《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》3-2

3-2

『……ここまで來れば、とりあえずは大丈夫ですかね』

ひとしきり走ると、巖がごつごつと連なる崖に出た。山崩れでもあったのだろう、ひどく荒れている。ちょうどを隠せるほどの巖の隙間を見つけたので、俺はそこへり込んで一息ついた。

「はぁ、ふぅ……こんなに走ったの、久々だよ。けど思ったより力ついてたんだな」

昔は百メートルも走れば息も絶え絶えだったのに。けどそこにすかさず、アニが突っ込みをれてくる。

『だから、あなたは勇者なんですってば。力だってコボルト以上にあるんですよ』

「たとえがよくわかんない……」

なんだよコボルトって。小さいボルトか?それってすごいのか、すごくないのか……?

「って、今はそれどころじゃないな。アニ、あの鬼についてどう思う?」

『非常に危険だと判斷します。強力なアンデッドを使役しなければ勝機が見えません。レイスなんかじゃ歯が立ちませんよ』

「ああ、そうなんだけど、そうじゃなくてさ。なんか引っかかるというか、気付かなかった?」

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『はい?危険な怪、以外に必要な報がありますか?』

「えっと、そうじゃなくて……」

俺はさっきの鬼について、気づいたことがあった。そのことについて、どうしても話しておきたいのだ。

「あ。アニ、あの鬼が現れる前、何か言いかけてたよな。なんて言おうとしてた?」

『ああ……今私たちが探しているについての、憶測です。三年前に行方不明になったが、今も活しているとしたら、それについて一つの懸念がありました』

「それは?」

『……が、何らかの要因でモンスターになっていることです』

「やっぱりか……」

『気づいていたんですか?その可能に』

「いや。ただ、なんとなくそうかなって思ったんだよ。さっきさ」

あの鬼を振り返ったとき。ほんのわずかな時間だったけど、俺は確かに聞いた。

「さっき、あの鬼が俺に向かって何かをんだんだ。最初はただの咆哮かと思ったんだけど、今思い返してみれば、あれは言葉だったんじゃないかな」

『言葉、ですか?』

「ああ。俺には、あれは“返せ”って言ったように聞こえたんだよ」

返せ。それはつまり、俺が持っている何かを返してほしがっているということ……俺が持ってるもんなんて、たかが知れている。このと、アニ。著てる服。それに……二足の小さな靴。

「あの鬼は、俺が持っている靴を、返してほしがってた。つまり……」

『……あの鬼の正が、私たちの探してるのなれの果てなんじゃないか、と。こういうことですか?』

俺は、アニの言葉にこくりとうなずいた。恐ろしい推測だったから、自分で言葉にしたくなかったんだけど。けど、そうとしか考えられないんだ。

『……一理、ありますね。狀況と符合させると、その可能は高いように思われます。ですが、ならどうしますか?』

「どうって?」

『我々の目的は、あくまでの消息の捜索。萬が一、億が一が生存していたなら、その救助もあり得たでしょうが……彼が化けになり果てているのなら、救助は不可能です。そして、消息は摑めたことになる。つまり我々の目的は果たされたことになります』

「え、ちょっと待ってくれよ。救助は不可能って、どうにかなんないのか?ほら、怪からお姫様に戻してやるなんて、魔法じゃよくある話じゃないか」

『それは魔法じゃなくておとぎ話でしょう。現代魔では、モンスターになった人間を元に戻す方法は確立されていません』

「なんだ、魔法のくせに融通きかないな」

こういうところは、元いた世界と変わらないんだな。けっ!うーん、それならどうすればいいんだ。

『話が逸れていませんか。目的は達した、というのはどうなるんです。このまま帰って、あの老婆に報告して終わりでいいじゃありませんか。お孫さんはモンスターになってました、それでおしまいで』

