《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》1-2

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「ふわ~ぁ」

俺は眠気を微塵も隠さない大あくびをした。大口を開けた俺を見て、ウィルがぴくっと眉をひそめた気もするが、気にしない。コマース村での騒が明け、ウィルの埋葬を終えた俺たちは、夜中しだけ移してから休んだ。けど朝日が山すそを掠める前には起きて、またすぐに移を開始した。村人にいろいろ聞かれても面倒だし、早く離れるにこしたことはない。前回のモンロービルに引き続き、またもそそくさと後にしないといけないのが何ともやるせない。けど、分を隠した旅だからな。こういうことも仕方ないだろう。

「ウィル、こっちに行けば街道に出れるんだよな?」

「はい。確かそのはずです」

俺の質問に、半明の、ウィルが答える。ウィルは幽霊、アンデッドの分類でいうとゴーストだ。ゾンビみたいに実態があるタイプとは違い、実のない霊魂タイプというらしい。その証拠に、夜明け前の瑠璃の空が、ウィルをかしてうっすらと見えている。ウィル自が空に染まっているみたいだ。

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「次の目的地はラクーンの町なんですよね?」

「うん。ウッドにそこを勧められたんだ。大きな町だから、稼ぎ口があるかもしれないって」

「ああそういえば、あそこは南部では一番大きな町でしたね」

「ウィルは行ったことあるのか?」

「いえ、実は私、あまり村の外に出たことがなくて。出ても隣村程度だったので、ラクーンがどんなところかはよく知らないんです。あ、でも場所は知ってますから、迷うことはないはずですよ」

「そういや、あんまり他所のことは知らないんだっけ。ウッドが言ってたよ」

「はい。なので、ちょっぴりドキドキしています。ふふ、旅なんて初めて」

ウィルは照れくさそうにはにかんだ。よかった、ずいぶん明るそうだ。ウィルがアンデッドになったのはつい先日のことで、その折にはずいぶん気分を落ち込ませていた。紆余曲折あって一緒に旅をすることになったが、この様子なら安心してもよさそうだ。

「……ところで、フランはさっきから何を見てるんだ?」

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俺は振り返ると、半歩後ろを歩く、フランセスに話しかけた。ウィルはゴーストだが、フランはゾンビだ。青白いに深紅の瞳、銀の髪は鏡のように空を反して、今は瑠璃になっている。そのフランは、普通にしていればかわいらしい顔を今はぶすっとさせて、半目でウィルの方をにらんでいた。

「フランさん?」

ウィルが首をかしげる。フランの視線は、ウィルの手元、彼が持っているものに注がれているようだ。

「……盜品じゃないのかなって」

「盜品?」

「その杖。神殿のなんじゃないの」

「ええ?この杖ですか?違いますよ!」

「えっ。そうだったのか……」

あ、しまった。つい口からこぼしてしまった。ウィルがこっちをにらんでいる。

「桜下さん?あなたも私が盜んできたと思ってたんですか?」

「いや、あはは。そういうわけじゃないけど、とりあえず突っ込まないでおこうかなって……」

「もう!違いますよ!私を何だと思ってるんですか!」

そりゃあ、田舎の不良シスターだろ。くくく。

杖っていうのは、ウィルが手に持っている、ながーいロッドのことだ。ところどころに寶石みたいな飾りが埋め込まれていて、結構高価そうに見える。これをどうしたのかといえば、出発の際にウィルが神殿から持ってきたものだ。

そろそろ出ようかというころ、ウィルはしだけ待っててくれと言って、神殿のほうへふわふわ飛んで行った。すぐに戻ってきたが、その時に持っていたのがこの杖だったのだ。ウィルがあまりにも堂々としていたし、別にやましいことはないだろうと何も言わなかったんだけど……それに正直、ずいぶん高そうに見えたからっていうのも本音だ。

「で、それはなんなのさ?」

「ふん。どうせ私は不真面目ですけどね、私にだって思いれのある私の一つや二つくらいはあるんですよ」

「私?ああ、元からウィルのものだったのか」

「もう。そうに決まってるじゃないですか。さすがにお世話になった神殿に、後ろ足で土をかけるようなことしませんよ。この杖は、私が唯一持參したもの、なんだそうです。神殿の前に私と一緒に置かれていたんですって」

「あ、そうだったのか」

ウィルは孤児だ。いころに神殿の前に捨てられ、以後神殿で育てられてきた。

「手切れ金のつもりだったんでしょうかね。その割には安ですけど」

「え、そうなの?」

「はい。メッキですし、裝飾も全部ガラスだそうです」

なんだ、そうなのか。萬が一の時には売っぱらえれば、なんてことも考えたりもしたが、これでパアだな。そもそもウィルの大事なものなら、お金には代えられない。

「フランさんも、分かってくれました?」

ウィルはずいっとフランに顔を近づける。フランは気まずそうにふいっと顔を逸らすと、もごもごと謝った。

「誤解してた……その、ごめん」

「ふふ。分かってもらえてよかったです」

フランは素直に謝った。きっと、フランにもウィルの気持ちがよく分かったんだろう。あの杖はウィルにとって品みたいなものだからな。自分の靴を大切にしていたフランと同じ心なのだろう。

