「清澄くんっ……嫌じゃないの？」

「うん」

こんなことをしてもらったのは初めてでどうしていいかわからない。

絶対に清澄くんはいい気分ではないと思う。

ああ、でも、気持ちよくてなにも考えられない……。

「あっ……待って、もうダメ……！」

気を抜いたところを攻められて、私は簡単にイッてしまった。

彼の頭はしばらくしてから離れ、濡れたを拭いながらフッと熱をじる笑みを落とした。

彼とすると毎回こうなってしまうが、イくってこんなに簡単なことなのだろうか。

いまだに自分のの変化に戸っている。

「かわいい。俺、莉の反応好き」

とろとろになった顔見て、彼は私の前髪をわけながらつぶやいた。

〝好き〟という言葉にが甘く疼いた。

優しくれてもらえることも気持ちいいけど、清澄くんの人みたいな言葉が心地いい。

べつに私のことを好きだとは言ってないって、頭ではわかっているけど……好意がない相手にこんなことをできるのだろうかと期待してしまう。

ＴＬを演じているはずが、私はいつしか、すべて清澄くんの本音だったらうれしいと願ってばかりだった。

この気持ちにもう名前はついている気がする。

「……清澄くん……」

彼のものにしてほしい。

も心も繋がって、ＴＬのふりではなくて、本當の人同士になれたら──。

「続きはまた今度にしよう」

「……え」

宣言とともに、彼は私のスカートを整えて立ち上がった。

私は呆気に取られ、ソファからを起こす。

「どうして……？  清澄くんは？」

「一日歩いて疲れただろ。し休んだ方がいい。シャワー浴びる？」

彼はシャワールームを指差した。

これは始まりのシャワーではなく、終了のシャワーだという口ぶりだ。

「清澄くんは……最後までしたくないの？」

「え？  まさか。もうししたら、もらうよ」

「もうしっていつ？  今じゃダメなの？」

もしも私を焦らすという作戦ならもう功しているから、もう全部奪ってほしい。

気持ちよくて満たされていたけど、清澄くんと繋がれないなら自分だけ満足しても今は足りない。

必死な私を前にして、彼は困った顔でつぶやいた。

「……うん。今はダメかな」

──どうして？

きちんと會話ができていない。

私の質問に答えてくれないし、肝心なことをはぐらかされている気がする。

私じゃダメってこと？

それならここまでするのは何故？

清澄くんの気持ちが全然わからない。

「莉、ほら」

服を整えた彼は、下著を拾って私に手渡しながら顔を覗き込んだ。

け取ってクシャリと握る。

恥ずかしい。

私はこんなにさらけ出してしまったのに、清澄くんは私になにも見せてはくれない。

過去のを思い出した。

求を発散させようとする相手に、私は決して自分の本音を言わなかった。

そんな人とは信頼関係もなければ、もない。

それでもすべてを隠していても、無理して求に応えることはできたのだ。

清澄くんがしてくれることも、そうだったら？

「……莉？」

耐えきれずに瞳がじわりと潤みだす。

だってそうだったらすごく寂しい。

「えっ、泣いてるのか？」

「ご、ごめん……清澄くんの気持ちがわからなくて……私じゃダメなのかなって……」

「いやその、違う、俺は……」

面倒なになりたくなくて涙を止めようとするのに、どんどん溢れてくる。

彼はもう一度膝をついてソファにいる私と向き合ったが、そのときちょうど、〝ピンポン〟というチャイムの音が鳴った。

清澄くんは「え」とつぶやき、すぐに立ち上がって玄関を振り返る。

私は小さな聲で彼に「お客さん？」と尋ねたが、返事をしない。

「ねぇ、清澄。いるんでしょ？  開けて」

「清くーん。電気ついてるの見たんだからね。居留守使ってもダメだよぉ」

ドアの外からふたりのの聲が聞こえてきた。

誰？

聲を聞いて私へ目を戻した清澄くんは真っ青で、なぜか私まで不安になる。

「ヤバい」

彼は小聲でつぶやいたため、私も同じく小聲で「誰なの？」と聞き返した。

いつもの余裕のある清澄くんとは違って様子がおかしい。

「ごめん莉、ちょっと隠れてくれ」

「え？」

「追い払ってくるから。ここにってて」

両手をとって立たされ、手首を引っ張られたかと思うと、あれよあれよという間に洗面所の扉の中へと押し込まれた。

理解が追い付かない間に続いてソファに置いてきたハンドバッグと玄関でいだ靴を持たされ、私の形跡はすべてこの洗面所に押しやられる。

「清澄くん……」

「マジですぐ開けるから、ちょっとだけここに隠れてて」

スライド式の扉を閉められ、洗面所は暗くなった。