《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》2-1 半狼狩り
2-1 半狼狩り
「はぁ?」
「お、おい、フラン?」
何てこと言い出すんだ、狩りに參加したいだなんて。案の定、おじさんは大口を開けて笑い出した。
「あっははは!威勢のいいお嬢ちゃんだな。嬢ちゃんは將來狩人にでもなりたいのかい?」
「別にそういうわけじゃないけど。部外者の飛びり參加はダメなの?」
「おいおい、本気か?冗談きついぜ。オオカミ狩りは子守しながらできるほど気楽じゃねぇんだ」
「安心して。自分たちのは、自分たちで守れるから」
「あのなぁ。子どもが何言ってんだ」
俺たちのやり取りを聞いていたのか、ほかの猟師たちもぞろぞろと集まってきた。
「なんだなんだ。こいつら、狩りに加わりたがってんのか?」
「ああ。聞かないんだよ」
「ようよう、ボウズたちはなんだってオオカミ狩りなんかを手伝いたいんだ?」
ひげもじゃの猟師がいぶかしげにたずねてきたが、俺に聞かれても困る。俺はフランにひそひそと聲をかけた。
「おいフラン、どういうつもりなんだよ?」
Advertisement
「路銀の確保。協力すれば、報酬がもらえるかもしれない。最悪、今晩の宿くらい融通してくれるでしょ」
「ああ、なるほど!」
オオカミとか人がさらわれたとか、そっちにばかりに気を取られてた。その點フランは、冷靜というか、ビジネスライクなんだな。けど、いい考えかもしれない。
「おい、どうした?答えられないようなことなのか?」
「ああ、ぜんぜんそんなことは。えーっと、実は俺たち、訳あって文無しなんです。このままだと今日寢るところもない。だから皆さんのお手伝いをさせていただく代わりに、今晩の宿を恵んでくれないかなって」
「なに?なんだ、そういう理由だったのか。おい、こう言ってるんだが、どうするよ?」
ひげもじゃの猟師が、他の男たちに振り返る。猟師たちはうーんと唸りながら、どうしたもんかと意見をわし合っている。
「おいボウズ、剣を持ってるが、腕に自信はあるのか?」
「え?これ?これは昨日拾った……なんてことはないぞ!自信?あるある!オオカミくらいわけないよ!」
危ない、つい本當のことを言いそうになった。ここはハッタリでも、信用させておいた方がいいよな。
「うーん。確かに、男手が足りねえ。ありがたい話ではあるがなぁ」
「けどよ、足手まといになられたら、かえってこっちが危ないぜ」
「だったら、追い立て役の方をやってもらうか。あれならわりかし安全だし、最悪剣がありゃ自衛くらいはできんだろう」
「子どもだけってのも引っかかるしな。この辺で悪さされるくらいなら、俺たちが面倒見てやった方がいいか」
「そうだな。よし、決まりだ!ボウズ、ちょっとこっちに來い」
ひげもじゃの猟師が手招きする。俺が近寄ると、猟師はびしっと、指を俺の眼前に突き付けた。
「お前たちの事は分かった。短期雇用ってことで、狩りに參加させてやる」
「ホントに?やった、ありがとう。がんばるよ」
「おう。がんばるのもいいがな、これだけは覚えとけ。狩りが始まったら、己のは己で守るんだ。俺たちも気にかけてはやるが、いざという時頼りになるのはテメエだけだ。それを忘れんじゃねえぞ」
「わかった。俺もこんなところで死にたくないからな」
「よし。じゃ、すぐに狩りを始めるぞ。詳しいことはそいつから聞け」
ひげもじゃの猟師が指さしたのは、最初に話しかけたおじさんだった。おじさんはにこにこ笑って、俺の肩を叩く。
「よかったな。俺らとしても、男手が増えるのはありがてえ。がんばれよ」
「ありがとう。期待しててよ、対価に見合うだけの働きはして見せるから」
「はっはっは!威勢がいいな、ガキのくせに。お前、名前は?」
「桜下っていうんだ」
「オウカ、か。珍しい名だな。俺はウッドだ。で、あっちのひげはエド」
「ウッドさんに、エドさんだな」
「よせ、ウッドでいい。じゃあまずはじめに、お前さんもシスターに祈禱してもらえ」
「きとう?」
「神殿のシスターに來てもらってるんだ。狩りの前はお祈りをささげてもらってるのさ。こいよ、こっちだ」
手招きするウッドについていくと、ものものしい猟師たちに紛れて、小柄ながうつむいて立っていた。ウッドが聲をかけると、は顔を上げた。
「シスター、たびたびすまねえ。こいつにも祈禱してやってくれないか」
「え?先ほど全員済ませませんでしたか?」
「いやぁ、こいつが飛びりで參加しちまったもんだからよ。ほれ、ボウズ。この人がわが村の神の杖、ウィルさんだ。んでウィルさん、こいつがそのボウズ」
「はぁ、どうも。ゲデン神殿の、ウィル・O・ウォルポールと申します」
ウィルと名乗ったは、そういって軽く頭を下げた。金髪金眼のきれいな子だ。たれ目が優しそうな印象を與えるが、いまは気難しそうに眉を寄せているせいで、強張った顔をしている。
「あ、こちらこそ。西寺桜下っていいます」
「ん?ボウズ、おまえさんのオウカって、ファミリーネームか?」
「え?あちゃ、逆だ。オウカ・ニシデラです」
そういや、ここって名前が英語式だった。まだ慣れないや。
「そうですか。で、ニシデラさんは、飛びりで參加なさったとか」
「うん。手伝わせてもらうことになったんだ」
「ですか。では、あなたにも祈禱をさせていただきます」
ウィルはそういうと、元の金屬のプレートを引っ張った。プレートには數珠狀のチェーンがついていて、取り外せるようになっている。プレートの表面には、不思議な文様が刻み込まれていた。
ウィルは目をつぶって何かをぶつぶつつぶやくと、プレートを俺の顔の前にかざした。
「汝を祝福したまえ」
プレートが一瞬、淡い緑にった。けどそれだけで、俺自に何か変わりはない。これで終わりなのか?
