《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》3-3
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ズズーン!ゴロゴロゴロ、バキバキバキ!
土煙を上げて転がっていった巖が、細木にぶつかり、なぎ倒す。バリバリと木の折れる、雷鳴のような音が辺りに響く。ギャアギャアと騒々しい聲を上げて、黒い鳥がいっせいに飛び立った。
「これだけやれば、絶対目立つよな」
俺はゴーレムが、ボウリングよろしく放り投げた巖の果を見て、うんうんうなずいた。俺たちは森を背にして陣取ると、ゴーレムに四方八方へ巖をぶん投げさせた。森に投げれば木がバキバキと折れ、荒れ地の崖に投げれば、騒々しい音と土煙をあげながら転がっていく。これだけやれば、奴が例え森のどこにいようと、確実に耳にるはずだ。
『この騒音、まず間違いなく、普通の獣なら逃げていくでしょうね。もしこの騒ぎによって、こちらへやって來る獣がいたとしたら……!』
アニはそこで、何かに気がついたようにはっと言葉を區切った。
「……そいつは、確実にまともな獣じゃないな」
今度は俺にもわかった。どくんと、心臓がわななく。間違いない、強い力を持った何かが、こちらへ向かってくる……!
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『背後の森からです!二時の方向……速い……なっ、もうすぐそこ!?敵影捕捉まで、三、二、いちっ!』
バサァー!茂みを切り裂くように、恐ろしい鉤爪がにゅっと姿を現す。次の瞬間、森の暗がりの中から、あの鬼が飛び出して來た!
「ガアアァァ!」
「來たな!狙い通りだ!」
『作戦通りにいきましょう!まずはきを封じるのです!』
俺は鬼から目を離さないようにしつつも、急いで後ろに下がった。普通に戦っては、勝ち目は薄い。だからこそのこいつだ!
「頼んだぞ!トゥーム・ストーン・ゴーレム!」
ズズズッと石臼のような音を立てて、ゴーレムがき出す。石でできたはあまり早くはかせないから、ゆっくり、慎重にだ。だけど、その弱點を相手に気取られてはいけない。俺はあえて余裕たっぷりの表で、自信ありげに腕を組んでみた。
「ふははは!俺と戦いたくば、まずはこいつを倒していくんだな!」
『バカなこと言ってないでください。早く屈まないと、首が吹っ飛びますよ!』
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え?うわ!ゴーレムの柱のような腕が迫ってきている!
「おわっとお!」
みっともなく地面に転がると、頭上をゴーレムの腕が唸りをあげて通り過ぎていった。その直後に、ズガン!とがぶつかる衝突音。そちらを振り向くと、鬼の鉤爪と、ゴーレムの腕とがぶつかり合っていた。あの鬼、ゴーレムのパンチでも吹っ飛ばないなんて……やはりとんでもない怪力の持ち主だ。
「ギギギギッ!」
鬼は唸ると、鉤爪をゴーレムに突き立てる。すると巖でできたゴーレムの腕がシュウシュウと煙を放ち、鉤爪がずぶずぶと突き刺さっていく。巖すら溶かすとは、なんて強い腐食毒なんだ!
「ヤツを振り払え!まともに組み合ったら部が悪いぞ!」
俺がぶと、ゴーレムは腕をブンと振って、鬼を吹っ飛ばした。しかしヤツはくるりと宙返りすると、華麗なのこなしで著地した。これくらいのことでは全くノーダメージらしい。一方ゴーレムの腕からは煙がブスブスと上がっているが、まだ崩れる様子はない。
「よし、まだまだいけるな!?」
『いえ、今のでこちらはかなりのダメージを負うことがわかりました。短期決戦に持ち込まないと、ボディが保ちませんよ!』
それもそうだ。どの道、あまり長引かせるつもりはない!
「ヤツを捕まえろ!爪にれないよう、腕ごとねじ伏せるんだ!」
ズゴゴゴ!ゴーレムが腕を振り上げ、猛然と突進して行く。だが。
「あっ!しまった!」
なんてことはない。ゴーレムが、こけた。重い巖同士が組み合わさっただけのゴーレムは、機敏なきには対応できないのだ。ゴーレムが危うげにぐらつく。
「グガアアァァ!」
その隙を、鬼は見逃さなかった。すぐさまゴーレムの懐に飛び込むと、両爪を深くゴーレムのに突き刺し、そのまま斜めに爪を振り下ろす。ゴーレムのボディに、Xの文字が刻まれた。ゴーレムは黒い煙を噴き上げながら、こと切れたように崩れ落ちていく。ズゴゴゴ……。
「ゴーレムが、やられた!」
『敵、來ますよ!迎え撃つ準備を!』
迎え撃つったって、ゴーレムがいなければ他に戦闘能力は無い。そのゴーレムが倒れた今、もう戦うは殘っていないってことだ。
「く……」
冷汗が頬を伝う。鬼は今倒したゴーレムを足蹴にし、その上をひたひたと歩み寄ってくる。その深紅の両目はギラギラと輝き、俺を真っすぐに抜いていた。思わずごくりとつばを飲み込む。
「ガエゼ……」
鬼は牙をむき出しにして唸る。
「ソレヲ、カエセェェェーー!」
鬼の咆哮。うぅ、背中に震えが走るぜ。けど、ここからが俺たちの作戦の真骨頂だ。俺はドクドクと脈打つ心臓を必死になだめながら、その時を待つ……今だ!
