《とろけるような、キスをして。》あの頃に、思いを馳せる(3)

「ごめんね先生。いろいろ思い出しちゃった」

「いーよ。元々そんな気がしてついて行ったんだし」

「そうなの?」

「うん。みゃーこは昔から一人で抱え込むから。高校の時もよく俺が話聞いてやってたろ?実家に行ったら絶対にセンチメンタルになると思って」

「……よくおわかりで」

確かに高校の頃から、よく先生には相談してたっけ。擔任でもなかったのに、先生とだけは仲良くなった。

……そう言えば、私なんで深山先生とこんなに仲良くなったんだっけ?

し考えてみたものの、楽しく喋っていた記憶しか出てこない。

……ダメだ、思い出せない。まぁいいか。

先生の車に乗り込み、次は高校に向かった。

五分ほどで、懐かしい校舎が見えてきた。

私立白河高等學校。

この街は公立高校が多く、私立高校はなかなか無い。

そんな中で昔からあるこの白河高校は、私の母校であり、深山先生が新卒から現在までずっと働いている學校だ。

噂によると先生もここの卒業生だと聞いたことがある。

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母校で働くって、どんなじなのかな。

夢も希も無く東京でただただルーティンワークを繰り返しているだけの私には、未知の世界だ。

職員用の駐車場に車を停めた先生の後ろを歩いて久しぶりの校舎にる。

來客用のスリッパを履いて、記憶よりもいくらか古く見える校舎の中を進んだ。

各教科の授業で使った特別教室や育館がある舊校舎をちらりと覗いたり、本校舎にあるフリースペースや職員室も覗いたりした。

二階にある三年生の頃の教室を覗くと、あの頃と変わらない空気が流れていた。

落書きされた機。チョークのが舞う黒板。

教科書を置いて帰るロッカー。冬になると電源が付く、大きなストーブ。

そこにあるものは何一つ変わってなくて。でもきっと、本當はあの頃と同じところなんて何一つ無くて。

今ここに通っている子たちの、新しい空気が流れているはずなのに。

どうしてだろう。何故だか無にあの頃に戻りたくて、泣きたくなった。

「俺今、二年のクラスの擔任なんだよ」

窓の外から、眼下に広がる部活専用のグラウンドやコートでかしている高校生たちを眺めていると、隣に先生が並ぶ。

「……そうなの?新卒から三年間ずっと副擔任だったのに?」

「そう。すごいだろ。出世したんだよ俺」

「ふふっ、それ出世って言うの?」

「當然。だって、俺學年主任もやってるから」

「え、學年主任!?先生が!?」

「ま、押し付けられただけだけど。でも出世しただろ?」

「うん。すごいね!」

新卒だった先生が、まさか七年後に學年主任を任されているなんて。

押し付けられたなんて言ってるけど、先生は昔から責任は強かったように思う。

だから、なんだかんだしっかり主任を務めているのは見なくてもわかる。

自分ではあっという間にじていた七年という月日の間に、なんだか先生が手の屆かないところに行ってしまったような、そんな不思議な覚がした。

喋り方も、私を呼ぶ"みゃーこ"という聲も、同じなのに。

……私が、あの頃のまま取り殘されてしまっているだけなのだろうか。

子どものままで、大人になりきれていないのだろうか。

「……でもまぁ、皆やんちゃで結構手焼いてるよ」

夕焼けに照らされた先生の橫顔は、こうして見るとあの頃よりし大人っぽくなったような、そんな気がする。とても綺麗だ。

「先生が手焼くって、相當やんちゃなんだね」

「どういう意味だよ」

「ふふっ……別にー」

「俺のこと馬鹿にしてんだろ」

「してないしてない」

でも、ここで笑い合っていると一気にあの頃に戻ったような気がして、し嬉しくなった。

「……なぁ、図書室行かないか?」

「図書室?」

「ほら、舊校舎の。俺たちが初めて會った場所だろ?」

言われて、ぼんやりと淡い記憶が蘇った。

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