《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》8-3
8-3
そのとき、エラゼムたちのまわりに、ふわふわと漂う影みたいなものが集まり始めた。それはやがて形をしていき……これは、あの時の騎士たち?それに下男や、中の姿も見える。
「お、お前たち……」
エラゼムが震えた聲で語りかけると、騎士の一人がにっと笑った。
「隊長殿、なんてけない聲を出しているのですか。まさかわれらの顔を、忘れたわけではないでしょうな?」
「もちろんだ。あの日から忘れたことなどなかった。あの日、吾輩はお前たちを見捨てて……」
「見捨てた?はて、何のことをおっしゃっているのか」
「なんだって。吾輩が……」
「隊長殿は、城主様を助太刀にいかれただけでしょう。結果として間に合いはしなかったようですが、それは結果論というやつです。もし私が先に気づいていたとしても、隊長に行ってくださいと頼んでいました。そうだよな、みんな?」
騎士が振り向くと、ほかの騎士たちも次々にうなずいた。
「ほら。私たちがエラゼム殿を恨んでいるとお考えなら、それははなはだ間違いです」
Advertisement
「だが……吾輩は狂気にのまれてよみがえった後、手當たり次第に人を切り殺した。もしや、この城の人間にも手をかけたかもしれぬ。もしそうだとしたら……」
エラゼムがそうこぼすと、今度は下男と中に明るい笑みが浮かんだ。
「エラゼム様。そのような事実はございませんわ。ここにいる者たちはみな、あの戦闘のさなかに命を落としたものばかりでございます」
「なに……それはまことか」
「ええ。死んだことは悲しいですが、みな山賊に殺された者たちばかりです。恨むのなら、賊を恨みますわ」
中の言葉を聞いて、ウィルがおずおずと手を挙げた。
「あのー……私が聞いた伝説では、騎士さまは城の中にいた人を皆殺しにして、だれも城から出てはこれなかったって……」
ウィルの質問に、中はにこりと笑った。
「ふふ。ではお嬢さん、誰も出てこなかったとして、いったい誰がその伝説を語り継ぐというのかしら?」
「え?あ……」
「お城が襲われたら、私たちじゃどうすることもできないわ。逃げ足の速い人たちは、私たちよりも早く城を抜け出したのよ。騎士団の方々が討ち死にされたころには、生き殘った中はみな城外に逃げていたはずよ。私も、何人かの避難を手伝ったわ。そうこうしていたら自分は逃げそこなってしまったけれど」
あ……そうだったのか。伝説はしょせん、伝説ってことだな。ウィルは顔を真っ赤にして、どこかもぐりこめるはないかという顔をしている。ウィルが先に聞いてくれてよかった。俺も同じことを聞こうと思っていたから。
「なるほど―――僕たちのことはそうやって後世に伝わっているんだね」
バークレイは興味深そうにうんうんとうなずいた。
「きっと生き殘った人たちの口伝で話が広がって、それが長い年月の中でしずつ変わっていったのか―――さて、それはさておき。エラゼム、これで分かっただろう。君が気に病むことは、何もない」
「バークレイ様……みんな……」
エラゼムの聲は、熱っぽく震えていた。頭がないから、涙の有無はわからないけど……
「行ってください、隊長殿。隊長殿が無念を晴らせるのであれば、私たちも浮かばれます」
「そうですよ、エラゼム様。それに、正直言えば、俺たちもここに縛られるのに飽き飽きしてるんです。エラゼム様が行ってくれれば、俺たちもようやく眠りにつけます……なんて、こんなこと思えるようになったのもついさっきですけど」
するとなぜか、騎士たち下男たちの霊はいっせいに俺を見た。な、なんだ。なにかしたっけ俺?
「不思議なことです……そこの年が右手を輝かせたとたん、ただ闇にうめくだけだったわれらの意思が、突然夢から覚めたようにはっきりとしたのです。夢というよりは、悪夢から目覚めた気分でした」
「え、え?俺?な、なんでだろう……」
『……もしかすると』
俺があたふたしていると、またもアニがチリンと鳴った。
『主様の霊波が拡散して、ほかの霊にも影響を及ぼしたのかもしれません』
「というと?」
『ディストーションハンドの効果が拡大した……のかもしれません。正直私にもよくわからないのですが。亡霊騎士を配下にした際、周りのホーントたちにも効果が及んで、正常な魂に戻った……と考えれば、いちおう筋が通りませんか?』
「はー、効果が拡大……どうして?」
『それはわかりませんが』
うーん。アニにも分からないんじゃ、さっぱりだな。自分の能力のことだけど、まだまだすべてを理解するにはほど遠いらしい。
「けど、今回はそれで結果オーライだな」
「ああ。君のおかげで私たちは、こうして自分を取り戻すことができた。禮を言おう」
騎士たちはこくりとうなずくと、改めてエラゼムに向き直った。
「こういうわけです、エラゼム殿。私たちを言い訳にするのならよしてください。われら一同、もろ手を振ってエラゼム殿を見送らせていただきます」
「お前たち……吾輩が行けば、お前たちも自由になれるのだな?」
「おそらく。エラゼム様が戒めの中心であるのでしたら、それが城の外に出れば、ここに縛られることもないのではないでしょうか」
「そうか……」
だがエラゼムは、まだ煮え切らない様子だった。一まだ何がひっかかっているんだ?
