《とろけるような、キスをして。》二日目(1)

「みゃーこ!おはよ」

「おはよう。って言ってももう晝に近いけど」

「ごめんごめん。ちょっと寢坊しちゃって」

翌日、ホテルの朝食を食べてからチェックアウトして、先生と待ち合わせをした。

どうやら寢坊してしまったらしく、予定よりも一時間遅い集合だった。

った大きめの鞄を先生の車のトランクに詰めて、昨日と同じ助手席に乗る。

「じゃあ大きい本屋にでも行くか」

「うん」

目的の履歴書を探しに、街で一番大きな本屋さんに向かう。

「あ、みゃーこ。本屋で俺のこと"先生"って呼ぶの止ね」

運転中に口を開いた先生に、私は首を傾げる。

「なんで?」

「若い連れた男が、"先生"って呼ばれてたらなんか怪しいじゃん。今流行りのパパ活?みたいなの疑われそうじゃん」

「……確かに」

言われてみれば、確かにそうかもしれない。

私から見れば先生はずっと先生だけど、周りから見れば私ももう大人なわけで。

「しかもそのタイミングで萬が一け持ちの生徒と遭遇してみろよ。俺はもう明日から仕事に行けやしない。高校生のネットワークは怖いからな」

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今はどんな些細な噂でも、SNSを介してあっという間に広がる時代だ。

怖い怖い、と震いする先生の気持ちもわかるような気がする。

「じゃあなんて呼べばいいの?」

聞いた時、ちょうど信號が赤になって、車はゆっくりと止まる。

し考える素振りをした先生は、こちらを振り向く。

「……修斗、とか」

し照れたような笑顔に、見ている私の方が照れてしまってじわじわと顔が熱くなるのをじる。

なんだよその笑い方。私より子どもっぽいじゃん。

そう思うのに、何故だかドキドキしてしまうのは何故だろう。

見ていられなくて、慌てて下を向く。

「それはちょっと……その、えっと」

「なに」

「……なんか、いきなり名前呼びとか張する……から。卻下で」

先生は私のことをあだ名で呼ぶくせに。なんで私だけ名前呼びなのか。恥ずかしいじゃんか。

「えぇー?いいじゃん。俺は呼んでほしいけどなー」

ハンドルに軽く重を乗せるようにしながらニヤッと笑う。

さっきまでの照れたような顔は何だったのか、あっという間にいつも通りの余裕な先生に戻ってしまったようだ。

早く呼んでよ。そんな視線をひしひしとじるものの、すぐに信號が青に変わったのを見て

「ほら、青だよ!進んで!」

と話を逸らす。

しかし先生は諦めていないのか、

「ほら、呼んでみなよ」

と前を向いたまま嬉しそうに急かしてくる。

私はちらりと先生の顔を見ながらも、恥ずかしくて口籠る。

でも、確かに呼び方は変えないといけない。

だからっていきなり……。

……もう、やけくそだ。

「……修斗さん」

さすがにいきなり呼び捨てはできなくて、せめてもの抵抗で"さん"を付ける。

タメ口なのに"さん付け"なんて、若干変なじもするけれど。だからと言って"くん付け"も、なんだか違う気がした。

恥ずかしくて下を向きつつも、先生の反応が気になってちらりと覗いてしまう。

すると先生は「ちょっと、待って。やばい、想像以上」と私の視界を遮るように手をばしてきた。

目の前が真っ暗に染まる。指の隙間から先生の顔を覗くと、ふんわりと赤く染まっていて。

「……修斗さん」

もう一度呼ぶと、今度は真っ赤に染まった。

「修斗さん、照れてるの?」

「……ちょっとそれ以上言わないで。事故る!」

「安全運転でお願いします、修斗さん」

やっぱり照れているみたい。先生をからかっているうちになんだか私も呼び慣れてきて。らかに口から飛び出るようになった。

そうしたら、今度は呼ぶ度に照れる先生が面白くなってしまって。何度も呼んだ。

「ほら、もうすぐ著くぞ」

先生は私から逃れるように前を指さす。

大きい本屋さんだから、遠目からでももう看板が見えている。あと五分もあれば著くだろう。

「とりあえず、車降りたらそれでよろしく」

「うん、わかったよ修斗さん」

ダメ押しのように名前を呼ぶと、もう先生も呼ばれ慣れてきたのか頭をでられただけだった。

でも、髪のの隙間から見える耳がし赤く染まっていたから、やっぱりまだ照れている様子。

いなあ、なんて。大の大人に向かって思うなんておかしいだろうか。

まして歳上の先生相手に、だ。

地下駐車場に車を停めると、二人並んでエレベーターに乗る。

まず目的である文コーナーに向かい、履歴書と職務経歴書がセットになった用紙を見つけ、それを手に取った。これだけ買ってすぐ終了、というのもし寂しい話。

どうせなら他のコーナーも見てみようか。

「せ……、修斗さん、おすすめの本は?」

危うく先生と呼びそうになって、慌てて呼び直した。

先生はそれに笑いそうなりながらもどうにか堪えてくれている。

「ね、おすすめの本は?」

「……俺が本読むように見えるか?」

「見えない」

殘念ながら先生は本は見ない様子。漫畫なら読むと言うので、漫畫コーナーを見ておすすめを聞いたり、CDコーナーで先生の車で流れてるバンドのCDを見たり。

広い店を見て回るだけで、勝手に時間が経過していく。

気が付けばお店にってからすでに二時間近く経過していて、ファストフード店が併設されている理由がよくわかる。

私たちもその策略にまんまと乗せられ、軽く食べようかとポテトとサラダ、アイスティーを注文した。

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