《幻影虛空の囚人》

剎那、天野の拳がその勢いを失ったのを見計らい、ツロフは転移し天野と距離を取った。

「はあ、はあ……かなりやられたな。一旦回復しなくては……」

そう呟いたツロフに応えるように、ゼロポイントが目の前に現れる。

り輝くエネルギーの凝。球狀の形をしたそれからは、抑えきれないエネルギーがれ出ている。

「萬能の力よ。無たり無限たる力よ……我に、力を」

ツロフがゼロポイントに左手をかざすと、そのエネルギーが損傷をけた箇所へと集まっていく。

すると、今までゼロの力で青白く輝いていたツロフの左腕は元通りに修復され、頬骨を砕かれ、口からを流していた顔も何事も無かったかのように治った。

「偉大なる力、その寛大なるご意志に謝申し上げる。」

ツロフが手を引き、天野がいた方向を見つめる。

はるか遠くに見えるのは、頭を吹き飛ばされ、力した狀態で宙に浮かぶ天野と……その傍らに立つ、"もう一人の天野"。

「な───ッ!?」

有り得ない。有り得ない有り得ない有り得ない!

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同じ世界線に同一の魂を有する者が二人以上存在することは不可能だ。そしてそれは、この狹間空間においても例外ではない。

「有り得ない……そう思っているな?」

突如現れたもう一人の天野───ゼロの鎧を纏っていない、白の姿であるため判別が容易い───が言う。

「──ああ、その通りだ。一どんな魔法を使った?」

図星をつかれ一瞬揺してしまったが、すぐに持ち直し聞き返す。

答えたのは……先程まで戦っていた一人目の天野。

「私と彼は"同一の人間では無い"からだ。」

「───何?」

ツロフは真意を伺うような目を天野に向けた。

「分からないか?その力で視てみればすぐに分かるはずだが……」

天野の手のひらで踴らされていることに舌打ちをしつつ、ツロフはゼロの力を用いて改めて二人の天野を見つめる。

あらゆる世界の集合點たるゼロポイントには、當然全てを見かす力が備わっている。その力を流用して相手を観察すれば、相手のあらゆる報が丸にできるという事である。

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かくして開示された報を見──ツロフは目を剝いた。

今まで対峙していた天野は、ゼロポイントエネルギーを纏っている影響で完全なデータは表示されない。だが、間違いなくそこに表示されているのは「天野瑞樹あまのみずき」の名前である。

問題は、もう一人の天野である。

見た目は間違いなく天野のそれであり、ゼロポイントが提示する過去のデータとも一致している。

だが、そこに表示された名前は───「吾蔵六腑ごぞうろっぷ」。

「莫迦な………そんなはずは無い……!」

「天壌無窮の旅人、吾蔵六腑ごぞうろっぷ……彼は既に亡きものとなり、私とひとつになった。」

天野の姿をした白の男が、そう告げる。

「で、あれば……この私、吾蔵六腑ごぞうろっぷと同一の魂を有する貴様の存在はおかしいな?適応の影響をけない上、そもそも守人と同一の魂を有する存在は別世界線に存在できないはずだ。……お前、本當は吾蔵六腑では無いな?何者だ。」

息が詰まるような間が流れる。

二人の天野の刺すような視線をけ、流れるはずの長い汗がツロフの背筋を伝った。

さあ、どう出る?

