どうやらそれぞれが爭わないために作った伽噺みたいなお話しなのよ」

「へー……、ゲームのシナリオのようなお話ねぇ」

「ゲーム？　何それ？？」

「ん？　いや、こっちの話！　で、大霊とか大竜神って本當にいるの＿？」

「それが、いるらしいの。実際にはお會いしたことはないんだけど。この國では王様になるには、”二つの大きな力から祝福をけなければ認められない”とか言われているけど、本當かどうか知らないのよ。王都に行くことなんて滅多にないし、ほとんど関わらないし」

この近隣は東と西の二つの國があり、それぞれの國に四つの町がある。

町は形式上で火、地、水、風と分けられているが、ある屬の人だけがその場所に住んでいるというわけではないとのこと。

國には王様、町には四名の大臣がおり、大臣は各町の代表であり町長の役目も果たしているという。

なんとなく、菜はこの世界の狀況が見えた。

「あと、もう一つ伝えておくと、霊使いはしかなれないのよ」

「そうなんだ。何か理由があるの？」

「理由は……ごめんなさい。わからないわ。ただ、町のしきたりで、ずっとしか始まりの場所にはれないことになっているの」

「そうなんだ。じゃあ、あたしも契約してもらえるのかなぁ？」

エレーナは（何を言っているのあなたは！）的な顔で菜を見つめた。

「っていうか、さっきの竜巻。あなたじゃないの？？」

菜は、先程のトラブルを完全に忘れてしまっていたようだ。

――あ

「……そうだった。すっかり忘れてた」

「呆れた……あなたって、ほんと変な人」

エレーナは驚きの顔から、やれやれといった表に変化し腕を組んで菜を見つめる。

菜はといえば、耳まで真っ赤にして申し訳なさそうに俯いている。

「でも、あんなに大きな風をかせたっていうのも信じられないのよ」

「さっきまでの説明だと、その力は霊の力によるって言ってたよね？」

「そうね。霊の持っている力にもよるけど、それを実現できる力が契約者に備わっていないと発できないのよ」

（そりゃそうか。降臨した時からいきなりそんな力を持っているとしたら、かなりチートっぽいものね……）

エレーナは周囲を見回してみる。

「でも、実際に起きていることなのよね……」

周囲の木の枝が折れてぶら下がっているものもある。

吹き上げられた落ち葉がそこら中に散しているのもその証拠だった。

（先程からずっと元にいる人型の霊も気になる……この子、契約できたってこと？）

エレーナは々と信じがたい狀況を査し、今どう行するべきか思考する。

幸い、相手は自分の敵ではなくし信頼しているようにも見けられる。

実際にものにしているか分からないが、この力が他に回ってしまうことや敵になることを考えると、恐ろしいことにもなりかねない。

（ここは、一旦町に帰って相談した方が良さそうね）

エレーナは、そう決斷した。

「ねぇ、もしよかったら一度あたしの町に來ない？？　……あなた行くところないんでしょ？　霊の契約とか、力の使い方とかしは教えてあげることができるかもしれないし」

エレーナは、ハルナを町に連れていきたかった。

それはまた別な理由があったからだ。

「え、いいの？　これからどうしようか困ってたんだ！」

「よし、決まりね。それじゃついてきて。ちょっと歩くけど、いい？」

「じゃあ、よろしくお願いします！　えーっと……」

――？

「あ、自己紹介してなかったわね。私の名前はエレーナ」

「エレーナさん、ね。　私の名前は菜（ハルナ）。改めてよろしくお願いします！」

「……ハルナさん。では行きましょうか」

（やっぱり、ウェンディア様でないのね……）

ハルナとフウカは、エレーナの住む近くの町へ移していった。

ひと騒あった【始まりの場所】は徐々に遠くなっていく。

風のなかった森の中に風がひとつ駆け抜け、木々を揺らしていった。