《問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『霊使いで再起しました。』》

黒いローブの二人は、町を出て森の中を走る。

何が怖いというわけでもないが、そのように"命令"されていた。

その命令とは、以下の通り。

・捕らえられた人質を壊すこと

作戦としてスプレイズの家を襲撃すること

・決して追跡されないこと

・姿を見られた場合は始末すること

一番最後だけは、マイヤ達の力によって阻まれたが洩の阻止としては達した。

大きな出來事を起こしても、足跡さえ殘さなければ何とかなる。そう思い、ひたすら走って町に管理されていない森の中を疾走した。

道なき道を進み、なるべくその形跡を殘さぬよう極力、枝や草木などは折らないように。

人ではなかなか追いつけないスピードで走り続け、約三十分も走ったところで速度を落とした。

「……ふぅ。もう、この辺まで來たら大丈夫だろ」

疲れた様子はないが、逃げるという行為は男にとっては面白くなかった。

それに対して、片袖のとれたローブのが応える。

「もう追いかけてくる気配は……なしっと。今回はちょっと遊び過ぎて油斷しすぎたわ」

「ったく、ずるいぜ。俺にばっかり厄介なこと押し付けてさ!」

「警備隊のヤツらをやらせてあげたでしょ!? アレで我慢しなさい! それに、始末した報(記憶)はあなたじゃ回収できないでしょ?グダグダ言ってると消すわよ」

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核心を突かれ、引き下がるディゼール。

今回の二人の目的は、マイヤとソフィーネによって拘束された二人の”口止め”とその報を収集することが目的だった。

途中見知らぬたちに抵抗されたが、最終的には痕跡を消すために拘束された二人を処理できたので問題ないと考えた。

奪った二人の記憶から、こちらのは洩らされていないことがわかったし拘束された時の二人いたの一人が、襲撃場所でし骨のあるであったことが分かった。

「……ちぇっ。まぁいいか、し骨のある人さんとお知り合いになれたしな」

「あのね……しはやれるみたいだったわね。それ以外は全く……いや、とってもいい音の楽だったわ。特に最後の霊使いの聲は……なかなかのものだったわよ♪」

その笑顔はこの世で一番楽しいといったものだったと、言わんばかりに嬉しそうに話す。

(何が良いかのか俺には理解出來ないね……まったくよぉ)

そういうため息をこぼし、額の汗を拭おうとしたその時。

『――その品のない笑みは、見ていて気分が悪くなるのでやめて頂きたいわね』

どこからともなく、聲が聞こえるが、全くその気配をじさせていない。

「なに!?」

二人は見えない敵に警戒する。

つい先ほどまで、追跡されている気配はじなかった。

男は袖の中に仕込んであるショートソードを握りこんだ。

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「――誰だ!?」

『別にあなた達に姿を見せる義理もないけど、不意打ちなんて言われるのも嫌だから……ね』

二人の前につむじ風が起き、の粒が集まる。

の粒はやがて人型になり、眩しく輝くの中にその容姿を現す。

「――お、お前は!」

ヴィスティーユは小さな目を見開いて驚く、本來ならこんなところにはいるはずのない存在。

そこから発せられるオーラは、このを吹き飛ばしてしまうほどの相の悪いオーラが出ている。

「ラファエル!!」

『あら。私のことご存知なのね、嬉しいわ』

(ラファエルだって!?伝説上の大霊のひとりじゃねーか!)

