《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》7-4

7-4

「……アニ、もう大丈夫だ」

俺は目をぎゅっと閉じると、目の前の景を振り払うように首を振った。目を開くと、俺は林の中に戻ってきていた。

「桜下さん。あの、それでどうなったんです?その人影は?」

ウィルがを乗り出してせっつく。俺は興するウィルを押しもど……せはしないか、幽霊だから。代わりに首を橫に振る。

「ウィル。あそこにきみのはなかったよ」

「え……」

「あそこにいたのは、あの名前も知らないの人だった。それだけだ」

「で、でも。どうして……」

「どうして、か……その理由はまだわからないけど、一つはっきりしたことがある」

「え。なんですか、それって?」

ウィルが大きく瞳を見開く。俺はさっきの景を見て、一つのことを確信した。

「あのルーガルーは、死人を甦らそうとなんてしていないよ」

「ええ!そんな、いまさらですよ!だって、現にあのオオカミは、死を集めてるじゃないですか。桜下さんも見たんでしょう、あのの死を!」

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「うん。それに、ほかの仲間のオオカミのものもあった。俺も最初は、怪しい儀式の準備なのかと思ったよ。けどさ、そのあとにあいつの姿を見たら、絶対そうじゃないって思ったんだ」

「あいつって……いったい、何を見たっていうんですか?」

「あいつ、生き殘ったルーガルーは、窟の一番奧にいた。そして自分の周りに、オオカミたちの死骸を集めていた。その中でもある二の死だけは、自分のすぐ近くに置いていたんだ」

「……その、二って」

「うん。前のリーダーだったルーガルーの死と、あののものだよ。まるで互いに寄り添いあって眠っているみたいだった」

ルーガルーは、二の間に埋もれるように寢そべっていた。俺はこれを見て、はっと気づいたのだ。だけどウィルはまだ呑み込めていないらしい。

「それは……どういうことでしょう。まるで死者を名殘惜しんでいるようですが……」

「いや、その通りだよウィル。きっとあいつは、家族を惜しんでいたん」

「は?いやいやいや、今はあの獰猛なオオカミ、ルーガルーの話をしているんですよ」

「わかってるよ。オオカミだって、死者を悼む気持ちくらいあるだろ?」

「相手はモンスターですよ?」

「モンスターである前に、生きだろ。アニ、間違ってないよな?」

俺は自分の首に下がるガラスの鈴を見下ろした。この世界のことは、アニに聞くのが一番正確だ。

『生、という點では間違っていません。ライカンスロープでしたら、アンデッドに含むべきだという意見もありますが』

「え。アンデッドなの?」

『特が似ているというだけです。実際に死んではいないので、冥界の気でることはできません』

「なんだ、そうなのか」

話が線してしまった。ウィルがいらいらした様子で割り込んでくる。

「そんなことはどうでもいいです!それより、モンスターが自の心を持っていて、それゆえに家族のを集めたなんて言う、馬鹿げた話のほうを……」

「そうか?だって、そう考えるほうが自然じゃないか。マーシャだって言ってたんだろ。あのオオカミたちには、家族みたいなのがあったって」

「それは……」

「それに正直、俺も半信半疑だったんだよな。ルーガルーが死者蘇生のために、怪しい儀式を企んでるってのはさ。だって、もう人間も信じてないような迷信だぜ?どうしてそれをルーガルーが知ってて、しかもそれを信じて実行しようとするんだろう」

ウィルははっと目を見開くと、すぐに目を細めて俺をにらんだ。

「まさか……最初から、そう思ってたんですか?無駄だと分かっていて、今まで黙っていたと?」

「おっと、違うぞ。あえて黙ってたとかじゃなくて、俺にも何が正しいかわからなかったんだよ。本當に儀式をしようとしてたかもしれないし。けど、ルーガルーの様子を見て、すくなくともそれは違うとわかった。ウィルのもなかったしな」

「……けど、あなたとフランさんだって言ってたじゃないですか。死を集めて家族ごっこなんて、正気の沙汰じゃないって」

「ああ。だってきっと、正気じゃないだろうしな」

「え?」

「突然家族が皆殺しにされたんだ。正気でいられないだろうさ。別れの時間も十分にはなかったろうし」

俺たちが巣になだれ込んで、ルーガルーの群れは瞬く間に壊滅した。あの時の、あのの取りした様子を思い出す。もしルーガルーも同じ心境だったとしたら、それはまともなものではないだろう。

「あいつらのが、どこまで人間と似ているのかはわからない。けど仲間が死んで悲しいとか、そういうのはきっとそんなに変わらないだろ。國や文化はちがくても、心はおんなじだって、よくいうじゃないか。でもだからこそ、人間の文化、死者蘇生の迷信をオオカミに當てはめたのは間違いだったんだ」

「でも……だったら、また手掛かりゼロになっちゃうじゃないですか。いったい、私はどこに……」

ウィルは絶的な表でつぶやいた。確かに、これじゃ振出しに戻ったも同然だ。するとフランが、妙に落ち著き払った様子で口を開いた。

「ここじゃないとするなら、もう可能は一つしかない。ルーガルーが出たっていう、あの墓場だ」

「……あそこは、もう全部探したでしょう!見落としがあったなんてありえません!」

ウィルはいら立ちを隠そうともせずフランに食い掛かる。だがフランは平然としていた。いや、というよりも……何かを、察している?フランは息巻くウィルを見ようともせず、黙って俺の目を見つめてきた。まるで俺にも、自分の考えを察せというように。

「フラン……?」

フランの真紅の目は、何を語っているのだろうか。あの赤い瞳を見ていると、フランに最初に出會った時のことを思い出す。あの時は暗闇に浮かぶ眼が猛獣のそれに見えて、本當に怖かったっけ……暗い森を必死に走る恐怖をまだ覚えている。今となっては、それなりに貴重な験だったけど……

「……ん?」

そのとき、俺の頭に稲妻のような閃が走った。バラバラと散らばっていたピースが、一本につながる。まさか、そういうことなのか?けど、それだと……その時になって、俺ははっと、フランの瞳の意味するところを悟った。俺が問いかけるようにフランを見つめ返すと、フランはそれと分からないくらい小さく、わずかにうなずいた。

「……ウィル。きみののありか、分かったかもしれない」

「え!?桜下さん、本當ですか!」

ウィルが瞳を輝かせて俺を振り向いた。しかし、俺は気まずくて、その瞳をまっすぐ見つめられなかった。

「なら、早く行きましょう!桜下さん、案してください!」

「……ああ」

息まくウィルと一緒に、俺たちは歩き出した。けどこの先に待っているのは、あまりうれしい結果じゃないかもしれない。俺の足取りはウィルとは対照的に重かった。

つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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