《幻影虛空の囚人》第四幕一話 「影あるところに」
「あなた達は……ボクと同じ"囚人"?」
謎のが、レイジたち一行の目の前に突如現れた、そのし前。
彼らとは別行を取っていた、彼たちは。
「なんだか大変なことになっちゃったけど、見方を変えれば新しい形のデートとも言えるんじゃない?」
「そんな事はないと思いますが…素敵な考え方だと思いますよ。」
「やんわり否定しないで!普通に否定されるより傷つく!」
『二人とも…仲がいいのは結構なことなんだけど、もうちょっと危機持てないかな…』
明見あすみ研究員の指示に従い、繁華街周辺の狀況を探っているところだった。
「そうは言っても、これだけ歩いて何も無いんだから警戒心も緩んじゃいますよ〜…」
がそうぼやく。
西川さいかわは微笑みながら、
「本棲もとすさんの気持ちも分かりますけど…明見さんの言うように、いつ敵が來てもいいように心構えだけはしておいた方がいいと思いますよ。」
と諭すように言うが、西川自も「お腹が空いてきましたね…」などと呟いていたことを知っていた明見は冷ややかな視線を投げかけた。
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もっとも、その視線は畫面越しに送られたものであり、本人に屆くことは無いのだが。
「本棲もとすそれにしてもさー、全然他の人と出會わないね。」
「もう避難されているとの事でしたし、出會わないのが普通なのではないでしょうか?」
唐突に投げかけられた疑問に、西川が首を傾げる。
「いや、それにしたって人が居なさすぎるなぁって思ったんだよ。だって、私たちがゲームの世界から現実に引き戻された時には既に世界の融合は始まってたんでしょ?特訓の時間があったとはいえ、こんなに素早く街から避難できるとは思えないんだよね。」
「……」
なんだろう、急に本棲がめちゃくちゃ賢くなったように見える。
偶然にも明見と西川の考えが一致した瞬間であった。
「た、確かにその通りですね。人の移というのは必ず混雑するものですし、命に関わるとなれば混も起こるはず。それがこんなにあっさりと終わっているのは違和をじますね……」
「明見さーん、そこのところどうなってるのー?」
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明見に向けて問いかけてみるが、返事はなく沈黙が答えるのみだった。
「さっきまで返事してくれてたのにな〜、どうしたんだろ?」
「さあ……なにか不都合でもあったんでしょうか?」
「え?それって、つまり……」
『蝗壻ココ縺ョ縺ソ繧薙↑縲∬◇縺薙∴縺ヲ繧シ』
「「!?」」
突如響いた聲に驚く二人。
緩んでいた空気が一変し、一気に迫した空気に変わる。
『……ニング………かなか…まくい……なぁ』
「何が起きてるの…?」
「分かりません…ですが、ただ一つ分かることは…」
『この辺かな…?よし、後は音をクリアにして…』
───何者かに、研究所との通信をハッキングされている。
『やあやあ、はじめまして!ボクの聲が聞こえる?』
二人は咄嗟に視線をわし、思考した。
問────答えるべきか?
