《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》1-2
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俺が會ったこともないよその勇者への憎しみを燃やしていると、フランが思ったより早く戻ってきた。
「フラン。おかえり、早かったな」
「うん。いちおう、見つけてきたから……」
「お、ウサギか?」
フランは大きなウサギを抱えていた。普通のサイズより、一回りほどでかく見える。そして頭には、立派な角が生えていた……角?
「あ、ちがったか、小鹿か……小鹿か?」
「ううん、ウサギ」
うん、そうだよな。俺の目にも、目の前のはウサギに見える。けど、じゃあその立派過ぎる角はなんなんだ。
『ジャッカロープですね。牡鹿の角を持つ、キマイラ相のウサギです。可食部はウサギよりないですが、食べられますよ』
「あ、そうなんだ……」
ジャッカロープとかいう角うさぎは、フランの手の中でじたばたもがいていた。一応食べられるらしいソイツだが、俺は普通のウサギも食べたことがない。ウサギって、どうやって食べればいいんだ?答えはまたしてもアニが教えてくれた。
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『調理も何もないので、丸焼きにするしかないですし、調理法も簡単です。臓を取り出して、皮をはいで、焼くだけです』
「え……焼くだけじゃダメなの?」
『皮なんて食べられたものじゃありませんよ。ジャッカロープの皮はとても頑丈なんです。人の歯では、文字通り歯が立ちません』
「なるほど……」
『ですが、剣を拾っておいたのは僥倖でしたね。解作業が楽に済みます。最初に首を突いてとどめを刺してから、腹を裂いて臓を出していきましょう。次に……』
俺は途方に暮れながら、フランの手の中でもがく角ウサギの姿を見た。ウサギは短い手足を懸命にじたばたさせて、必死に逃れようとしている。じたばたじたばた。
(……こいつを、バラバラにするのか?)
フランは、アニの流れるような解指南を聞いて、眉をひそめている。フランでさえそうなんだから、俺が青い顔をしても、おかしくないよな?ジャッカロープは角が生えている以外は、俺のよく知るウサギそのものだ。こいつがになるイメージが、まったくできない……
『あとは、皮を筋から引きちぎるように、一気にベリッと剝ぐだけで……聞いてます?』
「あ、悪い……思ったより、ハードな容で……」
『そうですか?慣れないうちは大変かもしれませんが、そこまで重労働でもないですよ。獣は腹持ちもいいですし、いい食料が見つかってよかったですね』
ああ、そういや俺、腹減ってたんだっけ……だけど今の説明で、俺の食はすぅっと遠のいてしまった。まだ俺の中では食い意地より、理のほうが強いらしい。
「アニ……ほかの食べを、探さないか?」
『は?なんでですか、この獲で十分でしょう。それとも、一匹では満足できそうもありませんか?』
「いや、そうじゃなくてさ……ごめん、俺ほんとにとか臓とかダメなんだよ……」
『え……いやいや、待ってください。あなた、菜食主義者かなにかですか?この期に及んで、のんきなこと言ってる場合じゃ』
「俺だって焼は好きだけどさ……そいつ、逃がしてやろうか?」
『なっ……』
アニはあきれてしまったのか、言葉を失ってしまった。俺はフランの腕の中でもがく角ウサギを見つめた。
「悪いなフラン、せっかく見つけてきてくれたのにな」
「ううん……わたしも、迷ってた。だから仕留めきれなかった」
「そうなのか。ちょっと意外だな。お前も、かわいいものには弱いのか」
「……別に。生きは嫌いじゃないだけ」
「へー……」
ところで、村の男には容赦なく切りかかろうとしていたけど、あれは生きに含まれないのか……?
