《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》11-2
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「……やれやれ、やっと行ったか」
はぁ~。ロアは深いため息をつき、こきこきと首を鳴らせた。
「これで何度目になるんだか。いい加減あきらめればいいのに」
ロアは細やかに花が描かれた白陶のティーポットを傾け、茶のおかわりをついだ。のどがからからだ。口の中がねばねばして気持ち悪い。
「まったく、頭が痛いことばっかりだよ。あの勇者のことだってあるのに……」
「勇者とおっしゃいましたか?」
「ひゃっ!」
カチャン。ロアは思わずティーカップを取り落としてしまった。さいわい中はこぼれなかったが、今はそれどころではない。もしも今のつぶやきを聞かれてしまったら……
「ああ、驚かせてしまいましたか。すみません、そんなつもりはなかったのですが」
ロアの背後に立っていたのは、金髪碧眼の年だった。作りのように整った容姿は、まるで漫畫か何かの登場人のようだ。ロアは年の姿を確認すると、あっと聲を上げた。
「勇者クラーク殿!」
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「はじめまして、ロア王様」
クラークと……そして、勇者と呼ばれた年は、にこりと笑った。
「すみません。城についたはいいものの、道に迷ってしまって……ちょうどお話しも終わったようだったので、聲をかけようと思ったんですが」
「いや、かまわぬ……こちらこそ、案のものを手配できず失禮した。お仲間はいずこへ?」
「ああ、たぶん後から來ると思います。僕だけトイレを借りたので」
クラークは恥ずかしげもなくそう言った。
「そ、そうか。まあ、立ち話もなんだ、かけてくれ。すまぬが、茶はし待ってくれ。じきメイドが新しく淹れたものを持ってくる」
「ありがとうございます。でも、そんなに急がなくても大丈夫ですよ。みんなまだ來てないし」
クラークは椅子を引くと、ロアの向かいの席に腰かけた。ロアは驚いたことを取り繕うように、笑顔でクラークへ聲をかける。
「すまんな、クラーク殿。そなたが今日王城を訪れることは前々から知らされていたのに。先客との対談が長引いてしまってな」
「いえいえ、僕たちも今さっきついたばっかりですから」
「そうか。クラーク殿は確か、西武街道から我が國へいらしたのだったな。一の國の帝みかどの命で各地を回られてるとか」
「ええ。ジェイコブスコーブの港町を見てきたんです。あそこの船の大きいのなんのって……ところで、王様。さっきつぶやいていたことなんですけど」
(やはり聞かれていたか……)
ロアは心舌打ちしたい気分だった。話をそらしたつもりだったのだが、クラークは引っかかってくれないらしい。
「ああ、失禮した。誰もおらぬと思ったのでな、意味のない獨り言だ。気にしないでくれ」
「はい。あの、ですが。ここに來る途中、大勢の兵士さんとすれ違いました。それに、ちょっと聞いちゃったんですけど。なんだか、悪い勇者が逃げ出したって……」
「あー……ちと、我が國の事でな。その勇者とはもちろんクラーク殿のことではない。気にすることは……」
「でも僕、聞きました。この二の國では、過去にとんでもない悪人の勇者が現れて、大変な目にあったって。もしかして、今回もそうなんじゃないですか?」
「かつてそのようなことが起こったのは事実だが、今回はそれとは関係のないことだ。あのような狼藉を再び許すほど、王家は甘くはない。お気になされるな、クラーク殿」
「でも、もしかしたら何か力になれるかも……」
「とんでもない!勝手に勇者殿のお力を借りたとなれば、そなたの國の王に面目が立たぬではないか。大丈夫、我が國のことは、我々でどうとでもできるさ」
「そうですか……まあ、王様がそう言うなら……」
(ふぅ。どうにかごまかせたか。噂通り、おせっかいやきの男だ……)
目の前に座る年・クラークは、一の國ライカニールが召喚した勇者だ。髪のと同じ金の雷をあやつり、その力は近年では隨一といわれる実力者だ。まだ召喚されて一年ちょっとのはずだが、その名聲はすでに二の國まで流れてきている。おおむね好評だが、大のお人好しで、すぐいろんなところに首を突っ込みたがるともっぱらの噂だった。
(“悪”のにおいを嗅ぎつけると目のが変わると聞いていたが、そのとおりだな)
悪を憎み、弱きを助く。勇者の鏡のような男だと、ロアは思った。同時に、こやつが我が國で召喚した勇者だったら、とも。
「して、クラーク殿。こうして直に會うのは初めてだな。そなたの噂はかねがね耳にしているぞ。貴殿のような勇者を招くことができて、ライカニール王は鼻が高いだろう」
ロアがにこりとほほ笑むと、クラークは顔を赤くしてわたわたと謙遜の言葉を述べた。いくら力の強い勇者といえど、中はまだまだ子どもだ。
(ハルペリンなんぞより、よほどわかりやすくて助かる)
しかし一方で、ロアは憂慮もしていた。クラークが聞いたという、“悪い勇者”のうわさ。これはすなわち、あの走した勇者のことだろう。この件について、エドガーら兵士たちが口をらすことはない……はず。いちおう訓練された王國兵だし、戒厳令も敷いている。となれば、クラークはおそらく城下町でその噂を耳にしたのだろう。
(民衆も、うすうすづき始めているな……)
勇者を召喚したということは、民衆にも知れ渡っている。召喚を行うには大勢の魔師を員するし、空に巨大な魔方陣が浮かぶので一目瞭然だ。そこからお目見えまでの期間は勇者によってまちまちだが、たいていは二、三日で城下町に顔を出す。無論、生きていたら・・・・・・の話だが。
(だが今回の勇者は死んだという報告もなければ、一向に町に顔も出さない。それじゃ不審に思うのも當然か)
もしも召喚した者に勇者の“適正”がないと判斷されたら、その勇者には“お帰りいただく”ことになっている。早い話が城の地下牢に未來永劫眠ってもらうのだが、他の國にも勇者がいる手前、大っぴらに勇者を処刑しましたとは言いづらい。そのための弁だが、二の國の人間ならそれが建前であることくらい百も承知だった。その報告が王城から発せられないということは、勇者はこの大陸のどこかに生きていることだ。いつ國民が、そのことを王城に問い正しに來るか……
(いずれにしても、刻限は迫っているな)
ロアはようやく新しいお茶を持ってきたメイドからティーポットをけ取りながら、頭は遠く遠征に出立したエドガーたちのことを考えていた。じきに彼らは、勇者が現れるはずのラクーンの町に到著するだろう。そこで奴を捕らえられれば、私達の勝ち。無事に國民の前にやつの首をさらすことができるだろう。だがもし、またも逃げられれば……
(決著の時は、すぐそこまで來ている)
次のラクーンでの包囲戦。
そこが、運命の大戦おおいくさだ。
四章へつづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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