《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》8-1 かつての城人

8-1 かつての城人

「う、わあああぁぁぁ!」

ガチン!

「あいで!」

なんか固いものが口に當たった。いてて……

「桜下さん!目を覚まされたんですね!」

へ?顔を上げると、ウィルが心配そうにこちらをのぞき込んでいた。

「ウィル?はれ、俺、どうしてたんだ?」

「どうしてたって、覚えてないんですか?突然白目をむいたと思ったらひっくり返ったんですよ」

ひっくり返った?あ、そうか。霊魂と同調するときはそんなんになるんだっけか……

「あ、じゃあ俺、いままで倒れてたの?」

「ええ。アニさんがしばらくほっとけば目を覚ますっていうから、様子を見てたんです」

「ああ、そうだったのか。悪い、心配かけたな」

「お禮はフランさんに言ってあげてください。ずっとお膝を貸してたんですから」

「へ?」

フランが?振り返ると、正座したフランが俺のすぐ後ろに座っていた。なぜか口元を抑えて固まっている……

「でも、ほんとにびっくりしました。いきなり倒れたかと思ったら、ずっとぶつぶつつぶやいてるんですもん。ちょっと怖かったですよ、たのむ~たのむ~ってしきりに」

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「え、あ、ああ。なんてーか、夢みたいなもんを見てたから。てか、しゃべってたのか……」

「はい。結構いろいろつぶやいてましたけど、桜下さんが起きる直前が一番すごかったですね、なんか苦しそうにしてましたし。それでみんなしてのぞき込んでいたら、いきなり飛び起きるんですもん……あれ?そういえば、びっくりしてスルーしちゃいましたけど、さっきなにかゴチンって音がしませんでした?」

「っ!そ、それより!もっと大事なことがあるでしょ!」

いきなりフランが、ウィルを遮って立ち上がった。珍しいな、フランがおっきな聲を出すなんて。

「あの騎士のこと、どうするの!」

「あ、そうでした。桜下さん、騎士さまが桜下さんにお話があるそうなんです」

「うん?」

騎士の話だって?と、俺のすぐ後ろでガシャリと鎧が鳴る音がして、俺は思わずぎくりと首をすくめてしまった。

「桜下殿、と申されましたな。目を覚まされましたか」

そろそろと振り返ると、そこには頭部のない鎧の騎士……エラゼムが立っていた。いつの間にやら、手足が元通りになっている。は、話がしたいっていうんだから、とりあえず安心していいんだよな……?あんな場面を見たばかりだから、どうにも警戒してしまう。

エラゼムは片膝を折ると、床に座る俺に目線(おそらく目があるであろう位置のことだ)を合わせた。

「先ほど剣をえたばかりで、すんなりと信じられないとは思いますが、吾輩には今あなた方に危害を加えようという気はありません。できれば、そう構えずに聞いていただけるとありがたい」

「あ、ああ、そうなのか?そりゃまた、ずいぶんな心境の変化だな……」

「ええ。自分でも不思議なのですが。何と言いますか、霧が晴れた、とでもいえばいいのか……桜下殿の技を食らってからですので、その影響が強いのでしょうな」

「ああ、うん。ディストーションハンドには、狂ったアンデッドの神を元に戻す効果もあるから」

「なるほど。なんにしても、こうしてまともに人と會話できたのは數十年ぶりです。今までは殺すか殺されるかの二択でしたので。吾輩からすると実質一択みたいなものでしたが」

それは……エラゼムの強さからするとそうだろうな。実際に襲われた俺たちだからわかるけど。

「それで、本題ですが。お二人にお伺いしたところ、桜下殿は凄腕の死霊士だとか」

「へ。そんな、凄腕だなんて。けど、うん。ネクロマンサーなのはホントだよ」

「それでは、おそらく先ほど、“あの日”のことをご覧になったのでは?」

「ああ、うん……」

あの日。この城であった、過去の記憶のことを言っているんだ。事の分かっていないウィルとフランはきょとんといている。

「お二人にはわからんでしょうな。桜下殿、よろしければあなたの口から事を説明してください。そのほうが話も早いでしょう」

「え、けど……いいのか?」

「ええ。吾輩の口から申すのはいささか気が重いですが、他人が話すのであれば気が楽です」

「エラゼムがそういうなら……」

俺は自分が見てきた過去の映像を、かいつまんでウィルとフランに話して聞かせた。どうしようもなく自分勝手な裏切りにフランは目を細め、騎士の悲痛な最期にウィルは顔を曇らせた。

