《とろけるような、キスをして。》ありがとう

「いつからなんてはっきりとは覚えてないけど、出會った時からずっと可い子だなって思ってた。俺の授業の時の真剣な目も、図書室で窓の外見つめてる橫顔も。全部可くて、綺麗で。よく考えればずっと視線で追ってたなって思う。

俺にとってあの図書室での時間は、仕事の疲れも忘れさせてくれる、すごく大切なものだった。でも、それはみゃーこがいたからだった」

「……」

「それに気が付いたのはあの卒業式の時だよ。馬鹿みたいだろ。それまで気が付かなかったんだ。いや、気付かないふりをしてただけかも。

だからこそ、四ノ宮先生には本當に謝してる。四ノ宮先生がいなかったら、みゃーこは今ここにいなかったかもしれないし、俺もみゃーこと一緒にいられなかったから」

「……そうだったんだね。私も晴姉ちゃんには謝してるけど、今まで以上にもっと謝しないとね」

修斗さんの話で両親が亡くなった時のことを思い出して、私のは締め付けられるように痛む。

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「……あの時はごめんね。私、自分のことで一杯で、周りが見えてなくって」

「それが普通。むしろみゃーこは一人で頑張りすぎてたくらいなんだから」

「……私、両親のことがあってから、ずっと自分を責めてて。

私があの日の旅行をプレゼントしなければ、とか。國の旅行にしておけば、とか。いろいろ考えてるうちに目の前も頭の中も真っ暗になっちゃって」

「うん」

「皆の前でも、一人になっても、全然泣けなくて。が震えるだけでね。寂しくて、苦しくて。どうしたらいいかわかんなかった」

両親が亡くなってから修斗さんと再會するまで、一度たりとも泣いたことがなかった。

人間、どんなにつらくても泣けない時だってあるのだと、痛させられた。

目指していた大學も、一瞬で興味が無くなってしまうくらいには絶していた。

それは噓じゃなかった。本當に、興味が一切無くなってしまったのだ。

あの時、どうしてあの大學を目指していたのかすら、忘れてしまったくらいに。

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「……ねぇ、修斗さん」

「ん?」

「私、なんであの大學目指してたんだっけ」

確か、修斗さんに相談しているうちにアドバイスされて、選んだような。

「忘れちゃった?」

「うん。なんか両親のことがあってから、高校の頃の記憶がごちゃ混ぜになってて。いろいろ忘れちゃったことが多いんだよね」

修斗さんとの出會い然り、大學についても然り。

ぽっかりと記憶から抜け落ちている部分がいくつかあった。

その抜け落ちた部分を脳が勝手に前後の記憶で雑に繋ぎ合わせようとするものだから、さらに曖昧になっていくのだ。

「図書室でさ、俺と二人で進路相談みたいなことしたの、覚えてる?」

「……え?」

そう言えば、前にそんな夢を見たような……見ていないような。

「その時に、みゃーこに將來の夢聞いたんだけど、覚えてない?」

「將來の夢……」

───そうだ。図書室で、そんな話をした。

「みゃーこに將來の夢を聞いたらさ、"教師に興味がある"って言ってたんだよ」

「……教師……」

「そう。俺を見てそう思ったって、言ってくれて嬉しかったなあ」

自分のことなのに、どこか他人事のような気持ちになるのは、多分自分に教師なんて向いてないって、今の私にはわかっているからだと思う。

多分、いながらに修斗さんの姿に憧れていたのだろう。

優しくて、頼れて、授業もわかりやすい。

修斗さんみたいに、悩んでいる生徒の相談に乗ってあげられるような、そんな教師に、興味があったのだろうか。

自分のことなのに、全然わからないや。

「……でもそれなら私、教師にならなくて良かった。反対を押し切って東京行って良かった」

「え?」

「教師になったり、東京行かないでこの町で皆に支えられて生きてたら、多分今こうやって修斗さんと一緒にいなかったと思うから」

周りの人の溫かさも、そばに誰かがいてくれる喜びも、する人と一緒にいられる幸せも。

周りに恵まれていることにすら全部気が付かないまま、知らないまま、どうしようもなく自墮落な生活をしていたことだろう。

「確かに。俺もみゃーこが東京行かなかったら、自分の気持ちに気付いてなかったかも」

