《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》6-1 包囲網突破作戦

6-1 包囲網突破作戦

ラクーンの町には、北、東、西に、街道へと抜ける門があるらしい。俺たちが初日にやってきたのが北門だ。東に抜ければ王都に、西に抜ければ隣國“一の國”に続くんだとか。王都に近づいても危険だし、となれば目指すは西門だ。

そして今、俺たちは西門の関所のそばまでやってきて、その手前の路地裏にを潛めている。偵察係の帰りを待っているのだ……お、噂をすれば。

「ただいま戻りました。西門の様子、見てきましたよ」

「お帰りウィル。ご苦労さん」

ウィルは他の人には見えない。ということは、のぞき見も盜み聞きもし放題ってことだ。本人に言ったら怒られたけど……(人をのぞき魔みたいに言わないでください!)

「あ、ほいこれ、あずかってた杖」

俺はウィルのロッドを差し出した。これだけは、普通の人にも見えちまうからな。だがウィルは首を橫に振った。

「お邪魔じゃなければ、まだ桜下さんが持っていてくれませんか?」

「ん?いいけど、どうしたんだ?」

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「怪しまれるんじゃないかと……検問の様子をのぞいてきたんですけど、る時だけじゃなくて出る時にも質問されるみたいなんです」

「おっと、そうか。また誤魔化してもいいけど、あんまり目立つのもアレだしな」

俺はし考えると、ウィルのロッドを背中に背負うと、革ひもでぎゅっと縛り付けた。ちょっときづらいけど、ちょっとの間だからな。

「それで、検問の続きですけど。質問自は私たちがけたのと同じ程度でした」

「あれ、そうなんだ?じゃあ案外、余裕で抜けられそうだな」

「はい。ただ気になったのが……関所の奧に、兵士のかたが控えてるみたいなんです」

「兵士?王都から來た連中かな?」

「私は詳しくないですけど、なんだか高そうな鎧でしたよ。たぶんそうなんじゃ……けど、何をしてるというわけでもなく、ただ控えているだけなんです」

「ふーん?もし勇者が出た時のために、備えてるってとこかな」

それなら別に、たいして脅威にもならない。エラゼムが追加で質問する。

「ウィル嬢、その兵士とやらも含め、関所には何名ほどが詰めていましたか?」

「え?えーっと……その、王都の兵士さまっぽい人たちは、十人にも満たなかったと思います。関所の衛兵さんは、変わらず數人でした」

「なるほど。萬がいち一戦えることになったとしても、その數なら余裕でしょうな。桜下殿、いけますぞ」

「おっけー。じゃあ、行くか!」

みんなはうなずくと、ごく自然に、なんてことないように路地を抜け、門へと歩き出した。俺は念のためにマントのフードを目深にかぶり、俺の前をの大きなエラゼムが歩いて隠す。へへ、護送される重罪人みたいだな。あながち間違ってもいないけど……

「見えてきましたね……」

ウィルが低くつぶやく。門の前には広場があり、そこに町を出ようとする人や馬車が、短い列を作っていた。みなイライラした様子で、なかには衛兵に食って掛かる人もいる。普段よりも、関所を抜けるのに時間がかかっているようだ。

「やっぱり、多は念りに検問してるみたいだな」

けど口頭陳述なら、いくらでもごまかせる。俺は張を落ち著けようと、深呼吸をした。

門はじりじりと大きくなってくる。あまり急いでも目立つから、普段通りにしか歩けないんだ。じれったいけど、ここで尾を出したら向こうの思うつぼだ。慎重に、慎重に……

やがて俺たちは、門の手前の広場にさしかかった。広場は楕円形をしていて、數本の通りと面している。俺たちが歩いてきたのは、その中でも一番大きなメインストリートだ。早朝とはいえ、それなりに人気の多いこの通りなら、うまく紛れ込めるだろうと踏んでの判斷だった、が……それが裏目に出た。

「げっ……!」

「桜下殿、如何なされましたか?」

「や、やばい。王都で會った、リーダー兵士だ……!」

広場に面した通りのうち、細くていかにも人気ひとけのない道から、見覚えのある立派な鎧を著た兵士が歩いてきたのだ。後ろには部下を數人従えている。まさか、今まで裏道を監視して回っていたのか?おかげで鉢合わせはしなかったが、こちらも近づくまで気づくことができなかった。最悪のタイミングだ……!

