《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》4-4
4-4
「ちょ、ちょっとフラン!だ、大丈夫!?」
私は慌ててフランに駆け寄った。恐る恐る様子を覗き込むと、床板の尖った部分が、フランの太ももに深々と突き刺さっていた。そこから信じられないくらいの量のが、ドクドクとすごい勢いで流れ出ている。
「ど、ど、どうしよう!フラン、ねえ大丈夫!?」
「……っ」
フランはあまりの痛みに、聲を上げることもできないらしい。ひたすら歯を食いしばり、目をぎゅっとつぶっている。私は半ばパニックだったけど、とりあえずを止めようと、フランの足を引き抜こうとした。フランの太ももを手でつかんだ、その時。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
「ひっ」
フランがが裂けんばかりに絶した。どうしよう、足を抜くこともできないわ!私は半べそをかきながら、辺りを見回す。誰もいないって分かってたけど、それでも助けがないかと、藁にも縋る思いからだった。だけど私の目に飛び込んできたのは、この狀況をさらに最悪のどん底に突き落とすものだった。
Advertisement
床が、燃えている。
さっき、転んだ時。私はいつの間にか、手にしていた燭臺が無くなっていたことに、今さらながら気づいた。そしてその燭臺が床に転がっている事、そこからこぼれた炎が床に燃え移り、そして今まさに本棚にも引火したことを、ゆっくりと理解した。
「……」
私は、完全に放心狀態だった。目の前の現実をけれるのを、脳が拒絶しているようだった。めらめらと炎が燃え広がり、見る見る視界がオレンジに染まっていくのを、私はどこか他人事のように眺めていた。
「ジェス、ちゃん……ジェスちゃん!」
「ぃえっ」
強く腕を引かれて、私はようやく正気に戻った。と同時に、目の前の慘狀に急速にの気が引いていく。思わずふらりとしたところを、がしっと力強く手を握られて、私はなんとか意識を保つことができた。
「ジェスちゃん!しっかりして!このままじゃ、わたしたち二人とも死んじゃうよ!」
「フラン……だって、だって。もう無理よ、死んじゃうんだわ、私たち……」
「無理じゃない!まだ生きてるよ、わたしたち!」
怒鳴るようにばれて、私はハッとした。フランの目には、これまで見たこともないほど強い意志が宿っている。まだ、フランは諦めていないんだ。
「ジェスちゃん。ジェスちゃんは外に出て、大人の人を呼んできて。なるべくたくさん、助けてってぶの」
「けど、けど。フランはどうするの?」
「わたしは、けない。けど、信じてる」
フランは私の手をしっかり握ると、の端をしだけかした。きっと、笑ったつもりだったんだと思う。激痛の中で、それでも私を勇気づけようと。
「行って!このままじゃ間に合わなくなっちゃう!」
「う、うん!」
私はフランの手をはなすと、弾かれたように駆けだした。炎のすぐわきを通り抜け、黒煙が目に染みる。むせこみながら、私は一度だけフランを振り返った。
「待ってて!必ず助けを呼んでくるから!」
床に倒れ伏しながら、それでもフランはこくんとうなづいた。
そしてそれが、私がフランを見た、最期だった。
私が必死にんで、大人の人たちを集めた時には、炎はいよいよ燃え広がり、外からでもはっきり火の手が見えるくらいになっていた。
「くそ、火の勢いが弱まらない!」
「出火元は倉庫なんだろ!?あそこは燃えるものがいくらでもあるぞ!」
男の人たちが水桶を何度もひっくり返したけど、火は全然弱まることを知らなかった。私は半狂になって、それでもどうにかしてくれと、それこそ子どものように駄駄をこねるくらいしかできなかった。
「ジェス!どうしたんだ!」
その時、お父様が相を変えて、こちらに駆け寄ってくるのが見えた。私は心底安心した。お父様なら、きっとなんとかしてくれる。みんなに慕われて、この村で一番偉いお父様なら。
「お父様!フランが、フランがまだ中に!お願い、フランを助けて!」
「なに!?」
お父様は険しい顔で、燃え盛る禮拝堂を見つめる。あごに手を當てて、ぶつぶつつぶやいている。
(あ……この癖、お父様が、何かを考えているときの……)
「もし……フランが行き先を告げていたら……この場にジェスはいてはならない……」
するとお父様は、私の方を見て早口でたずねてきた。
「あの中にいたのは、お前と、フランセスだけか?」
「え?は、はい。それで、私だけが外に」
「そのことは、誰かに言ったか?」
「え、え?はい、ここにいる大人の人に、助けてほしいと……」
「そうか……」
お父様は一瞬顔をしかめると、現場にいる人の數を數えだした。
「お、お父様?」
「四人……なんとかなるな」
「お父様?フランを、フランを助けてくれますよね?」
「ジェス。よく聞きなさい」
お父様は私の肩を摑むと、じっと目を覗き込んで、言った。
「フランセスは、もう助からない。あの子のことは、忘れるんだ」
私は、お父様が何を言っているのか、分からなかった。
「お前は今日、あの子に會わなかった。お前もあの子も、ここへは來なかった。そうすることが、一番みんなが幸せになれるんだよ。私を信じなさい」
「お、とう……さま……」
「さあ、お前はもう行きなさい。家に帰って、自分の部屋から出てこないように」
「でも、お父様!フランが」
「まだ言うか!」
パァン。視界が揺れき、遅れて頬がじんじんと熱くなってくる。お父様に毆られたのは、後にも先にもこの一度だけだった。
「お前は今日、私の言いつけを破ったんだ!それだけでも、とんでもなく悪辣なことをしているんだぞ!この期に及んで、まだ私の言うことが聞けないと言うのか!」