「そんなことが……だからエラゼムさんは、その、怒ってらしたんですか?」

ウィルがおずおずとたずねる。

「怒りなぞ、そんな生ぬるいではありません。百年分の怨念で塗り固まった魂が、吾輩という化けなのですから」

エラゼムの靜かな言いに、ウィルはおびえて首をすくませた。

「さて、これで我らが城に起こったことについては理解していただけたでしょう。そして、ここにいくつもの浮かばれぬ魂が縛り付けられていることも、皆さんはすでに見てきてのですな」

「ああ。それに、この城にってからずっとじてもいるしな」

「あれは、この城に仕えていた者たちです。あの日を境に、この城の闇の中をさまよう影になってしまった者どもですが……しかし、その元兇は、この吾輩自なのです」

「へ?あんたのせいなのか?」

「はい。吾輩が存在することで、彼らを含め、何人たりともこの城から出られないよう封がなされているのです」

「それは、なんでまた……」

「決まっておりましょう。この城にしのび込んだ輩を逃さないようにするためですよ」

エラゼムは當然だ、とばかりに言い切った。

「この百年間、吾輩は延々この城を守り続けてきました。それが最後のみであり、悔やみでもありました……ですが今になって、それは吾輩の単なる自己満足であったことに気が付いたのです」

「じこ、まんぞく」

「はい。空っぽの城を守り続けてなんになりましょう。そのためだけに、幾人もの魂を縛り付け続けていてよいはずがありません。このあたりで、ここで起きた慘劇は幕を引くべきなのです。桜下殿、先ほども申しましたように、折りって頼みがございます。あなたに、幕を引く役割を擔っていただきたい」

「……それはつまり、俺にあんたを消してくれって、そういうことなのか?」

「その通りです」

エラゼムは、軽くを揺りかした……おそらく、うなずいたつもりなんだろう。消してくれだって?このやりとり、これで通算三回目だな。アンデッドっていうのは、みんなどうにも消えたがる傾向があるらしい。

「エラゼム。俺は確かに、あんたの知り合いにあんたを止めてくれって頼まれた。けど、だからってあんたの魂を消してはいおしまいじゃ、あまりに救いがなくないか」

「吾輩の破滅こそが、皆の救いなのです。桜下殿のおかげで吾輩の神に巣くっていた狂気は取り除かれましたが、その源である憎しみのまでは消えることはありません。この負のが戒めとなり、皆を縛っているのです」

「……いちおう聞くけど、その憎しみをなくすことは」

「できません。こればかりは、今この時ですら吾輩のうちに激しく渦巻いております。ここで起きた醜悪な裏切りを許すことはできません」

「だよなぁ……」

ディストーションハンドは、狂った歯車せいしんを正常に戻すだけだ。正常な上で憎しみの心を持っているのであれば、そのまで消すことはできない。フランだって結局、村の人たちやジェスのことを許すことはなかった。

「もはや、吾輩にもどうにもできません。この憎しみが癒えることはないでしょう。であるならば、もうこの世から消える他ないではありませんか」

「うーん。あんたが未練をすべて忘れて、仏されるってんなら止めはしないんだけど……」

「それはめません。いわばこの憎しみこそが、吾輩の未練そのもの。ここで起きたことを忘れぬ限り、仏などできそうもありませぬ。桜下殿、後生です。なにとぞ聞きれてはいただけないでしょうか」

エラゼムは深くこうべを垂れた……のだろう。首がないから、単に前かがみの姿勢だが。

さて、困ったな。エラゼムはウィルみたいに、死んだことそのものが未練になっているタイプだ。過去の裏切りをなかったことにはできないから、原因の解消ができない。けどもちろん、俺は魂を消滅させる何てことはしたくない。だけどそうしないと、この城の霊たちはずっと仏できないわけで……むむむ。

「エラゼム。それは、君の本心ではないね―――」

つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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