《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》4-2

4-2

「はぁ、はぁ……と、とりあえず、追ってきてはないよな……?」

どこをどう走ったのかは思い出せないが、俺たちは最初に下りてきた大広間まで戻ってきていた。あれから騎士の足音は聞こえてこない。あれだけガシャガシャ賑やかなやつだ、近くに來ればすぐ気づくだろう。

「けど、追いつかれる前に逃げるにこしたことはありませんよ。早く城を出ましょう!」

ウィルが俺を急かす。ま、まってくれ、まだ息が……それに俺には、もう一つ心殘りがあった。

「けど、それだとさ……」

「桜下さん、まだお寶がーとか言うんですか?あの鎧の騎士は危険です!フランさんが怪我した以上、もう引き上げるべきですよ!」

「あいや、そっちじゃなくて……」

俺が気になっていたのは、この城の幽霊たちだ。さっきの男も、このままじゃ……そのとき、大広間の隅でかさりとれる音がした。びくりと背中がびる。ここには、俺たちしかいないはずだぞ?まさか、いつの間にか首なし騎士が……

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「君達でも―――」

「え?」

そこにいたのは、半明の若い男……ここへ降りてきてからたびたび目にしていた、あの男の幽霊だった。

「君達でも、彼を―――あの騎士を、止められなかったのか―――」

「え、え?あんた、あの騎士を知ってるのか?いやそもそも、あんたは誰なんだ?」

こいつの恰好は、たしかにあの通路で見た亡骸にそっくり……濃紺の上品そうな服だ。ブロンドの髪は先がカールしていて、いかにも貴族といういで立ちだけど……

「僕は―――」

男の聲はおぼろげで、まるで城の天井や壁から響いているようだった。おかげで聞き取りづらいったらありゃしない。俺はよく聞こえるように、男のそばへ行こうとして、ウィルに肩をつかまれた。

「桜下さん、危ないですよ!あの男、さっきの騎士の仲間なんじゃないですか?」

「あ、たしかに」

俺は足を止めると、いぶかしげに男の幽霊をにらんだ。だが男は悲しげな瞳を伏せると、ゆるゆると首を橫に振った。

「恐れないでほしい。僕は、君たちの敵じゃない―――」

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「あ、そうなのか。なら……」

俺の気の抜けた聲はアニによってさえぎられた。

『敵か否かを判斷するのは私たちです。あなたが敵でないというのなら、その拠を明かして、私たちを納得させてみてはいかがですか?』

「お、おう。そうだっ」

男はうつむくと、壊れて橫倒しになったクローゼットに腰かけた。

「ならば、僕の話を聞いてほしい。そして、聞いたうえで……彼を、救ってやってほしい―――」

彼を、救う?一なんのことだ?男は、靜かに語りだした……

まず、なにから話せばいいかな―――君たちは、僕が何者かとたずねたね。上であの場所を

見てくれたなら分かるだろうけど、僕はこの城の主を任されていたものだ。と言っても、代理にすぎない―――本當の城主は、別にいる。僕の姉さん、メアリー・ルエーガーが、このルエーガー城の真の主だ。僕はその弟のバークレイ・ルエーガー。

「城主の代理?あんたがこの城の持ち主じゃないのか」

「ああ。姉さんの留守の間、一時的に僕が代役を務めたに過ぎない―――」

「じゃあ、あんたのお姉さんはこの城を出て行っちまったのか?」

「姉さんは―――ある日、旅に出て行ったんだ―――」

姉さんは、先代城主である僕らの両親、特に母上を深く慕っていた。姉さんは深い、優しい人だった―――先代が亡くなってしばらく、新たな城主となった姉さんは、ある日突然、母上の生まれ故郷を訪れたいと言い出したんだ。母上は北部地方の貴族の生まれでね。母上の家系の代々の墓がそこにあった。姉さんは母上を慕っていたから、きっと墓前に報告がしたかったんだと思う。そこは同じ國とは言え、出向こうと思えばかなりの長旅になるのは、想像に難くなかった。そこで姉さんは、僕ともう一人、最も信頼ができる騎士に留守を任せて、旅に出て行ったんだ。そう、もう分かるね。君たちが出會ったあの騎士―――彼こそが、その騎士だ。

「騎士って……あの幽霊騎士が?」

「そうだ。彼の名は、エラゼム。エラゼム・ブラッドジャマーだ。この城一の腕前を誇る剣豪であり、きっと國中の猛者を集めても引けを取らない、無雙の騎士だ―――」

「……ずいぶん褒めるんだな」

「ふふ、びいきだって怒らないでくれ。君たちも、彼の腕は見ているはずだ。虛飾じゃないことはわかるだろう―――?」

「まあ、そりゃ……」

エラゼムは、本の勇者だった。だからこそ、姉さんは彼に任せれば安心だと思たんだろう。実際、城主が城を空けても、このルエーガー城はしも揺らぐことはなかった。もともとエラゼムの名聲は城の外に轟いていたからね。だれもこの城に手を出そうなんて思いもしない。この城は、決して落ちない。その、はずだった。けど―――この城は、こうして滅びてしまった。どうしてだと思う?

