《とろけるような、キスをして。》気持ちの変化と甘い夜(1)
その日の夜は、先生が缶ビールを飲むと言って聞かなくて一缶だけあけた。
すぐに顔を真っ赤にしながらも潰れることもなく、楽しそうに笑っていた先生。
どうやら二缶飲むと記憶を無くしてしまうようで、殘りのビールが先生の視界にらないよう、隠すのに必死だった。
今日も一緒に寢ると私のが持たないため、先生の頭が働いているうちに私は先に部屋に戻り、自分で布団を敷いて寢床についた。
先生は酔っていたからか、「みゃーこと一緒に寢たい」と頻りに言っていたものの。
シラフでも理云々言ってたし、酔った先生と一緒に寢るなんて絶対危険だ。
今日はちゃんと一人でぐっすり眠れそうだ。
そう思っていたのに、実際に布団に潛っても中々睡魔は襲って來なくて。
あの甘い香りがしい、なんて。そんな考えは頭の隅に追いやる。
は疲れていたからか、ぎゅっと目を瞑っているうちに知らぬ間に眠りに落ちていた。
土曜日は先生に斷りをれて、一人で伯母さんや親戚の家に挨拶と謝罪に回った。
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と言っても先生の言っていた通り皆怒ってなどいなくて。「今まで帰って來なかったこと、ちゃんと両親に謝っておくこと」と諭すように言われただけだ。
どちらかというと久しぶりに訪ねて來た私を歓迎してくれていたように思う。
確かに言われてみれば、私が帰ってこなかったことや両親に會いにお墓參りにも行かなかったことを一番怒っているのは両親だろう。
"どうして會いに來ないんだ"って。
「だから私たちが也子ちゃんに怒ることはないわ。でもこれからは也子ちゃんがいるから、二人ももう怒っていないはずよ。也子ちゃんが二人を大切に思ってくれれば、二人は絶対に喜ぶから」
伯母さんは、そう言って私に満面の笑みを向けてくれた。晴姉ちゃんにそっくりな笑い方で、こちらまで笑顔になってしまう。
伯母さんは、今までの法要の話や今後の話を私にもわかるように説明してくれて、今度からは私が責任を持って二人を弔うことを約束した。
伯母さんと話していると私が來ていると聞き付けた晴姉ちゃんが來たりして、お母さんの話で盛り上がった。
午後は先生と合流して、実家暮らしで足りなくなりそうなものを買い出しして。
それも先生が払うと言うから、ならもう一緒に買いには行けないと言えば素直に引き下がった。
今度からこの手を使おうと思う。
そしてこの日も私は夜、お風呂にった後逃げるように部屋に向かう。
しかし、遮るように腕を取られてしまい、足を止めた。
「みゃーこ、もう寢るの?」
「う、うん。またソファで寢ちゃって先生に迷かけるわけにもいかないし。明日帰るから荷もまとめないといけないし」
「……ふーん。そっか。わかった。おやすみ」
「おやすみなさいっ」
思いの外、先生はすぐに手を離してくれた。
夜になると、どうしても意識してしまう自分がいた。
先生の甘い香りを思い出してしまう。そして、心臓が激しく高鳴るのだ。
そこまで子どもじゃないし、そこまで馬鹿じゃないからさすがに私でもわかる。
……先生のことを、男として意識し始めてしまっている。
今までは、先生はあくまでも教師で、そこに別の垣など考えたことがなかった。
教師は教師という存在で、それ以上でもそれ以下でもなかったのだ。
それがどうだろう。今、私は先生のことを教師ではなく、一人の男として見ている。
まさか、私が先生のことを?無にムズムズしてしまって落ち著かない。
上京してからというもの、男とそういう関係になったことがほとんど無い。數人お付き合いをした人はいれど、どれも長くは続かなかったし、ここ數年は特に出會いも無い。などしてる余裕も無かったというのも理由の一つだが。
誰かからアプローチされることも無ければ、自分からいいなと思えるような男もいなかった。
部署がばかりというのも大きい。
布団に潛り込んで、ここで過ごす最後の夜を一人でよく考える。
自分の気持ちの変化に頭がついていけていなくて、今日も上手く眠れない。
どうしたものか。そう思っている時に枕元に置いてあるスマートフォンが鳴った。
ん?と、手をばして取って屆いたメッセージを開くと、それは先生からのものだった。
"もう寢た?"
同じ家にいるのに。変なじだ。
"まだ起きてるけど"
條件反でそう返事をすると、すぐに部屋の扉をノックする音が聞こえる。
……しまった。普通に返事してしまった。
起きてると言った手前、無視をするわけにもいかない。
ゆっくりとドアを開けると、先生が照れたようにな困ったような、そんな表で頭を掻きながら立っていた。
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