《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》5-1 村人の襲撃

5-1 村人の襲撃

ジェスから明かされた真実は、俺の想像以上に重苦しい容だった。のあたりがずっしりと重たくじる。

「後は、あなたも知っている通りよ。あの子は森で死んだことになった。ある村人が見つけたの。あの子が魔に襲われた現場、とやらをね。そこには、あの子の靴だけが殘されていたらしいわ」

あ……それが、ばあちゃんに渡されたあの靴か。

「もちろん、それもお父様が手配した役者でしょうけど。お父様は方々にお金をばらまいて、あの日の事件をきれいに隠してしまったわ。後には、偽の真相だけが殘った。あの子の死は不幸な事故、禮拝堂は出火元不明……私が全ての原因だったのに、そのすべてから私の存在はぬぐい隠された。そして私はそれらを汚れた足で踏みにじって、いままでのうのうと生きてきたのよ」

「そんなことが……あったのか。だからフランは……」

「恨んで當然でしょうね。私だってぎょっとしたわ。恰好はし変わっていたけれど、顔はあの日、私が見捨てたままなんだもの。きっと……」

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復讐に來たのね。と、ジェスはつぶやく。でもそれは間違いだ。フランセスを連れてきたのは俺であって、フランセスの意志ではない。恨んでいないとは言えないだろうけど……

「なぁ、もう一度フランセスとよく話してみないか?」

「え?でも、私なんかが……」

「あんただって、フランセスを助けようとはしてたんだろ?フランセスもそれを誤解してるのかもしれない。それを正さないと、きっとお互い相手のことを間違ったままになっちゃうぜ」

「けど……」

「な?今度は俺がちゃんとフランセスを押さえておくから。話してみようよ」

ジェスはなおも、ぐずぐず渋っている。その時不意に、アニがリインと鳴った。

『主様。なにやら人影が近づいてきます。それも大勢』

「え?」

慌てて周囲を見回す。すると村の方から、たいまつの明かりがゆらゆらと、列をなしてこちらへ向かってくるのが見えた。

「なんだ……?」

『嫌な予がしますね』

やがて、ざっざという大勢の足音と、金屬がかちゃかちゃとこすれる音が聞こえてきた。ジェスも異変に気づき、音のほうへ振り返る。するとジェスは、か細い聲でこう言った。

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「お、父様……?」

人影はどんどん近づき、たいまつに照らされた顔が見えるくらいの距離になった。そこにいたのは、フランク村長と、剣や槍で武裝した男たちだった。

「お父様、どうしてここに?それに、その方たちは……?」

ジェスは困した様子でたずねる。フランク村長はジェスの姿を見ると、大きく目を見開いた。

「ジェス、おお……なんとむごい姿に!」

その時はじめて、ジェスは自分の格好に気づいたようだ。慌てて、フランセスにもみくちゃにされた服を整える。フランク村長はそんなジェスに駆け寄ると、改めて娘の姿を確認する。そして次に、俺を憎悪のまなざしで睨み付けた。

「貴様……わが娘に手を出したな!」

「え?」

「えぇ?」

俺とジェスが同時に聲を上げる。なんだって?俺がジェスに?けど冷靜に考えれば、ジェスの服は暴されたようにボロボロだ、顔は涙の跡でぐしゃぐしゃだし。狀況だけ見れば、俺がすごい悪い男みたいだな?

「ご、誤解だ」

「誤解よ!お父様、私なにもされていないわ!」

俺よりも早く、ジェスが反論してくれた。しかしフランク村長は、優しくジェスの肩に手を置きかぶりを振る。

「あぁジェス……みなの前では辛いだろう。何も言うな、あの男の正もわかっている。あとは私に任せなさい」

「けど、お父様……」

「おい!お前たち、ジェスを安全な所へ!」

「お父様、聞いて!ちょっと、はなして!」

フランク村長が呼びつけると、屈強な男が二人やってきて、ジェスを囲んで連れて行ってしまった。

「あーっと、村長さん。誤解されてるみたいだから、ちょっと聞いてくれないか?」

「黙れ!薄汚い暴漢め。よくもわが娘を!貴様の正はわかっているぞ。よくも騙してくれたな……呪われた勇者が!」

「っ!どうしてそれを……」

まずいな、勇者だってばれた。今ここでばれるのは、二重の意味でまずい。この村にとって、勇者は災悪の象徴であること、そしてそれを隠してたってことだ。

「やはりな。自分の正を隠して、こそこそ嗅ぎ回るようなマネをしおって!お前の企みはなんだ!」

「話を聞いてくれよ。確かに俺は勇者だが、別に悪さはしてないし、これからするつもりもないぞ」

「ふん!猿芝居も大概にしたまえ。すでに証拠も上がっているのだ」

証拠だって?フランク村長が何か合図をすると、一人の男が老婆を引っ摑んで前に連れてきた。俺はその老婆に見覚えがあった。

「ばあちゃん!」

後ろ手に手を摑まれて、ばあちゃんは大柄な男に引きずってこられた。その表は虛ろで、は読み取れない。

「おい!ばあちゃんになにしてるんだ!」

「貴様と共謀している可能があったのでな。同行してもらったのだ」

「共謀ぅ?」

「きみの行を我々が把握してないとでも思っているのかね?貴様が村に帰ってきた時から、ずっと監視させてもらった。ヴォルドゥール家に立ち寄ったことも把握済みだ」

俺はフランク村長の言葉を噛み砕く。俺が真っ先にばあちゃんちに寄ったことを知って、ばあちゃんも俺の仲間だと思ったってことだな。俺が勇者というのも、恐らくそこで知ったんだろう。けれど、俺はそもそも悪だくみはしてないし、無関係のばあちゃんを巻き込むのは許せない!

