《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》1-3

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俺は涙をぽろぽろこぼしながら、人生で最も印象深い食事を終えた。果たして俺のは、この先無事だろうか?

「ふぅ……味はともかく、思ったよりボリュームはなかったな。たくさん採ったと思ったのに」

『潰して、焼きましたからね。水分が抜けて、かさはずいぶん減ったと思いますよ。早いとこ次の村に行きましょう』

「お金はどうしようか……日雇いのバイトとかあるかな」

『さて……ただおそらく、次の村には神殿があるはずです』

「神殿?」

『ええ。前の村、モンロービルには禮拝堂があったでしょう。この地方は禮拝堂の巡禮者のために、神殿が多く建てられているんです。最悪そこに泣きつきましょう。巡禮者でなくても、一泊くらいならさせてくれるはずです』

「なるほど」

『さいあく、巡禮者だと偽ってもいいですし』

「えぇ……」

なりとも腹がふくれて、元気を取り戻した俺は、ほどなく峠道をこえた。この世界こっちに來てから、ずいぶんの調子が良くなった。腹の持ちなんかは、その顕著な例だ。これも勇者の特権ってやつなのかな?

峠を抜けると、開けた高原にでた。うねうねと波打つように、大小の丘が見渡す限り広がっている。緑の海原に出てきたみたいだ。道は高原のすき間をうように、大地にくねくねとびている。

「ん……」

お?フランが急に立ち止まった。

「フラン?どうした?」

「あれ。あそこ、何かいる」

俺は前方に目を凝らした。あ、ほんとだ。ここからずっといった道沿いに人だかりが見える。

「よく見えたな。あんなとこに集まって、何してるんだろう?」

「わかんない。村の人だとは思うけど」

「よかった、人がいるってことは、村も近いってことだよな。とりあえずいってみようぜ」

気持小走りに道を急ぐ。人だかりに近づくにつれて、そいつらの格好がだんだんはっきりしてきた。集まっているのは、ガタイのいい男たちだ。そしてみんな手に手に、槍やら斧やら武を持っている。

「なんか、武持ってるぞ……」

さらに観察を続ける。男たちは腰に道れのようなものをぶら下げ、さらに……ボウガン?いや、石弓ってやつか?小さな弩を攜えている。重武裝だ。々しい恰好は、のどかな草原におよそ似つかわしくない。畑が無いから、農作業ってわけでもないし、なくともピクニックを楽しもうって雰囲気じゃないぞ。

「なんか、ちょっときな臭いな……」

アニがその様子を見て、リンと警告するように揺れる。

『恰好を見るに、猟師かレンジャーのようですが……警戒したほうがいいかもしれません。私をしまってください』

「そうだな。フラン、お前も俺の後ろにいろよ。あと、爪は隠しとけ」

俺はアニを服の下にしまうと、フランの前に立ってそろそろ近づいていく。これでパッと見は勇者に見えないはずだ。だけどもし、隣村まで俺のうわさが広まっていたら……こいつらは、俺を待ち構えているのかもしれない。

「ん?ボウズ、なにしてるんだこんなとこで。ここは危ないぞ」

俺の姿を見つけて、中年のおじさん猟師が聲をかけてきた。親切そうな顔をしているが、その手にはまさかりがっている。油斷しないほうがよさそうだ。俺は慎重に返事をした。

「この先の村に行くところなんだ。たまたま通りかかったら、人がいっぱいいるから驚いたよ。なにかあったのか?」

「そうか、もしかしてモンロービルからきたのか?だったらお前も聞いてないか、半狼のうわさ」

「え?はんろう?ってなんすか?」

「知らないか?半狼ルーガルー。ほら、オオカミとライカンスロープの半々みたいなやつ」

は?オオカミはわかるが、ライ……なんとかって、なんだ?困する俺をよそに、おじさんは話を進める。

「むかーしはこのあたりにもいたんだが、今はこの一つ向こうの山にしかいねえ。俺の父ちゃんたちの時代に大規模な狩りをしてな。ところがだ。最近、群れの一部がこの辺りに移してきたみたいなんだ。村の羊の三分の一が食われちまった。それだけじゃねえ、數日前に村の娘が一人さらわれた。もう容赦できねえ」

「あ……じゃあ、これから狩りを?」

「そういうことだ。だから悪いなボウズ、俺たちの村に用つってたけど、今は村中それどころじゃねえんだ。でなおしてきな」

「え、まいったな。ようやく著いたと思ったのに……」

「つってもなぁ。オオカミ狩りなんておっかねえことしてる村、お前もいたくねえだろ」

困ったな。この村で補給ができないとなると、次の村までまた腹ペコだ。まさかモンロービルに戻るわけにもいかないし。

「ねぇ」

そのとき、俺の後ろでずっと黙っていたフランが、突然口をはさんできた。おじさんが不思議そうに俺の後ろをのぞき込む。俺は慌てて、手をばたばた降って視界を遮った。

「なんだ、その子?お前さんの妹か?ずいぶん顔が悪いが……」

「あ、あはは、そんなところ。人見知りでさ、俺の後ろから離れないんだ」

「ほーん……それで、お嬢ちゃん。俺になんか聞きてえのか?」

「その、オオカミ狩りってやつ。私たちも參加したい」

つづく

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