《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》7-2

7-2

「がはっ……」

大広間へたどり著いたエラゼムの目の前で、最後の騎士が倒れていった。

「ったくよぉ、しぶとい奴らだったぜ。こっちが何人殺されたことか。なぁおい、騎士さまよぉ?」

山賊の一人が、倒れた騎士の背中から斧を引き抜いて言った。

「手間取らせやがって、ちっ。後はてめぇだけだ、裏切り者の負け犬め」

「……なんだと?」

「あん?聞こえなかったか。う・ら・ぎ・り・も・のって言ったんだ。てめぇ一人で逃げ出しやがったじゃねえか。その間にあんたのお仲間はほら、このざまだ」

山賊は足元に倒れた騎士の亡骸を蹴とばした。エラゼムがぶるり、とを震わせる。

「貴様っ!吾輩のみならず、我が同胞すらもこけにする気か!裏切り者だと!?それは貴様ら、汚らわしい腐漁りのことを言うのだ!」

エラゼムは怒りが収まらないのか、大剣で床石をガチンと叩いた。エラゼムの心に応じたように、火花が飛び散る。

「薄汚い策略!なぜもっと早く気付かなかったのか。なぜ外の見張りに気付かれずに賊が場に侵できたのか?なぜ城の者しか知らぬはずの階段で下男が死んでいたのか?なぜ部隊長クラスの騎士ばかり真っ先に狙われていたのか?すべて恥知らずの裏切り者がいたと考えれば筋が通るではないか!そして城の者が裏切ったのであれば、もはや隠し通路でさえ危険であることに、いち早く気付くべきであったのだ……」

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エラゼムがうなだれる。それを聞いていた山賊はニヤニヤしながら後ろを振り返った。

「だ、そうですぜ。恥知らずさん?」

カツン、カツン。山賊の後ろから、踵を鳴らして、一人の男が現れた。そばかすだらけの兵士……ルウェンだ。山賊はまだニヤニヤ笑っている。

「ま、あながち間違ってないな。おたくが恥を忍んでくれたから、俺たちゃこの城を落とすことができたんだし?」

「だまれ、山賊ふぜいが。俺がお前らを雇ったことを忘れるな」

「おーこわ。へへへ」

ルウェンにすごまれて、山賊はひょうひょうと後ろに下がった。エラゼムとルウェンがまっすぐににらみ合う。

「ご名答、エラゼム隊長。だが、気づくのがし遅かったみたいだな。ま、俺の謀反にも気づけなかったんだから、無理もないか」

「ルウェン……」

「うん?何か聞きたいか?こいつらをここに引きれた方法か?もう予想はついてるんじゃないか。この城にいくつかある抜け道、あれを使ったんだぜ」

抜け道……!あの隠し通路以外にも、城を抜け出す道があったんだ。けど、どうしてそんなものが?

「この城は確かに難攻不落だけどな、唯一、一個だけ弱點がある。補給線の薄さだ。こんな辺鄙な立地だ、囲まれたらあっという間に干からびちまう。そうならないために抜け道をいくつも用意して、こっそり補給ができるようにしてたんだよな?けど結局はそれがあだになったなぁ」

あぁなるほど、城にる前にアニとした會話の通りだったんだ。この城は籠城戦に弱い。だからこそ、その弱點を克服するために抜け道を用意していたんだ。けどそれじゃ、弱點を補ったつもりが、結局それが新たな弱點になってしまっていたってことじゃないか……

「大功だったなぁ。あっという間に片付いちまったぜ。なあ?」

「……そんなことが聞きたいわけではない」

「じゃあなんだ?どうして裏切ったかか?それはだな……」

「違う。どうでもよいわ、いずれにせよ容赦はせぬ」

「は……なんだと?」

「吾輩がむのは一つだけ。謝罪せよ、ルウェン。この戦いで散っていった無數の魂に対して。それで貴様が浄土に行けるとは思えんが、死ぬ前にしでも己が罪を悔い改めよ」

ルウェンは押し黙り、ひくひくとこめかみを引くつかせている。

「……それは、俺に命令しているのか?」

「たわけ、畜生と問答する気はない。謝罪せよ」

「……だから、命令してんのかって聞いてんだよぉぉぉおおお!」

ガン!ルウェンが足元にころがる兜を蹴っ飛ばした。それはエラゼムのすぐわきを転がっていった。ガラララ!

