《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》2-2
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山にると、猟師たちは二手に分かれた。俺たちはウッドたちと同じグループに加わる。ひげもじゃのエドはもう片方のグループだ。
「今から二手に分かれて、山を囲むように追い込みをかける。ルーガルーどもはこの山の中腹あたりに巣を作ってるはずだ。そこまで追い立てるぞ。あとは巣で落ち合おう」
俺たちのグループは、エドたちとは反対方向に進み始めた。追い立てるって言ってたけど、どうするんだろう?ウッドに質問してみると、ウッドは手ぶりもえながら説明してくれた。
「帯みたいに橫に広がって、人の網を作りながらオオカミどもを追い込むんだ。わざと大聲を出したり、音を立てたりしてな」
「え。それって、危なくないのか?襲われたりとか……」
「連中は賢いからな。こちらの人數が多いと分かれば、おいそれとは姿を見せない。だからこの狩りは人が多ければ多いほど安全だし、追い込みも楽になるんだ」
「なるほど」
しばらくすると一人が列から離れていった。そこから十分に距離をあけると、次の人が分かれる。そうやって“網”を作っていくんだろう。ほどなくして、俺たちが分かれる番がやってきた。ウッドが山の上のほうを指さした。
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「いいか、いま俺たちは山の北側にいる。だからお日様と山頂は同じ方向だ。俺たちは、太の真下を目指して山を登っていくことになってる。だから太が山のてっぺんを通り過ぎる前に、上まで登り切るんだ。わかったな」
「了解だ」
「遅れんなよ。お前が遅れると、みんなの足並みが狂っちまう。それだけじゃない、お前のところが抜けだと思って、オオカミどもが押し寄せてくるかもしれないんだ。みんなぴったり同じに、網を絞っていかなきゃならねえ」
「わかった。なぁ、だったらスタートがずれるのはいいのか?俺より前に分かれた人は、後の人たちより先に登っちゃうだろ?」
「なあに。俺たちがただぐるぐる橫へ移してると思ったか?わはは。気づかなかったかもしれないが、歩きながらしずつ山を登ってきたんだ。みんなの位置が同じになるようにな」
「へぇー。全然気づかなかった」
「俺たちはプロだからな。けど、お前は今日初めての素人だ。油斷するなよ。じゃあな」
ウッドは俺の肩をバシッとたたくと、殘りの猟師たちと一緒に行ってしまった。
「じゃあ、俺たちも行くか。ふう、とりあえずはうまくいってるよな」
フランもうなずく。
「ばれなくてよかった。ちょっと怪しまれたかもしれないけど……」
「ひひ、フランの強さを知ったら、みんな驚くだろうな」
「あなたが元勇者だって知ったら、もっと驚くはず。なるべく目立たないように行こう」
「同だ」
俺とフランは、黙々と山を登り始めた。すると、シャツの下で鈴が鳴る。リィン。
『……主様。人はいなくなりました?そろそろ出してもらえると、外の様子が把握できるのですが』
おっと、そうだった。ガラスの鈴をシャツの下から取り出し、ついでに俺は気になっていたことを質問してみた。
「なあ、アニ。そもそもなんだけど、ルーガルーってなに?」
『本當にそもそもですね……半狼・ルーガルーは、狼人間とオオカミの中間のようなモンスターです』
「お、狼人間!?」
『とは、し違います。狼人間・ライカンスロープは満月になると変するのに対し、ルーガルーは変しません』
「あん?じゃあ、ただのオオカミじゃないか」
『いいえ、元から人型なんです。群れの中の上位のオスが人型になり、以後群れを統率する習があります。それ以外の個は一回り大きなオオカミといったところですね』
「ひ、人型……強そうだな」
『知能も高く、危険ではありますが、ライカンスロープほどではありません。大人數で包囲すれば、分の悪い話ではないですよ』
「そ、そっか」
オオカミ人間か。どんなやつか知らないが、ウッドたちと合流するまで現れてくれるなよ。
山は高く登るにつれ、険しさを増していく。俺は剣を杖代わりに突きながら(代用品としては不向きだったが)、ひぃひぃ進んでいった。もちろん途中で、音を立てるのも忘れずに。茂みをつついてみたり、倒木をたたいてみたり。オオカミどころか、蛇が飛び出してくることもなかったが、そうして音を立てると必ず、遠くのほうでカサッと小さな音がするんだ。急いで目を凝らすけど、樹木の間には何も見えない。けど、何かがそこにいるんだ。不気味な靜けさって言うのかな。俺はずっと監視されているような、嫌な視線をじ続けていた。
「靜かに」
しばらく山を登り続けたころ、突然フランが足を止めた。俺はびくりときを止めると、小聲でフランにささやく。
「どうした?」
「何か、聞こえたような……」
耳をそばだてる。山の中には、鳥のピューイという鳴き聲、かれ葉が落ちるぱさっという音、時折吹く風のひゅおぉという唸り聲……
「おおーい……」
ん!今度は俺にも聞こえた。いそいでアニをしまう。
「おーい、オウカ!」
「ウッドだ!おおーい、ウッド!ここだー!」
俺が大聲でぶと、すぐに左側から返事が聞こえてきた。聲のほうに目を凝らすと、木々の合間にウッドが手を振っているのが見えた。ほか數人の猟師たちも一緒だ。
俺たちはウッドたちのほうへ駆け寄っていく。ウッドたちもこちらへ歩いてきた。
「ウッド!どうしたんだ?」
「おう、二人とも無事そうだな、よしよし。合図が來たから、迎えに來たんだ。エドたちの隊が巣を見つけた。あっちと合流するぞ」
「あ、そうなんだ。合図なんて、いつ出てたんだろ?」
「聞こえなかったか?こう、ぴゅーっていう指笛の音」
ウッドは指をくわえると、ピューイと鳥そっくりの音を出した。
「鳥にしか聞こえないよ!」
「ばか言え、こんな聲の鳥がいるもんか。さ、それよりとっとといくぞ。こっからが仕上げだ」
うう、いよいよか。ルーガルー、どんな化けなんだ?
俺とフランはウッドたちのあとについていく。俺はその間、様々なルーガルーの姿を想像してはかき消していた。そのせいで、かなり奇怪なイメージが出來上がってしまった。こんな恐ろしい怪がいたら、腰を抜かしてしまうかもしれない。
やがて目の前の樹木が開け、大きな崖が見えてきた。崖の周りは木が一本もなく、視界が開けている。分かれた別グループの猟師たちが、その手前の茂みに隠れるように待っていた。
「きたか」
「どうだ?」
「あそこだ。窟がある」
窟?目を凝らしてみると、確かに崖の一部に裂け目がある。あれか?
「數は?」
「わからん。が、巣の大きさ的に、中程度の群れだろう」
「そうだな。よし、始めよう」
猟師たちはいっせいにうなずいた。
つづく
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