《とろけるような、キスをして。》とろけるような、キス
「かんぱーい!」
季節は夏本番の七月。
ロトンヌを貸切にして、今日は大和さん、雛乃さん、修斗さん、そして私の四人でちょっとしたパーティーを開いていた。
「それにしても、誕生日が八日違いって。そんなとこまで仲良くなくてもいいのに」
私たち四人で囲むテーブルの上には、大和さんと雛乃さんが作ってくれたご馳走が。そしてその中心には、大きなバースデーケーキが。
【Happy Birthday!Syuto&Miyako】
とチョコレートで書かれたプレートとたくさんのいちごが目立つ。
先週、修斗さんの誕生日があり、今週末は私の誕生日だ。
お互い忙しくてなかなかお祝いできず、そんな時にやまとさんとひなのさんがパーティーの計畫をしてくれた。
生徒たちの間で噂が一度広まってから、デートには特に気を遣うようになった私たち。
田宮教頭ももちろん噂を知っており、
"お二人ともいい大人なので、事実か否かを追求するつもりも咎めるつもりもありません。しかし深山先生は今年度三年生の擔任です。あまりこのような噂が広まってもらっては保護者の方からの心配や苦にも繋がりかねません。そこのところをよくお考えください"
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と釘を刺されてしまった。
そのためどこかに出かけるとしたらどうしても遠出しなくてはならず、それだと時間が足りない。
しかし家で作るにもマンネリ化してしまいそうで、悩んでいたところだった。
"どうせならうちを貸切にしてパーっと祝おうよ。レストランとかも中々行けないでしょ。俺たちもみゃーこちゃんの誕生日祝いたいし"
そんな時の大和さんの言葉はありがたく、すぐにお願いすることにした。
「別に誕生日は俺たちが決めたわけじゃないし。な、みゃーこ」
「うん。それにこうやって一緒に祝ってもらえるの嬉しいし」
「あー、みゃーこが今日も可い!好き!」
そう言って抱きついてくるから、
「ちょっと修斗さん、恥ずかしいからやめてっ」
「いいじゃん。事実なんだから」
逃げようとするもののがっちり腕の中に捕らえられて抜け出せない。
二人で不な言い合いをしていると、大和さんが呆れたように
「ほら、二人ともイチャつかない。早くケーキ食べるぞ」
とナイフで切り分けてくれる。
修斗さんもしぶしぶを離してくれた。
このバースデーケーキは、雛乃さん特製のものだ。
「みゃーこちゃんのために張り切って作ったら、なんか大きくなっちゃって。食べ切れるかな?」
嬉しそうな雛乃さんは、大和さんが取り分けてくれたケーキの乗ったお皿を渡してくれる。
「大和も雛乃もさぁ、みゃーこのことばっかりだけど、一応俺の誕生日でもあるからな?俺のお祝いも兼ねてるからな?」
「細かいことは気にすんなよ。ほら、みゃーこちゃん。食いもんもいっぱい用意したから、好きなもの好きなだけ食べてってね」
「だから、俺は!?」
「お前は勝手に何でも食うだろーが」
修斗さんと大和さんがめているのを笑いながら見つつ、
「みゃーこちゃん、いっぱい食べてね」
「はい。ありがとうございます」
雛乃さんにお禮を言って、両手を合わせて「いただきます」と呟く。
目につく料理を一口ずつ食べる。どれも味しくて、次々と手がびる。飲み込んでは口に運んで、咀嚼してまた飲み込んで。
そうしているうちに、どうしてだろう。視界が段々と霞んできて。
「みゃーこちゃん!?どうしたの?料理まずかった?」
雛乃さんが、焦ったように私の背中をる。
「みゃーこ?どうした?なんかあったか?」
「大丈夫か?水持ってくる?」
頰を伝う雫を拭いながら、首を橫に振る。
まずいわけなんてない。味しい。すごく味しい。味しすぎて、何故だか涙が止まらないんだ。
涙を流しながら、詰め込むように箸を口に運んでいく私を見て、三人とも心配そうにしていた。
次第に私は箸を置き、抑えられなくなった嗚咽をらす。
雛乃さんに渡されたティッシュを目に押しつけた。
「……みゃーこ?どうした?」
「ごめっ……何でもないんです。ただ、……嬉しくて……」
「嬉しい?」
「誰かに誕生日祝ってもらったの、……久しぶりだから……」
その意味を理解したのか、修斗さんは私をそっと抱き寄せる。
頭をポンポンとでてくれる手が、とても溫かい。
「來年も、一緒に祝おうな」
「そうだよ。またみゃーこちゃんのためにたっくさん料理作るから」
「うん、ケーキもね」
三人の溫かな言葉に、キューっとしていたがじんわりと元の姿に戻っていく。
向こうに行ってからは誕生日なんてあってないようなもので、ただ年齢の數字が増えるだけだった。