「……上で、あんたが死んだ場所を見てきた。俺の予想では……ちょっと失禮だけど、間違ってても怒らないでくれよ。俺は、あんたたちが仲間の裏切りにあって滅んだと思ってる」

「うん。聡い子だ―――そう、この城の“外”には、不遜な輩は現れなかった。火種は、“”に潛んでいた。僕たちは、それにだれひとり気づけなかったんだ―――」

恥ずかしい話だよ。君の推測通り、僕らはからの反によって滅びてしまった。その事実に気づいたのは、あの暗い通路で剣を構えた連中と鉢合わせてからだったけどね。何もかもが手遅れだった。

あの日の夜は、今でもはっきりと覚えている。皆が寢靜まったころ、突然悲鳴と、剣がぶつかる音が城中から聞こえ始めた。僕は飛び起きると、その時の最善の策として部屋に―――いや、これは噓だ。本當は怖くて、部屋に閉じこもっていたんだよ。それでもエラゼムは、賊どもを蹴散らし、僕の下まで駆けつけてくれた。けれどその途中で、賊を完全に追い払うのは無理だと判斷したんだろう。僕に抜け道を使って、城外まで逃げるよう言った。姉さんの城を賊に明け渡すのは斷腸の思いだったが、僕がいた所でお荷になるだけだ。僕はエラゼムに別れを告げ、抜け道を進み―――あとは、ご存知の通りさ。我ながら、けない最期だよ。

それからどうなったのか、どれくらい時が過ぎたのか―――僕にはもう分からない。気が付いたら、誰もいないこの城に一人佇んでいた。けれど、分かることが一つある。それは、とても恐ろしく、悲しいことがあったのだということだ。この城に渦巻く、恐ろしい怨念。姿は見えないが、そこかしこにいるだろう。未だ仏できず、闇の中でさまよい続ける亡霊たちが。かくいう僕も、その一人なのだけど―――

だが、彼は違う。あの鎧の騎士―――エラゼムだ。僕は、未だに確信を持てずにいる。あれは、本當にエラゼムなのか?に著けている鎧や剣技、聲なんかはエラゼムそっくりだ。ただ、あの鎧の中―――あれだけは、到底理解できない。だって、あまりに異質なんだ、ここの亡霊の誰よりも。あの中にいるのは、エラゼムだけじゃない。何人―――そうだ、何人もいるようにしか思えないんだ。二人や三人じゃない、何十人も、下手すれば何百人も!おびただしい數の怨念が、あの虛ろな鎧の中に閉じ込められているんだ。

「怨念が、閉じ込められてる?」

「ああ。おぞましいほどの霊気だ。僕には君のような特別な霊はないけれど、それだけははっきりとわかる―――」

「どうして、そんなことに……」

「わからない。僕の聲は、どうやらもう彼には屆かないみたいなんだ。話もできないし、事も聴けない。ただ、その時からずっと考えていたことがある。恐ろしい考えだ―――それを防ぐために僕は、君たちを導いたんだよ―――」

「なんなんだよ、その理由って……?」

僕は、こう考えているんだ。彼に捕らわれる人數は、日に日に増している。彼はいまだ戦いをやめず、城に侵したものを殺し、その魂を取り込み続けているんじゃないかって。だがもしも、いつかその限界が來たら?彼の鎧から魂が溢れ、閉じ込められていた無數の怨念が解き放たれたることになったら?この城だけに留まってくれるならまだいい。だがここすらも溢れかえり、外の世界へれ出してしまったら―――その時何が起こるのか、想像もできない。仮に、限界なんてものはなく、怨念が溢れ出るようなことがおこらないとしても。幾人もの怨念をため込み続けた彼は、もはや魔人と化している。僕にはまだ、エラゼムは人の心を完全には失っていないように見える。けどそれすら失ったとき、殘ったあの鎧をかすものはなんだ?數百の恨みの念のままに、この世すべての人間を切り殺す悪魔となり果てるんじゃないか?そう考えると―――

僕は恐ろしくてたまらないんだ。姉さんの城が、この世界の災いの中心となってしまうのが。もしくは、かつての忠臣、騎士の中の騎士であったエラゼムが、この世界を破滅へと導く新たな魔王へと変貌していくのが―――

だから僕は、君たちをここまで導いた。この城で起こった事を伝え、彼を見てもらった。僕の聲を、ここまで聞きとってくれるものは今までいなかった。君たちにしか頼めない、そして君たちならし遂げられると、僕はそう確信したんだ。

だから、改めて君たちにお願いしたい。

どうか、エラゼムを止めてやってくれないか―――

つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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