《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》2-2
2-2
そこからは、よく覚えていない。俺はぐずぐずの斜面を猛スピードで転がり落ちて行って、天と地とが何度もひっくり返って、藪にしこたま突っ込んで……斷片的だが、そんなじだった気がする。
どすぅん!
「ぐえっ」
でっかい木にぶつかって、俺のはようやく靜止した。
「いってぇ!つうぅ〜……」
『つくづく落ちるのが好きな人ですね』
「好きなわけじゃ……けど良かった、折れてはないな。アニもヒビってない?」
『あの程度で壊れはしませんよ。私も、あなたも』
「いやいや、俺は人間だからね。あっさり壊れるよ、人間」
今まで奇跡的にケガをしてないけど、運が悪ければ全治何カ月じゃすまなかったかもしれないのだ。そう考えると、ちょっと恐ろしい……けれどもアニは、俺の言葉を否定する。
『あなたは人間である以前に、勇者ではないですか。頑強さは並の人間以上なんですよ?』
「え、そういうもんなの?その勇者っての、単なる肩書き?だと思ってたんだけど」
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『なわけないでしょう。あなた、まだ召喚された事実を消化し切れていませんね?』
「いやぁ、漫畫とかではよく聞くけどさ。流石に當事者になっちゃなぁ。すんなりハイそうですかとはならないよ」
『そうですか。あなたぐらいの世代の勇者は、大抵すぐ狀況をけれますけどね。我々によく“ステータス”を要求しますよ』
「みんな適応能力高いなぁ」
その時ふと思ったけど、そうか。この世界には、俺以外にも勇者がいるかもしれないんだな。そのうち同郷の仲間にあえるだろうか。かつて俺がいた場所……もしかしたら、俺みたいな境遇だったやつも……
『……もしもし、聞いてますか?』
「へ、ああ。悪い、ちょっとぼーっとしてた。なんだって?」
『いえ、とはいえ頑丈さにかまけるのもよくないでしょう、と。用心に越した事はありませんから、ここでひとつ、護衛を召喚しておきませんか?』
「ごえー?」
『あなたはネクロマンサーですよ。本來は死霊を召喚して初めて戦闘が可能になる、後方支援系の能力です』
「あー……だよなぁ。俺もそういうイメージだ」
ゾンビの大群の中で、一人怪しげなを行使する悪の魔師……ネクロマンサーって、なんかそういう印象だ。自分で言ってて悲しくなる。
「でもなぁ……ゾンビなぁ……うーん」
『しのごの言ってられないと思いますよ。後ろを見てください』
「後ろ?」
後ろったって、俺がぶつかった巨木があるだけだ……けど、木にしては枝がほとんど無いな。つるっとした幹は、先に進むにつれてどんどん細くなっている。大きなタケノコみたいだ。
「変わった形の木だな?」
『でしたら、橫に回り込んでみてください』
俺は言われた通りにぐるりと回り込む。するとすぐそばに、そっくりな木がもう一本生えている事に気付いた……いや待て、一本どころじゃない。一定の間隔で、同じ木がいくつも生えている。
「これってもしかして……牙?」
『おそらくは。大蛇か、もしくは竜のアギトではないかと』
竜!ドラゴンってことかよ!
「すごいな……この世界ってドラゴンまでいるの?」
『います。そうホイホイと出會うモンスターではないですが……骸があるということは、この森に生息している可能があります。とすれば、ここは非常に危険な場所ということです』
「あ、やっぱりドラゴンってヤバイじ?」
『ヤバイじですね。履歴を參照すると……過去にブレスで跡形もなく吹っ飛ばされた勇者が二人います。それ以外にも噛み跡から腐食して溶けたのが一人、尾に潰されてペシャンコになったのが一人……』
「うわぁ……オッケー、わかった、想像するのはやめよう。とりあえず、安全第一ってのは俺も賛。でもさ、死霊の召喚ってどうやるんだ?」
『既に一度やっているではないですか。あの骸骨剣士を召喚したのは、他でもないネクロマンスの力です』
あ、あれってそうなのか。ネクロマンスとしては意識してなかったけど、そう言われれば確かにそうだな。
『より的に言うなら、この世に未練を殘して留まる魂を、自分の魂と同調させる事で使役を可能にします』
「んー……?」
『言葉より、実際に試したほうが早いかもしれませんね。でしたら、ここは好都合です。そこら中彷徨える魂ばかりですから』
え゛。マジ……?