フランは俺が言いたい事を、なんとなく察しているようだ。じーっと俺を睨んでくる。
「……けど、人間はきらい。特に、わたしを殺そうとしてる人間は。そんなのを見逃すほうが、どうかしてると思うけど」
「そ、そうかも……」
返す言葉がなかった。
結局俺は、角ウサギを放してやることにした。フランが腕を緩めたとたん、角ウサギは弾丸のようなスピードで逃げて行ってしまった。こういうのを、兎のごとくっていうんだな。
『……』
「あーあ、いっちまったなぁ。さて……アニ?」
『……』
「おーい、アニさん?」
『もう、知りません。飢え死にでもすればいいじゃないですか』
「わー、ごめんって!機嫌直してくれよ」
『あなたが死にたがるのは構いませんがね、私は主を失ったら存在価値もなくしてしまううんですよ!だから……』
「わかった、わかったって。きっとアニなら、食べられる葉っぱとかも詳しいだろ?山に行って、そういうの探そうぜ。もう好き嫌いしないから」
『當たり前です!この際土くれでも獣のフンでも食べてもらいますからね!』
「もうし文化的な食べがいいなぁ」
道を外れて、山にっていく。ただ、さすがにそろそろ、俺の力がやばい。この狀態で山登りは……あっちにフラフラ、こっちにふらふらする俺をみかねたアニが、諭すように言う。
『主様。そんな狀態では危険です。せめてゾンビ娘の背中に乗って移しましょう』
「え。いや、平気だって、これくらい」
『主様。見ているこっちが危なっかしいですよ』
「あ、じゃあさ。アニをフランにあずけてってんじゃダメなのか?」
『私は主様を離れられないんです。正確には、離れると機能に大幅な制限がかかるんですが。発聲や、外界の認識に支障が出ます』
「へぇ……」
アニの話にぼんやり相づちを打っていた俺は、うっかり足を踏み外して危うく転げ落ちそうになった。フランがすんでのところで支えてくれなかったら、今ごろ山道をゴロゴロ転がっていただろう。アニが猛烈な小言の嵐を浴びせるてくる中、フランはおもむろに屈みこむと、まるで子どもでも持ち上げるように、軽々と俺を背中に背負った。俺はもう何も言わずに背負われた。持つべきものは、頼もしい仲間だ。
『その草は、っこの部分を食べられます……この木の若芽はよく食材に利用されますが、あく抜きしないとお腹を下すのでダメですね……あ、キノコの群生ですよ。栄養価が高いです。そのぶん大味ですが……』
フランが移し、アニが指示を出し、俺が採集する。フランが摘み取ろうとすると、木の実だろうと何だろうと、鉤爪のせいで腐食してしまうからだ。ふむ、戦闘では強力な爪も、普段は役に立たないな。
しずつ、食料が集まってくる。俺が持ちきれなくなたぶんは、フランがスカートにくるんで運んだ。ミニスカートだろうがお構いなしの姿勢に、変な漢気をじつつ……
最後にアニは、フランに大きな朽ち木を切り崩すよう指示した。なんでも、最も重要な栄養素があるとかいう話だが……
ザク。バラバラバラ。
「ひっ」
『あ、出ました出ました』
「うお、これは……なんかの蟲か?」
砕けた朽木からゴロゴロ出てきたのは、真ん丸に太った芋蟲だった。
『葉っぱだけでは、エネルギーになりませんからね。これでのたんぱく質が補給できます』
……まあ、をさばくよりはましか。フランはこの芋蟲をスカートにくるむことだけは斷固拒否したので、代わりに俺のポケットはパンパンに膨らむこととなった。
採集が終わると、さっきの開けた地帯へ戻ってきた。きれいな小川のそばで食材を調理する。
『といっても、調理法は焼くのみですけど』
「せめて鍋くらいあればな……ん、そういや火はどうしよう?」
『それは大丈夫です。私をのにかざしてください』
「こうか?」
俺がアニをにかすと、ガラスの明な影が地面に落ちた。アニを通して、青くづいたがゆらゆらと揺れる。やがてそのは、ある一點に収束していった。
『このが當たるところへ、燃えやすいものを置いてください。枯れ葉とか、小枝とか』
「ああ、なるほど」
小學校にやった蟲眼鏡の実験、ようはあれの要領だな。俺は小枝をかき集めたが、ずいぶんしけっている。大丈夫かな?けれどそんな心配をよそに、小枝からはすぐに煙がもくもく上がりだした。
「すごい!」
『発火裝置が蔵されているんです。では、主様は火を見ていてください。下ごしらえはゾンビ娘にさせましょう』
「下ごしらえって、どうするんだ?」
『全部すり潰して、だんごにするしかないでしょう。形も分からなくなれば、しは食べやすくなるんじゃないですか?』
「はは……それは、ありがたいな」
俺は種火のそばに腰を下ろす。ズボンがるけど、知るもんか。時おり枝を折っては火にくべながら、作業をこなすフランを眺めてみる。
フランはその辺からきれいな平たい石を二つ拾ってくると、その間に拾った山菜を挾んですり潰していった。芋蟲をつぶす時はしかめっ面をしていたが、それでも淡々と手はかしている。代わろうとも思ったが、その頃には空腹がだいぶ限界になってきていた。やばい、視界がぐるぐるするぞ……
あらかた潰し終わると、それを丸める作業は俺が代わった。フランに細かい作業は無理だから。ぐちゃぐちゃになった山菜たちを適當な量に丸めて、大きなフキみたいな葉っぱに包んでいく。握りこぶしくらいの団子が三つ出來た。それを枝に刺して、たき火のそばにくべて焼く。葉っぱが焦げ付くくらいになったら完だ。
『これくらい火を通せば、大丈夫でしょう』
「今は口にればなんでもいい気分だよ……いただきます」
あむ。
「……!ふぐっ……!」
『味は大味だっていったじゃないですか。兵糧丸だと思って、飲み込んでください。すり潰してあるから、丸呑みでもいけるはずですよ』
「ごくん…………!?ひはは、ひひれるんはへほ」
『は?』
「ひはは、ひいひいふるんはへほ!」
『……エルフ語ですか?』
つづく
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