《アイアンクロス》西部戦線異狀あり③

「撃て!」

ミュラーがそう命じると、第7師団の數百の迫撃砲が合衆國軍A軍団の背後を攻撃した。

「強力な火砲は間に合わなかったが奇襲ならこれでも十分ですかね。シュペーア先輩ひとつ貸しですよ。」

開戦前、シュペーアは個人的に第7師団に援軍を要請していた。第7師団長ハインケル中將は引き続き北部の要塞化工事に従事し、ミュラーは第7師団から2個大隊を率いて西部戦線北部に増援として向かった。

一週間の強行軍により半數以上は離、最初の攻撃に參加出來たのは2個中隊500人ばかりであった。

ミュラーの攻撃により息を吹き返した帝國軍右翼はミュラーに呼応し攻撃を開始、制圧された地點を次々に再奪取し、戦線を再び元の位置まで押し戻した。

その中においてもミュラーの活躍は凄まじく、ミュラーの部隊が主攻になる時もあれば味方の攻撃支援を行うなど、で多彩な用兵で次々と敵を砕していった。

結果的にミュラーの部隊の損害は軽微なもので、対する合衆國軍は帝國軍右翼の側面に回り込んでいた部隊が各所で本隊と寸斷され包囲殲滅、または捕虜となり、1000名近い捕虜と、約500名という決してなくはない戦死者を出していた。

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そして戦線は最初の位置まで戻り、お互い膠著狀態になったところで一日目の戦闘は終了した。

その夜。

「ベルント中佐」

「なんでしょう?」

「今回もこれを頼む」

渡された手紙にはシュペーア指揮下のデュッセルドルフ大隊のことが書かれていた。

「後方の拠點の破壊…それからデュッセルドルフ大尉ですか…彼は確かシュペーア將の副の…」

「その通りだ、彼に手本を見せてしいって將から中佐に直接ご指名があった」

「私ですか…」

「そうだね。シュペーア先輩も報網は広い。中佐の名前くらい知ってるさ“兵站破壊のベルント”まぁ先輩以外でも名のある高級將校はみな知ってると思うけどね」

「そうですか…それで、明確な時間と目標を教えていただきたいのですが…」

「出來れば今夜、夜明け前には開始してしい。目標は敵後方にある武、弾薬、食料、諸々全てを破壊し盡してきてもらいたい。厳しいものになるだろうがよろしく頼む」

「戦力は…?」

「最初は2個小隊で頼む」

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そういうとミュラーはもう一枚紙を手渡した。

「これは…」

「今デュッセルドルフ大隊が潛伏している村などの所在地だ。敵後方を攻撃しつつこれらの味方をを吸収して來てしい」

「點でバラバラですね…できる限りのことは盡くします…ところで資は現地調達で…?」

「いや、今回は負傷してる味方が多い。持てる限り包帯などの醫療品をもって行ってしい」

「了解しました…」

話から數時間後、ベルントの部隊は闇夜の中に消えていった。

二日目、北側では出鼻をくじかれた合衆國軍の攻撃は一日目に比べ比較的緩く、各所で小競り合いのような戦闘が続いていた。最北部に至っては數を揃えたミュラーの遊撃部隊が合衆國軍陣地を各所で砕し、むしろ一部後退する部隊まで出始めていた。

中央と右翼の中間を守るシュペーア旅団は相変わらず善戦していたが、その陣中にシュペーア本人の姿はなかった。

彼は何故か逆側の中央と左翼の間。シューマッハ大佐が守るもうひとつの丘の上に居た。

「シュペーア將、こんなところで何をされているのです?持ち場を離れるとは」

「いや、まぁ同じような立場で防衛をしてる大佐の戦が気になってね。見に來ただけさ」

「特にこれといったことはしてません。教本通りの防衛をしているだけです。將は早くご自の持ち場に戻られてはいかがです?」

「つれないじゃないか大佐。ところで合衆國軍は強いかい?」

「強いですね。今のところこちらの損害は軽微ですが」

シューマッハが次の言葉を紡ぐ前にシュペーアは指すように一言言い放った

「いや、強くないよ合衆國軍は」

「は?」

「合衆國軍が強いのは君のせいだよ大佐。いや、売國奴」

「なんのことですかな?帝國を売った覚えなどありませんが…」

周囲の將校達の手が止まる。目の前で起きてる狀況を飲み込めていないのだ。

「シューマッハ大佐…いや、ニコラ・ド・ガンズビュール。10年前まで帝國と合衆國の間にあったもうひとつの帝政國家その國の名家だったガンズビュール泊のその嫡子…まぁ全て調べさせてもらったよ。我々に國家を滅亡させられその恨みから合衆國の甘い言葉に乗ったんだろう」

「チッ」

シューマッハもといガンズビュールは舌打ちすると両手を上げた。

「こうなってしまってはもう抵抗も出來ま…」

最後までいい切る前にシュペーアは語気を強めに警告した。

「もうお前の手のものは全てこちらで抑えた。無駄な抵抗はやめろ」

シュペーアがそう言い放つと陣中に憲兵隊が突し、その場を制圧した。

憲兵はガンズビュールを取り押さえ、検査したところ短剣や正規に支給されていたピストルとは違う合衆國製のピストルなども押収された。

その日は元シューマッハ隊の指揮をシュペーアが代行し、帝國軍は部的にも無事に耐えしのいだのであった。

「で、シュペーア將。今までの獨斷専行はどのような経緯でこうなったのだね?」

西部方面軍司令のシュタイナー元帥はシュペーアを尋問した。

「いやまぁ誰も私の話なんて誰も聞いてくれないでしょうし、自分の部隊もそれなりに削られるわ、下手したら既に防衛線も突破されてるわみたいな狀況になってたかもしれないんで。結果的に全軍を守ったのは変わりないんで不問にしてもらえないですか?」

シュタイナー元帥は苦悶の表を浮かべていた。確かにシュペーアの行が無ければ西部戦線は既に崩壊をはじめており、かといって第7師団に対する勝手な援軍要請や、獨自の裏切り者達の調査摘発といった行は全軍に示しがつかない上に、裏切り者の件に関してはシュタイナー他上層部の判斷ミスなども否めない狀況であり、シュペーアの処遇に関してはかなり難航した。

とはいえ現狀シュペーアの指揮は戦闘に欠かすことは出來ないので、結果的に一旦保留という形になった。

「この戦闘が終わったら更迭とかされんのかなぁ…減給とかですまないかなぁ…いや、減給は困るな…新居勝ったばっかりだし…まぁいいかいきなり死刑にするような國じゃないはずだし…」

そんな事を口ずさみながらシュペーアは自の守る丘へと帰還した。

なお南の丘は西部方面軍の中でも防衛戦に定評があるフィッシャー大佐があてがわれたのであった。

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