「え!?ど、どうしましょう!?いったん退きますか……?」

ウィルが足を止め、おろおろと右往左往する。しかしエラゼムは小さく首を振った。

「ここで引き返せば、かえって怪しまれますぞ!ひとまずは歩みを止めずにおりましょう。あちらからも、こちらの姿は見えていることでしょうから」

「は、はい。でも……」

「桜下殿、あの先頭の兵士ですな?桜下殿のお顔を見られているということでしょうか?」

「うん。會話もしてるから、間違いないよ」

相手がよっぽど忘れっぽくもない限り、俺を覚えているに違いない。短い間だったとはいえ、あの牢獄での騒は濃な時間だった。

「ちっ、なんで今更……もしかして、あいつらも検問に加わる気かな」

「しかし、どの門を使うかは連中もわかっていないはず。今ここに來たところを見るに、門は衛兵に任せ、自らは町を巡回しているのでは?」

「そうだといいんだけどな。もうし、様子を見てみよう……」

俺たちはピリリとしたの中、広場をゆっくり歩いていく。リーダー兵士たちは、門にまっすぐ向かっている。こちらを見る気配はない……関所の衛兵と、何か話しているみたいだ。

「なんか話してる。勇者は見つかったか?みたいなことかな……」

「だとすれば、じきに離れるはずですが……」

俺たちはドキドキしながら兵士たちの様子をうかがう。するとリーダー兵士たちは、衛兵との短い會話を切り上げて、再び歩き始めた。よかった、エラゼムの予想が當たったみたいだ。きっとあちこちの門を回りながら、ああして裏道を見張っているんだろう。あとは、またどっかに行ってくれれば……

(……え?おいおいおい)

冗談だろ!門を離れた兵士たちは、あろうことか、俺たちのほうへ向かって歩いてくるじゃないか!やばい、怪しまれたか!?けど兵士たちは、俺たちを睨んでいるわけではない。たまたま、行き先がこっちなだけみたいだ……ふぅ、肝が冷えるぜ。隣でウィルが、舌でも噛んだような顔をしている。

(このまま知らん顔して通り過ぎよう……)

俺はほとんど自分の足元しか見えないくらい、低くうつむいた。そして前を歩くエラゼムにぴったりとくっついていく。これで、俺の姿は向こうからほとんど見えないはずだ……

兵士たちが規則正しく歩く、ざっざという足音が近づいてくる。もう十メートルもないか?五メートル……三メートル……ついに俺たちの真橫に、兵士たちの列がやってきた。

「……」

「……」

ざっざっざ……。一瞬、時の流れがゆっくりになったかと思った。俺たちと兵士たちは、実際には數秒にも満たないであろう時間で、何事もなく互いにすれ違った。どはぁ。全の汗腺から汗が噴き出したみたいだぜ……けど、これで一安心だ。くくくっ。俺は心の中で、兵士たちに舌を突き出した。

(へへ、殘念だったな。お前たちが探してる勇者は、またもお前たちを出し抜いてやるぜ!)

「……おい!」

!!!!!!!

先頭を歩いていたリーダー兵士が、突然聲をかけてきた。え、え、噓だろ?まさか、伝わっちまったのか?バカな!

「はい?吾輩に何か用ですかな?」

エラゼムは足を止めると、ぐいと俺を背中に隠して、兵士たちとの間に立った。

「……そなたたちは、旅の者か?ここには何用で訪れたのだ」

「はぁ。出稼ぎの帰りで、実家に帰る途中ですが。それがなにか?」

「……そちらのお仲間は、なぜ晝間から外套マントを?」

「はい?この者はし日差しに當たるだけで、が焼けただれてしまう質だからですが……なぜそのようなことを?」

エラゼムはもっともらしい噓を平然とつく。リーダー兵士は、考え込むようにじっとこちらを見ている。まさか、フードを外せなんて言わないだろうな……

「……ふむ。そうか。呼び止めてすまなかった、もう行ってよいぞ」

ほっ……よかった、騙されてくれたみたいだ。ったく、ひやひやさせるぜ。俺がふっと気を緩めた、その時だった。

ふわっ……

「……!」

まさにそのとき。いままで全く穏やかで、そよとも吹いてもいなかった風が……まるでいたずらでも思いついた悪ガキのように、俺のフードをそっと吹き上げてしまったのだ。フードはぱさっと小さな音を立てて外れ、俺の素顔がさらされる。大慌てで元に戻したが、すべては後の祭りだった。俺とリーダー兵士は、バッチリ目が合ってしまった。

「その顔、その帽子……!き、貴様は!」

おお、神様よ。なんであんたってのはこう……

「見つけたぞ!勇者だっ!」

「どちくしょう!」

つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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