《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》4-1 祝賀會

4-1 祝賀會

フランを追いかけまわしてずいぶん時間を使ってしまったから、俺の浴時間はもうほとんどなかった。フランには外で待ってもらって(自分は目の前でがせたくせに……とぶつくさ言っていたが)、大慌てで服をぐ。帽子は……

「……いいか、俺一人なんだし」

カラスよろしく一瞬の浴を済ませ、俺が風呂場を出ると、ウィルが待っていた。

「みなさん、もうお揃いです。よろしいですか?」

「ああ。ぎりぎりセーフだったな」

「はあ。なにやらずいぶん賑やかだったようですが、浴前はいつもああなのですか?」

「……まあ、そんなところだよ」

「ふぅん。変わってますね。ところで、あのの子はどちらに?」

へ?あ、フランがいない。あいつ、どこ行っちゃったんだ?

『……主様』

アニが服の下から小聲で話しかけてきた。俺はウィルの様子を盜み見ると、フランを探すふりをして、さりげなく後ろを向いた。

「なんだよ?」

『あのゾンビ娘は一緒にいないほうがいいと思います。彼は、アンデッド。神殿でお清めなんかしたら、浄化されて消滅するかもしれません』

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「え、まじか。じゃあ、適當にごまかしといたほうがいいな」

危ないところだった。フランもそれをわかっていて、隠れているのかもしれない。俺はごまかすようにウィルへ笑いかけた。

「あはは、あいつ風呂ではしゃぎすぎて、しのぼせてたから。涼みに行ってるのかもしれない。待たせても悪いから、俺たちだけで進めてようぜ」

「ですか。まあ、いいとおっしゃるのであれば」

ウィルは特に突っ込むこともなく、こくんとうなずくとすたすた歩きだした。俺も後を追う。

祭壇の部屋にると、猟師たちが勢ぞろいしてひざまずいていた。その顔を見回していると、ウッドが手招きしている。俺はその隣に行くと、みんなと同じようにひざまずいた。

「おい、あのお嬢ちゃんは?」

「のぼせたんで、休ませてる」

「そうか。つくづくタイミングが悪い嬢ちゃんだな」

「なあ、あのの人は?」

「埋めた。墓碑になんて刻んだらいいのかわからなかったから、無名の墓になってしまったけどな」

ウィルが俺たちの前に立ったので、おしゃべりをやめる。ウィルの隣には小さな機が置かれていて、その上に水をれた盆と、木の枝がのせられていた。とげだらけの葉っぱ……ひいらぎ、かな?

「皆さんお揃いですか。それでは狩猟の完了を主へ報告し、みな無事であることを主へ謝し、主のもとへ向かう魂の安らかなることを祈りましょう」

ウィルが両手を合わせて目を閉じると、ウッドやほかの猟師も同じようにした。俺もあわててそれに倣う。しすると、ちゃぷりという水の音、がさがさと枝葉がすれる音がした。何をしてるんだ?俺は好奇心を抑えられずに、薄目を開けて様子をうかがってみた。

ウィルがひいらぎの枝を水に浸している。適當にひたして枝を水から上げると、ウィルはその枝を俺たちへ向けて打ち払った。枝についた冷たいしぶきが俺たちに降りかかる。だが猟師たちは一聲も上げずに、黙ってその水を浴びている。

ウィルは何度かその作を繰り返すと、元のプレートを手に持った。そして小さな、しかしよく通る聲で言った。

「魂よ、安かれ」

隣にいるウッドが、なにか小さな言葉をつぶやき、より一層背中を丸めたのをじた。ウィルも目をつぶっている。この時間は、何の時間なんだろう。みんな何を思って、だれの冥福を祈っているのかな。

俺は、あのの人のことを考えていた。

「これで終わりです。ご苦労様でした」

目を開いたウィルが簡単に告げると、猟師たちも次々に目を開け、立ち上がった。お清めって言っても、ずいぶんシンプルなんだな。ウッドが肩をぐるぐる回しながら、明るく言う。

「さてっと。じゃあみんな、“ゲートウェイ”に集合だな。ボウズ、お前は俺とこい。案してやる。シスターもご一緒にどうですか?」

「え。いいのですか?」

「もちろん。うまくもないメシに野郎ばかりでもよければ、わはは」

猟師たちはぞろぞろと神殿を後にしていく。きっとこのまま、打ち上げ會場のゲートウェイとやらへ向かうのだろう。っと、じゃあその前に。

「ウッド、し待っててくれるか。フランに一聲かけてくる」

「おう、わかった。そこで待ってるからな」

俺はウッドと別れ、とととっと裏庭に走っていった。たぶん來ないって言うだろうけど、一応フランに行き先を告げておこう。さて、どこにいったか……

「おーい、フラン。どこにいるんだろ」

『主様。気から察するに、あの林の向こうにいるようです』

林の向こうに?俺はアニの言う通り、はなれをこえて、もみの林の中へっていった。林はそんなに深くはない。すぐに向こう側に抜けることができた。

「あ、ここは……」

林の向こうには、白い墓石が整然と並んでいた。墓地だ。そういえば、神殿の裏がお墓になっているって言ってたっけ。

神殿の裏手は周囲を崖に囲まれていて、ちょうど三角形のような形をしていた。崖そばぎりぎりまで、余すことなく墓碑が立ち並んでいる。フランはその墓地の真ん中にたたずんでいた。墓碑を眺めているのか?またずいぶん、雰囲気たっぷりの場所にいるな……

「おーい、フラン」

俺が呼ぶと、フランは振り返ってこちらを見た。俺はフランのそばまで歩いていく。

「何してたんだ?」

「別に。神殿に行きたくなかっただけ」

「そっか。たぶんそうだろうなって、アニと話してたんだ。墓石を見てたのか?」

「まあ、うん」

俺も目の前にならぶ墓石を見てみた。白い墓石には、そこに眠る人の名前と沒年、それと簡単なメッセージが刻まれている。

“大好きなシードケーキを口いっぱいほおばって ~この上なく幸せそう~ 七十六歳 バーバラ”

“酒に酔ったまま川に飛び込んで ~死んでやむなし~ 五十二歳 ベン”

“孫とひ孫たちに囲まれて ~天壽全う~ 九十九歳 ヘレン”

“好の魚にあたって ~早すぎる死を悼む~ 三歳 ハリー(貓)”

「……面白いか?」

「別に。暇をつぶしてただけ」

「そっか」

俺は墓石たちをみわたす。白い石が、一定間隔で並んでいる。このどれか一つが、あのの人の墓なのだろう。

「これからウッドたちと打ち上げにいくんだ。俺はメシを食いたいから行くけど、フランはどうする?」

「いい。待ってる」

「そっか。じゃあ、行ってくるな」

俺はフランと別れ、墓場を後にする。ここなら人目にも付きにくいし、フランの姿もうまく隠してくれるだろう。本當は、こんな寂しいところにフランを一人置いていくのは嫌なんだけど……こういう時、フランと一緒にいる友達がいるといいんだけどな。

ん?そういえばここは墓場、となれば當然、その下には……

「……」

……やめとこ。なんだかばちが當たりそうだし、なにより俺が怖い。

つづく

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