《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》5-1 められた力
5-1 められた力
「……つまり、もし俺たちがあの幽霊騎士を止められなかったら」
俺はぶるっと震いすると、その先を一息に口にした。
「ここいら一帯が、呪われた土地になっちまうかもしれないんだな?」
「ああ。僕は、そう考えている―――」
男の幽霊は、靜かにうなずいた。
おいおい、なんてこった。まだ冒険は始まったばかりだってのに、いきなり破滅的展開が出てくるなんて。
「ま、待ってください。桜下さん、この人の話を信じるんですか?」
ウィルが、俺と男の幽霊……バークレイとの間に割ってった。
「だってこの人が言ってることは、全部この人の予想ですよね?全部が真実とは限らないじゃないですか。全部うそっぱちかも……」
「そうだな。けど、全部が全部うそとは思えないんだ。あいつ……エラゼムって騎士がやばいってのは、ずっとじてるしな。そうか、何人もの魂がひしめき合ってるからだったのか……」
あの恐ろしい霊気も、そう考えれば納得がいく。俺は、アニにもたずねてみた。
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「アニ、さっきの話、お前はどう思う?あの騎士を放っておいたら、とんでもないことになると思うか?」
『……何とも言えません。そこの幽霊男の話を信じるなら、さきほどの騎士は“メイルレイス”ということになります』
「メイルレイス?」
『鎧の亡霊。実のないレイスが、騎士の甲冑に憑依することで生まれるアンデッドモンスターです。あの幽霊騎士が、に無數の怨念を取り込んだ姿だというのなら、あれはまさしくメイルレイスと言えるでしょう。しかし……それでは、ありえないのです』
「ありえない?なにがだ?」
『レイスというのは、無數の霊魂が寄り集まった、アンデッドの中でも最下級に屬するモンスターです。強い思念を持った魂というのは、一塊になると互いの神や思考を削り合い、やがて一つに溶け合ってしまう。つまりレイスは自我を持たず、だからこそ低級で、脆弱なのです』
「けど……あの騎士には、どう見ても人格があったぜ」
『ええ。ゆえに、ありえない……自我を持ったレイスなんて、初めてのケースです。互いに溶け合うからこそ、大した力を持たないレイスが、一つの人格の下で統合されたのなら……もはやそれは、レイスではないまったく別種のモンスターと言えるでしょう』
「完全新種の、アンデッドか……」
『はい。その危険度は完全に未知數です。今までこの城の中に閉じこもっていたからこそ、外の世界に影響はありませんでしたが……それが解き放たればどうなるのか。ただ、強い力を持っていることは確かです。それだけでも、近隣への被害はかなりのものになると予想されます』
近隣への被害……あの幽霊騎士は、フランの鉤爪をものともせず、逆に返り討ちにしてしまうほどの腕の持ち主だ。おかげでフランは片腕を切り落とされ、今もその腕は俺のかばんの中にある。ゾンビだったから、そんな大けがでも平然としていられるが、これが普通の人間だったら……
「……だったらやっぱ、ここで止めないといけないな」
あいつは、ほっといたらやばい。きっと、俺たちだけの問題じゃなくなってくる。
「そんな……私、そんな話信じられません……」
ウィルは顔を覆うと、目の前の事実を拒絶するように首を振った。
「だって、この近くって言ったら……コマース村が、すぐそこに……」
そう。この城に最も近いのは、ウィルが育ったコマース村だ。もしもここで災いが起こったとして、果たしてあの村は無事に済むだろうか。そしてもし、被害が拡大したら。その向こうには、フランのたった一人の家族が住む、モンロービルがある。
「何としても、やつをここで食い止めよう。世話になった人たちが危ないかもしれないんだ。見過ごせない」
俺はきっぱりと言い切った。ウィルは目の端をごしごしりながらうなずいた。バークレイがほほえみを浮かべる。
「ありがとう。君たちならそう言ってくれると信じていた―――」
「俺たちにも、見過ごせない事ができたからな。利害の一致ってやつだよ」
「それでもかまわない。彼を止めてくれるのなら―――」
バークレイは満足げにうなずいた。しかし、とは言ったものの……俺が抱いていた懸念、というか最大の問題點を、フランが指摘した。
「止めるって言ったって、どうするの?あいつに勝てないってなったから、必死に逃げだしてきたばかりなんだけど」
「そうなんだよなぁ。さて、どうしたもんか」
フランが敵わなかった以上、やつに理で挑むのは、あまりに現実的でない。もし近づくことができれば、俺のディストーションハンドでどうにかできるかもだが……それまでが骨が折れそうだ。となると、遠隔攻撃かな。
