《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》6-3
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「これで一件落著、ってことでいいのかな」
俺は結局最後まで持ってきてしまった剣をぐるりと回すと、誰にでもなくひとりごちた。といっても、ここにいるのはし離れて隣を歩くフランセスと、アニだけなんだけど。
俺が、いっそのこと村から鞘も拝借してくればよかった、などと考えていると、アニから返事が返ってきた。
『落著というか……そもそも我々からしてみれば、得たものは何もないんですよね。あの村から出した、それだけです』
「そんなこともないだろ。俺はばあちゃんの依頼をし遂げ、ジェスとフランセスの長年のわだかまりを解消し……」
……といってもいいのだろうか。ごちゃごちゃと引っ掻き回して、よりこんがらせただけな気もしてきた。
「うーん。結局ややこしくしただけか」
『まあ、そういう意味では、あの村にとっては良かったのかもしれませんね』
「うん?引っ掻き回したことがか?」
『ええ。主様によって、あの村は確かに“変革”しました。いままでが“停滯”の狀態だったとしたら、それは明確な前進であり、次のステージへの一歩と言えるでしょう』
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「ふぅむ……それで、より悪い狀況になっちゃったとしてもか?」
『ええ。停滯とは、いわばゼロの狀態。日々は常に変化なく、繰り返される日常に空気はよどみ、腐りきっていくでしょう。しかし、そこに変革という風が吹けば、歯車はき出し、日常に変化が訪れる。その結果としていい方向に転じればもちろんよいですが、仮に悪くなったとしても、変化を與えたという面においては、それはプラスな行いといえるでしょう』
「そうかなぁ。マイナスになったりしないかな」
『さあ、それは彼ら次第でしょうね。私たちはきっかけを與えたにすぎません。うっかりマイナスになりかけたとしても、彼らがそうならないように努力するでしょうし。これをきっかけに、彼らが抱える暗い部分と向き合えたのなら、あまり悪いようにはならないのではないですか?』
「うーん。そうかな。そう思うことにするよ」
俺たちは停滯した村に、変化のきかっけを與えてやった。村民はその影響をけて、より良い方向へ向けて努力していくだろう。俺はとりあえずそう納得することにした。あまりくよくよしても仕方ないしな。
俺は距離を取って歩くフランセスにも聲をかけてみた。
「これで、フランセスがいなくなったから、あの森の呪いの風ってのもなくなるのかな?」
フランセスはぶすっとした目で俺を見ると、ぷいっとそっぽを向いて言った。
「あれは、わたしのせいじゃない」
「へ?」
「あの森には、もともとすごい量の怨念がたまってた。そこにわたしが投げ込まれて、はじけた瘴気が村のほうに流れていっただけ」
「なんだ、じゃあフランセスのせいじゃないのか。そこはジェスの勘違いだな。けどそうか、それなら呪いはなくならないんだ……」
「……いや。たぶん、風はもう吹かない」
「え。だって」
「悪霊のよどみに放りこまれたのがわたしだったから、村への導線、みたいなのができちゃったんだと思う。わたしはあそこの生まれだし、しはみんなを恨む気持ちもあったから……」
「あー、そっか」
はじめて、フランセスの心を聞いた気がする。ジェスにとびかかった時から、なからず恨みはしてるんだろうと思ってたけど……
「やっぱり、ジェスのことか?」
「ううん」
「じゃあ、フランク村長?」
「ううん……わからない。もしかしたら村の人全員かも。ずっと、みんなわたしのことを気味悪がってた……誰もわたしを助けなかったのも知ってるし、ジェスのお父さんがわたしを森に捨てたのも知ってたから」
「……ん?知ってたのか?その、君が森に……」
「知ってた。どうしてあの人が私をわざわざ森まで運んだと思う?」
フランセスはからかうように、ふふんと鼻で笑った。
「どうしてって、証拠隠滅だとか……」
「あの火事現場で?みんな真っ黒になって、判別なんかつかない。殘った骨だけ、適當に隠せば済むだけなのに」
あれ、そういわれれば……なんかおかしいぞ。俺は最初にフランセスの姿を見ていたから、彼は“死が殘る形”で死んだとばかり思っていた。けどふつう、火事のって殘るのか?サスペンスものだと、黒焦げになった姿をよくみるけど……
「答えは単純。わたしは燃えなかったから」
「燃え……なかった?」
「そう。どうしてかは分からない。たまたまわたしの所だけ火が弱かった?いや、それはありえない。あの地獄の中では、空気すら燃えてた。なのに、わたしのは燃えなかった。神様の加護なのか知らないけど、それがわたしを安らかに眠らせてくれなかった」
「待ってくれ……じゃあ、君はあの火事の中でも、生きていたのか……?」
俺は茫然として、足を止めた。彼の全のやけど……あれはもしや、建が全焼するほどの火事で、あの程度で済んだということだったのか……?
「生きていた……わからない。わたしもおぼろげにしか思い出せないから」
フランセスはどこか遠くを見つめるような目でいう。
「高熱、酸欠、毒の煙。とても人が生きていられる場所じゃなかったはず。それなのに、私の眼には自分の手がずぅっと見えていた。炎に照らされてる手。暗闇の中で、か細いに浮かぶ手。何かに乗せられて、ごとごと揺れる手……誰もわたしの手を取ってくれはしなかった」
フランセスは、自分の手を……正確には、紫の鉤爪を月にかざした。
「そして最後に、死が迫ってくる中で、ピクリともかない自分の手。その前から、瀕死だったんだと思う。神様のいたずらで、ほんのしだけ猶予が與えられただけ。それもいよいよ終わろうとしたときに、わたしは突然すべてを理解した。自分が炎の中に見捨てられたことも、村長が焼け跡からわたしを見つけて、大慌てで荷車に詰め込んだことも。きっと心臓が止まるくらい驚いたはず。わたしのは、それがフランセスであることがわかる程度には、原形をとどめていたはずだから」
フランセスと、わかるほどに……彼に流れる勇者のが、そうさせたのだろうか。
だからフランク村長は、を森に捨てなければいけなかったんだ。彼の死を、永遠に隠すために。あの森を選んだのは、村のだれも近寄らないからだろうか。騒な森なら、事故というのも納得させやすかったのかもしれない。
「そしてわたしは、谷底に投げ捨てられた。深く深く、そのまま地の底まで落ちていく気がした。怨霊のよどみの中で、わたしは命の燈がどんどん弱まっていくこと、だけど反対に、別の何かがふつふつと湧き上がってくるのをじた。それが憎しみだって気づいたとき、わたしのは起き上がって、森をさまよい始めたの。あとは知っての通り」
そこまで話し終えると、フランセスは月にかかげていた腕をだらりと下した。
「はぁ……これで、全部終わり。もう用がないのなら、そろそろ楽にしてほしいんだけど」
「え?」
「わたしをただの死に戻して」
つづく
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