「それを世間じゃ、文句なしのバッドエンドっていうんだよ。俺ぁ嫌だぜ、初クエストがバッドエンドなんて」

『嫌と言われても……』

「人間に戻せないにしても、せめて狂暴じゃなくするとかさ。そうすれば、話くらいはできるだろ?」

『それだって相當難しいですよ。うまくいくかどうか……』

無茶を言っているのは分かっている。だけど、これで終わりはどうしても嫌だ。俺は祈るような気持ちで、アニに問いかける。

「なあアニ、どうにかなんないかな?」

『……一つだけ、私に推測があります。もしかしたら、まだマシな結末にたどり著けるかもしれません。ただ』

「ほんとか!ただ、なんだよ?」

『ただ、リスキーです。あなたのも危険にさらされるかもしれない。そもそも私の予想があっているかもわかりません。ハズレなら、骨を折るだけでは済まないかも。そのうえで、聞きますか?』

「ああ」

俺は二つ返事で即答した。この際、ベストエンドじゃなくてもいい。こんなやるせない終わり方、まっぴらごめんだ。

『……わかりました。それでは、私の予想と、これからの作戦をお話ししましょう』

「よいしょっと。これだけあれば、十分かな」

俺はかがんでいた膝をばすと、ぐっとびをした。

『ええ。これだけのレイスが集まれば、可域も申し分ないでしょう』

俺は目の前にわらわら集まるレイスの群れを見て、ふぅとため息をついた。やっぱりこれだけの數がいると、ちょっと気味が悪いな。今は一時的に集めただけだからいいが、やっぱり俺に死霊軍団を率いるのは當分難しそうだ。

『では、次の段階へ移しましょう』

「わかった」

俺はレイスたちを呼び寄せ、この荒れ地の中でも、特に大小さまざまな巖が固まっている場所まで集合させた。

「よーし。レイスたちよ、憑依しろ!」

號令した瞬間、レイスたちはつぎつぎに巖へと吸い込まれていく。レイスが憑依した巖は、レイスと同じ薄桃にほんのりった。俺はその狀態になった巖たちに、手ぶりもえて次の命令を下す。

「いくぞ!合!」

俺は頭の中で、無數の巖が組み合わさっていくのをイメージする。まず最初に足だ……大きくて丈夫な巖を使え……次に……おっと、バランスが悪いな。小さな石で調整だ……こんなふうに。するとレイスが乗り移った巖は、俺のイメージ通りに組み合わさり、やがて巨大な人型へと合した。

「はぁ、はぁ……どうだ、アニ!」

『ええ、初めてにしては上出來です。立派なゴーレムですよ』

アニに褒められ、俺は誇らしげに完したゴーレムを見上げた。俺の背丈の二、三倍はありそうなボディ。全が薄桃って、なんとも幻想的な仕上がりだ。おまけに、レイスの時と違って、見た目が怖くない。ユーザーにやさしい、いい出來だ……

『あ、ちょっと待ってください』

「え?な、なんだよ」

アニはむむむ、とうなっている。なんだ、どこかおかしなところがあったかな?

『あ、ひらめきました。彼は、“墓石の巨人トゥーム・ストーン・ゴーレム”と名付けましょう』

「は?」

『ただのゴーレムより、こちらのほうがかっこいいでしょう?最近の勇者はこういうのが好きだと聞きました』

「お、おう……そうだな」

それって勇者のというか、アニの趣味なんじゃ……と思ったけど、黙っておいた。そういうノリは嫌いじゃないし。

「ま、まあともかく。これで、あの鬼とも戦えるな」

『ええ。さすがに素のレイス程度では、歯が立ちませんから。竜の牙があるので、竜牙兵スパルトイが作れればよかったんですが……』

「だから、そんなのの作り方なんかわかんないって。それに俺は、こっちのゴーレムのほうが好みだよ」

『そうですか。では早速、あの鬼をおびき出しましょう』

ようし。作戦はついに詰めの部分、最終段階へ移行する。あの“鬼”との、決戦だ。

つづく

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読了ありがとうございました。

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