「むかつくんだよ!命令してんじゃねぇぞ!おめぇは今、この俺よりも下なんだよ!わかるか?あぁ、この瞬間をまちわびたぜぇ。俺は、あんたが俺の上に立ってえばり散らしてるのが、ずーっと我慢ならなかったんだぜ?いつかあんたがヘマをやらかして、俺の下に転がり落ちてくるのを楽しみにしていたんだ。だっていうのに、この城のボンクラどもは、逆にあんたを高く取りたてやがる。あぁ?この俺はいつまでたっても歩哨なんて下っ端の仕事をさせられてるのに、お前は城主公認の城の守護者だと?こんなの間違ってるだろ!」

こ、こいつ……何を言ってるんだ?エラゼムが自分より上にいるのが我慢できない?……たったそれだけ?

「けどこんなことなら、もっと早くこうしておけばよかったぜ。こんなに簡単に、あんたをこき下ろせたんだからなぁ!これでこの城は俺のもんだ。俺が一番偉くなるんだよ!」

し、信じられない。じゃあこいつは、自分を偉いと認めないから、クーデターを起こしたってことなのか?そのために何人もの犠牲者を出したのも、全部自分のため?そんな、そんなばかな。

これには山賊たちすら、あきれたように笑っている。

「まったく、たいした新城主さまだぜ。てめぇを認めねえなら、認めないやつを皆殺しにしちまいましょう、なんてな。ま、おかげで俺たちゃ財寶の分け前で財布が潤い、目の上のたんこぶだったおたくらがきれいさっぱり潰れてくれるんだ。あんたたちが取り締まるおかげで、このへんじゃ商売あがったりだったからな。まさに渡りに船だぜ」

「へいへーい、それじゃ新しい城はルウェン城になるのか?そこには山賊専用のVIPルームがあるんだろうな?ぎゃはははは!」

エラゼムはあまりの出來事に、聲も出ないらしい……いや、違う。はちきれそうな怒りを抑えるために、歯を食いしばっているんだ。ガキッ!そしてついに、エラゼムの歯が砕ける音がした。

「……よく、分かった……」

「あ?」

「もはや謝罪の言葉すら、戦士たちの魂を汚すだけであろう……死ね、ルウェン!」

エラゼムが大剣を振りぬいた!ルウェンは相を変えて逃げう。

「う、うわぁ!」

「ちっ!引っ込んでな、新城主さんよ!」

山賊の一人が斧を構えて、エラゼムの行く手を遮る。

「どけ!邪魔立てするな!」

「そうはいかねぇ!いちおう、こんな野郎でも雇用主なんでな!死なれちゃ困る!」

山賊が斧を振り下ろす。エラゼムは大剣を用にひるがえすと、斧の刃をバシッとたたきつけた。斧は一瞬で々になった。

「ぐぅ!」

砕けた刃が山賊の顔に飛び散る。だが山賊はそれにもひるまずに、足を振り上げてエラゼムの腹を蹴りつけた。ガィン!當然、鉄の鎧を蹴ったところで大したダメージにはならない。けれどエラゼムはその衝撃で、二、三歩後ろに下がった。

「……へっ、かかった!いまだ!」

なに!?山賊の顔がにやついている。次の瞬間、バシャーン!エラゼムの全に、何かのがどっぷり浴びせかけられた。

「ぐうおおおおおぉぉおぉ!!!」

ブシュウウウゥゥゥ!

うわぁ!エラゼムの全から煙が上がっている!これ……煮えた油か!?こんなもん浴びせかけられたら、火傷じゃすまないぞ!鉄の鎧も、隙間から侵してくるを防ぐことはできない。それどころか鉄が油で熱せられて、鎧の中は釜茹で狀態だ。エラゼムは床に崩れ落ち、全を激しく痙攣させた。

「油斷したな、騎士さんよ!おたくの背後に忍ばせた仲間に気づかないなんてな。怒りで頭がいっぱいだったか?」

山賊の聲がエラゼムの耳に屆いているかはわからない。だがエラゼムは、震える両腕をついて、なんとか起き上がろうとした。ガシャーン!鎧が油でって、エラゼムは再び床にたたきつけられた。

「ははは、無駄むだぁ。そいつはセイアージから採った油だぜ?そいつを喰らって立ち上がれるわけが……っと」

「おい、どけ。こいつは俺がやる!」

山賊を押しのけて、ルウェンがエラゼムの目の前に立った。エラゼムは震えるをひねって、ルウェンを見上げた。ルウェンは剣を抜くと、その切っ先をまっずぐこちらに向けている。まさか、こいつ!

「ひ、ひひひひゃははは!死ねぇぇぇー!」

剣がエラゼムの首めがけて振り下ろされる!

(うわああぁぁぁ!)

グチャ!

そして目の前が真っ暗になった。

つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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