エレーナは夢を見る。

場所は、保育所のような広い部屋の中。

知っている友達や知らない友達もいる。

エレーナは、友達から注目されたかった。

他の子達よりも、知らないことを知っている。

他の子達が、できないことができる。

でも、友達はみんな集まってくれない。

それよりも、みんなの意識はある子に集まっている。

そんなエレーナの視線に気付いた子が近づいてきてくれる。

そして、そっと手を差し出してくれて、一緒に遊ぼうと言った。

エレーナはその手を取ろうとする……

パシっ

しかし、エレーナのはその手を弾いしまった。

相手の顔も、し寂しげだ。

その子は、他の子供たち呼ばれていってしまった。

エレーナの手には、相手の手を弾いた嫌な覚が殘る。

……ガタゴト、ガタゴト

目が覚めた時は、馬車の座席の上だった。

目の前には、進行方向に背を向けるように座る席にオリーブがいた。

――アルは？

前の窓から見えるのは、馬をるアルベルトの姿が見えた。

者は、アルベルトの隣で仮眠をとっている。

頭の中の眠りの霧が晴れ、徐々に狀況が見えてきた。

エレーナはを起こし、橫になっていた椅子に腰掛ける。

その様子に気づいたのか、オリーブが目を覚ました。

「あ、エレーナ様。お加減はいかがですか？」

「オリーブ、私どうしたの？」

「エレーナ様は戦闘中に突然蹲り、その後気を失われてしまったのです。……どこまで、覚えておいでですか？」

盜賊に立ち向かっていき、霊の力を使った。そこまでは明確に覚えている。

なぜか、あの時指が痛くなった。

意識が朦朧としてしまうほどの痛みだった。

アルベルトが駆け寄って助けてくれた。

アルベルトになんとかしてしかったが、指を外そうとした時に全に痛みが走り気を失ってしまった。

「あ……指」

エレーナは自分の右手の指にてをかける。

――！

（は、外れない！？）

しかも、指がズキズキと痛む。

（私も……認められた……の？）

しかし、前に見た狀況とはし違う気がする。

指は、指の皮に喰らいついた様な覚であった。

「……エレーナ……様？」

黙ったままのエレーナにオリーブは聲をかける。

「ごめんなさい……アルベルトが助けに來てくれたところまでは覚えているわ。ただ、それまでに何が起きていたかの詳細については、痛みで意識が朦朧としてて、はっきりと覚えていないのよ」

「そうでしたか……」

「ところで、今どの辺りなの？」

オリーブは、説明しようとしたが自分も同じく眠ってしまっていたため、はっきりとした場所は認識していなかった。

そのため一度馬車を止めて、エレーナの目が覚めたことと場所の確認を行うことを提案した。

小降りの雨はミスト狀のまま、まだ止んではいなかった。

仮眠をとっていた者に手綱を渡して、中の方へ移してくる。

アルベルトのローブは小さな雨粒が多數付いていて、アルベルトがくたびに粒が塊になって流れ落ちていった。

そして、椅子が濡れないようにローブをいだ。

「大丈夫か、エレン」

馬車がまた、ゆっくりとき出す。

「ねぇ、アル。ここはどのあたりなの？」

「ここは……」

アルベルトの話しでは、今は盜賊と遭遇した地點から三時間ほど走った場所にいる。

王都まではあと、二時間ほど走らせれば著くことになる。

本來は馬も休ませながら、二時間ごとに休憩をれながら進む予定だったが、危険であることとエレーナの様子が心配である點からなるべく早く到著することを目指していた。

「それで、合はどうなんだ？」

「指をはめた手が痛いのよ。それに外れなくなってるし……」

「あの時何があったんだ？最初の二人を吹き飛ばした後、きできなくなっていたようにも見えたが……」

「そうなの、霊の力を使った途端にに激痛が走ったのよ……あれは一何だったのかしら」

かといって、今は試すことはできない。

もし、また激痛が発生したら命に関わる危険も考慮すると迂闊に試すことはできない。

差し迫った危険は回避しているため、エレーナは溫存しておかなければならない。

それが、今回の旅の重要な目的でもある。

「とにかく、痛みが落ち著いているならよかった。このまま休んだ方がいい」

そういって、アルベルトが立ち上がろうとしたその時、服を引っ張られて座らされた。

摑んだ手の持ち主は、オリーブだった。

「アルベルト様は、先ほど馬をっていましたしお疲れでしょう。私が前にいます」

「しかし……」

「何かあったら、あの窓から合図しますのでその時はよろしくお願いします」

そういうと、アルベルトが來ていたローブに袖を通し者に一度止まってもらうように合図する。

馬車が止まると、オリーブは馬車から前の席に移した。

再び、馬車はゆっくりとき出す。

（オリーブったら、気を利かせたのかしら……でも、今は助かるわ）

エレーナはそのオリーブの心遣いに謝した。

アルベルトが橫に座り、エレーナの顔を見る。

「アル……私、どうなるの？」

「大丈夫だ、王都に著いたらさっそく様子を見てもらおう」

エレーナはその言葉にうなずき、アルベルトの肩に頭を預けた。

アルベルトはエレーナの痛む手を持ち、その痛みを和らげようとした。

アルベルトの優しさに落ち著いたエレーナは、再び眠りの中で夢を見る。

またしても、どこかの場所にいる。

見覚えはないが、懐かしい。

幾人の友達と一緒に、一番大好きな人型の像を水の力で造る。

完したその像を、一番大好きな人に見せようと呼びに行こうとした。

別なグループで遊んでいた子供たちが走り回っていた。

ある子が後ろから背中を押され、一生懸命作った像の中に突っ込みその形は崩れ落ちた。

崩した子供は、エレーナに向かって謝る。

エレーナ自もあれは仕方がないとわかっていた。

しかし、が高まりその子にとびかかってしまった。

必死に作った一番大好きな人の像、きっと見せたら喜んでほめてくれたであろう出來栄えだった。

それが崩されてしまった、しかもあの差しべてくれた手を払った子が崩してしまったのだった。

エレーナはハッと目が覚める。

気が付くと、いつの間にかアルベルトの太ももの上で橫になっていた。

アルベルトも目をつむって眠っていた。

あれから何事もなく馬車は順調に進んでいき、日が完全に落ちる前に馬車は王都の門の前に到著することができた。

関所に著くと、王選のために訪れたこととエレーナの狀況を説明し治療の手配をお願いした。

すると門番は、エレーナが泊まる施設の道順の地図をくれた。

その施設の中に、の様子を見てくれるものもいるとのことだった。

馬車はその地図を元に、施設へと向かって走り出した。