晴姉ちゃんから電話やプレゼントは郵送で屆いていたものの、こうやって直接祝ってもらうのは、本當に久しぶりだ。
三人の気持ちが嬉しくて。私のためにこんなに良くしてもらえるのが、幸せで。
子どもみたいに泣く私をからかうわけでもなく、優しく包み込んでくれる皆が大好きだ。
「……私、幸せすぎてこのままじゃダメ人間になっちゃいそう……」
照れ隠しに、涙を指で拭きながら言うと
「いいよ、なる?みゃーこなら大歓迎。俺が養うよ?」
ときょとんとした聲が聞こえた。
冗談のつもりだったのにまさかそんな言葉が返ってくるとは思わずに、涙も引っ込む。
顔を上げると、修斗さんがふわりと微笑んだ。
「俺無しじゃ生きていけないくらい、俺に依存してくれてもいいよ?むしろそうしよう?みゃーこが焼けするほどにべったべたに甘やかすから、もっと俺に縋ってよ」
「……それじゃ、本當に私ダメになる……」
「ははっ、まぁそれは半分冗談だけど。でもそれくらい俺はみゃーこに求めてしいし甘えてしいし頼ってしいよ」
今でも十分、甘えさせてもらってるし、頼りきってるし、いつでも修斗さんのことを求めてる。
「みゃーこは遠慮しすぎ。もっと俺に迷かけろ。もっと頼れ。みゃーこが自分でダメだと思うくらいの方が、俺にとってはたまんなく可くてちょうどいいよ」
引っ込んでいた涙が、またこぼれ落ちる。
「そうそう。そうやって、俺の前では我慢しなくていいの。泣きたきゃ俺ので泣けばいいし、笑いたきゃ俺の隣で一緒に笑ってりゃいい。言ったろ?みゃーこを今度こそ一人にしないって。ずっと一緒だよ」
やっぱり、修斗さんの言葉は、魔法みたいだ。
修斗さんに"ずっと一緒だ"って言われたら、本當にずっと一緒にいられる気がするから。
それだけで私は幸せをじる。
「ま、みゃーこがいないと生きていけないのは俺の方だけど」
「お前、マジで重い男だな。さっきのはもはやプロポーズじゃね?」
「え?マジ?どれ?そう聞こえた?じゃあ、みゃーこのご両親に挨拶に行かないと!」
「まだみゃーこちゃんの返事聞いてねぇだろーが」
「あ、そうだった。……みゃーこ。俺、ずっとみゃーこのこと大切にするから。俺、もうみゃーこがいないと生きていけないんだ。だから結婚してください」
「……私でいいの?」
「みゃーこじゃなきゃ嫌なんだって」
「……はい。私も、修斗さんが良い。修斗さんじゃなきゃ嫌だ。私とずっと一緒にいてください」
泣きながら答えた私を、修斗さんはキツくキツく抱きしめてくれた。
気を利かせてくれたのか、大和さんと雛乃さんはし席を外れてくれたようだ。
「指、一緒に買いに行こうな」
「うん」
「四ノ宮先生にも、ちゃんとお禮言いに行こうな」
「うん。來週、晴姉ちゃんも誕生日祝ってくれるって言ってたから、その時に」
「それって俺も行っていいやつ?」
「ふふっ……晴姉ちゃんに聞いてみるね」
こんなに幸せでいいのだろうか。
緩む口元を隠しきれない。
「みゃーこのご両親にも挨拶に行かないとな」
「じゃあ、それは今度の命日に」
「そっか。もう來月か」
先日は、一人でお父さんとお母さんのところに行った。修斗さんと付き合ったとか、晴姉ちゃんにはもう足を向けて寢られないとか、やまとさんとひなのさんが大好きだとか。
終始、明るい話しかしなかった。他も無い話がほとんどだ。
二人もそんな私を見て、しは安心してくれただろうか。
もうすぐ、二人の命日がやってくる。
今度は修斗さんと二人で會いに行こう。
その後、やまとさんとひなのさんが頃合いを見て戻ってきて、食事を再開した。
今度は穏やかに笑いながら無事にケーキまで味しく完食した私は、ホットチョコレートを飲みながら修斗さんと並んで座っていた。
やまとさんとひなのさんは店の奧で食を片付けている。
手伝うと言ったものの、主役は何もするなと言われてしまったのだ。
「みゃーこ」
「ん?」
「明日休みだし、今日みゃーこん家泊まっていい?それとも俺ん家泊まる?」
「あ……じゃあ……修斗さんの家にしようかな」
「ん。わかった」
答えると、二人が見ていないのをいいことに私を引き寄せ、を重ねる。
「なっ……」
驚いて睨むように視線を向けると、子どもみたいに無邪気な笑顔が視界にる。それなのにそこからは息を呑むほどの気が溢れていて。
ゴクリ。赤面した私に、修斗さんはもう一度キスを落として。
ホットチョコレートみたいな、とろけそうなほどに甘いそれに、翻弄される。
「……今夜は寢かすつもりないから、覚悟してろよ?」
離れたから発せられた言葉に返事をする前に、またそのチョコレート味の甘いキスで塞がれてしまう。
「してるよ、みゃーこ」
「……バカ」
End.
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