ディゼールは、驚愕する。

目の前の霊は、存在しているだけで吹き飛ばされそうなオーラをじる。

ヴェスティーユに目をやると、から黒い霧狀のものがそのオーラによって蒸発させられているのがわかる。

には影響がないが、一挙一がこの空間の中では監視されているようなじが鎧の隙間からジリジリとじている。

『隨分と好き勝手にやってくれていたようだけど、もちろん自分たちもやられる覚悟があってのことよね?』

ヴェスティーユはラファエルが何を言っているのかわからなかった。

今まで自分より優れた者など、【あのお方】以外見たことがない。マイヤのような強者は數えるくらいはいたが、魔屬の力の前では脅威とはならなかった。

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霊とは屬の相は悪いが、相手も同様の條件。

伝説上の人とはいえ、誰も見た事がないのだ。

「伝説は語の中だけなんだろ?ホントは大したことないないんじゃないの?」

『……言いたいことはそれだけ?それじゃあ、覚悟はよろしいかしら?』

ラファエルは背中から杖を取り出し橫に一振りする。

その軌道上には無數のを帯びた風の円盤が高速で回転をしており、攻撃対象へ突撃する命令を待つ。

杖で地面にコツンと鳴らすと同時に、無數の円盤は目の前の標的に向かい攻撃する。

「うぉ!……なんだコレ!……ちょっ……タンマ!!」

ディゼールは目の前で腕を差させ、無數の攻撃に抗う。

この攻撃は大きなパワーで砕するのではなく、細かな攻撃で徐々に裝備を無効化にしている。

(おいおい、俺のデモンズメイルが切り刻まれてるじゃねーか!?……なんだこれ!)

魔屬は絶対的な自信を持てる裝備だが、反対屬には弱い。

の攻撃など滅多に使えるものなどいないため、ディゼールは油斷していた。

數分間の攻撃をかろうじて耐えてみせたが著ていたローブは端切れのようになり、その下の自慢の防も哀れな姿になっていた。

橫に目を向けると、ヴェスティーユの姿もあり得ない姿になっていた。

首は皮一枚でぶら下がり、下は切り落とされ、腕の関節も本來曲がらない方向に曲がっている。

「――ヴェスティーユ!!」

思わず聲を上げるディゼール。

しかし、すぐに落ち著きを取り戻す。

「……長い間馴染ませて……ようやく手にれたを……よくも……よくもやってくれたなぁ、ラファエルゥゥ!!!!」

ヴェスティーユは、苦労して手にれたを壊されたことに対する怒りが込み上げる。

『ふんっ……忌々しいだこと。そんな不自然でしくないものがこの世にあること自、許せませんわ』

「な!?……このォ、霊の分際でぇぇ!!!」

ヴェスティーユは(いれもの)を捨て、黒い霧となって襲い掛かる。

「愚かね。周りも見えなくなるくらいに逆上してしまうなんて……ね」

ラファエルは真上に殘していた風の円盤を、向かってくる黒い霧に放つ。

――ギィヤァアアァアアァアァァ!!!

霧は真っ二つに切りはなされた切り口から、で浄化されていく。

ディゼールは、慌てて懐から小さなガラス瓶を出す。

蓋を開けると、黒い霧の一部が吸い込まれる。

これは、急時にヴェスティーユに渡されていたものだった。

(悪いけど、これ以上は危険だ。撤退させてもらう……)

ディゼールは無抵抗の意味も込めて、全ての裝備をぎ捨て逃走を図ろうとする。

「た……助けてくれー!オレは騙されてただけなんだ!本當なんだ!お……脅されてやっただけなんだ!」

みっともないくらいに泣きながら、土下座をして詫びる。

いかにも正気を取り戻した、といった雰囲気を出しながら。

ラファエルは哀れみの瞳を、ディゼールに向ける。

そして近づいて、その優しく頭の上に手を置いた。

(オイオイ、騙されやすいなコイツ。これで助かっ……パっ!?)

ラファエルのその手の中には、青いガラス玉がある。

それを無表で、握り潰す。

「うへぃ……うへへへへぇ!キャパパパパパ!」

ラファエルは、ディゼールの記憶の全てをだけ殘し破壊する。

これでディゼールの人格が崩壊した。

このまま生きることには問題はないが、まともな生活は送ることはできないだろう。

『この期に及んで、愚策で私を騙そうとするなんて……なんて愚かな行為なのかしら』

ぎ捨ててあった、ボロボロのデモンズメイルも杖の先から発したで蒸発させた。

満足したラファエルはまたの粒となり、どこかへと転移していく。

使いにならなくなった人間と黒い霧のったガラスの小瓶を殘して。

マイヤ達は、スプレイズ家で休養していた。

キャスメルとハルナはダメージが大きく、エレーナもなかなか目が覚めなかった。

しかし、今ではすっかり元に戻っていた。

何事もなかったかのように。

ハルナについては、目が覚めた橫にフウカが隣で寢ていたときは

(……あぁ、私また死んでしまったのね。フウカちゃんと一緒にいるなんて)

