《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》2-3
2-3
俺は腹をくくると、呪文を唱えて、もう二のレイスにれた。すぐに三つのピンクのもやが出來上がった。
「これくらいいれば足りるか?」
『十分でしょう。後は、彼らに指示を出してください。簡単な命令なら、このレベルのレイスでも理解できるでしょう』
「わかった。えーと、お前たち。俺は今、の子を探してる。そのの子の手掛かりと、その邪魔になるモンスターがいないか、辺りを探してきてくれないか」
俺はなるべく分かりやすい言葉を選んで、レイスたちに命令した。伝わるか不安だったけど、幸いレイスたちは、すぐにそれぞれ分かれて飛んでいった。
「お、行った行った。うまく行くといいけれど」
谷の底は立ち込める霞が一層濃い。この視界の悪さじゃ、探しは大変だろうな。その點、偵察役がいるのはありがたい。俺はここでただ待ってればいいだけだ。
「どっこいしょ」
手ごろな木の元に腰を下ろして、辺りをぼーっと見回してみる。と言っても、霞んでで遠くまでは見えないんだけど。高い枝葉のせいで、森は薄暗い。だが木々の合間に時おり、青くるレイスがちらりと見えた。まるでホラー映畫みたいなシチュエーションだなぁ、なんてのんきに思っていたけど。けど、あいつらって、いわゆる幽霊なんだよな……ってことは、もしかして悪霊とかもいるんじゃ……ああ、余計なこと考えるんじゃなかった。背筋がうすら寒くなってきたじゃないか。
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『……けれられました?』
「へえ?」
唐突にアニが話しかけてきて、俺はすっとんきょうな聲をあげた。
「けれたって、なんのことだ?」
『死霊をる、ネクロマンスという能力を、です。さっきもレイスを気味悪がっていたではないですか。もっとも、大抵の勇者はそういう反応をしますけど』
「ああ、うーん。正直、まだ完全には。最初はええーって思ったし」
『やはり、そうですか……』
こればっかりはどうしようもない。それに俺は、とある理由もあって、折り合いをつけられずにいる。
「けど、いつかはけれられるようにしたいと思ってるよ」
『それは、なんでまた』
「だってよく考えたらさ、これも俺の才能の一つなんだよな?だったらまず俺が好きになってあげなきゃ、って思ったんだよ」
『……好きに、ですか?』
「うん。自分のことは、まず自分が好きにならないとな。それに結構便利じゃないか?ネクロマンスって。おかげで俺はこうして楽できてるし」
『……ふぅん。変わった人ですね』
「そうかな?」
『ええ、かなり。あ、それよりも。レイスたちの一人が戻ってきたようですよ』
「え、もう?早いな」
『彼らは霊ですから。言葉は発せませんが、彼らが見聞きしたものをイメージとして共有できるはずです』
イメージとして?どういう意味だろう。やがて森の木々をって(正確には突き抜けているように見えたが)レイスが一戻ってきた。
「お、きたきた。って、うおお!?」
レイスは飛んできた勢いのまま、俺めがけてつっこんできた!とっさのことに避けようと思ったが、足が絡まってしまった。倒れる俺の顔面に、レイスが飛び込んでくる。目の前が、ピンクのレイスでいっぱいになり……
(わっ。なな、なんだ?)
突然、俺は森の木々の間を吹っ飛んでいた。いや、俺のは確かに地面の上にいる。手のひらとおに、い地面のがあるからだ。けれど頭の中には、森を駆けぬける映像が鮮烈に流れていた。
(これがアニの言っていた……イメージの共有ってやつか?)
