《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》4-2

4-2

同刻。ここは、ラクーンの関所。夜の闇夜にぽつんと浮かんだ松明の下に、まるで明かりに群がる蟲の一匹が口にでもったかのような、しかめ面をした衛兵がいた。

「くそ!また負けた!」

衛兵はテーブルにカードの束をたたきつけた。

「くくくっ。おまえ、今日はツキがねぇなぁ。いただきだぜ」

別の衛兵がにこにこしながら、テーブルの上に置かれたコインをかき集めた。

「ちっ、眠気覚ましに一勝負ひっかけたのが間違いだった。ちくしょう、やめだやめだ」

衛兵はドスンと椅子に腰かけると、テーブルに散らばったカードをかき集めた。

「なんだ、もうやめちまうのか?次は勝てるかもしれないぜ?」

「ふん、そんな手に乗るか。今日だけで五枚も銀貨を巻き上げられてるんだぞ」

「ま、確かに今夜は、俺に幸運の風が吹いてるみたいだけどな。なあ、お前もそう思うだろ?」

話しかけられたのは、三人目の衛兵だ。その衛兵は眠たげな瞼をピクリと持ち上げると、おもむろにカードの束を、負け続きの衛兵の手から引き抜いた。

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「あ、おい。何するんだ?もう勝負はやらないぜ」

「いや……すこし、占ってみようと思ってな。こういう時は、空の星がいていることが多い」

「え……どういうことだよ?」

「さあ……破滅、功、崩壊、勝利。星がくと、決まってそういうものが後からやってくるものだ」

その言葉に、負け続きの衛兵の顔はさーっと青ざめた。

「さて……」

カードの束を切っていた眠たげな衛兵は、その中から一枚を引き抜き、はて、と首を傾げた。

「お、おい。何が起こるっていうんだよ!」

衛兵は、こらえきれずにせっついた。

「うむ。このカードは……」

衛兵が口を開きかけたその時。遠くから、地鳴りのような音が聞こえてきた。

「なんだ?」

ズドドドド……

「馬のひづめのようだが……數が多いな」

「こんな夜遅くに、キャラバンの移?ばかな、どこの町もとっくに門を閉めているだろう。ということは……」

「それを知らないバカ。あるいは……それを承知で突っ込んでくる・・・・・・・・・・・・・やつらだ」

衛兵たちはさっと目を合わせると、すぐに斧槍ハルバードを手に取り、門にあけられたのぞき窓に張り付いた。

「見えるか?」

「……松明だ。向こうも明かりをつけている」

「ふむ……これだけ賑やかな音を立てているんだ、夜襲をしようという気じゃないのか?」

「まだ油斷はできないぞ。ばれても構わないと開き直っているのかも」

謎の集団はスピードを緩めることなく近づき、やがて一人一人の顔が見分けられるくらいまでの距離に迫ってきた。我慢できなくなった衛兵の一人が、のぞき窓ごしにぶ。

「おい、止まれ!どこの誰だか知らないが、こんな夜中に何の用だ!」

衛兵の聲をけ、謎の集団は手綱を引き、スピードを緩めた。門からし離れたところに馬を止めた一人が、衛兵たちの方へと近づいてきた。

「おい!聞いているのか、お前は誰だと聞いている!」

「夜分遅くに申し訳ない。しかし、そうカッカせず聞いてほしいのだ。こちらにも相応の事があって、このような無禮を働いているのだから」

その丁寧な言いに、門のの衛兵たちは顔を見合わせた。よく見れば、そいつは自分たちと同じ、鎧を著込んだ兵士だ。だが鎧兜は衛兵たちと違って、派手に裝飾されたりっぱなシロモノだった。そのへんのゴロツキにしては恰好が上等すぎる。もしや、しっかりした分の人間なのか?衛兵たちは、慎重に聲を返した。

「……そちらにどのような事があるのかはしりませんが、この時間は國王陛下の命令でもない限り、おいそれと門を開けることはできない決まりになっています。朝になるのを待ってくださいとしか……」

「ほお、それは好都合。では、門を開けてもらおうか」

「は?あの、話しを聞いて……」

「聞いていた。國王の命令ならば開けてくれるのだろう?ほら、これが証文だ」

立派な鎧の兵士は、馬に積んだ荷の中から、一枚の羊皮紙を取り出した。そして仲間から松明をけ取ると、それらを掲げてこちらに向き直った。

「ちと暗いが、それでも王家の印くらいは見えるであろう?」

兵士がもつ羊皮紙には、藤のインクで綴られた流れるような文字とともに、五本の弓矢を組み合わせた紋章が押されていた。

「そ、それは!五つの矢の印……!」

「ご理解いただけたかな。我らは王城直下の近衛兵団だ。このような夜分に訪れたのも、王陛下の命をけてのことだ」

「そ、そうでありましたか……あ!す、すぐに門をお開けいたします!」

衛兵たちは先ほどまでと打って変わって、に火が付いたかのように走りまわると、大慌てで門を開けた。ギギギィー!

その近衛兵団たちは、全員重厚な鎧にを包み、それを乗せる馬も雄牛と見まごうほどに立派な軀をしていた。そんな恰好の騎兵たちがぞろぞろと、ざっと百騎は門してくるのだ。衛兵たちは震えあがってしまった。

「はぁー、やれやれ。どうにか辿り著いたわい。晝夜問わず走り続けたせいだな、まだが揺れているようだ」

「あ、あの。近衛兵団さまが、どうしてこの町においでに……?」

「うむ。王陛下の命というのは先ほど話したが、ちと複雑でな。詳細はあくる朝、町長殿から諸君らに伝えられるだろう。くれぐれも、それまで我らのことは他言無用にな」

「か、かしこまりました。私たちにお手伝いできることはありますでしょうか?」

「うむ、では営舎に案してくれぬか。馬も兵も、夜通し走って疲れ切っておる」

「かしこまりました。では、こちらに……」

「あ、それとちと聞きたいのだが」

立派な鎧の兵士は、突然顔をこわばらせて、ずいっと衛兵に顔を近づけた。

「は、はい?な、なんでしょうか……」

「このラクーンの町に、勇者が訪れたという報しらせはないであろうな?」

「ゆ、勇者様ですか?いえ、ここしばらくはそんな話は聞きませんが……」

衛兵は予期せぬ質問にきょとんとした。その返事を聞いて、鎧の兵士はどっと息をつき、疲れた様に首をポキポキ曲げた。

「なんとか先回りはできたようだな……いや、こちらの話だ。では、案を頼む」

「は、はい……?」

三人の衛兵のうちの一人が、兵士たちを先導して夜の街を歩いて行った。殘された二人は、ぽかんと口を開けてその場に殘された。

「な、なんだったんだ?夢でも見てるんじゃ……」

衛兵はそう言って、自分の頬をぎゅっとつねった。頬は、赤く腫れた。

「転機、破綻、嵐の訪れ、か……」

「あん?なんて言った?」

「いや、なんでもない」

衛兵はそう言って、いつの間にか地面に散らばってしまっていたカードを拾い集めた。ふと、衛兵は一枚のカードを拾い上げ、憂いをめた目でそのカードを見つめた。

そこには、雷をうけて崩れ落ちる、塔の絵が描かれていた……

つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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