《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》6-1 幽霊さわぎ

6-1 幽霊さわぎ

俺は夢を見ていた。

俺のネクロマンスの能力で、あの名前も知らないを蘇らせて、どこか遠くに逃してやる容だった。は幸せそうに笑い、それを見ている俺も晴れやかな気持ちだった。なんとも勝手で都合のいい、けれど幸福な夢だった……

「ニシデラさん!」

「うわ!」

突然のび聲に、俺はベッドから飛び起きた。なんだ、なんだ。

「ああよかった、わたしの聲が聞こえるんですね」

「はれ?ウィル?」

俺を叩き起こしたのは、真っ白な顔をしたウィルだった。ずいぶん顔が悪いな、どうしたんだろう。

「ニシデラさん、私を助けてください!」

寢起きで事が飲み込めない俺に、ウィルがまくし立てる。ずいぶんな慌てようだ。

「ウィル、落ち著いてくれよ。まずは一旦説明してくれ。いったい何があったんだ?」

「あの、それは……」

ウィルが言葉に詰まる。するとわきから、ひょこっとフランが顔を出した。あれ、どうしてフランがここに……ああ、いっしょの部屋で寢たんだっけか。正確には寢たのは俺だけだけど。フランは片腕を上げると、よく見ておけとばかりにふりふり振った。

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「口より見た方が早い。こういうこと」

フランはガントレットのはまった腕を、ウィルの方へ突き出した。

腕は、ウィルのをするりとすり抜けた。

「うひぃ!?」

「きゃあ!ちょっと、いきなり何するんですか!」

「これでわかったでしょ。この子、霊になってる」

れ、霊?それって、レイスとか、幽霊とかと同じってことか?

「って、ええ!ウィル、死んじまったのか!?」

「ち、違います!」

ウィルは俺の聲にかぶせるように、食い気味に否定した。

「私、死んでなんかいません!今朝目が覚めたら、突然こんなことになってしまっていたんです。何がなんだか、私にもよくわからないんです……」

目が覚めたら幽霊になっていた。それは、誰だって驚くだろうな。けどそれってつまり、突然死んでしまったってことなんじゃないか?けれどウィルは、自分は死んでいないと斷言する。うーん……?確かに、ウィルは昨日の時點ではピンピンしてたよな。

「ウィル、持病があったりとかは?」

「ありません。なくとも、私の知る限りでは、病気とは無縁に暮らしてきたはずです」

「昨日、妙なものを食ったり……」

「してません!あなたも見てたでしょう!同じ場所にいたんですから」

「そうだよな。うーん、さっぱりわからない。フラン、お前は何かわかるか?」

「さあ。わたしだってゾンビだし、もう死んでるけど、そんなこと詳しくないし。けど、あのムカつく鈴なら、何かわかるかもと思って」

「そうだな……っておい!フラン、ウィルの前で……!」

俺はウィルの視線を気にしながら、あわあわと手を振った。フランがもう死んでゾンビだってことを話したら、俺が元勇者だってバレちゃうじゃないか!

「あ、ニシデラさん。隠さなくてもいいです、事は聞きましたから」

「へ?」

ウィルは慌てふためく俺をよそに、こくりと落ち著いてうなずいた。

「ですから、フランセスさんに聞きました。ニシデラさん、勇者様なのでしょう?」

え?俺がフランを見やると、フランもまたこくんとうなずいた。

「わたしから話した。というかばれた。今朝、この子が扉を突き抜けて部屋に飛び込んできたときに」

「あ、あの時は気が転してたんですよ」

「ノックくらいすればいいのに」

「扉にれられないんです!」

「……えーっと、話が見えないんだけど?」

フランとウィルはハッとすると、お互い邪魔するなとばかりににらみ合った。まったく、しの間にずいぶん仲良くなったみたいだな?

フランが咳払いをして続ける。

「コホン。それで、この子がいきなり飛び込んできて、私は敵だと思ったから、爪を抜いて切りかかったの」

「あ、それでばれたのか」

「うん。それに、この子の姿が見えたこと自、普通じゃない。今この子が見えているのは、わたしとあなただけみたいだから」

「え?ほかの人には見えていないのか?」

俺には、ウィルの聲も姿もはっきり(ではない。よく目を凝らすと、うっすら向こう側がけている……)知覚できているけれど。ウィルは困り顔でうなずいた。

「はい。村の人たちには私の聲が屆かないようで……気づいてくれたのは、ニシデラさんとフランセスさんだけです」

「なんでまた……あ、ネクロマンスの能力か!」

「と、わたしも思って。そこまで話したとこ」

なるほど、事は分かった。ばれてしまったことは仕方ない、急事態だしな。

「って、ことらしいんだけど。専門家のアニさん、どう思う?」

俺はガラスの鈴を服の下から引っ張り出した。ここに來てからずっと隠してばかりで、ずいぶん久々にアニを外に出した気がするな。

『……話は聞かせていただきました。要は、その幽霊娘が幽したのではないか、ということでしょう』

全員の視線がアニに集中する。ウィルは薄青にるアニを見て、珍しそうにしいていた。幽はそのままに、魂だけが抜け出てしまうってやつだっけ?