「ああ、そうか。エラゼム。君は、留守番がいなくなるんじゃないかと思っているね?」
バークレイが、意を得たりという顔で言った。
「この城がもぬけの殻になってしまえば、また賊どもの巣にでも利用されかねない。それが心配なんじゃないかい」
「バークレイ様……はい、その通りです」
「そうか。しかしそれなら心配いらない。その役目は、僕が引きけよう」
「ば、バークレイ様が?」
「ああ。僕はもともと、君と同じ理由で仏できずにいる。城の者たちと違って、君がいなくなっても消えることはないだろう。僕もこの城が荒らされるのは嫌だし、なにより君が知った姉さんの行き先を僕も知りたい」
バークレイは、エラゼムににこりと笑いかけた。もう、あの悲しげな眼ではない。希にあふれる笑顔だ。
「僕でも、侵者を脅かすくらいならできるだろう。恐ろしい噂も伝わっているようだし―――僕は、ここで待っているから。いつか帰ってきて、君の話を聞かせてくれないか」
バークレイは、三度目の手を差しべた。
「バークレイ様……」
エラゼムは今度こそ、その手を握り返した。
「必ずや、ここへお戻りいたします。その時まで、どうか待っていてください……」
「ああ―――約束だ、エラゼム」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
世界最強が転生時にさらに強くなったそうです
世界最強と言われた男 鳴神 真 は急な落雷で死んでしまった。だが、真は女神ラフィエルに世界最強の強さを買われ異世界転生という第二の人生を真に與えた。この話は、もともと世界最強の強さを持っていた男が転生時にさらなるチート能力をもらい異世界で自重もせず暴れまくる話です。今回が初めてなので楽しんでもらえるか分かりませんが読んでみてください。 Twitterのアカウントを書いておくので是非登録してください。 @naer_doragon 「クラス転移で俺だけずば抜けチート!?」も連載しています。よければそちらも読んでみてください。
8 131転生して帰って來た俺は 異世界で得た力を使って復讐する
*この作品は、8~9割は殘酷な描寫となります。苦手な方はご注意ください。 學生時代は酷い虐めに遭い、それが影響して大學に通えなくなってからは家族と揉めて絶縁を叩きつけられて獨りに。就職先はどれも劣悪な労働環境ばかりで、ブラック上司とそいつに迎合した同僚どもにいびられた挙句クビになった俺...杉山友聖(すぎやまゆうせい)は、何もかも嫌になって全て投げ捨てて無職の引きこもりになって......孤獨死して現実と本當の意味でお別れした...。 ――と思ったら異世界転生してしまい、俺に勇者としての素質があることに気付いた國王たちから魔王を討伐しろと命令されてしぶしぶ魔族たちと戦った末に魔王を討伐して異世界を平和にした。だがその後の王國側は俺は用済みだと冷たく言い放って追放して僅かな褒賞しか與えなかった。 だから俺は―――全てを壊して、殺して、滅ぼすことにした...! これは、転生して勇者となって最終的にチート級の強さを得た元無職の引きこもり兼元勇者による、全てへの復讐物語。 カクヨムにも同作品連載中 https://kakuyomu.jp エピソードタイトルに★マークがついてるのは、その回が過激な復讐描寫であることを表しています。
8 82かわいい俺は世界最強〜俺tueeeeではなく俺moeeeeを目指します〜
艶やかな黒髪、ぱっちりお目、柔らかな白い四肢。主人公の腹黒ロリ男の娘カナデが目指すのは俺tueeeeではなく俺moeeee! 磨いた戦闘力(女子力)と変態女神に貰った能力『萌え』を駆使して、異世界を全力で萌えさせます! そんなカナデが異世界にて受けた言葉「貧相な體。殘念な女だ」。カナデは屈辱を晴らすため(男です)、能力『萌え』を使って屈辱の言葉を放った領主の息子アレンに仕返しすることを決意する。 章毎にテーマの屬性を変更予定。 一章完結! 二章準備中! 【曬し中】
8 125異世界はガチャで最強に!〜気づいたらハーレムできてました〜
ある日、青年は少女を助けて代わりに死んでしまった。 だが、彼は女神によって異世界へと年はそのままで容姿を変えて転生した。 転生の際に前世の善良ポイントで決めた初期ステータスと女神からもらった 《ガチャ》と言う運任せのスキルで異世界最強を目指す。 処女作ですので長〜い目で見てくれると光栄です。 アルファポリス様で好評でしたのでこちらでも投稿してみようかと思い投稿しました。 アルファポリス様で先行更新しているので先の話が気になればそちらをご覧ください。 他作品も不定期ですが更新してるので良かったら読んでみてください これからもよろしくお願いします。
8 184リーンカーネーション 小學生に戻ったおれ
リーンカーネーション 小學4年に戻ったおれ
8 74アイアンクロス
8 123