確かに苦しかったし、しんどかったけれど。

向こうでの生活も、無駄ではなかったということだ。

「ありがとう修斗さん。私を見捨てないでくれて」

「見捨てるわけないだろ?俺にとっては、みゃーこが一番大切なんだから。むしろこっちがありがとうだよ。俺を選んでくれて、ありがとう」

どちらからともなく重なる

れるだけのキスから、徐々に深く、濃になっていく。

ぬるりとり込んできた舌が、私の口を味わうようにいていた。

ほんのを離して、數秒見つめ合う。

「……いい?」

コクリと頷くと、手を引かれて私の寢室へ向かう。

部屋にると同時にドアに押し付けられるように抑えられ、もう一度濃なキスが降ってくる。

「んっ……はぁっ、あ……」

それは荒々しいものではなくて、いつにも増してゆっくりと私を味わいつつ甘く刺激する。

キスをしながら導されるように移してベッドに押し倒されて、耳や首、鎖骨にうなじなど、目に見えるところは全てが優しく這う。

首筋を舌でペロリと舐められた時には、思わず

「ひゃっ……!?」

甲高い聲がれてしまった。

「今日は、いつも以上に優しくしてあげるね」

「ま、って……あぁっ……」

「もう俺無しじゃいられないくらいに、してあげるから」

その言葉と溢れ出る気に、頭がクラクラしてしまう。

もう、私はすでに修斗さん無しじゃいられないのに。これ以上、私を墮としてどうするのだろう。

いつのまにか服もがされてしまい下著姿になり、わになったにも丁寧に一つ一つキスを落としていく。言葉通り、いつも以上に優しく、いつも以上に時間をかけて、ゆっくりとされていく。なんだか、そのキスだけで全がとろけてしまいそうだ。

「……ここ好き?全部教えて?」

私のじるポイントを焦らしながら敢えて脇腹をるようにでたり、に指を這わせたり。

一番れてしいところにはれてくれないのに、それだけで呼吸はは捩れ、全が熱く火照る。

私を見下ろすその目が。私の名前を呼ぶその聲が。私を刺激するその手が、指が。これでもかというほどに、溢れるほどのを伝えてくれる。

そのに私はすでにどっぷりと溺れてしまい、もう抜け出すことは不可能だ。

修斗さんの全てが私を翻弄し、その滾る視線に負けないくらい私をさせることに、彼は気付いていないのかもしれない。

早くってしくて、早くしてしくて、必死にそのを求めた。

「しゅ……と、さんっ」

我慢ができなくて、自分で下著を取る。

そして縋るように見つめると、その視線はどんどん熱く変わっていく。

「ひぁっ……あぁっ!」

ようやくその長い指が、一番敏なところにれた時。待ち侘びていた快に、その手が離れないように自分で押さえる。

もっとってしくて、何度もが仰反るように跳ねた。

「も、だめ……ちょうだい」

「っ、……可いけどまだダメ。もうちょっと」

修斗さんは、こういう時にちょっと意地悪になる。

でも、それが嫌いかって言われると、それには頷けないから悔しい。

だって、意地悪してても私が本気で嫌がることは絶対にしない。

私の気持ちを一番に考えてくれているのがよくわかるから。

だから、そんな意地悪な修斗さんでも、好きなのだ。

これが惚れた弱みというやつか。

「……お願いっ、も……、早くっ」

「そう、もっと俺を求めて。もっと縋って」

その言葉にもう我慢できなくて、無意識のうちにベルトに手を掛ける。

「お願いっ……ちょうだいっ」

「……っ、本當、可すぎっ……俺の理が持たねぇわ」

顔を抑えて笑ったかと思うと、とろけるような甘いキスに酔いしれる。それと共に、部屋中に私の聲が響き渡った。

*****

翌朝は、アラームをかけ忘れてしまったために寢坊してしまい、二人揃って慌てて出勤の準備をした。

お弁當を作る時間も無く、修斗さんには申し訳ないけれど食堂で食べてもらうように伝えると「気にしないで。俺が無理させたのが悪い」とにこやかに笑ってくれて。

「昨日のみゃーこ、マジで可かった。大好き。してる」

甘い言葉と共に、お互いを求めるような激しいキス。

腰が抜けかけた私を軽々と抱えて、おしそうに見つめる。

「行ってきます」

「……行ってらっしゃい」

昨夜の事が一気に思い出されて、出勤してからもしばらく顔の赤みがおさまらなかった。

───そして、それから數ヶ月の月日が流れた。

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