『幽であれば、そのものは無事なはず。つまりこの幽霊娘は生霊、生きたままの幽霊ということになります』

「っ!やっぱり!私、まだ死んでないんですね!」

ウィルが目を輝かせた。

『ええ。ただ、あなたの話を百パーセント事実とするならです。もし前提が間違っていたら……』

「いいえ、それが真実のはずです!なら私は、自分のに戻ることができればいいんですね」

『ええ。ただし、本來魂だけがから抜け出るなど、あってはならない事象。それが起こってしまったということは、なにか尋常ならざる要因があるはずです』

「え?……とすると?」

の上に重なれば元に戻る、という簡単な話ではないということです。一度抜け出た魂を戻すには、繊細かつ専門的な技が要求されます』

「そんな……この村に、そんな知識のある人なんて……」

『が、ここにいる主様の能力であれば、それも可能でしょう』

「……お。俺か?」

俺はすっかり聞き手に回っていたので、突然の指名に反応が遅れた。ウィルの黃金の瞳がすがるように向けられる。

「ニシデラさん!本當ですか!」

「え、いや、俺はそんなの知らな……」

「お願いします!どうか助けてください!」

「話を……」

「お禮ならします!私にできることなら、なんだってしますから!」

「……」

ここでノーと言ったら、俺は末代までたたられそうだな。もちろんウィルを助けることに異存はないけど、魂をに戻す方法なんか、俺は知らないぞ?

「アニ、本當にネクロマンスの能力でどうにかできるのか?」

『問題ないと思いますよ。生霊だろうが死霊だろうが、魂に変わりはありませんから』

「そーいう問題かね……」

『そういう問題です。幽霊と生霊と悪霊と、主様は見分けられますか?』

……そういわれると、どれも同じな気がしてくるな。なんにしても、やるしかなさそうだ。ウィルが見えるのは、現狀俺たちだけなんだし。

「わかった。ウィル、引きけたぜ」

「ほ、本當ですか!ニシデラさん、ありがとうございます!」

「ただし、條件がある。何でもしてくれるって、さっき言ったよな?」

ぱあっと明るくなったウィルの顔が、ぎくりとひきつった。

「あの、その、言いましたけど……」

「絶対だな?後で破ったりしないよな?」

「あの、はい。ただ私は、神に一生を捧げたなので、その……」

「じゃあ、條件一つ目。俺たちのことは、村の人たちにナイショにしてくれ」

「へ?」

ウィルはぽかんと口を開けた。

「俺は訳あって、勇者をやめたんだ。だから俺が勇者ってことや、フランがゾンビだってことはにしてくれ。勇者がよく思われないのは、ウィルも知ってるだろ?ウッドたちとは、笑顔でさよならしたいからさ」

「そ、それだけ……?あ、いえ、わかりました。ニシデラさんたちのことはにします。それで、二つ目は……?」

「うん。それなんだけど、いい加減ニシデラさんはよしてくれよ。歳も変わらないんだし、桜下でいいよ」

「は、はい?」

「俺は名前で呼んでくれって言ってるのに、フランもアニもずっとあなたとか主とか……せめてウィルだけは、桜下にしてくれよ。口調もそんなにかしこまらなくていいから」

「あ、敬語は神殿暮らしのくせというか……けど、わかりました。では、桜下さんと呼ばせてもらいます」

「おう。改めてよろしくな、ウィル。それじゃあさっそくだけど、ウィルの部屋に行こうぜ。生霊っつっても、早いとこに戻しちまったほうがいいだろ」

「あ、そうですね。ただ……」

「あん?ただ、なんだよ」

俺が部屋を出ようとすると、ウィルは決まり悪そうに俺を引き留めた。

「なんだよ、まさか部屋が散らかってるとか言わないよな?」

「わ、私の部屋はきれいに片付いてます!じゃなくて、あの、私のについてなんですけど……」

「うん?だって幽したのは今朝なんだから、はベッドで眠ってるはずだろ?」

「いえ、それが……私が今朝目覚めたのは、祭壇だったんです」

へ?祭壇?なんだってそんなところで寢てたんだ?

「変わったところで寢てるんだな。けどじゃあ、祭壇に行けばいいってことか」

「いえ、ちがくって……実は、ないんです」

「は?」

「私の……見つから、ないんです」

「ええー!?」

つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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