「ご……ごめんなさい……」
「なら今後、二度と私の言うことに逆らうんじゃない。言っていることが分かるね?ほら、早く行きなさい」
「はい……」
私は呆然と、そう言うしかないと悟った。そこから家までは、どう帰ったのかよく思い出せない。けど道すがら、もしかしたらお父様は、私の考えつかない方法でフランを助けてくれるつもりじゃないかとか、そのために邪魔だからああ言ったんじゃないかとか、そんな事を考えていたことは覚えている。明日になったら、フランがひょっこり顔を出すかもしれない。私は、そんな淡い幻想を抱いていた。
フランが死んだということは、その數日後に発表された。
つづく
====================
Twitterでは、次話の投稿予定や、作中に登場するモンスターなどの設定を公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
読了ありがとうございました。
【書籍化】絶滅したはずの希少種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。【コミカライズ】
【書籍化&コミカライズが決定しました】 10年前、帝都の魔法學校を首席で卒業した【帝都で最も優れた魔法使い】ヴァイス・フレンベルグは卒業と同時に帝都を飛び出し、消息を絶った。 ヴァイスはある日、悪人しか住んでいないという【悪人の街ゼニス】で絶滅したはずの希少種【ハイエルフ】の少女が奴隷として売られているのを目撃する。 ヴァイスはその少女にリリィと名付け、娘にすることにした。 リリィを育てていくうちに、ヴァイスはリリィ大好き無自覚バカ親になっていた。 こうして自分を悪人だと思い込んでいるヴァイスの溺愛育児生活が始まった。 ■カクヨムで総合日間1位、週間1位になりました!■
8 63【書籍化&】冤罪で死刑にされた男は【略奪】のスキルを得て蘇り復讐を謳歌する【コミカライズ決定】
※書籍&コミカライズ決定しました!書籍第1巻は8/10発売、コミカライズ第1巻は10/15発売です! ※ニコニコ靜畫でお気に入り登録數が16000を突破しました(10/10時點)! ※キミラノ注目新文蕓ランキングで週間5位(8/17時點)、月間15位(8/19時點)に入りました! ある日、月坂秋人が帰宅すると、そこには三人の死體が転がっていた。秋人には全く身に覚えがなかったが、検察官の悪質な取り調べにより三人を殺した犯人にされてしまい、死刑となった。 その後、秋人は“支配人”を名乗る女の子の力によって“仮転生”という形で蘇り、転生杯と呼ばれる100人によるバトルロイヤルの參加者の1人に選ばれる。その転生杯で最後まで勝ち殘った者は、完全な形で転生できる“転生権”を獲得できるという。 そして參加者にはそれぞれスキルが與えられる。秋人に與えられたスキルは【略奪】。それは“相手のスキルを奪う”という強力なスキルであった。 秋人は転生権を獲得するため、そして検察官と真犯人に復讐するため、転生杯への參加を決意した。
8 151無能魔術師の武器 ~Weapon Construction~
10年前、突如誰にも予測されなかった彗星が世界を覆 った。その後、彗星の影響か、人々は魔法を使えるよ うになった。しかし黒宮優は魔法を使うことができな かった。そして、無能と蔑まれるようになった。 そして、彼はある日、命の危機に襲われる。 その時彼はある魔法を使えるようになった……。
8 77スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜
世界が『魔素』という物質に覆われて早數百年。人々は各地に階層都市を築いて平穏に暮らしていた。 そんな中、死神と呼ばれる男が出現したという報せが巡る。その男が所有している魔道書を狙い、各地から多様な人々が集まってくる。 だが、彼等は知らない。その男が持つ魔道書、それと全く同じ魔道書を所有している人物が居る事を──
8 111創造神で破壊神な俺がケモミミを救う
ケモミミ大好きなプログラマー大地が、ひょんなことから異世界に転移!? 転移先はなんとケモミミが存在するファンタジー世界。しかしケモミミ達は異世界では差別され,忌み嫌われていた。 人間至上主義を掲げ、獣人達を蔑ろにするガドール帝國。自分達の欲の為にしか動かず、獣人達を奴隷にしか考えていないトーム共和國の領主達。 大地はそんな世界からケモミミ達を守るため、異世界転移で手に入れたプログラマーというスキルを使いケモミミの為の王國を作る事を決めた! ケモミミの王國を作ろうとする中、そんな大地に賛同する者が現れ始め、世界は少しずつその形を変えていく。 ハーレム要素はあまりありませんのであしからず。 不定期での更新になりますが、出來る限り間隔が空かないように頑張ります。 感想または評価頂けたらモチベーション上がります(笑) 小説投稿サイトマグネット様にて先行掲載しています。
8 156ぼくには孤獨に死ぬ権利がある――世界の果ての咎人の星
1990年の春、地方都市の片隅で鬱屈した日々を送る普通の女子中學生、永田香名子の前に現れたのは、ハヤタと名乗る宇宙人の家政夫だった。奇妙な同居生活の中で二人は惹かれ合うが、異星の罪人であるハヤタが、科せられた〈情緒回復計畫〉を達成し、罪を贖う時、彼は殘酷な刑へ処せられる運命だった――。リアリズム、ファンタジー、SFが交差する作風で、ひとりの女性の數奇な人生を1990年から2020年まで追い続けた、異色のゴシック・ロマンス小説、決定版にして〈完全版〉!
8 134