《獻遊戯 ~エリートな彼とTLちっくな人ごっこ~》「俺、日野さん狙いだから」6

藤さんが「知り合いですか?」と尋ねると、穂高さんは「いつも書類け取ってくれる事務員さん」と答える。

予想通り、西野さんたちが顔を見合せて私を睨んでいる。

數合わせで來た私が穂高さんと向かい合っている狀況はふたりにとって不快なはずだ。

「へー、日野さんが穂高さんと顔見知りだなんて知りませんでした」

我慢できなかったのか西野さんが不満をにしてそうつぶやき、ギクリとする。

付には寄らずに総務部へ來るのだから私と顔見知りでもおかしくないけど、西野さんを差し置いて私が知られていたことがショックだったのかもしれない。

早く弁解しなくちゃ……。

私はすかさず「でもちゃんとお話しするの初めてですよね」と穂高さんに同意を求めた。

しかし気遣いができる彼は逆に「ですね。話してみたかったんでちょうどよかったですけど」と優しく返答してくれる。

若林さんが「ヒューヒュー!」と子どもっぽい歓聲をあげ、「穂高さんと日野さん同い年みたいですし、ぜひ今日は親を深めちゃってください!」とさらに盛り上げてしまう。

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「あ、そうなんだ?  俺ら同い年なの?」

「あ……はい。そうみたい……だね?」

この場に適するように砕けた話し方にしてくれた穂高さんに合わせた。

穂高さんは取引先で、ここへ現れたことにはなんの落ち度もないのだから、失禮があってはいけない。

空気を読んで距離を詰めてくれることも、合コンという場には相応しい振る舞いなのだから、拒否するべきではない。

でもそうすると、西野さんと松島さんを怒らせてしまう。

狀況は悪化してばかりだ。

どうしたらいいのかわからず異常な汗をかくだけで、変な笑顔がこびりつく。

そんな中、ついに「でも」と西野さんが口を挾んだ。

「実は日野さん、彼氏いるんですよ。今日もナイショで來たんですよね?」

「えっ」

意味がわからず彼を見た。

すると、橫のふたりとも「わかってますよね?」という目で私を睨んでいる。

あ……そうか。

そういう設定にしろっていう意味か。

「そうなんですか?  日野さん」

驚いてそう尋ねたのは若林さんだった。

ここはそうだと答えれば、どちらからも解放されるのかもしれない。

「うん……そうなの」

これが最善だと思い、求められている返事をした。

西野さんたちは言質を取ったとばかりに「ダメですよー先輩」「彼氏いるのにどうしても來たいって言うんですもんね」と追い討ちをかけるが、もちろんそんなことは言ってない。

でもいい、甘んじてけるんだ。

そうするのがきっといい。

覚えのないことで責められながら「もちろん私たちは、日野さんと違ってフリーですよ」と比較する形で彼たちは話を進めていく。

今日は私はその役割なのだ。

それでいい、わかった。

「そうなんだ」

穂高さんはし低い聲でそうつぶやいた。

どうしてだろう、西野さんたちに貶められるのは大丈夫なのに、彼に落膽されると心が苦しい。

「私たちずっと穂高さんと話してみたいなぁって思ってたんです。日野さんのところじゃなくて、こっち來て話しましょうよ」

西野さんたちは皿をよけてお誕生日席のスペースを作り、そこを手のひらで示す。

穂高さんがそこへ移して、私はまたひとりになるのだろう。

もう、それでいい。

テーブルに目を落としてこまり、存在を消した。

私はここでひとりで──。

「いや、いいよ。俺、日野さん狙いだから」

しかし前方から聞こえた穂高さんの言葉に、頭を上げざるを得なかった。

……え。

今、なんて言ったの?

聞き間違いかと思いを穂高さんを見上げると、彼はまっすぐに私を見つめていた。

「え!?」

一番に聲を上げたのは西野さんたちで、その後男陣も「マジっすか!?」と聲を上げる。

若林さんが「穂高さん、の噂聞かないって有名だったのに……」と意外な報をこぼしながら、私たちを互に見た。

「うん。日野さんめちゃくちゃ俺の好み。ほかの子はべつに、興味ないかな」

〝ほかの子〟と言うとき穂高さんはひと目だけそちらへ目をやったが、すぐに私に戻す。

その瞳は自信に満ちていて、綺麗すぎて吸い込まれそうだった。

西野さんも松島さんも眉を寄せて驚いた最初の表のまま固まっており、なにも言葉が出てこない。

そのタイミングで彼は飄々(ひょうひょう)と立ち上がる。

「日野さん」

思わずりたくなるような、男らしくしなやかな手のひらが目の前に差し出された。

白いテーブルにライトが反して、彼にスポットライトが當たっているように見える。

まぶしくて釘付けになり、けない。

「俺と飲み直さない?」

これは私に向けられた言葉なのか、まだ信じられないまま、だけが熱くなっていく。

ここで頷いてしまったら、私と西野さんたちとの関係は最悪なものになるだろう。

きっと正解じゃない。

──でも。斷れない。

絶対に間違っているのに、本能が、穂高さんを拒否できないと言っている。

「……うん」

小さく頷き、控えめに乗せた手をすぐに引かれ、個室の外、そして店の外へと連れられる。

殘った皆がどんな顔をしているのか振り返ることもできないほど、穂高さんのうしろ姿から目が離せなかった。

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