と、勝手に違う世界にいこうとしていた。

だがこの世界に引き戻されるまで、そんなに時間はかからなかった。

何故なら、空腹がハルナに襲い掛かる。

ベット橫に置いてある、テーブルの上の冷水のったピッチャーからコップに注いで口にする。

ほんのし柑橘系の香りがする。誰かが気を効かせてくれていたのだろう。

水が・食道・胃と順に通過していくのが、よくわかる。

本來ならば、腸を通過する際に水分は吸収されるが、胃にった時點で全が潤っていく覚が広がる。

するとフウカも目が覚めた様で、ハルナの目覚めを喜んだ。

ハルナもフウカの無事を確認し、その喜びを二人は分かち合った。

その中で、気付いた事があった。

フウカとの會話が、長して大人っぽくなっていた。

何があったのかを聞いてみると、あの”先生”が夢の中に出てきたらしい。

そこは、始まりの場所で降りてくる前の世界に似ていたとのこと。

フウカは、ハルナを助けたあと、真っ暗な闇の中で、も実もなく意識だけの狀態だった。

その後、ハルナ達が助かったのかどうなのか。

もうハルナ達に會うことはできないのか……

悲しくなってきたときに、部屋の明かりがついたように明るくなった。

落ち著いて慣れてくると、その場所は懐かしい場所だとわかった。

一緒にいた友達は、眠っていた。

意識だけのフウカに聲をかけたり、起こしたりすることはできなかった。

それでも、暗闇の中で一人きりでいるよりはマシだった。

フウカはみんなのいる安心から、みんなと一緒に眠りにつこうとした時、”先生”に呼ばれたのだ。

『――フウカ、あなたはよく頑張りましたね』

そう聲を掛けられ、フウカは今まで我慢していたものが込み上げてきて我慢ができなくなった。

大聲で泣いた。友達が近くで寢ていても。

周りも気にせず泣いた。

霊も悲しいときには泣くのだった。

フウカは不安な思いを口にしながら泣いた。

暗闇の中で心細かった。

ハルナ達はどうなったのか、無事なのかどうなのか。

自分の力が足りなかった。

一緒にいて楽しかった人にもう會えなくなった。

もうハルナ達に會えなくなった。

もっと一緒に居たかった……

それをめる”先生”。

フウカはよく働いていた。

フウカは長していた。

送り出したものとして、その果はとても喜ばしい。

「……みんなのところに帰りたい」

フウカは、今一番かなえたい願いを口にした。

『あなたの気持ち、よくわかりました。その前にし私が様子を見てきます。ここで待っていられる?』

”先生”にそう告げられると、フウカは力強く頷いた。

フウカににっこりと微笑み、”先生”はの粒となって消えていった。

そこで、フウカの意識は一度途切れる。

眼が覚めると、ハルナの隣で寢ていたらしい。

ハルナは眠っていたが、顔をるとれるが伝わり、安心して隣で眠っていた。

ハルナの方は、フウカが消されたショックで気を失いっていた。

それ以降の記憶は今、目覚めるまでない。

二人して意識のない時間帯があるが、一通りの確認が終わった。

と同時に、部屋のドアを叩く音がして、ソフィーネがってきた。

「ハルナ様、お目覚めになられたのですね。よかった……」

続けてマイヤも室してきた。

「ご無事な様子で何よりです、ハルナ様。合はいかがですか?」

問題ないことを告げると、エレーナがどうなったのかを質問する。

エレーナは、つい先ほど目が覚めたようだった。

キャスメルも無事だった様だ。

これであの場にいた全員が、無事であることが確認できた。

マイヤはラファエルとの約束を思い出すが、今はゆっくりと疲れたを休ませることを優先させた。

それから數日が過ぎ、かしても問題がないくらいに回復した。

逆に、誰もあの時のことを何も話さないので、それが気になって悶々としてしまうほどだ。

ようやくみんなが回復し、マイヤはあの時に何が起こったのかを説明することにした。

この場にいるのは、ソフィーネ、マイヤ、キャスメル、エレーナ、ハルナ、それに家の主のティアドの六名。

――ラファエルがきてハルナに乗り移っていたこと。

