冒険者ギルドの修練場で、三馬鹿と戦っているところだ。

彼らの戦いはジックリと見させてもらった。

のこなしは期待外れだった。

しかし、何やら木剣に気を込めるという技を持っているようだ。

気とやらは、盜賊団の頭領も使っていたな。

俺はその技を見極めるため、彼らのきを観察する。

「気も知らねえ素人かよ！」

「けっ！　Ｃランクである俺たちに勝てると思うな！」

「くたばれやあああぁ！」

三馬鹿が最後の一撃とばかりに、多めの気を木剣に込めて攻撃してくる。

そのままけてもいいし、回避してもいい。

だが、ここはーー。

「よっと」

俺は１人の木剣をうまくけ止め、そのまま奪う。

力任せに奪ったのではない。

勢いを完全に殺し、相手に気取られないように奪った。

の技だ。

「えっ？　あれ？」

木剣を奪われた三馬鹿の１人は、不思議そうな顔をしている。

いつ木剣を奪われたのかわからなかったのだろう。

「この盜人があああぁっ！」

「恥を知れやボケエエェッ！」

殘りの２人が、再び俺に斬りかかってくる。

第三者である彼らは、俺が木剣を奪う様子をちゃんと見ていたのだろう。

先ほどのは技巧寄りの技で、特に高速というわけでもなかったしな。

カンカンカン！

俺は奪った木剣で彼らの攻撃をいなしていく。

俺はあらゆる格闘技を極めているが、武の取り扱いにも一通り通しているのだ。

カンカン！

キンキンキン！

俺と男たちの剣戟が続く。

「へっ！　なかなかやるようだが、気を使えねえお前には限界があるぜ」

「ギャハハハハ！　そろそろ、その木剣は折れそうだなあ？」

２人がそう言う。

彼らの木剣は、気とやらで強化されている。

一方で、俺は気とやらを使えない。

先ほどまで使っていた男によって込められていた気の殘滓も、そろそろ盡きそうだ。

このままではしマズイ。

別に木剣がなくとも、で戦えばこんなやつら瞬殺ではある。

それなのにわざわざ木剣を奪ったのは、理由がある。

この実戦で、木剣に気を込める気とやらを習得してみようというわけだ。

先ほどから、みようみまねで試している。

そして、ついにーー。

「ふむ。こうか？」

バッ！

俺の持つ木剣から、大きなオーラが発せられたような気がした。

「なっ！？　バ、バカな……」

「なんだこの気の量は！？」

「てめえ、気を使えねえのは噓だったか！」

三馬鹿が何やら揺している。

先ほどまで使えなかったので、噓ではないのだが。

「だいたいコツは摑めた。お前たちは用済みだが……。気の見本を見せてもらった恩があるな。せっかくだ。しだけ全力を出してやろう。はああああぁ……！」

俺は力を開放する。

バッ！

ギュインギュイン！

木剣から立ち上る気がどんどん増していく。

「や、やめろ！」

「ただの木剣に、そこまでの気を込めるんじゃねえ！」

「や、やばいぞ！　逃げろ！」

三馬鹿が何やらうろたえ、俺に背を向ける。

何がどうしたというんだ？

俺は疑問に首をかしげる。

その答えは、すぐに現象となって現れた。

パーン！

ドドドドド！

木剣が突如弾け、修練場に衝撃波が響き渡る。

「うおっ！？」

「「「ぎゃあああぁっ！！！」」」

「きゃっ！？」

「わっ！？」

俺、三馬鹿、付嬢。

エミリーたち一家。

それぞれが衝撃波からダメージをける。

もっともダメージが大きかったのは三馬鹿か。

逃げるのが間に合わず、そこそこ近くから衝撃波をけ止めてしまったようだ。

三人とも、目を回してひっくり返っている。

付嬢はし離れたところに位置していたので、さほどのダメージはけていない。

しかし、衝撃にビビって餅をついている。

足をしＭ字に開いた狀態で、放心している。

……ん？

何か、のところがっているような……。

いや、彼の尊厳に関わることだし、追及はしないでおこう。

しかし、それほど先ほどの件が怖かったのか？

し悪いことをしたな。

エミリーたち一家は、付嬢よりもさらに遠くから観戦していたので、無事なようだ。

目を丸くして、驚いたような顔はしているが。

「やれやれ。まだまだ調整が必要だな……」

俺はそうつぶやく。

気とかいう新しい技を手にして、舞い上がってしまった。

修練用の木剣のような脆弱な武に気を込めすぎてしまうと、武側が耐えきれずに弾けてしまうわけか。

ちなみに、俺はもちろん弾けた木剣からの衝撃波を至近距離からけている。

しかし、ダメージは大してけていない。

俺の鍛え抜かれたは、あの程度の衝撃波でどうにかなるものでもない。

俺の気の練度はまだまだだろうしな。

もっと練度を上げてからであれば、自分の気によってもうしダメージをけることもあるかもしれない。

自分の気による攻撃力と、鍛え抜かれた防力の、どちらが高いかという程度の話だ。

さて。

思わぬ事故はあったが、三馬鹿との模擬試合は無事に勝てたといってもいいだろう。

この場を収めて、新人冒険者として活を再開しないとな。

まずは、呆然としている付嬢に聲を掛けることにしよう。