《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》4-3
4-3
ぱちり。
目を開けると、見知らぬ天井が映っていた。ここは……ラクーンの町、アンブレラの宿、二階の客室。目が覚めたんだなと、俺は寢ぼけた頭でのろのろと理解した。さっきまで見ていた夢のせいで、意識がもやもやと煙がかったようだ。
(えっちな夢だった……)
フランが竜の骨を食べて、ベッドの上でおかしくなる夢だった。くそ、あのおっさんが変なこと言うからだぜ。それか、あの河岸で見たフランのが、想像以上のインパクトだったのかもしれない。
チチチチ。窓の外からは、小鳥のさえずりが聞こえてくる。窓ガラス越しだからしくぐもって聞こえるが……
「フィリリリ。チチチ」
ん?これはずいぶんクリアに聞こえたぞ?まるで部屋の中にいるみたいな……俺は視線だけをかして、窓のほうを見た。
「フィリリ。チッチッチ。フィリリ」
を尖らせて鳥の鳴きまねをしていたのは、窓枠に頬杖をついたフランだった。フランはこれまで見たことがないくらい穏やかな表で、窓ガラスの向こうの小鳥とハミングをわしている。
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「フィリリリ」
フィフィフィ。チチチチ。
「フィリ。チッチッチ」
チチチチ。フィリ。
(ああ……こんな純粋な子で、俺はなんてことを……)
夢の中のこととはいえ、俺は猛烈な自己嫌悪に襲われた。一番やってはいけないこと、一番汚してはいけないものを汚してしまった気分だ……俺はしばらく無言で悶えていたが、いつまでもこうしている訳にもいかない。俺はフランを驚かさないよう、なるべく靜かに聲をかけた。
「上手いんだな」
「ッ!?」
フランはびくりと震えて、窓ガラスにガツンとおでこをぶつけた。その音に驚いて、小鳥たちは飛び去ってしまった。
「あぁ、逃げちゃった……驚かせちまったかな」
「い、い、いつから……」
フランは口を半開きにして、わなわなと震えている。
「今さっきだよ。邪魔しちゃ悪いと思ったんだけど」
「……」
フランは頭を抱えて、その場にしゃがみ込んでしまった。
「そ、そんなに気にすんなよ。別におかしなことないって。かわいかったよ」
「も、もういいから。それ以上言わないで!」
フランはほんのり赤くなった顔でキッとこちらを睨んだ。そう言うなら、これ以上いじらないでおこう。
「ふぁ……ところで、今何時くらいだろ?」
「……日の出からまだそこまで経ってない」
「そっか。あれ?そういや、ウィルとエラゼムがいないじゃん。あいつら、まだ戻ってきてないのか?」
「うん」
「ふーん。なんか面白いものでも見つけたのかな?」
そんなことを話していると、どんぴしゃのタイミングで、壁から半明の何かが飛び込んできた。
「よいしょ、戻りました!」
「うおっ、ウィルか!?びっくりするから、いきなり飛び込んでくるのはよせよ」
「あ、やっぱり起きてた。すみません、急いでいたもんですから……」
飛び込んできたのは、ふわふわと宙に浮かぶウィルだった。ウィルは息でも落ち著けるように、に手を當てている。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって。もっと早く帰るつもりだったんですけど……」
「それはいいけど。なんか面白いもんでもあったのか?」
「面白いというか、厄介というか……なんだか、すこしきな臭いことになっていて」
「きな臭い?」
「はい。たぶんもうエラゼムさんも戻ってくるので、そしたら詳しく話してくれると思うんですけど……どうにも、兵隊が集まってきているらしいんです」
兵隊?そりゃまた、なんで……
ウィルが戻ってから數分遅れて、エラゼムも帰ってきた(もちろんキチンと扉からだ)。
「桜下殿、遅れて申し訳ない。ただいまお戻りいたした」
「ああ。ウィルから聞いてるよ、なんだかきな臭いって?」
「はい……日の出よりし前ほどでございましょうか。太の方向から考えて、吾輩たちは町の東側をうろついていたのですが、そこで奇妙な兵団を見かけましてな」
「兵団?」
「ええ。町の警備兵かとも思ったのですが……日の出前に人と出會うと思っていなかったので、目につきましてな。し様子を見ていたのですが、あれは妙です」
「朝早くにうろついているのが、か?」
「それもございます。他の點としては、に著けた鎧です。重厚な鎧でしたが、その割に兵のきが軽やかだ。おそらく、マナメタルを使用して計量化がされているのでしょう」
「へー……ずいぶん気合がった武裝なんだな」
「まさにそこでございます。一介の町の衛兵がする鎧にしては、あまりに上等すぎるのですよ。あれはそれこそ、王族直下の兵士でもなければに著けないような鎧であったはず。この百年でマナメタルの流通量が數百倍になったのなら納得ができますが……アニ殿、いかがでしょうか?」
エラゼムが問いかけると、俺の首から下がったガラスの鈴は、思案するように左右に揺れた。
『……あなたの言う通りです。マナメタル製のプレートメイルは、一般にほいほい流通するものではありません。それが標準裝備とされているのは、王都の警備兵、および王城の近衛兵のみです』
「やはり……」
ん、どういうことだ?すると、その鎧を著た兵士ってのは、つまり王様が遣わした連中ってことになる。この國の王様は、俺を処刑しようとしたあの高慢ちきな王だから……
「あ。それってちょっとまずいな。もしかしたら、俺を追ってきたのかもしれない」
「はい。吾輩も、桜下殿が罪なき罪で裁かれかけたとお伺いしておりましたので、その可能に思い當たりましてな」
「むむむ……モンロービルでは、派手にもめてるしな。王様に噂が伝わってもおかしくないか。けど、それ以降は勇者だってことは、にしてるんだけどなぁ」
「おそらくですが、連中もこちらの居場所まではわかっていないのかと。特定の場所を襲撃する準備をしているというよりは、町全を捜索する警戒網を敷こうとしているように見えました」
「ラクーンにいるってことはわかるけど、それ以上は知らないってことだな。ってことは、これから居場所をあぶりだそうってわけか……」
「え、ええ!そんな、落ち著いてる場合ですか!」
俺の言葉を聞くと、ウィルが相を変えて、俺とエラゼムを互に見た。
「だったら、早く逃げ出しましょうよ!今ならまだ、私たちがここにいることはバレていないんですから!」
「けどウィル、いま俺のカバンの中はすっからかんだぜ?ここにきたのも、食料なんかを補給するためだったくらいだし。買いはしときたいな」
「そ、そんなのんきな……ってあ!そうか、私が昨日ダウンして、買いができなかったから……ああー!私のバカー!」
「よせよ、こんなの誰だって予想できるもんか。むしろ、先に兵士に気付けてラッキーなくらいだ。二人に散歩に出てもらって正解だったな」
ウィルはフードの両端を握ってうなだれているが、狀況は最悪ではないはずだ。エラゼムもうなずく。
「ウィル嬢の仰ることももっともですが、桜下殿の懸念もまた、無視できぬもの。補給を疎かにしては、いかに屈強な軍隊も三日と持ちませぬ。それに今一つ、吾輩には案ずるところがあるのです」
エラゼムは、窓の外を指さして見せた。
「今の時間、街を出歩くものはほとんどおりません。當然、店もまだ大半が準備の段階です。今表を出歩けば目立つばかりか、補給もままならない」
なるほど。木を隠すなら森の中、というしな。いま外を歩けば、いやでも人目を惹くだろう。
「そしてもう一つ。遅かれ早かれ、門を封鎖されてしまえば、我々は袋のネズミも同然です」
「あ」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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