「ところで、桜下さんってやっぱり金欠なんですか?」

「うえ?いや、その杖を売ろうとかは考えてないぞ」

「あ、そうなんですか?売っても二束三文にしかならないとは思いますが……資金の足しにしたそうに見えたので」

「んー、まあぶっちゃけな。路銀がないから次の街を目指してるってのもあるし」

「村に來た時も、宿が取れないから神殿に泊ったんでしたものね」

「ああ。けど、それには手を付ける気はないぜ。ラクーンでバイトでも見つけて、労働の対価として稼ぐつもりだから」

「そうですか……ちょっと、意外かも」

「意外?」

「なんというか、勇者様とかの冒険家気質の方って、堅実な方法をとらないイメージがあって……ほら、迷宮に潛って、財寶を手にれて一攫千金!みたいな」

「ああ、なるほど。まあ俺は勇者やめてるし、冒険家でもないしなぁ。ちなみに軍資金ももらえなかった」

「ふふ、苦労されてるんですね。けどよかった。それならあの城にも……」

そこまで言って、ウィルはしまったとばかりに口をつぐんだ。

「城?」

「ええ、その、観名所として有名なお城があるんです。もう百年以上前に廃城して、今は外を見るだけですけど……」

ウィルは早口でまくしたてた。そんなに慌ててると、追及してくれと言ってるようなもんだぜ。

「ふーん……で、その城がなんで今出てくるんだ?」

「と、通り道にあるだけですよ。たまたま、思い出しただけで……」

「たまたま?ただの観名所なのかな、そこ。俺たちは直前に、冒険とか財寶とかの話をしてたしなぁ……」

「う、ぅ」

ウィルのごくりと唾をのむ音が聞こえてきそうだ。こういうの、導尋問っていうんだっけ?

「お寶があるのか?」

「ひゃっ。ま、まさかぁ」

「ぷはは!ウィル、噓が下手なんだな。なんでそんなに隠そうとするんだよ?」

「だ、だって!それは、その……」

ウィルはしばらくもじもじ指を突き合わせていたが、観念したように口を開いた。

「……その城は、ルエーガー城というんですけど、昔の貴族だかのお城だったんですって。そこにはすっごく強い騎士様がいて、お城だけでなく近隣の村も山賊から守っていて、とっても慕われていたそうなんです」

「へー。いい人だな」

「はい。けど、ある日山賊の夜襲にあい、城は陥落してしまいました」

「えぇっ」

ずいぶん急展開だな。強い騎士がいるはずなのに、何でまた……

「城主は殺され、その騎士様もやられてしまいました。城は悪人の手におち、お城の寶は全部賊に奪われてしまう……はずだったんです」

「はず……ってことは、なにかあったのか?」

「はい……結局山賊は、寶を手にれることはできませんでした。そしてその城からも、誰一人として出てくる者はいなかったんです。生きては……」

生きては?ってことは、そこにった全員が……

「なにがあったんだよ?」

「……騎士様が、よみがえったのです」

「……そんな、まさか」

「もちろん、生き返ったという意味ではありません。つまり、私やフランさんみたいに……アンデッドとして、復活したのです」

「アンデッド……!」

幽霊騎士ってやつか。お城のいわく話にはつきものなアンデッドだ。

「それで、復活した騎士様は、城にり込んだ山賊を皆殺しにしてしまいました」

「悪は滅びる、か……じゃあそれで、お寶は守られたってことか?」

「はい。ただ、この話は続きがあるんです。騎士様は山賊を絶やしにしましたが、そのうえで、城から逃げ延びてくる人は一人もいなかったんです」

ん?どういうことだ?山賊がみんな死んだなら、生き殘ったお城の人たちは無事逃げられるはずじゃ……?

「騎士様は、その城にいた人間全員を切り殺してしまったのです。山賊も、お城の仲間も、だれもかれもみな」

「え……そんな」

「それ以來、そのお城にって無事に帰ってきた人は一人もいないんです。その騎士は今も、幽霊となって城にとりついているんですよ。城にってきた人を、誰彼構わず切り捨てる悪霊となって!」

ピカ!ゴゴーン!ウィルの後ろで雷が鳴ってもおかしくない、迫真の語りだ。

「幽霊騎士のとりつく城か……けど、それただの伝説なんだろ?」

「伝説じゃなくて口伝、言い伝えです!本當にあったことですよ!コマース村では子どもが悪いことすると、ルエーガー城に置き去りにするぞって脅されるんですから!」

ウィルは迫真の表で息巻く。いウィルが涙目で必死に謝る姿が目に浮かぶようだ。きっとおんなじ文句で叱られたことがあるんだろう。

「けど、それが本當なら、財寶も実在するってことだよな」

「それは、そうかもですね。誰も見たことはありませんが……」

「へー、面白そうじゃん!ちょっと寄ってみようか」

「ええー!ちょっと、私の話聞いてました?恐ろしい幽霊がいるんですよ!」

「だったらなおさらだ。そんなに強い騎士なら、ぜひスカウトしたいね。戦力アップは我が勢力の急務だ」

「あ、そうか。ネクロマンスがあるから……」

「そ。それに本當にお寶があるなら、ぜひとも手にれたいな。當面路銀に困らなくなる」

「そっちのほうが切実ですね……?」

わが懐はいつだって寂しい。どれだけ大所帯になっても一人分の費用で済むのが幸いだけど。

「そのなんとか城は遠いのか?」

「いいえ……ラクーンに向かうのであれば、すぐそばを通りますけど……」

「だったらなおさらだな。決定!」

「ええ~……気が乗らないな」

「なんだよ、幽霊が幽霊を怖がってるのか?」

「怖いものは怖いんですよ!こちとら子どもの時からトラウマ刷り込まれてるんですからね!」

ウィルには言わなかったけど、実は俺もし怖い。けど仲間が増えた手前、あんまりかっこ悪いことも言ってられないだろ。の子が増えて、俺だってちょっとはかっこつけたいさ。が、現実は戦闘だと、フラン頼りのままだからな。戦力アップは、その解消のためでもあるんだ。

つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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