《獻遊戯 ~エリートな彼とTLちっくな人ごっこ~》「俺としてみる?」1
私を連れて駅前通りを進む穂高さんのうしろを歩きながら、ぼんやりと考えていた。
勘違いしてはダメだ。
彼はたぶん、馴染めていなかった私に同して、連れ出してくれたのだ。
彼に好みだと言ってもらえる部分が思い當たらないし、普段の彼は、あんなふうに『ほかの子はべつに興味ない』などと厳しい言葉を使ったりはしない。
誰にでも分け隔てなく優しい穂高さんだけど、今日はあの場での私が、あまりに慘めにじたのかもしれない。
「とりあえず、堅苦しくないところにろうか」
「は、はいっ」
立ち止まった彼は、大衆居酒屋を親指でさしていた。
とても助かる。さっきのお店では所在がなくてこまっていたせいで、肩や背中が凝り固まってしまった。
中にると、のれんで仕切られた座布団に掘りごたつの半個室席が用意され、とてもリラックスできそうで安心した。
穂高さんは生ビール、私はカシスウーロンを頼むとすぐに用意され、簡単に乾杯をする。
「あのさ。どうして言い返さなかったんだ?」
ひと口飲んでグラスを置いた彼は、皆の前で言ってくれた甘い言葉とは打って変わって、私に厳しい言葉を投げ掛ける。
ほんのしピリッとした空気が伝わってきた。
やっぱり助けてくれただけで、私のことを好いてくれているわけではない。
「……ごめんなさい」
わかりきっていたことだが、再び張が戻りが強張った。
「謝るんじゃなくて。あんな噓を言われて腹が立たないのか?」
〝あんな噓〟
それは『日野さん彼氏いますよ』という西野さんの言葉のことだろうか。
あの場では誰も噓だと明かしていないのに。
「噓ってわかるの……?」
「わかるよ。俺たちだって馬鹿じゃねえんだ。雰囲気でわかる。あんなの通用するわけないだろ」
後輩さんたちに対する言葉使いでもじたけれど、穂高さんはしだけ口が悪いときがある。
それか、わざと強い言葉で憤慨して、遠回しに私をめてくれているのかもしれない。
ヨツバへ來る仕事中の優しい彼とのギャップをじ、が鳴った。
「それに、日野さんは彼氏がいるのに合コン行くタイプには見えないし。誰かを騙したり、裏切ったりするところは想像できない」
「え……」
そんなことを言ってもらえるとは思っていなくて、つい彼を見た。
穂高さんは何の気なしに思ったことを口にしただけらしく、目を丸くしている私に「ん?」と首をかしげる。
「……え。なんで泣くんだ?」
余裕のあった穂高さんの顔は焦りに変わり、私を覗き込んできた。
彼に言われるまで自分でも気づかなかった。
──私、泣いてる。
勵ましてくれているだけだってわかってる。
でも、斷れない格のせいで都合よく利用されてばかりの私を、そんなふうに評価してくれているとは思っていなかった。
遠い存在で太みたいな人だと憧れていた穂高さんにそう言ってもらえるだけで、涙があふれてくる。
「大丈夫か?  もしかして、仕事中もああいうことされてるのか」
「……私も悪いの。頼まれると斷れなくて、なんでもかんで言う通りにしちゃう癖があって」
穂高さんの問いかけが調度よくてすべてを話してしまいそうになるが、この場でこれ以上個人的な相談をしても、困らせるだけだ。
どうにか笑顔を向けて「気にしてないよ」と付け加えた。
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