――エレーナがガブリエルに助けられたこと。

――キャスメルのあの時のだけが消されたこと。

「うそ……信じられない」

そう告げたのは、エレーナ。しかし、自分がいまこうして無事でいることがその証明であると気付いた。

ハルナはその時の記憶がなく、この數日でフウカと確認したことを伝えた。

「そこから考えると、フウカ様が消滅してしまった時からハルナに乗り移るまでの記憶がその話しになりますかね?」

フウカ自は意識だけの狀態で、數日は経過しているような覚だったとのこと。

現実では、ラファエルがハルナのを借りて姿を見せるまでは十分以に起きた出來事だった。

そのため、時間によるエレーナののダメージがなく、治療が出來たのだろう。そう判斷したのは、ソフィーネだった。

最後に、キャスメルについて。

あの時の記憶自はあり、何が起こったのかは理解している。が、それに関わるが何一つ殘っていなかった。

恐怖、悔しさ、怒り、悲しみ……、あの時に生じたが何も殘っていなかった。

「ラファエル様がおっしゃるには、不要なは排除し、記憶は経験となるため今後に生かせるとのことでこのような処置をされたと」

どういう意図があるのかわからなかったが、キャスメルの人格も保たれており當時の狀況も気絶する直前まで記憶されているため特に問題としないこととした。

「……そして、最後に”お返しをしに行く”といって消えてしまわれました」

一通り説明が終わり、大霊の能力に一同は唖然とする。

「な……なんて能力(ちから)なの……?」

「さすがは、大霊様!」

「その場面、見てみたかった……」

それぞれが、別々の想を口にした。

「でも、どうしてハルナなのかしら?」

エレーナが疑問を口にした。

その疑問に反応したのは、意外にもティアドだった。

「それは、風の霊と契約したことと、その指……大霊(ラファエル)様に認められたからではないかと」

エレーナも薄々はじていたが、誰かに同意してもらうまでは自信が持てなかった。

しずるいが、この場所で意図的に問いかける形にしたのだった。

「ラファエル様は我が姉が契約していた霊の最上位におられる方で、風の霊使いの方々に、お優しかったと聞きました。ハルナさんは指を持っておられるため、その力がなじみやすいハルナさんにを通じて顕現されたのだと推測します」

「おおよそ、その考え方で合ってるみたい。先生のエネルギーは大きすぎるから、エレーナさんにはれなかったし他の屬だから整えるのが難しかったみたい。だから先生はエレーナさんには、同じ屬の先生を呼んで治療してもらったみたい。特に水屬は生にとって治癒の方法があるみたい。生は水でできてるようなものだからだって。ハル姉ちゃんはあの時、記憶との混ざり合って暴走していたから、それを解いて落ち著かせたんだって。だけど外からだと面倒だから、の中にって整えたんだって!」

「え?……フーちゃん。それ、誰かに教わったの?」

「うん!先生が教えてくれてたみたい!」

「ラファエル様は……どうやら、人間だけでなく霊の記憶も作できるみたいね……」

全員、フウカのいう先生がラファエルであることに気付いた。

し、霊との繋がりのり口が見えた気がした。

――コン、コン

ソフィーネがドアに向かって歩く。

ドアを開けると、他のメイドが立っていた。

ソフィーネに耳打ちし、何かを告げている。

の他のメンバーはただただ、靜かにその様子を見守る。

伝え終えたメイドは一つ禮をし、靜かにドアを閉めて退室した。

ソフィーネは室全員に聞こえるように、ティアドに報告する。

「周辺地域を警備していたものからの報告です。怪しい人をそれぞれ二名発見したとの報告がっています」

「それで、その方の元は?」

「はい。一人は不明ですが、男で錯した狀態で発見され、近くには黒いローブが落ちていました。多分詰め所を襲撃した人ではないかと思われます」

「もう一人は?」

「カルローナ様が発見されました」

          

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