三日後に開催されるギルド対抗戦が終わるまでの間、

ギルド関係者はこの宿に泊まる事が決まっている為、

宿は貸し切り狀態である。

當然サービスは行き屆いており、

何不自由なく過ごすことができるので、ソフィたちも満足気だった。

「うむ、素晴らしい宿ではないか。

部屋にはレグランの実が常備されているしな。」

部屋にあるものはサービスなので、

遠慮なくソフィは、レグランの実を齧る。

宿の食堂でさっきまで皆で食べていたが、

宿の近くの酒場にディラックたちが移した為に、

今この部屋にいるのは、ソフィとリーネだけであった。

本當はソフィも飲みに行きたかったが、

見た目が十歳である為に、ディラックたちに止められたのである。

この世界では十六歳で人と認められており、

人するまでは、酒は飲めないのであった。

當然のようにソフィが殘ればリーネも殘るので、

この部屋に二人という訳である。

「それにしてもリーネよ、

お主ギルドの話をしていた時に、しおかしかっただろう？」

リーネはそのことを聞かれると、半ば分かっていたのか、

素直にコクリと頷いた。

『ええ、リルバーグに所屬する冒険者、

ランクAのス・イ・レ・ン・は、私の兄よ。』

「やはり縁関係だったか。」

『………私たち忍者は、時代に取り殘された者たちの集まりでね、

周りの人たちがギルドを活用するようになっても、

私たちは裏の組織として依頼されたときのみき、

任務を達すればまた表の世界からは消える。

そうやって生きていくことを親の代、

そのまた親の代から義務づけられてきた。』

でも……。と、

そこで話を一度切りそこでリーネはソフィを見る。

『私の兄は突然父の反対を押し切って、

里を捨てて王國軍に仕えようとしたの。』

だんだんと苛立ちをじられるような聲に変化していく。

ソフィはベッドをから起こして、

リーネの話に関心を示して、真正面に見據える。

『………父とその側近が、兄を止めて一度は踏みとどまらせたの。』

「それはお主が何歳くらいの時なんだ？」

『五年前だから、私が九才になったばかりの頃ね、

それから半年間は、大人しくしていた兄なんだけど、

半年後に、突然私の父が何者かに暗殺されたの。』

「………。」

『犯人は分からずじまいだったけど、

影忍として里の最強であった父を、暗殺できる者なんて限られている。』

「お前の兄がやったのか……。」

頷きはしなかったが、リーネから否定もなかった。

『そして影忍の次の統領として、兄が継ぐことになっていた為に、

兄は里の長になったのだけど、兄は突然こう言ったわ。』

『この土地をルードリヒ王國の領土として明け渡し、

我々は傘下の忍びとして、ルードリヒ國王に仕えようと。

當然里の皆は反対したけど、でも里の長は兄だし力も兄さんには葉わない。

渋々と、影忍の里は王國の傘下となったの。』

リーネは當時を思い出したのか、語る顔がどんどんっていく。

『すぐに影忍の里にもギルドが設立されて、

里で戦えるものは、冒険者として働かされた。

そしてしずつ他の町からも人が里にってきて、

ギルドとしての活が本格的になっていった頃、

我顔で里を歩くヨソ者たちに、里の皆は不満を持ち、

どんどんと里を離れていった。

気が付けば里は完全に王國の支配下の一つの町になり、

名を【リルバーグ】と変えて影忍の里はなくなった。

兄さんの……スイレンの自分勝手で父は殺されて、

故郷がなくなったというわけ。』

全て話し終えたのか、俯いて語っていたリーネは顔を上げて、

困ったような顔を浮かべていた。

リーネの話では確かにスイレンは、

自分勝手に行して、里を滅茶苦茶にした奴なのだろう。

しかしとソフィは考えた。

（………もしスイレンが世相と逆行する里の事を想い、

王國に取りることで、里を殘そうと考えていたとしたらどうだろうか。）

リーネからの話だけでは結論は、

結局出ることはないだろうと考えたソフィであったが、

相當にスイレンの事が気になったのだった。

『結局ソフィには全部言っちゃったわね。

誰にも喋るつもりなんてなかったのにな。』

「安心するがよい、我は誰にも言うつもりはないぞ。」

『うん。そんな心配はしてないよ、

それより対抗戦、無理はしないでね。』

そういってリーネは宿の自分の部屋へと戻っていった。

誰もいなくなった部屋で、ソフィは過去の自分を思い浮かべる。

ソフィがこの世界に來る前の最後の戦いで、

勇者に圧・政・を敷いていると言われた。

しかし、ソフィがアレルバレルを統治している數百年間、

人間も魔も一定以上の安寧がもたらされてきた。

ソフィが魔王となる前、アレルバレルは人も魔も、

とてもではないが住めるような世界ではなかった。

ソフィ達、魔族が住んでいる【魔界】と、

人間のみが住んでいる世界【人間界】。

どちらの世界もそれぞれ別の理由で、荒れていたのである。

人間の世界は皇帝と呼ばれた人間と、

その取り巻きの一部の人間が國稅を私に使い、好き勝手を働き。

我々魔族の世界はあらゆる魔族達が、世界を支配しようと企み、

広大な大陸を侵略し合いながら、自分達の軍勢が生き殘る方法しか考えず、

敵対勢力を躙する事ばかりの毎日であった。

しかしこのままだとアレルバレル自が滅ぶと、

そう懸念したソフィが、たった一人で立ち上がり、

大陸をその圧倒的な”力”で治めて行った。

ソフィの強さに憧れた魔族達は、

次々とソフィの軍門に下っていき、自らの軍勢を作り上げて統治を始めた。

魔界を鎮圧した後は、滅びの道へ突き進んでいった人間界にも乗り出し、

悪の巣窟と恐れられた帝國に向かい、

皇帝であった人間を亡ぼし、人間にも理解がある配下を大臣として送り込み、

人間の王を選定してアレルバレルの統治を始めたのが數千年前だった。

しかし、人間の壽命は短い。

民を想うよい國王が統治する時代もあれば、かつての皇帝ほどではないにしろ、

民を考えずに私に走ろうとする王もいた。

そしてある時、

”それならば我が魔王として君臨する間、人間の世界も含めて統治して

誰もが平等に過ごせるようにしてやればよいではないか”。

と、ソフィは考えつく。

死という概念がない魔王が統治し続ければ、

魔も人間も一定以上の安寧を得られる。

結果、今に至るまで統治をし続けられたのだった。

だが、人間を襲うなという命令を律儀に守らない魔も中にはいて、

襲われる前に滅ぼすと考える人間が、

勇者となって魔王城に乗り込みソフィを狙う。

これはやはりいつの時代になっても変わらず、

そのたびにソフィは仕方なく、勇者を亡ぼしてリセットを繰り返した。

ソフィは魔王ではあるが、暴君ではない。

ソフィは魔王ではあるが、人間が嫌いではない。

「………我はレグランの実があれば、この世界でも生きていける。」

そういってソフィは、柄にもなく過去に耽っていた自らを笑って、

グランのギルドメンバーたちが、宿に戻るのを待つのであった。