答────相手の正が分からないうちは、答え『るのが禮儀だと、ボクは思うけどな?』
「「───!?」」
驚愕した。
その聲は、二人の思考に割り込んできたのである。
「すみません、突然の事で返答に困ってしまいまして…」
警戒心を強めつつ、西川が返事をする。
相手の素が知れないうちは、下手に刺激しないよう立ち回るのが最善手なのだ。
『確かに突然すぎたかもね〜、じゃあ、自己紹介からいこっか!』
そして、のような聲は語る。
『ボクは"影"。ボクにはが當たらない。だから、誰の目にも映らないの。そう、君たちの目にも、ね。』
「誰の目にも、映らない…?」
『そう!だって、現にさっきからボクは君たちの目の前で喋ってるのに、二人には見えてないでしょ?』
「目の前に!?」
本棲が驚愕した様子で目の前に向き直った。
だが、相変わらずそこには何も見當たらない。
『ん〜、やっぱり見えてないんだね。』
「いえ、私には見えてますよ。」
「えっ?」
西川の予想外の返答に思わず振り向いた本棲は、さらなる驚きをもってその景を目の當たりにすることとなる。
西川のの丈ほどもあろうかという大きさののが西川の目の前に出現していたのだ。
のを通して映し出される景は、が反転しており、まるでそこだけが異世界であるかのような異質な雰囲気を放っていた。そして、その中に佇む人影がひとつ。
『へえ……考えたね。』
そのは怪しげな笑みを浮かべ、西川の目の前に立つ……いや、浮かんでいた。
その異様な姿を見た本棲は思わず息を呑んでしまった。
フード付きのパーカーを著たそのの黒髪には赤いメッシュがっており、病弱さをじさせられるような白いに鮮を連想させるような紅い瞳、元に輝くペンダントはひび割れていた。
『なに、ボクに見惚れちゃった?』
「本棲さん、この子に惚れてしまったんですか?」
「いやいやいや、違うからね!?」
ジト目でこちらを見つめてくる西川に対し慌てて弁明を行う本棲。
その流れを見たはクスクスと可らしい笑いをしてみせた。
『面白い人たちだね〜、ボク気にっちゃったかも!』
顔いっぱいに笑顔を浮かべ、ふわふわと飛び回る。
その異様ながらも微笑ましい姿に、二人の張も次第に緩んでいった。
『ほんっと、面白い人たち……心が傷んじゃうな。』
「……え?」
『こんな事をするのは、ボクも本意じゃないよ……それだけは、覚えておいてね。』
「何の話───」
手に赤いをまとわせた影がその腕を一振りした瞬間、凄まじい強風が吹き荒れた。
「ええええっ、何何何!?」
『【報告】"影"周辺に高エネルギー反応を検知。戦闘プロトコルを起します』
「えっ、ちょ、勝手に──!」
戦闘補助AIであるCcの聲が耳に飛び込むのとほぼ同時に、本棲の背中から機械の駆音が聞こえてくる。
兵裝が展開された音に違いなかった。
吹き飛ばされかけた本棲を地面に繋ぎ止める杭のような兵裝が本棲の背中からび、肩から出現した小型ミサイル兵が影のいた場所へ向かって発される。
「やりすぎだっていつも言ってるのに…」
風が収まり、本棲を支えていた兵裝が収納される。
ミサイルが著弾した場所からは黒煙が立ち上っており、向こう側を伺うことは出來ない。
だが、あのミサイルの威力を知っているからこそ確信できる。あの場にいた何者かは、もう跡形もなく消え去っているに違いない。
「笑顔が素敵な可い子だったのに……」
『【警告】心地から高エネルギー反応を検知』
「はぁっ!?」
合掌をしようとしたところに突然Ccの聲が屆き、絶してしまう。
「ちょっ、そんなわけないでしょ!?あの威力で死んでないとかありえないって!」
AIの故障を疑う本棲だったが、それも當然であった。
前回このミサイルを使った時の記憶が本棲の脳裏をよぎる。
スライムの群れに遭遇した時、Ccに対し「なんでもいいからやっつけちゃって!」と指示した結果、スライムの群れは跡形もなく消え去り、そこに殘ったのは煙とクレーターのみだったのである。
『【報告】対象のエネルギー反応、及び質量さらに増大中』
「えええっ、それやばいんじゃないの…?こ、ここの!?」
本棲は咄嗟に西川の名を呼ぶ。
「本棲さん、気をつけてください!何か…恐ろしいものが來ますよ」
「恐ろしいもの……って…」
本棲が"それ"を見上げた時、冷や汗が背中を伝うのをじた。
がいたはずのその場所に立っていたのは、15mはあろうかと言う巨軀を持つロボットのようなものだった。
「攻撃が來ますよ、本棲さん。構えてください」
「あれと戦うの……?ぜ、絶対勝てないって…」
『戦闘用プロトコル"Σシグマ"を起。戦闘態勢に移行します。』
淡々と戦闘の準備を始める西川とCcと対稱的に、本棲は怯えきった顔で目の前のロボットを眺めていた。
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