「それって、幽霊ってことだよな?」
『ええ。意識すればあなたにも見えてくるはずです。集中して』
「むりムリ無理!俺、霊なんてからっきしだよ!絶対見えない!」
『いや、そんな頑なに否定しなくても……だいたい、あなたの能力の関係上、そのうちいやおうなしに見えてきますよ』
そう言われると、本當に見えてきた気がする……いや、これ気のせいなんかじゃないぞ。俺の目は、青白い魂が辺りにふよふよ浮かんでいるのを、はっきり捉えはじめていた。
「見えるもんだね……」
『それがあなたの能力ですから。次は右手を出してください』
「み、右手?こうか?」
言われた通りに右手を突き出す。
『では、私に続いてください。これが始語……あなたが能力を使う呪文になりますので』
「呪文?あれ、能力使うのって呪文いるんだっけ?」
『より高度な能力の使用をする場合、魔力の出力量を高めるために詠唱が必要なんです。簡単なものは省略できますが』
「へぇー」
『では、気を取り直して……我が手に掲げしは、魂の燈火カロン』
「わが手に、え?なんだって?ていうか呪文って、そういうじなの?」
『だからそうだって言っているでしょう。ほら、続いて』
まるでマンガか何かみたいだな。俺はし恥ずかしかったけど、とりあえず素直にアニに続けることにした。
『「我が手に掲げしは、魂の燈火」』
『「汝の悔恨を我が命運に託せ。対価は我が魂」』
『「響け」』
『「ディストーションハンド!」』
ぶわぁっ!
「うおお!なんだ?」
俺の右手が!まるで炎のようにブレて、郭を失っている!
『今です!死霊の魂にれてください!』
「えっ。こ、こうか!」
俺は近くに漂う青いもやに、実を失った右手を突っ込んだ。ボンッ!その瞬間、もやは一度激しく燃え上がったかと思うと、そのを淡いピンクへと変えた。
「わっ。これは……?」
『功です。これでその霊はあなたの軍門に下りました』
「おお……思ったより簡単だな?」
『今回は低級霊相手というのもありますがね。彼はレイス、霊魂型の死霊の中では最も下等な部類にります』
「へぇ。浮遊霊みたいなもんか」
『似たようなものです。ただし、純度は低いですね。この森には無數の殘留思念が漂っているせいで、互いに溶け合っているようです』
ん、どういうことだ?幽霊同士溶け合ってる?俺はピンクになったもや……もといレイスを眺めてみた。するともやの中にも、何かの形があるのがわかった。よ〜く見てみると、それは無數により集まった人の顔だった。
「……!……!」
『どうかしましたか?』
「いや……アニの言ってる意味がわかったから……」
『はあ。よかったです』
とりあえず、忘れよう。これに手を突っ込んだことも、一旦忘れよう。
「そうだよ。今はこいつも俺の頼れる仲間なんだ。気味悪がっちゃ失禮だよな。よし、気にしない!」
『あまり頼りにはなりませんがね。レイスは実がないので、護衛には不向きです』
「あ、そう……」
『ですが、偵察役にはうってつけです。もう二、三人レイスを使って、周囲を探ってもらいましょう』
「……わかった。ええっと、なんて呪文だったかな」
『あ、以降は最後の部分だけで大丈夫ですよ。あんな長々言う必要はありません』
「へ?じゃあ、なんで」
『最初の一回は、ああいう長い呪文のほうが趣があるでしょう?ほかの勇者には大変好評とのことで、私も取りれてみました』
な、なるほど。アニがやたら俗っぽいのは、こういうのを真にけてるからなのかもしれない。
『たいていは最初だけで、あとは面倒なので省略されることが多いです。レイス程度なら、始語もいらないくらいですね』
「そっか。じゃあ、ちゃちゃっとやるかな」
つづく
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