「……ッ!?」
鬼のきが止まった。なぜなら、その両足に太いつる草がぎっちり巻き付いているからだ。
「かかったなぁ!」
あのゴーレムは、実はおとりだ。倒されることも想定して、俺たちの作戦は組まれている。そもそもあの小さな鬼を捕らえるのに、あんなバカでかい図は必要ないからな。その足さえ取ってしまえば、きは止められるのだから。
「ゴーレムの中に、パーツとは別のレイスたちを仕込んでいたのさ!お前が隙を見せた時に、捕獲するための罠としてな!」
なんてことはない。森からつる草を引っ張ってきて、そこに別のレイスを憑依させておいただけだ。アニいわく、実のないレイスでも、実いれものを與えてやれさえすれば、使い道は無限にある。
『気持ちよく演説してるところ悪いですが、全然聞いてませんよ。それより早くしないと、あの拘束も長くはもちません!』
「おっと、そうだった。まだ仕上げが殘ってる!」
そう。まだ“本命”である、俺の仕事が殘っている。所詮はつる草、怪力の鬼を抑えておけるのは一瞬だろう。だけど、それで十分だ!俺はこの作戦を打ち合わせた時の、アニの推測を思い出した。
『思うに、あの鬼はが死亡した後、この森の異常に濃い気によって魔化したものではないでしょうか』
「死んだあと?」
『ええ。生きたまま魔になったにしては、軀が當時のまま、変わっていません。生であるなら、長なりの代謝でが変化しているはず。それが無いということは、一度死亡し、魔になることで蘇生したから、と考えます』
「蘇生……ってことは」
『いわゆる、ゾンビ……あなたの能力の、適応範囲です』
「ゾンビ……それなら、能力でいうことを聞かせられるな」
『ただ、まだ確実とは言い切れません。もしかしたら、なんらかの要因で姿かたちが変わっていないだけかも。死を経ていない相手に対しては、貴方の能力は何の意味もさなくなります。最後の最後は、ギャンブルになってしまいますね』
「……上等だ。もしハズレたら、そん時はそん時でどうにかしよう。俺がんだことなんだから、どっちに転んだって後悔しないさ」
『……わかりました。せいぜい、幸運を祈りましょう』
俺は短い回想を終え、現実に戻ってきた。目の前には、拘束をほどこうともがく鬼がいる。けど、目の前にしてはっきりわかった。コイツに対して、俺の“魂”が震えている。うまく言葉にできないけど……けど、わかるのだ。
「いくぜ!」
俺は高く足を振り上げると、倒れたゴーレムの上に飛び乗った。ごつごつしたの上は走りずらいけど、それでも俺は全力で駆けていく。
「ギギッ!」
鬼が俺に気づいて、ぎょっとしたように構えた。目の前に迫る俺に対して、鉤爪を突き出してくる。
『あぶない!』
「っとお!」
すんでのところで顔だけそむける。けど、かすった。頬が焼けるように痛む。
「くぁ……っ!」
顔を真っ赤に燃えるナイフで切り付けられたみたいだ。俺は痛みににじむ涙をやせ我慢しながら、不敵にニヤリと笑って見せた。
「やってくれるぜ、じゃじゃ馬め!だけど、ここまでだ!」
俺は右手を高く掲げる。
「我が手に掲げしは、魂の燈火カロン!」
右手が、炎のように郭を失っていく。俺はその手を、鬼へと突き出す。
「汝の悔恨を我が命運に託せ。対価は我が魂……!」
鬼は俺の手を見て、まるで刀でも突き付けられたように、びくりとのけぞる。俺はそのまま手をばすと、鬼のの真ん中――魂の位置に、右手を重ねた。
「響け!ディストーション・ハンド!」
ブワー!
俺の右手が、いや魂までもが震え、鬼の魂と共鳴していく。憎悪に汚濁された神の歯車が、しずつ人の心を取り戻すように調整チューンされていくのが分かった。
パリーン!
突然、ガラスが割れるような音がして、鬼を覆っていた紫のうろこが飛び散った。そしてその中からは、年相応にかわいらしい顔をした、一人のが現れた。
「お……」
は真っ白な髪と、同じく生気のじられない、紙のをしていた。ゾンビなんだから、當然か。けどいわゆるゾンビのように、顔が腐さってたり、目がポロリとこぼれてたりはしない。よかった……ただ、のあちこちにはやけどのような傷跡があった。
「ん?」
そして、そのとき気づいたわけで、完全に意図してなかったんだけど。に重ねた右手が、むにむにとやわらかいのだ。そうか、うろこがなくなったから……
「っ!」
が、我に返ったように目を見開く。
「あ、ごめんぐべっ」
気づいたら俺は、グーで毆り飛ばされていた。
つづく
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