《とろけるような、キスをして。》二度目の帰省(2)

「お待ちしておりました。野々村さん、でしょうか」

「はい。野々村也子と申します。本日はお時間をいただきありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ。教頭の田宮タミヤと申します。遠いところお越しいただいてありがとうございます。どうぞお掛けください」

「ありがとうございます。失禮いたします」

皮張りのソファに腰掛けると、田宮教頭も向かいのソファに腰を下ろした。

履歴書を渡すとパラパラと目を通してからテーブルに置く。

「面接なんて名ばかりなので、そんなに気張らなくても大丈夫ですからね」

「あ……、すみません。張してしまって」

「ははっ、移でお疲れのところでしょうし、無理もございません。気楽にお話ししましょう」

「ありがとうございます」

よくよく考えたら転職活は初めてのため、ガチガチに張していた私。

田宮教頭の穏やかな雰囲気と笑顔で、しばかり張がほぐれた気がした。

「今も事務職なんですよね?」

「はい。ただ學校事務とは全く業種が異なるので、そこがし不安ではあります」

Advertisement

「ちなみに今の業務容を伺っても?」

「私は弊社の商品を卸している顧客報のデータの管理を主にしております。各法人様にある弊社の商品の在庫管理や注発注など……ですね。その他にも細かい業務をし」

「なるほど。確かに今までとはガラッと容は変わりますね。ざっくり説明しますと───」

渡された資料を見ながら仕事容を聞く。

予想通り業務は今までと大きく変わるものの、使うソフトは一緒だったりと今までの経験が全く無駄になるということもなさそうだった。

ただ、仕事量がものすごく多い。これは大変そうだ。

「仕事の話はこのくらいにして。……聞くところによると、野々村さんはここの卒業生だとか。四ノ宮先生のご親戚だそうで」

「はい。従姉妹です。深山先生にも三年間お世話になりました」

「そうでしたか。私は三年前にこの學校に來たばかりなんですよ。なので───」

田宮教頭との面接は本當に名ばかりのもので、最初こそ仕事の話だったものの、途中からは雑談もえながら終始穏やかに進んだ。

もちろんメインは仕事についての話。しかし最後の方はむしろ深山先生の話や晴姉ちゃんの話で盛り上がり、學生時代の話ばかりをしていた気がする。

「おっと。ついつい喋りすぎてしまった。すみません。話好きなもので」

「いえ、私もいろいろなお話が聞けて嬉しかったです」

気が付けば応接室にってから一時間ほどが経過していた。

田宮教頭との會話に夢中になりすぎて、お互い時間を忘れていたよう。

「こちらとしては、是非とも野々村さんにうちで働いてもらいたいと思っています」

「ありがとうございますっ。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「ははっ、ありがとう。助かるよ。じゃあ本格的にこっちに戻ってくる日が決まったら、深山先生か四ノ宮先生経由で良いので連絡ください」

「わかりました。ありがとうございます」

コネのおかげかタイミングのおかげか、無事に転職先も決まった私は、田宮教頭に禮をしてから応接室を出た。

すると深山先生が待ってましたとばかりに私の元へ走ってくる。

「おかえり。どうだった?」

「うん。面接っていうより後半はほとんどお茶會みたいなじだった」

小聲で先生に答えると、「何だそれ」と面白そうに笑う。

だってその通りなんだから仕方ない。他にどう表現しろと言うのか。

「採用決まった?」

「うん。先生もいろいろありがとう」

「良かった」

一時間経っていたものの、職員室にいる先生方の人數は全く変わっていない。むしろさっきより皆さんパソコンを見る目が走っているような気さえする。試験問題を作るのって、大変なんだなあ……。

そっと職員室を出ると、「あ、也子!」と晴姉ちゃんとも遭遇した。

「どうだった?」

二人揃って同じことを聞くから、さっき先生に答えたのと同じ返事をした。

姉ちゃんはそれだけでどんな面接だったのかを悟ったらしく、「あの人話好きだからね」と納得していた。

「でも面接うまくいったみたいで良かった。安心した」

「うん。ありがとう」

しだけ喋った後、晴姉ちゃんは慌てて腕時計で時間を確認して、両手を合わせた。

「ごめんね也子。私まだ試験作り終わってないから今日中にやらないといけなくて。また後で連絡するね!」

「うん。私も足止めさせちゃってごめんね。大丈夫だから気にしないで。晴姉ちゃん、頑張ってね」

手を振って晴姉ちゃんを見送っていると、職員室から

「深山先生!ちょっといいですか!?」

と私と同い年くらいの教師が顔を出す。

「あ、はい!今行きます!」

先生は返事をしてこちらを心配そうに見つめる。

「ごめんみゃーこ。行かなきゃ」

「うん。私は大丈夫。歩いて実家に行ってるね」

「わかった。ごめんな。後で連絡するから」

頷いてからじゃあね。と手を振って背を向ける。

実家に行くのは、片付けと掃除のためだ。

こっちに戻ってきたら、私はあの広い三階建ての家に一人暮らしすることになる。

必要なものが揃っているか改めて確認したいし、掃除もしたい。

電気が通っていないから晝間しかできないし、ちょうど良い。

校舎を出て、久しぶりに高校から実家までの道を歩いて進む。

懐かしい銀杏並木。地面には散った葉が絨毯のように広がっているものの、車や人に踏みつけられて所々黒く変していた。

銀杏並木を抜けると國道に出る。そこを曲がって數メートル歩いた後、郵便局やスーパーを橫目に信號を三つ渡って自販売機の橫を通って。

コンビニがある曲がり角を左に曲がれば。

「……著いた」

先月ぶりの実家。鍵を開けて中にる。

通學路を通って帰ってきたからか、無意識に「ただいま」と発していた。

當然返事は無い。けれど悪い気はしなかった。

「……やるか」

早速家の中をぐるりと見渡して、腕捲りをした。

    人が読んでいる<とろけるような、キスをして。>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください