《2番目の村娘は竜の生贄(嫁)にされる》
「で?どうだった?」
休暇明けのリオン王子の執務室で、私は新婚生活について問われていた。噓はつけないので
「はい!実家にて、ジュリエットさんが…、姪たちに腕を齧られまして、ほとんど療養しておりました!!」
と言ったら流石に王子は
「はあ!!?お前達…、何なにをしてるんだ!?子作りは!?」
「し、してません。…怪我をしているのですよ?」
いくら王子命令と言えど、怪我をしている人間に変なことも出來ないだろう。
王子は額ひたいに皺を寄せた。
「…キスくらいはしたんだろうな?」
「……………」
「おい!?どうなんだ!?」
「…………いいえ…」
盛大なため息がした。
「お前は、嫁を何なんだと思ってるんだ?ただのペットか!?」
「い…いいえ…」
「東の空島そらじまのイートン伯爵領から、蟲歯発癥者が出たと報告が上がっている…。
これはお前達にがないからだと思う。…50年毎の竜族と人間の結婚では…、初夜を共にした男であれば、発癥者は無かった。
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しかし今回は違う。いくら意図した結婚では無いにしろ…、これは前例がないから、何なんとも言えないが、一度もする行為を行わないのなら、結婚とは言えないのではないのか!?だから発癥者が出た」
「発癥者は…、本當に呪いですか?」
「ああ、昔の文獻と同じ、自力で引き抜いても次の日には違う歯が蟲歯になった。早過ぎる!染者の娘は隔離されたようだ…」
「………誠に申し訳ありません!なにぶん…、急な結婚であり…。な、何なんなら、私でなくとも、他ほかの者でもいいのではと…。ジュリエットさんはお金持ちのイケメン男をお求めでしたし!!」
と言うとリオン王子の鉄拳を食らった!!
何故だ!!?
バキィと音がして、私は床にくずおれた。
「アホか!!お前のヘタレさには反吐へどが出る!一生結婚しないつもりか!いや、違うな、する者を作らないと言うのか?」
「ううううっ…、王子…王子…」
と私は泣いた。
「お前マジで、いい加減にしろよ?昔からの親友だから結婚させ、幸せに家庭を作るべきだと俺はお前にいくつも見合い話を寄越しよこしたよな?」
と怒鳴られた。
………そうです。私はいくつも見合いをしてきましたが、今は仕事が大事だからと、毎回斷り続けた。今回の人間との結婚は命令と言えど王子なりの気遣いであった。違う種族同士なら興味を持つと思ったのだろう。
「お前の仕事脳はどうかしている!たまには休んだ方がいいのに、休暇を與えれば、仕事を家いえに持ち帰り、こっそりしてくるし!」
「………し、しかし、いきなりの結婚で、頭がついていかないというか、人がいた事が無いもので、どう接すれば判らず、戸ってばかりなのです!!」
と私は泣きついた。
リオン王子は綺麗な顔を歪め、
「俺は結婚に向けて、フィリスと準備する事にした。フィリスに子が出來たそうだ」
「えっ!!?それは!!おめでとうございます!!」
と祝福した。これから結婚の準備で忙しくなる!手配することが多くなるだろう!
「お前…そう言えば、式を挙げてもいなかったな。婚約指すらも與えていないのではないか?」
「はっ!そ、そう言えば…、家いえは買いましたよ?」
と言うと
「うむ…、何なんというか、親友としてお前には幸せになってしいものだ。あの娘が気にらないなら、お前のいう通り、他ほかの者との結婚も改めて考えることにする。
今年中が期限だ。竜族が滅ぶ前に、お前があの娘と仲良くなるか、他ほかの者を紹介するか選ぶがいい!!」
と言われた。一瞬だけチクリとしたが、ジュリエットさんに、辛い目ばかり合わせている私としては、彼には幸せになる権利があるだろう。
「ああ…、言い忘れていたな…。50年毎の花嫁…。竜族はもちろん花嫁と結婚して子作りをしたことが記録に殘っている。呪いは発癥せず、今日まで平和な均衡を保っているが…。その後…夫が我慢出來なくなり、花嫁を餌として食ってしまったことだ」
ビクリとした。
「俺とフィリスは、人間には興味がないし、餌としても見れんが…。お前もだろう?そう言う意味でも、あの娘の夫は、お前しか務まらないと思っているから結婚させた…。
この先…、他ほかのあの娘の夫候補が、彼を餌として見ないかどうかは判らん…。大抵の者は餌として見るだろう。姪たちに齧られたのがその証拠だ。子供は我慢が効かないからな」
ジュリエットさんに怪我を負わせたのは、私のせいだ。もっとちゃんと、言い聞かせていれば…。彼もこの結婚に乗り気ではないようだし、探せば餌として捉えない者がいるのではないか??ただし、イケメンで金持ちというのが條件か!厳しいな!!
「次の夜會で結婚発表をするから、それがチャンスだな!嫁に勧めてみろ!浮気をな!」
う、浮気…。
まぁ、一応結婚しているし、そういう事になるのか…。夫公認の浮気…、聞いたことはないが、ジュリエットさんを心からする者が現れれば、私も離縁の準備はできよう。
*
その日の夕方、仕事が終わり、私は部屋に帰ると、私の部屋の機にちょこんと、クッキーという人間の食べが置いてあった。竜族は基本はや魚を好む。野菜も食べる草食派もいるが。甘いオヤツを食べる習慣があまりない。珍味好みはいるだろうけど一部のマニアックな連中だろう。それに蟲歯を恐れて率先して甘いものは取らないようにしている。
メッセージが付いていた。
(クレイグさんへ
お疲れ様です!甘いものを食べると、疲れが取れると私達の間あいだでは語られています。
何故なぜか、ここには、あまり甘味かんみがないと思いまして…、果はたくさんありましたが…。だからクッキーを焼いてみました。
私は村で、2番目に料理だって、お菓子作りだって、上手なんですからね!!ポーリーナには負けたけど!!)
「…………」
私は包みを見つめた。
捨てるべきか!?
でも、そんなことをしたら、彼が悲しむのでは?いや、誰も見ていないし。
ゴミ箱の前で包みを持ち止まった。
これを作るのに侍長が怒らないはずがない。きっと自分用にと言って作ったのだろう。
私はソファーに座ると、包みを開けて食べ始めた。
…甘い…。
蟲歯になったら…、と考えなかったわけではない。彼に「食べましたか?」と聞かれたら、私は正直に言うだろう。捨てましたと。
そうしたら悲しむかもしれないし、蟲歯のことを話せば、解ってくれるかもしれない。
しかし、悲しんだら…
と思うと、ツキリとがまた痛んだ。
雙子に犬を食われた時も悲しくて數日落ち込んでいたが…、今回はただの想像にが痛むとは…。
ジュリエットさんを餌として見ない金持ちのイケメンが現れれば、彼も幸せに私から去れるだろう。
きちんと話そう…。
と私はクッキーを全て平らげた。
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