「ばあちゃんは関係ない!早く解放しろ、話なら俺がいくらでも聞いてやる!」

「黙れ!質問するのは我々だ。勇者の命令など、二度と聞くものか!」

ダメだ、話が平行線だ。フランク村長は憎悪に濁りきった目をしているし、それは後ろの男たちもみな同じだった。一方的な會話に、俺もだんだんイラついてくる。

「ヴォルドゥールさんからすべて聞いた。貴様が勇者であり、死霊などという邪悪な能力を持っているということ、そして王國から手配された、重罪人だと言うこともな!」

「ちっ、みんなおんなじことを言うんだな。おい、なんでネクロマンサーってだけで罪人扱いなんだよ!そりゃ、イメージが悪いのは否定しないけど、印象だけで罪が立するって言うのか!」

「屁理屈を!印象だけだと?どの口が言う!現に貴様は、その能力を悪用して、この村を支配しようとしたではないか!」

「はぁ?」

俺は怒りを通り越して、ぽかんと口を開けてしまった。何だって?誰が、村を支配するって?

「とぼけるのも大概にしたまえ!貴様はあの呪われた森に行き、ヴォルドゥール家の孫娘を蘇らせたのだろう。そしてそれをネタに私を恐喝し、村長の座を奪おうと畫策した!そこにいるゾンビが、何よりの証拠だ!」

フランク村長はビシッとフランセスを指さした。フランセスはまだ俺の言いつけを守り、きちんと座っている。よかった、それがなかったら今すぐ村長に飛びかかっていたかもしれない。俺だってこんないちゃもんを付けられて、沸騰寸前だ。

「あのなぁ、村長。それ、被害妄想ってやつだぜ。なんで俺がこの村をしがるんだ?俺、今日初めてここに來たんだぜ?」

「ふん。貴様ら勇者の薄汚い考えなど、理解したくもないわ。どうせ醜悪なことを企んでいるのだろう」

よくわからないけど、どうせ悪い事だろう、ときたか……この人は本當に、晝ま理的な話をしていた村長と同一人なのだろうか?アニも無茶苦茶な話に呆れたのか、心なしか力の抜けた音でリインと鳴った。

『彼の荒唐無稽な邪推はともかくとして、恐らく彼らとしては、過去にあった勇者の悪行をに持っているんだと思われます』

「ああ、だよなぁ……だから勇者イコール悪って、てこでもかないんだ」

『村全の共通認識なんでしょうね。なのであんな暴論でも、みな疑おうとしないのでしょう』

「じゃあ俺は、村の人たちから犯罪者予備軍として見られてるってことか……ん、ちょっと待てよ。だったらジェスに暴したって誤解は、かなりまずいんじゃないか?」

とすると俺は、事実無にせよ、村人たちには現行犯として映っていることになる。実際、目を走らせた男たちからは、時おり口汚い野次が飛んできた。

「この、強魔め!」

まみれの野獣が!また村の娘を襲ったのか!」

まずいな、みんな頭にが昇っている。これではいくら説明しても、信じてもらえそうにないぞ。憤った男たちをあおるように、フランク村長が続ける。

「この勇者は、私たちの村を我がにしようとよからぬ計畫を企てた!死者を邪悪なで蘇らせ、あまつさえ自分の謀略に利用しようとしたのだ!」

「ちょ、ちょっと待てよ。なんでフランセスを蘇らせると、あんたの弱みになるんだよ?あんたにとって、フランセスの存在が不都合なことでもあるっていうのか?」

俺はあえて、三年前の出來事には直接言及せず、遠回しな表現をした。なにも村長のためではない。他の村人たちがいる手前、洗いざらいぶちまけたらジェスが辛いだろうと思ったからだ。それにフランセスの死についても、彼の目の前で話すのは……だがフランク村長は、それをどうけ取ったのか、びくりと震えるとしきりに目を泳がせ、やがて合點が行ったようににやぁっと笑みを浮かべた。

「なるほど……そういうことか」

「あん?」

「貴様は、ヴォルドゥール老に吹き込まれたことを鵜呑みにでもしたんだろう。おおかた、あの娘の死は事故ではないだとか、そんなところか。それで私を揺すれると思った、違うかね?いや、もしくはあの老婆と共謀していたか。彼は以前から妄言を吐くきらいがあったからな」

「だから、ばあちゃんは関係ないって言ってるだろ!それに、ばあちゃんの言ってることも噓じゃない!」

「はははは、言うにことかいて世迷言を!ジェスに目を付けたのも、私に関する報を引き出そうとしたからだろう!きっとそうに違いない!」

フランク村長は大聲でまくしたてると、後ろの男たちを振り返った。

「さあみんな!あの薄汚い勇者に裁きを與えよう!あいつの能力は貧弱なネクロマンシーのみだ。一人にゾンビが一匹、勇者と言えど恐れることはない!」

「おおおー!勇者を殺せー!」

「今度こそ奴をぶっころしてやる!大罪人に正義の鉄槌を!」

「かかれぇー!」

つづく

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読了ありがとうございました。

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