「ウィル。今使える最大威力の魔法をあいつに當てたら、やっつけられると思うか?」
「……いえ、殘念ですが無理だと思います。私、攻撃魔法はあまり得意でなくて。炎の魔法ですから、普通は當たればやけどしたりして結構痛いんですけど……」
「ああ……相手が悪いよな」
あの空っぽの鎧にいくら火の玉をぶつけても、痛くもくもないだろう。
「それなら、でっかい火の玉をぶつけて、大発!とか」
「それができたら、最初からそうしています。高威力大火力の魔法なんて、首都の魔師ギルドにでも出向かなければそうそうお目にかかれませんよ」
「うーん、そっかぁ……」
困ったな、何かいい方法がないだろうか。俺たちが頭を悩ませていると、バークレイが思い出したように口を開いた。
「そういえば、さっき大きな霊力をじたけれど。あれは、君たちの仕業ではないのかい―――?」
「大きな霊力?あ、もしかして、俺たちがホーントに襲われたときかも」
あの時、でかい霊波だかが起きて、ウィルが吹っ飛びかけたんだ。そしてその直後に、あの鎧の騎士がやってきた……ってことはだ。
「たぶんあれ、あの幽霊騎士が出したものだぜ。あいつがき出したとたん、すごい気配をじたから」
しかしバークレイは、怪訝そうに眉を寄せた。
「なに?いや、それは違う。僕はずっとエラゼムの気をじ続けている。だが、さっきの霊力ははじめてじた。なんだか、心……いや、魂がざわざわするような、強い力だった―――」
「えぇ?」
どういうことだ?あれは、あの幽霊騎士が目覚めた合図じゃなかったのか。じゃあいったい……俺はそのとき、そういえばウィルだけじゃなく、フランまで床にしゃがんでいたことを思い出した。あれはなんだったんだろう。
「フラン。お前、あの気配をじたとき、しゃがみ込んでたよな。あれは何してたんだ?床から何かじたとか」
「……別に。何かしてたわけじゃない。ただ、私も倒れそうになったから」
「倒れそうに?え、じゃあフランもウィルと同じような衝撃をじたってこと?」
フランはこくりとうなずいた。
「そんなのあったかな……?あの騎士の気配とは、また別にってことだよな?」
フランはまたもうなずいた。ますます訳が分からないぞ?フランとウィルがじたらしい衝撃を、俺はちっともじなかった。あのフランでさえ膝をつくほどだ、俺がくらったらただじゃすまなそうだけど。
「……あ!私、わかっちゃったかもしれません」
俺が首をひねっていると、ウィルが突然大聲を出した。
「なんだよウィル、だしぬけに」
「だから、わかったかもなんですよ、その衝撃波の正が。それにもしかしたら、同時にあの騎士さまの倒し方も、どうにかなるかもしれません!」
「えぇ!それが本當ならすごいけど……説明してくれるよな?」
「ええ。って言っても、大したことじゃないです。私たち、見落としていたんですよ。あの衝撃波が起こる前のことを」
「その前って……ホーントたちに襲われたことか?」
「そうです。どうしてあの時、あれだけいたホーントたちが突然いなくなったのか……不思議に思いませんでした?」
「まあ、確かに……あの後すぐに、幽霊騎士がやってきたからうやむやになっちゃったけど、確かに妙だったな」
「ですよね。そこが、最大のポイントだったんです!……うふふ、こういうのって楽しいですねぇ」
さっきまでぐずってたくせに、もう笑ってやがる。ころころ変わる天気みたいなやつだな。
「……もったいぶってないで、早く教えてくれよ」
「えぇ~、もうし考えましょうよ。ほら、ヒントあげますから」
(こいつ……これで適當なこと言ってたらどうしてやろうか)
「ひぇ。お、桜下さん、目が怖いですよ……ほら、このお城にる前。ご飯を食べたときのことを思い出してください。あそこで話したことが、すべてを教えてくれていたんですよ」
「へ?飯食ってた時?あん時って、確か魔法の話を聞いて、それから……」
あ。俺はソレに気づいて、目を真ん丸にした。まさか、そういうことかよ?
「けど、そんなことってあるか……?」
「でも、そう考えると筋が通りません?それに、筋だけじゃなくて、希も持つことができる。もしこの予想が當たってたら……あの騎士さまも、いちころですよ!」
ウィルは目を輝かせて言った。確かに妙案が浮かばない今の狀況の中じゃ、一筋の明みたいな予想だ。
「う~ん……いっちょ、それに賭けてみるか」
俺はこぶしを握ると、パキパキと鳴らした。気合をれなければ。なぜならこの作戦のカギを握るのは、俺の右腕だからだ……うぅ、張してきちゃったぜ。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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