《獻遊戯 ~エリートな彼とTLちっくな人ごっこ~》「俺、日野さん狙いだから」4
◆◆◆
ところが、到著した洋風ダイニングの前で待っていたふたりは、今朝と姿が違っていた。
髪型や化粧を艶やかに直していたり、肩がシースルーになっているトップスに著替えていたりと、普段よりをかけて綺麗に見える。
私の姿を見つけた西野さんは、仕事中は止の揺れるタイプのピアスを揺らし、クスリと笑う。
「お疲れ様です、日野さん。りましょうか。みんな中で待ってるみたいですよ」
「え?  〝みんな〟って……?」
「今日はメガバンクの男陣も一緒なんですよ。あれ?  言いませんでしたっけ?」
ふたりは目配せをし合って笑っており、そこでやっと〝やられた〟と気づいた。
ここで男陣が待っている、それはおそらく合コンだ。
合コンだと聞かされていたら、お世話になっている人たちとならともかく、このメンバーではさすがに私も斷っていた。
だって……居づらいに決まってるもの。
「日野さんは誰も狙わないでくださいね。ただ座って、頷いていればいいんですから。わかってますよね?」
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「……はい。わかりました」
すでに気が重く、背筋が丸くなった。
ビジネスカジュアルではあるけれど合コンには適さない服裝の私は、すでにふたりとはし見劣りしている。
初対面の人と會うのだから人並みに化粧を直したいと思ったが、それも言い出せない空気だった。
店に一歩足を踏みれると、ジャズ風味のインストゥルメンタルが流れていた。
「お待たせしました~!」
西野さんと松島さんが先に進み、男陣の待つ個室を覗く。
「あ、待ってました!  お疲れ様です。どうぞどうぞ」
お灑落テーブルに、ソファに近い座り心地のよさそうな椅子が並ぶ六人席。
手前にすでに男ふたりが座っていた。
西野さんたちは「ふたりだけ?」と目配せをし、し口をとんがらせたが、すぐに「お邪魔しまーす」と笑顔に戻って席に著く。
彼たちは率先して男たちがいる向かいに座り、最後に殘された私の席の前は空席だった。
眼鏡をかけた男がすぐに頭を下げ、「すみません、急にひとり來れなくなっちゃって」と説明する。
「えー!  そうだったんですね」
「でも俺、今何人か聲かけてますから!  誰か來れるといいんですけど」
「ありがとうございます~」
眼鏡の人はスラッとしていて知的なじで、隣の部下らしき男も、必死にスマホで連絡をれる姿は子犬のようなかわいらしさがある。
私は頭數にっていないから、西野さんたちはこの人たちがいれば十分満足だろう。
すでにロックオンをした雰囲気で、隣の松島さんに小聲で「わかってますよね?」と再度念を押された。
◆◆◆
野菜の鮮やかさが際立つバーニャカウダや、チーズをふんだんに使った小さなサイズのマルゲリータ、とびこの散りばめられたサーモンとタコのカルパッチョなど、向けの料理がずらりと並んだ。
お決まりの質問が飛びうソファー席のテーブルで、笑顔を絶やさず、全員の気分を損ねず、ついでに間違ってロックオンをされてもならないというルールに従っている。
「東京ABC銀行にお勤めだなんて、みなさんエリートですよね。仕事できる人ってすごーい」
「大きなお金かすんですもんね。ホントにすごーい」
ふたりは盛り上げ上手で、男陣もうれしそうに笑っている。
眼鏡の男は藤(ないとう)さんという方で、二十四歳。
子犬のような男は若林(わかばやしさん)、新行員で二十二歳。
西野さんと松島さんはどちらも二十三歳。
二十七歳の私は年長者で、それだけでやや浮いていた。
すでに話題にれず、藤さんが無理に話題を振って私に喋らせてくれているような雰囲気になっており、心苦しくてたまらない。
どうかこのまま、時が過ぎ去ってほしい。
もう私はいないものとして扱っていいのに。
「俺たちまだ若手すぎてまともに仕事できてないし。褒めすぎ褒めすぎ」
藤さんはそうは言いつつも、華やかな西野さんたちに褒められてまんざらでもなさそうに指で眼鏡を上げた。
「そうですよ。俺なんか全然で、エリートとかじゃないです」
若林さんも犬っぽく笑った。
「俺たちも今日は気分いいよな。の子みんなかわいいし。やっぱ年下っていいな」
藤さんはそう言った後、私を見て「あっ」と聲をもらした。
私は年上だと気づいたようだ。
全然気にしてないから、お願いスルーして。
「藤さーん。日野さんは年上ですよ。お局さんですからねー」
すかさず、西野さんがそう突っ込む。
藤さんは苦笑いしながら、「いやお局さんってよりは、素敵なお姉さんってじがしますよ」と距離のある敬語で私をフォローした。
「日野さん、大丈夫ですか?  年が違うと話しづらいですよね」
西野さんは手を合わせて心配する素振りを見せる。
なんて答えたらいいんだろう。
挑発されているような気がするけど、変なことを言って空気を壊したらダメだ。
「ううん。私、たしかにお局に片足突っ込んじゃってるから。今日は若いエネルギーもらって帰ります」
これで大丈夫かな……と冷や汗をかきながらへらっと笑ってみせると、こちらを向いている顔たちは「日野さんも若いですって」笑い、西野さんと松島さんは「そうですよ、若く見えますよ」と言い直した。
後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりを受けて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜
「すまん、我が家は沒落することになった」 父の衝撃的ひと言から、突然始まるサバイバル。 伯爵家の長女ヴェロニカの人生は順風満帆そのもの。大好きな婚約者もいて將來の幸せも約束された完璧なご令嬢だ。ただ一つの欠點、おかしな妹がいることを除けば……。 妹は小さい頃から自分を前世でプレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢であるとの妄想に囚われていた。まるで本気にしていなかった家族であるが、ある日妹の婚約破棄をきっかけに沒落の道を進み始める。 そのとばっちりでヴェロニカも兵士たちに追われることになり、屋敷を出て安全な場所まで逃げようとしたところで、山中で追っ手の兵士に襲われてしまった。あわや慘殺、となるところを偶然通りかかった脫走兵を名乗る男、ロスに助けられる。 追っ手から逃げる中、互いに惹かれあっていく二人だが、ロスにはヴェロニカを愛してはいけない秘密があった。 道中は敵だらけ、生き延びる道はたった一つ。 森の中でサバイバル! 食料は現地調達……! 襲いくる大自然と敵の兵士たちから逃れながらも生き延び続ける! 信じられるのは、銃と己の強い心だけ! ロスから生き抜く術を全て學びとったヴェロニカは最強のサバイバル令嬢となっていく。やがて陰謀に気がついたヴェロニカは、ゲームのシナリオをぶっ壊し運命に逆らい、計略を暴き、失われたもの全てを取り戻すことを決意した。 片手には獲物を、片手には銃を持ち、撃って撃って擊ちまくる白煙漂う物語。 ※この物語を書く前に短編を書きました。相互に若干のネタバレを含みます。またいただいた感想にもネタバレがあるので読まれる際はご注意ください。 ※続編を別作品として投稿しておりましたが、本作品に合流させました。內容としては同じものになります。
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