「これで神の祝福はあなたと共にあります。では、お気をつけて」
「あ、はい。どうも」
ほんとに終わりらしかった。ウィルはまた軽く會釈をすると、すたすたと離れて行ってしまった。
「うっし、これでばっちりだな。じゃあみんな、ぼちぼち始めようや」
ウッドが聲をかけると、猟師たちは手に手に得を持ち、ぞろぞろ移し始めた。近くの山に向かっているらしい。ひぃ、また登山か。俺とフランも、遅れないようについていく。するとウッドが、こちらを見て目を丸くした。
「おいおい。妹ちゃんはシスターと一緒に待ってろ。いくら兄ちゃんが心配だからって、ついて來たらあぶねえぞ」
「あぁーっと、彼は正確には妹じゃないんだ。なんていうか、パートナー?みたいなやつで」
「ほお?ははーん、男め。その歳でもうガールフレンドがいるのか。こいつめ、こいつめ!」
「いたた、ちがうちがう。そういう意味じゃなくて、一緒に旅する仲間なんだ。いわばバディなんだよ。俺と一緒に戦ってくれるんだ」
「え?おいおい、本気かよ。その子も戦えるってのか?ハハハ、冗談が過ぎるぞ」
「俺よりもずっと強いよ。彼の腕は俺が保証するから、二人一緒に參加させてくれ、お願い!」
「ぶはっ。なにぃ?おい嬢ちゃん、お前もそのつもりだってのか?」
フランは何も答えなかったが、俺の背後から離れることもなかった。ウッドは頭をガシガシかく。
「んなバカな話があるか。だいたい……ちっ、そういうことは早く言えよな。シスターに祈ってもらい損ねたじゃないか」
「あのお祈りって、そんなに大事なのか?」
「あれは、一種のお許しなんだ。狩りをして、命をいただくことに対しての。ゲデンは、死と再生の神だからな」
「そうなんだ……ウッド、祈りをけなきゃ、參加しちゃダメかな?どうしても?」
「……だぁー、そんな顔で見るな。しょうがない、お嬢ちゃんのお祈りの分は、ボウズがしっかり守ってやるんだぞ。いいな」
「ありがとう!もちろんだ、俺たちは二人で一人みたいなもんだからな」
「ちっ、この野郎!連れで狩りに出るとは、ふてぇやろうだ!」
「あいたたた、ウッド、ギブギブ!」
つづく
====================
Twitterでは、次話の投稿予定や、作中に登場するモンスターなどの設定を公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
読了ありがとうございました。
【書籍化】宮廷魔導師、追放される ~無能だと追い出された最巧の魔導師は、部下を引き連れて冒険者クランを始めるようです~【コミカライズ】
東部天領であるバルクスで魔物の討伐に明け暮れ、防衛任務を粛々とこなしていた宮廷魔導師アルノード。 彼の地味な功績はデザント王國では認められず、最強の魔導師である『七師』としての責務を果たしていないと、國外追放を言い渡されてしまう。 アルノードは同じく不遇を強いられてきた部下を引き連れ、冒険者でも始めようかと隣國リンブルへ向かうことにした。 だがどうやらリンブルでは、アルノードは超がつくほどの有名人だったらしく……? そしてアルノードが抜けた穴は大きく、デザント王國はその空いた穴を埋めるために徐々に疲弊していく……。 4/27日間ハイファンタジー1位、日間総合4位! 4/28日間総合3位! 4/30日間総合2位! 5/1週間ハイファンタジー1位!週間総合3位! 5/2週間総合2位! 5/9月間ハイファンタジー3位!月間総合8位! 5/10月間総合6位! 5/11月間総合5位! 5/14月間ハイファンタジー2位!月間総合4位! 5/15月間ハイファンタジー1位!月間総合3位! 5/17四半期ハイファンタジー3位!月間総合2位! 皆様の応援のおかげで、書籍化&コミカライズが決定しました! 本當にありがとうございます!
8 87まちがいなく、僕の青春ラブコメは実況されている
不幸な生い立ちを背負い、 虐められ続けてきた高1の少年、乙幡剛。 そんな剛にも密かに想いを寄せる女のコができた。 だが、そんなある日、 剛の頭にだけ聴こえる謎の実況が聴こえ始め、 ことごとく彼の毎日を亂し始める。。。 果たして、剛の青春は?ラブコメは?
8 100異世界で最弱の職についた僕は、最強を目指しました。
異世界に転生した主人公がはちゃめちゃな展開を乗り越え最弱から最強へ成長していく殘念系異世界ファンタジーです。
8 130この度、晴れてお姫様になりました。
現世での幕を閉じることとなった、貝塚內地。神様のはからいによって転生した異世界ではお姫様?ちょっぴりバカな主人公と少し癖のある人達との異世界生活です。 拙い點の方が多いと思いますが、少しでも笑顔になってくれると嬉しいです。 誤字・脫字等の訂正がありましたら、教えて下さい。
8 146異世界から帰ってきた元勇者
異世界に行く前の日常から突如召喚魔法により異世界に召喚された勇者は魔王を倒し最強の稱號を手に入れ。やっと帰還できた勇者は元の世界を謳歌する!
8 78After-eve
のどかな自然に囲まれて--- 小さな街の「After-eve」というパン屋を中心のヒューマンストーリー
8 92