天野にとっては一瞬、だがツロフにとっては無限にもじられた逡巡の末、

「……その通り。オレは吾蔵六腑ではない。彼と同一の魂を有する存在ではない。

……よく見抜いたな。」

ツロフが俯き、そう呟く。

二人の天野が口の端を歪める。

───読み切った。

そんな思を表すような笑みを浮かべた天野だったが。

「だが、オレの正を探ろうとする者は……生かしておく事は出來ない、なっ!」

その笑みは、瞬時に拭いさられる事になった。

次に天野たちが目にしたのは、かつてないほどにり輝くゼロポイントと、そのを背にけ、力を増大させ続けるツロフの姿だった。

「ちっ、これはまずい事になったな……」

「おい、どうする?いくらなんでもこれは防ぎようがないだろう。」

二人の天野が思考を巡らせる。

そして辿り著いた結論は……

「「逃げるっ!」」

ゼロポイントの力を纏った天野がもう一人の天野の手を摑むと、背後へとポータルを出現させた。

「逃がさんっ!」

力を限界まで高めたツロフが、天野たちへ向けて巨大なエネルギー弾を放った。

エネルギー弾が通った空間は歪み、ひび割れ、悲鳴を上げていた。

天野の周囲にもその力の影響が現れ、天野が展開したポータルがその形狀を維持出來なくなりそうになっていた。

「ちっ、デタラメが……早くるぞ!」

「逃がさんと言っているだろうが。」

天野たちがポータルへ足を踏みれようとした、その直前。

ツロフが片手を捻ると、周囲の空間が揺らぎ、ポータルが霧散した。

「まずい……!」

このままでは助けに來たもう一人の天野もろとも塵すら殘らず死んでしまう。

かといって、この狀況を打開する方法も浮かばない。

的な狀況の中、時が止まったかのように加速する思考は様々な策を出しては切り捨てていった。

そんな時。

「これを使いたくは無かったが……おい、摑まれ!」

ゼロの力を纏っていない天野が突如手を取ってきた。

「何を……うわっ!?」

ツロフのエネルギー弾が直撃する寸前、もう一人の天野がその姿を歪めたと思うと、ポータルのような姿へと変化した。

ポータルに変化する直前に手を引かれていた天野は、倒れ込むようにポータルへと吸い込まれ……姿を消した。

「……ちっ、逃がしたか。」

ゼロの力を滾らせていたツロフは、顕現していたゼロポイントを納め、その場へ座り込んだ。

「まだ正が割れる訳にはいかないのでね……お前もそうだろう?吾蔵ごぞうの名を騙るものよ。」

ツロフはそう呟くと、ゼロポイントの後を追うようにその姿を消した。

「ヒヤヒヤしたぞ、全く……」

天野がポータルを出て辿り著いたのは、最初に転送されたのと同じ、暗闇に包まれた空間。

「おい、いるんだろう?あれは一なんだったんだ。」

虛空に向けてそう問いかける。するとそれに応えるように暗闇の中に映像が投影される。

投影された映像の中にいたのは、もちろん天野だ。

『無事に帰ってこれたか。』

「全く、焦らせやがって……傀儡を使ったのなら最初からそう言ってもらいたかった。」

『まあまあ、あれも含めてツロフを欺く罠だったのだから、いいだろう?吾蔵ごぞうの名前を出せるように仕向けたのも良かった。』

「我ながらえげつない計畫を思いつくものだ。正を突き止めつつ、危なくなったら逃げる手立てに流用するとは……仮にも自分と同じ姿をしているというのに、まるで躊躇が無かったな。」

『人生とは覚悟と決斷の連続だ。そして、一度決死の覚悟を決めてしまえば、後は無駄な迷いを捨てて行できるようになる。』

「ちっ、カッコつけやがって……私はそろそろ行くぞ。」

は大丈夫なのか?』

「ゼロの力が治癒してくれた。贋作とはいえど、これくらいのことは容易い。」

『……そうか。であれば、結末を見屆けてくるといい。またな。』

そう殘すと、投影されていた映像が消え、再び暗闇が室を満たした。

「ふう……では、行くとするか。」

目の前の空間に手をかざし、空間に亀裂をれる。

暗闇に満ちた空間にが溢れた。

拳にゼロの力を集中させ、構える。

「行くぞ───ロップ。」

大きく踏み込み、亀裂の中に飛び込んだ。景が一気に変わり、ロップの背中が視界に飛び込んできた。

全てを決める戦いは、まだ終わっていない。

あんな紛いにかまけている時間などなかったのだ。すべき好敵手の頭を捉え、んだ。

「どこを見ている?」

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