ということは、これはレイスが見て來たものってことなのか?確かに視界はふわふわ浮いているし、時たま太い木をそのまま突っ切ることもあった。はは、超リアルなVR映像みたいだ……
(ん?あれって)
やがて映像は、何かに気づいたようにゆっくりになった。すぐそばの苔むした木々のすき間を、小川がチョロチョロ流れている。川のふちは地面がぬかるんでいて、そこにレイスは近づいていく。
(これって……足跡だ)
地面に殘された、小さな足跡。形を見るに、人間のものだ。
(それも、小さな子どもの)
その瞬間、俺の意識は唐突に現実のへと戻ってきた。
「ぶは!」
『どうでした?有益な報はありましたか』
「はれ?俺、どうしてた?」
俺は転んだ時の制のまま、地面の上に座り込んでいた。けど、さっきまでのふわふわした浮遊はまだ殘っていて、俺は思わず両手で地面にふれた。
『どうって、白目を剝いてピクピクしてましたけど』
「ええー!カッコ悪い……」
『死霊とのはだいたいそんなじです。それより、得たものはあったんですか?』
「そんなじなのか……このし先に川があってさ、そこに足跡があったんだ。例のの子のかもしれない」
『なるほど……手がかりとしてはし弱いですが、そこから後をたどれるかもしれませんね』
「だろ?だから……お?」
さっきのレイスがふらふらと、俺にまとわりついてくる。こいつ、案外ひんやりしてるんだよなぁ。
「なんだなんだ。なにしてるんだ?」
『ああ、“報酬”をほしがっているんですよ』
「報酬?え、もしかして俺の命とか」
『まさか。彼らは死霊、もう死んでいます。とあれば、あとは冥府に行き著くことこそが至上のみ』
「……つまり、仏したがってる?」
『そういうことですね。魂が死霊としてこの世に留まっているということは、未練、後悔、悔恨、そういったものをこの世にしてしまっているからです。彼らの場合、長く留まるうちに、最早何を悔いていたかも分からなくなっているのでしょう』
「ふーん。それってどうすればいいんだ?」
『本來は未練を晴らすことが必要ですが、その域まで行ってしまった魂は、強制的に送ってやるしかありません。ですが、無視してしまって……』
「あ、そうなんだ。じゃあなレイスくん。あっちでも元気にやれよ」
ぽん!俺がレイスに一聲かけると、レイスは淡いを殘して霞のように消えてしまった。
「わっ。ホントに消えた……」
『ちょっと!言ったそばから何してるんですか!』
「いまのが、仏したってことかな」
『そうですよ!だからそれをしないようにと』
「だって、十分役に立ってくれただろ?それくらい葉えてやってもいいじゃないか」
『だからって、それじゃ使い魔が増えないじゃないですか!死霊の軍勢を率いてこそのネクロマンサーなんですよ?』
「いやまあ、そうなんだけど……気持ち的に、というか」
『気持ちって。あんな低級のレイス、人としての心なんて持ち合わせてないんですよ。どちらかといえば獣に近い、ただのモンスターなんです。そんなのにいちいちをかけていたら、キリがありません!』
「いや、にほだされたというわけでも……」
『じゃあ、なんなんですか!』
「……あぁー、もう!じゃあ言うけどな!俺は、ホラーとかめちゃくちゃ苦手なんだよ!」
『はぁ?』
そうなんだ。俺が、ネクロマンサーをけれられない理由。それは、幽霊やく死……いわゆるお化けが大の苦手だからなのだ。
「なんでお化けって、あんなおぞましいかっこしてんだよ!顔は怖いし、はグロいし!ゾンビなんて、臓出てんだぞ!俺、とか痛いのってホント無理なんだよ……」
『それは、また……』
「それに今までは、あくまでフィクションだったけどさぁ。この世界じゃそれが現実リアルなんだろ?そう思ったら、どうにも……」
『つくづく、呪われていますね。どうして貴方がネクロマンサーなんでしょう』
「俺もそう思う……」
『しかし、それほど苦手なんでしたら、よくこの森にってこれましたね?ここはあなたの言う、ホラーそのものではないですか』
「うぅ~。我慢してたんだよ、ほんとは怖かったけど。ばあちゃんに、約束しちゃったし……」
『貴方の中では、自分の苦手よりあの老婆との約束が優先されるんですね……ほんとに、おかしな人です』
アニはふうとため息をついた。呆れられたかなぁ。
『貴方の意見は理解しました。ただ、今後も死霊の召喚を控えるつもりですか?先ほども言いましたが、ネクロマンシーは死霊をってこそ真価を発揮する能力です。貴方は並の人間よりは強靭ですが、能力なしではこの先危険な目に合うかもしれません』
「うん……さっきのレイスとかは、まあ大丈夫かなってじなんだ。ただ、あれがもっとうようよ、しかもずーっとそばにいるってなると、どうしても……」
『……わかりました。確かに、頭數だけそろえればいいというものでもありません。私たちは、數鋭の方針で行きましょう』
「うん……ごめんな、面倒かけて」
『いいえ。字引は意見しません。あなたの決定に従いましょう』
「そっか。サンキューな」
さんざん意見された気もするが、きっとこれがアニなりの気遣いなのだろう。
「じゃあ、せっかくレイスが見つけてくれたんだ。この先の小川に行ってみようぜ。レイスも今頃、あの世で喜んでるだろうし、こっちだっていい手がかりが見つかるはずさ」
『といいですがね。はぁ、難儀な主人を持ってしまった』
アニのぼやきに、俺はへへっと笑った。
つづく
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